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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第244話 夏休み最終日

 夏休みが終わる五日前、母上に呼び止められた。


「リオン、王都へ戻る準備は大丈夫なの?」


「準備?」


「ええ。そろそろ出発しないと、学院に間に合わないのではなくて?」


 そう言われて、俺は少しだけ迷った。


 普通なら、その通りだ。


 ハル領から王都までは、馬車で五日もかかる。


 夏休みの終わりまで領に残るなど、本来ならできない。


 けれど、今回は違う。


「大丈夫。今回は転移魔法で戻るから、ぎりぎりまで家にいられるよ」


 母上の目が丸くなった。


「転移魔法?」


「うん。ただ、これは学院長からも、人前で使ったり、目立つ使い方をしたりしないように言われているんだ」


「それほどの魔法なのね」


「だから、母上にもお願い。皆には内緒にしておいて」


 母上は少しだけ不安そうに俺を見た。


「身体への負担は大丈夫なの?」


「最初よりは軽くなっているよ。

同じ魔法は、使えば使うほど身体が慣れていくみたいなんだ。

魔力の流れが、術式に馴染む感じかな」


 もちろん、転移魔法が簡単な魔法になるわけではない。


 どこにでも自由に飛べるわけでもない。


 条件を整えた場所にしか戻れないし、無理をすれば身体への負担も大きい。


 今回は、王立学院の寮の自室に戻るだけだ。


 母上はしばらく黙ってから、小さく頷いた。


「分かりました。でも、無理はしないでね」


「うん。約束する」


 そうして、俺は夏休みの最後までハル領に残ることになった。


 ◇


 五日は、あっという間に過ぎた。


 夏休み最終日。


 俺は朝から西の森へ向かった。


 町が完成したわけではない。


 仮役場はまだ仮役場だし、寝床も十分とは言えない。


 道も、灯りも、水場も、まだ整えることばかりだ。


 それでも、今日見たいものは決まっていた。


 俺がいなくても、動けるか。


 それだけだ。


 仮役場へ着くと、入口の横に木板が掛けられていた。


 役場で決めること。


 レナードへ上げること。


 ノルへ知らせること。


 屋敷へ伝えること。


 文字の横には、エルムが描いた絵印もある。


 それだけでも、前よりずっと分かりやすくなっていた。


 中では、エルムが宿札を作り替えていた。


「おはよう、エルム」


「若様、おはようございます」


「それは?」


「三番小屋から仮宿西側へ戻る方が一人いましたので、宿札を直しています」


「理由は?」


「同じ班の方が明日から別の作業場へ移るそうです。

寝床の人数は足りています。揉め事もありません」


 エルムはそう言って、帳面の一行を指で示した。


 俺に判断を求めているのではない。


 もう処理したことを、報告している。


「分かった。夕方のまとめに入れておいて」


「はい」


 外へ出ると、マルクが作業員と話していた。


「それは役場で見ます。賃金の話なら、まず作業日を確認しましょう。

支払い額が変わる話なら、レナード様へ上げます」


 声はまだ少し硬い。


 でも、誰に渡すべきかは分かっている。


 食事小屋では、リタが木片を箱に入れていた。


「今日は多そう?」


「昨日よりは少ないです。ただ、石切り場から来る方が昼だけ増えそうなので、昼食分だけ少し足します」


「レナードには?」


「三日続くようなら上げます。今日はまだ役場で見ます」


「うん」


 俺が答える前に、リタが言った。


 それでいい。


 しばらくして、ノルが戻ってきた。


「森側の道に危険札を一つ移しました」


「ぬかるみ?」


「はい。昨日より広がっています。ただ、荷車は回せます。

補修は明日、マルク殿と人を出します」


「分かった」


 ノルは短く頷くと、役場の帳面に場所と理由を書き残した。


 俺が細かく指示を出す必要はなかった。


 西の森は、まだ不完全だ。


 宿札をなくした者もいる。


 食事数の記録に抜けもある。


 危険札の場所を知らず、遠回りを嫌がる作業員もいた。


