表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第14章 王立学院三年 二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

272/279

第262話 階段を塞ぐもの

 細い上り坂を進むほど、空気が少しずつ変わっていった。


 湿った重さの中に、かすかな乾きが混じる。


 風だ。


 強くはない。


 それでも、止まった空気ではない。


「この先、どこかにつながっているかもしれない」


 俺が小声で言うと、クラウスが前を見たまま頷いた。


「なら、進む価値はある」


「横穴も多いわ。さっきみたいなのが出るかもしれない」


 ミラの光は、足元を細く照らしている。


 俺たちは声を抑えたまま進んだ。


 曲がり角を一つ越えたところで、道の形が変わった。


 自然に削れた坂ではない。


 石が段になっている。


「階段だ」


 クラウスが低く言った。


 黒い岩を削って作られた階段が、奥へ向かって上っている。


 古い。


 端は欠け、苔のような黒い膜がついている。


 それでも、上へ続いていた。


 ミラの顔が少し明るくなる。


「上に行けるかもしれないわね」


「ああ」


 俺もそう思いたかった。


 だが、すぐに足が止まった。


 階段の手前に、何かがいた。


 大きな蜥蜴のような魔物だ。


 岩と同じ色の鱗をまとい、腹を床につけている。


 尻尾が階段の一段目にかかっていた。


 横を抜ける隙間はない。


 クラウスが剣の柄に手を置く。


「二層目の石蜥蜴より、ずっと大きいな」


「グランリザード……だと思う」


 魔物図鑑で見た大型種に似ている。


 低層に出る魔物ではない。


 俺は《綻びの目》を使った。


《階段前占拠》

《迂回困難》

《正面衝突危険》

《側面装甲薄》


 正面からぶつかるのは危ない。


 だが、まったく手がないわけでもない。


 ミラが息をひそめる。


「眠っている?」


「分からない」


 グランリザードの脇腹が、ゆっくり上下している。


 目は閉じているように見える。


 だが、足音ひとつで起きるかもしれない。


 クラウスが階段の幅を測るように見た。


「横を抜けるのは無理だな」


「起こさずに通るのは難しい」


 俺は階段の上を見る。


 上へ続く道。


 その前に、魔物。


 戻るための道は見えている。


 けれど、簡単には通してくれない。



 二層目の崩落地点には、すでに教師と補助員が集まっていた。


 床の一部が大きく抜けている。


 崩れた穴は途中で塞がり、奥は見えない。


「ハル班が戻っていません!」


「下へ落ちた可能性があります!」


 補助員の声が重なる。


 だが、ベルンハルトは穴の縁に膝をつき、崩れた石を見ていた。


 表情は硬い。


 声だけは落ち着いている。


「不用意に触るな。さらに崩れる」


「ですが、このままでは――」


「分かっている」


 ベルンハルトは立ち上がった。


「他の班を全員入口へ戻せ。点呼を取れ。ここに生徒を近づけるな」


「はい!」


「管理人。三層以下の図はあるか」


 洞くつの管理人が顔をこわばらせる。


「古いものならあります。ただ、下層は崩落や行き止まりも多く、正確とは言えません」


「それでもいい。出せ」


 ベルンハルトは穴の奥を見下ろした。


 声は届かない。


 気配も読めない。


 だが、焦って穴を広げれば、落ちた生徒をさらに危険にさらす。


「救助班を組む。三層以下に慣れた者を呼べ。魔力灯とロープも追加だ」


「すぐに」


 補助員が走る。


 ベルンハルトは崩落した縁に残った靴跡を見た。


 三人分。


 そのうち一つは、穴の手前で強く踏み込んだ跡がある。


 守ろうとした跡だ。


「……生きていろ」


 低い声は、周囲のざわめきに消えた。



 俺たちは、階段の手前で身を低くしていた。


 グランリザードはまだ動かない。


 だが、こちらが近づけば起きる。


 階段へ行くには、あの前を通るしかない。


「どうする?」


 クラウスが聞く。


 声は静かだ。


 焦りはない。


「倒すのは目的じゃない」


 俺は短く答えた。


「階段から引き離す」


 ミラが階段横の壁を照らす。


「左は無理ね。狭すぎる」


「右は少し広い」


 クラウスが言う。


「だが、あの尻尾が邪魔だ」


 俺はもう一度《綻びの目》を見る。


《右後肢負荷集中》

《側面反応遅延》

《光刺激有効》


 正面は硬い。


 だが、横なら動かせる。


 ミラの光で視線をずらす。


 俺が足元を崩す。


 クラウスが右側へ踏み込み、階段から離す。


 倒す必要はない。


 数歩ずらせばいい。


「ミラ、光で正面を引いて」


「分かった」


「クラウスは右側。俺が足元を崩す。倒しに行かない。階段から離すだけ」


「了解した」


 クラウスが剣を抜いた。


 金属音が小さく響く。


 グランリザードの瞼が動いた。


 ミラの光が、魔物の顔の前へ走る。


 グランリザードの頭がゆっくり上がった。


 黄色い目が開く。


 俺は魔力を指先に集める。


 倒すためじゃない。


 戻るために、あの前を通る。


 グランリザードが低く喉を鳴らした。


 階段の入口が、目の前にある。




最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「光で正面を引いて」がよくわからない。誰か解説をお願いします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