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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第247話 分かれる道

 二学期が始まって、数日が過ぎた。


 久しぶりの授業にも、少しずつ身体が戻ってきている。


 三年Sクラスの教室にも、夏休み明けの浮ついた空気はだいぶ薄れていた。


 その日の午前、ベルンハルト先生は教壇に立つなり、いつもより少し違う話を始めた。


「今日は、四年以降の専門コースについて話す」


 教室の空気が、わずかに変わった。


 知らない話ではない。


 王立学院では数年前から、五年制のうち四年目以降に専門コースを選ぶ仕組みが始まっている。


 ただ、それはこれまで、どこか先の話だった。


「四年から専門コースを選ぶことは、全員知っているな」


 ベルンハルト先生が言うと、生徒たちは黙って頷いた。


「だが、勘違いするな。四年になったからといって、今のクラスがなくなるわけではない」


 先生は黒板に短く文字を書く。


 総合科目。


 専門コース。


「四年以降も、総合科目はクラス単位で受ける。王国史、法の基礎、礼法、実戦判断、魔法基礎。そういったものは、引き続き今のクラスごとに学ぶ」


 つまり、SクラスはSクラスとして残る。


 その上で、専門授業だけがコースごとに分かれるということだ。


「専門コースは、一人一つを選ぶ。騎士、魔法、文官、研究。

そのどれかを軸にすることになる」


 一人一つ。


 その言葉で、教室の空気が少し締まった。


「三年の二学期からは、各コースの見学と希望調査が始まる。

正式に決めるのはまだ先だが、何も考えずに過ごせる時期は終わったと思え」


 ベルンハルト先生は、さらに黒板に文字を書いた。


 騎士コース。


 魔法コース。


 文官コース。


 研究コース。


「改めて確認しておく。騎士コースは、騎士団、近衛、領軍幹部を目指す者が多い。

実戦訓練、指揮、武器、馬術、集団行動が増える」


 ガイルが、少しだけ前のめりになった。


「魔法コースは、攻撃、防御、回復、補助、術式応用を深く扱う。

威力だけでなく、制御と安定性も見る」


 セレナとナディアが、それぞれ違う表情で黒板を見る。


「文官コースは、法、財政、領政、外交、行政実務だ。

帳面が嫌いな者には向かない」


 その言葉に、ヴィクトルが小さく笑った。


「研究コースは、魔法道具、古代術式、建国期資料、特殊魔法の研究を扱う。

王立研究所と関わる機会もある」


 王立研究所。


 その言葉に、俺は思わず反応した。


 福嶋亮太の本のことが頭をよぎる。


「ただし、専門コースで選ばなかったものを学ばなくていいという意味ではない」


 ベルンハルト先生は、黒板の「総合科目」という文字を指した。


「広く学ぶ部分は、総合科目で続ける。だが、深く学ぶ専門は一つだ。

自分が何を軸にするのか、よく考えろ」


 先生の声は落ち着いていた。


 けれど、その言葉は軽くなかった。


「二学期の間に、各コースの授業見学や簡単な適性確認を行う。

自分が何を学びたいのか。何を背負う立場なのか。よく考えておけ」


 先生はそう言うと、黒板の文字を指で軽く叩いた。


「四年になっても、総合科目では同じクラスで学ぶ。だが、専門授業では道が分かれる。

今のうちに、互いから学べ」


 その言葉で、教室の空気が少し締まった。


 ◇


 休み時間になると、すぐにヴィクトルが口を開いた。


「いよいよ来たね、この話」


「ヴィクトルは文官コース?」


 俺が聞くと、ヴィクトルは肩をすくめた。


「たぶんね。商会のこともあるし、法や帳面から逃げるわけにはいかないから」


「ヴィクトルらしいね」


「本当は楽なコースがあれば、そっちに行きたいけどね」


 そう言う割に、ヴィクトルの顔は楽しそうだった。


 ガイルは迷う様子もなく言った。


「俺は騎士コースだ」


「早いね」


「前から決めている」


 その横で、ナディアが微笑む。


「ガイルさんらしいです」


「ナディアは魔法コースだろ?」


「はい。回復魔法と支援魔法を、もっと深く学びたいです」


 ナディアの声には迷いがなかった。


 ガイルとは違う意味で、進む道が見えている。


 セレナは腕を組み、黒板を見ていた。


「セレナは魔法コース?」


 俺が聞くと、セレナはこちらを見る。


「魔法コースに行くつもりよ。中途半端な魔法で満足する気はないもの」


「セレナらしいね」


「でも、法や領政を知らなくていいとは思っていないわ」


 セレナは少しだけ眉を寄せた。


「ヴァレスト公爵家の娘として、そのあたりを避けるわけにはいかないでしょう」


