第252話 三人一組
数日後。
その日の三年Sクラスは、朝からいつもより落ち着きがなかった。
今日は、課外実習の班分けが発表される日だ。
王都北部の洞くつダンジョン。
三人一組での攻略。
その二つだけは、すでにベルンハルト先生から告げられている。
けれど、誰と組むのかは、まだ誰も知らされていなかった。
「リオンは、誰と組むと思う?」
隣からヴィクトルが聞いてきた。
「分からない。先生が決めるって言ってたし」
「そこが怖いんだよね」
ヴィクトルは机に頬杖をついた。
前の方では、ガイルが明らかに楽しそうにしている。
その横でナディアが、少し緊張した顔をしていた。
セレナは腕を組んで平然としている。
ただ、視線は何度か教室の入口へ向いていた。
皆、気にしている。
俺も同じだった。
誰と組むのか。
それだけで、洞くつでの動き方は大きく変わる。
やがて、扉が開いた。
ベルンハルト先生が入ってくる。
「静かにしろ」
教室のざわめきが消えた。
先生は教卓に立ち、全員を見渡した。
「今日は、課外実習の班を発表する」
何人かが息を呑む。
「場所は王都北部の洞くつダンジョンだ。実際に魔物は出るので遊びではない」
先生の声はいつも通り低い。
「目的は、魔物を多く倒すことではない。班で進み、班で判断し、班で戻ってくることだ」
その言葉で、教室の空気が少し引き締まった。
「一人で勝とうとするな。三人で戻ってこい」
先生は手元の紙に目を落とした。
「では、班を発表する」
最初の数班が読み上げられる。
名前を呼ばれた生徒たちが、小さく顔を見合わせた。
そして、俺の名前が聞こえた。
「ハル。レインフォード。ハーウェイ」
一瞬、胸の奥が動いた。
クラウスとミラ。
俺は二人の方を見る。
クラウスはすぐに頷いた。
ミラも穏やかに微笑む。
「同じ班だな」
クラウスが言った。
「うん。よろしく、クラウス」
「こちらこそ。遠慮はなしでいこう」
短い言葉だったが、それで十分だった。
続いて先生が読み上げる。
「ベイルン。セルヴァン。グランツ」
ガイルの顔が分かりやすく明るくなる。
「ナディアと同じ班か」
「はい。ただ、今回は私も周りを見ます」
ナディアは少しだけ真剣な声で返した。
ライオネルがガイルを見る。
「前衛が二人か。通路で詰まるなよ」
「そっちこそ」
「二人とも、洞くつでは声を聞いてくださいね」
ナディアが言うと、二人は同時に黙った。
少し笑いが起きる。
先生は構わず続けた。
「ヴァレスト。ローデン。ベイカー」
セレナがヴィクトルを見る。
「足を引っ張らないでよ」
「それは俺の台詞にしたかったな」
オルドが静かに言う。
「洞くつでは、口より足元を見た方がいい」
「頼もしいね。俺は足元を見る係でいい?」
「それだけなら置いていくわ」
セレナが即答した。
さらに班分けは進む。
エドガーは、既存生徒二人と同じ班だった。
相手の二人は少し緊張しているように見える。
エドガーは短く言った。
「よろしく頼む」
一人が慌てて姿勢を正す。
エドガーは首を横に振った。
「班の中では同じ生徒だ。必要なことは言ってくれ」
その言い方は飾っていない。
だからこそ、相手の二人も少しだけ表情を緩めた。
全ての班が発表されると、教室はまたざわついた。
ベルンハルト先生が教卓を軽く叩く。
「まだ終わっていない」
すぐに静まる。
「今回、慣れた相手だけで固めてはいない。強い者の後ろに隠れられる班にもしていない」
先生の視線が教室をゆっくり動く。
「自分が何をする班なのか、今日中に考えろ」
そして、短く付け加えた。
「各班、明日までに役割を決めてこい」
それだけ言うと、先生は授業に入った。
授業後、俺たちは教室の端に集まった。
俺とクラウスとミラ。
まず口を開いたのはクラウスだった。
「俺が前に出る。前衛は任せてくれ」
「分かった」
俺が頷くと、ミラが続ける。
「私は支援に回るわ。足止めと防御補助ならできる。視界を助ける魔法も少し使えるわ」
「助かります、ミラさん」
「呼び方はそのままでいいわ。急に変えると落ち着かないでしょう?」
ミラが軽く笑った。
俺もつられて少し笑う。
「俺は後ろから全体を見る。魔物の動きや、危ない場所があれば伝える」
そう言うと、クラウスが少しだけ首を振った。
「全体を見るのは助かる。だが、全部を決めようとしなくていい」
俺は言葉を止めた。
「前に出て分かることは、俺が言う」
ミラも静かに続ける。
「支援のタイミングは、私にも判断させて。指示を待つだけだと遅れることもあるわ」
それは、俺にとって大事な言葉だった。
見えることは武器になる。
でも、見えたものを全部自分で抱えたら、班ではなくなる。
「分かった。二人にも任せる」
クラウスは頷いた。
「それでいい」
「なら、まず合図を決めましょう」
ミラが机の上に紙を置く。
「止まる、下がる、魔法を使う。最低限、この三つは必要ね」
「俺は前にいる。声が届かない時は、手の合図もあった方がいい」
クラウスが言う。
俺は二人の話を聞きながら、筆記具を取った。
洞くつには、まだ入っていない。
けれど、課題はもう目の前にあった。
クラウスに任せること。
ミラを信じること。
そして、俺が見たものを、俺一人の判断にしないこと。
三人一組。
その言葉の重さを、俺は班分けが終わって初めて実感していた。
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