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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第254話 小さな回復魔法

 模擬洞くつの訓練は、その後も続いた。


 最初に比べれば、俺たち三人の動きは少しずつ良くなっている。


「右危険。左へ」


「分かった」


 クラウスが前で動く。


 ミラの光が足元を照らす。


 俺は壁際と影を見る。


 まだ完璧ではない。


 それでも、止まる回数は減った。


「今のは悪くなかったな」


 通路を抜けたところで、クラウスが言った。


「リオンの言葉が短いと、こっちも合わせやすいわ」


 ミラも光球を消しながら頷く。


「二人が先に動いてくれると、俺も見やすい」


 そう返すと、クラウスが少し笑った。


「なら、少しは班らしくなってきたか」


「少しね」


 ミラが軽く言う。


 その時、クラウスが手の甲を見た。


 木柵にこすったのか、薄く血がにじんでいる。


「切れてる」


 ミラが気づく。


「このくらいなら問題ない」


 クラウスはそう言って、布で軽く押さえた。


 確かに大した傷ではない。


 けれど、俺はその小さな傷を見て、少し考えた。


 洞くつでは、岩に手をこすることもある。


 足をひねることもある。


 魔物の爪がかすめることもあるかもしれない。


 薬草や回復薬は持っていく。


 でも、すぐ取り出せるとは限らない。


 もう一つ、手段が欲しい。


 そう思った。


 訓練の後、俺はナディアに声をかけた。


「ナディア、少し聞いてもいい?」


「はい。何でしょう」


「低級の回復魔法って、俺でも覚えられるかな」


 ナディアは少し驚いた顔をした。


「回復魔法ですか?」


「うん。大きな怪我を治したいわけじゃない。浅い傷を少し塞げるだけでも、洞くつでは役に立つと思って」


 ナディアはすぐに真面目な顔になる。


「可能だと思います。ただ、攻撃魔法とは感覚が違います」


「どう違うの?」


「魔力を当てるだけでは駄目です。傷が戻ろうとする流れを、邪魔しないように助ける感じです」


 言い方は柔らかいが、簡単ではなさそうだった。


 近くで聞いていたセレナも口を挟む。


「簡単に考えない方がいいわよ」


「セレナも使えるの?」


「基礎は習っているわ。でも得意ではないわね」


 セレナは腕を組んだ。


「攻撃魔法と同じ感覚では扱えないのよ。相手の体内で魔力を整えるのは、外へ放つよりずっと繊細だわ」


「なるほど」


「浅い傷でも、無理に塞げば痛みが残ることもあるわ。試すなら慎重にしなさい」


 セレナらしい言い方だった。


 厳しいが、的外れではない。


「分かった。無理はしない」


 ナディアも続ける。


「最初は、自分の小さな傷で感覚を掴むのがいいと思います。でも、痛みが強くなったらすぐ止めてください」


「ありがとう」


 その夜。


 俺は寮の自室で机に向かっていた。


 訓練でできた指先の浅い擦り傷がある。


 ちょうどいいと言うのも変だが、練習には使えそうだった。


 机の上に紙を置き、前世で覚えている範囲の人体の形を書き出す。


 皮膚。


 血管。


 筋肉。


 骨。


 医者ほど詳しいわけではない。


 それでも、体がどう重なっているかくらいは何となく覚えている。


 傷は、ただ表面を閉じればいいわけじゃない。


 中の流れを乱さず、元に戻る力を少し助ける。


 俺は指先に魔力を集めた。


 最初は、ただ温かくなっただけだった。


 傷は変わらない。


 二度目は、少し強く流しすぎた。


「……っ」


 指先がじんと痛み、すぐに魔力を止める。


 押し込むのは違う。


 流す。


 支える。


 傷の端が自然に寄るように。


 俺は息を整え、もう一度だけ試した。


 今度は、魔力を細くする。


 皮膚の下を無理に動かすのではなく、傷の周りをなぞるように。


 じわりと温かくなる。


 血のにじみが少し止まった。


 傷の端も、ほんのわずかに寄っている。


「……できた?」


 完全に治ったわけではない。


 けれど、さっきよりは明らかに落ち着いていた。


 俺はすぐにメモを取る。


 浅い傷なら、少し効果あり。


 深い傷は危ない。


 押し込むと痛む。


 長く使うと集中が切れる。


 他人に使うのは、まだ無理。


 書きながら、苦笑する。


 便利な魔法を手に入れた、というほどではない。


 だが、何もないよりはいい。


 ◇


 翌日、訓練前にクラウスとミラへ話した。


「低級の回復魔法を少し試した。浅い傷なら、少しは塞げるかもしれない」


 クラウスはすぐに言った。


「無理はするな」


「分かってる。本当に小さな傷だけだと思う」


 ミラは少し考えてから頷いた。


「でも、手段が一つ増えるのは助かるわ。薬草を使うまでのつなぎにもなる」


「頼りすぎない前提でね」


「それで十分だ」


 クラウスが手の甲を軽く握る。


「洞くつでは、小さな傷でも動きに響く」


 その言葉に、俺は頷いた。


 今の俺にできる回復魔法は、浅い傷を少し塞ぐ程度だ。


 それでも、持っていけるものは一つでも多い方がいい。


 三人で洞くつに入り、三人で戻る。


 そのためにできることを、俺は一つずつ増やしておきたかった。



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