 ヴィクトルが軽く笑う。


「そこは総合科目でしっかりやるしかないね」


「分かっているわ。だから総合科目も手を抜けないのよ」


 セレナが即座に返す。


 そのやり取りに、エドガーが穏やかに笑った。


「僕は、文官コースを考えることになるだろうな」


「王族なら、魔法や騎士コースも関係ありそうだけど?」


「もちろん無関係ではない。

ただ、専門として一つ選ぶなら、国を動かす仕組みを学ぶ方が先だ」


 エドガーの言葉は静かだった。


 けれど、その重さは分かる。


 それぞれ、立場がある。


 好きなものだけを選べるわけではない。


「それで、リオンは?」


 ヴィクトルがこちらを見た。


 皆の視線が集まる。


 俺はすぐに答えられなかった。


 魔法コース。


 転移魔法や亜空間収納を考えれば、必要だと思う。


 研究コース。


 福嶋亮太の本や王立研究所のことを考えると、無視できない。


 文官コース。


 領地を動かすなら、法も財政も帳面も必要になる。


 騎士コースの内容だって、領地を守ることを考えれば、まったく関係ないとは言えない。


 けれど、専門コースとして選べるのは一つだけだ。


「どれも必要に見えるから困る」


 俺がそう言うと、ヴィクトルが笑った。


「リオンらしい答えだ」


 セレナは少し呆れた顔をする。


「全部抱えようとするから、そうなるのよ」


「そう言われると、否定しづらい」


「否定できないなら、少しは自覚しなさい」


 ナディアが困ったように笑う。


「でも、リオンさんの場合、本当に複数のコースが関係していますね」


 エドガーも頷いた。


「研究コースを軸にするのか、文官コースを優先するのか。

あるいは魔法コースを深めるのか。簡単ではないな」


 ガイルが少し考えてから言う。


「だったら、一番必要なものを選ぶしかないんじゃないのか?」


「簡単に言うわね」


 セレナがすぐに返した。


 ガイルは首を傾げる。


「違うのか?」


「間違ってはいないと思う」


 俺は苦笑した。


 一番必要なもの。


 それが何か分かれば、苦労はしない。


 少し離れた席では、クラウスとライオネルたちも進路の話をしていた。


「クラウスさんは、騎士コースですか?」


 俺が声をかけると、クラウスはこちらを向いた。


「騎士コースを考えている。ただ、家のことを考えると文官コースの内容も必要になる」


 ライオネルが笑う。


「俺は騎士コース寄りだな。

文官コースの帳面は、正直あまり得意じゃない」


「ライオネル、それを今から言っていると後で困るわよ」


 ミラが横から言う。


「ミラさんは魔法コースですか?」


「ええ。支援系を伸ばしたいと思っているわ」


 オルドは少し考えながら言った。


「俺はまだ決めきれていない。

騎士コースに行きたい気持ちはあるが、家の仕事を考えると文官コースも捨てがたい」


 皆、考えている。


 当然だ。


 四年以降の専門コースは、単なる授業の違いではない。


 その先の生き方にもつながっている。


 ◇


 休み時間の終わり際、ベルンハルト先生が教室へ戻ってきた。


 生徒たちの会話が少しずつ静まる。


 先生は、俺たちの顔を見て言った。


「迷うのは悪いことではない」


 教室が静かになった。


「ただし、選ばないまま時間だけ過ぎるのは悪い。

二学期は試す時期だ。見学でも演習でも、自分がどこで力を出せるか見ておけ」


 先生の視線が、全員を順に見た。


「はい」


 返事が揃う。


 俺は黒板の文字をもう一度見た。


 総合科目。


 専門コース。


 騎士コース。


 魔法コース。


 文官コース。


 研究コース。


 知っていたはずの言葉が、急に近くなった気がした。


 四年から専門コースを選ぶことは、前から知っていた。


 けれど、今日まではどこか先の話だった。


 今は違う。


 名前として知っていた道が、自分の前に並び始めている。


 どれか一つを選べばいい。


 そう簡単には思えなかった。


 けれど、全部を抱えればいいとも思えない。


 二学期は、ただ授業を受けるだけの時間ではない。


 自分がどの道へ進むのかを考える時間でもあった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ここまで拝読いたしました 面白い着眼点もあり、スジとしては面白いと感じます。 自身の取り巻く環境、ままならない現状、至りたい展望と様々で展開が楽しみです。 一方で少し、表現がクドくなりがちなのが気に…
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