 それでも、全部が俺のところへ来るわけではない。


 役場で受け、必要な相手へ流れている。


 その流れがあるだけで、以前とは違っていた。


 昼過ぎ、俺はレナードのところへ行った。


 レナードは仮役場の奥で、帳面を確認していた。


 書類はある。


 けれど、山にはなっていない。


「レナード、無理してない?」


 俺が聞くと、レナードは少しだけ笑った。


「以前より楽になりました」


「本当に?」


「はい。小さな相談が、すべて私のところへ来なくなりました。

役場で済むものは役場で止まり、安全の話はノル殿へ流れます。

私のところへ来る時には、ある程度整理されています」


 それを聞いて、胸の奥が少し軽くなった。


 レナードに丸投げしているわけではない。


 役場が分けている。


 ノルが見ている。


 リタも、エルムも、マルクも、それぞれ動いている。


「若様が王都へ戻られても、すぐに止まることはありません」


 レナードは静かに言った。


「もちろん、問題は出ます。足りないところもあります。

ですが、どこへ上げるかは見えてきました」


「なら、よかった」


「はい。ここから先は、動かしながら直していきます」


 完成ではない。


 それでいい。


 最初から完成した町など作れない。


 止まらず、直しながら進める。


 それが今の西の森に必要なことだった。


 夕方前、西の森夜間学校の準備も見た。


 エルムが文字札を並べ、マルクが数字用の木片を数えている。


 リタは食事の片づけをしながら、参加者に声をかけていた。


 俺がいなくても、夜になれば灯りがつく。


 人が集まり、名前を書き、数を覚える。


 小さなことだ。


 でも、その小さなことが続けば、西の森はただの作業場ではなくなっていく。


 俺は、そこで皆に挨拶をした。


「しばらく王都へ戻る。西の森のこと、よろしくお願いします」


 エルムが深く頭を下げる。


「お任せください」


 マルクも頷いた。


「迷ったら、判断表を見ます」


 リタは少し笑った。


「食事に来ない人がいたら、ちゃんと役場へ知らせます」


 ノルはいつも通り、短く言った。


「安全は見ておきます」


 俺は一人ずつ顔を見た。


 任せる。


 その言葉の重さが、少しだけ分かった気がした。


 ◇


 屋敷へ戻ると、母上が待っていた。


 俺は、西の森の様子を報告した。


 役場判断が動いていること。


 レナードに小さな相談が集まりすぎていないこと。


 ノルへの安全報告が流れていること。


 屋敷へ上げるべきものが少しずつ整理されていること。


 母上は静かに聞いていた。


「分かりました。あなたが王都へ戻った後は、私も決まった日に報告を受けます」


「毎日じゃなくていいと思う」


「ええ。毎日すべてを聞いていたら、私もレナードも続きません」


 母上はそう言って、少しだけ笑った。


「大事なことだけ、きちんと上げてもらいます」


「うん。それがいいと思う」


 父上の部屋にも行った。


 父上は寝台に横になっていた。


 顔色はまだよくない。


 けれど、目はしっかりしていた。


「西の森はどうだった」


「止まらない形には、なり始めてる」


「そうか」


 父上は小さく頷いた。


 長く話す必要はなかった。


「行ってこい、リオン」


「はい」


 それだけで十分だった。


 ◇


 夜。


 俺は荷物を亜空間収納魔法で片付け、屋敷の自室へ向かった。


 転移魔法のことを知っている者は限られている。


 学院長からも、人前で使うなと言われている。


 だから、見送りは母上だけだった。


「本当に大丈夫なのね?」


「うん。王立学院の寮の自室に戻るだけだから」


「着いたら、無理をせず休みなさい」


「分かった」


 床には、あらかじめ確認しておいた術式陣がある。


 転移先は、王立学院の寮の自室。


 固定した場所へ戻るだけなら、今の俺でも使える。


 初めて使った時は、身体の奥を引っ張られるような負担があった。


 けれど、何度か使ううちに、その感覚は少しずつ軽くなった。


 魔法は、使えば使うほど身体が慣れていく。


 俺は術式陣の中央に立った。


「行ってきます、母上」


「行ってらっしゃい、リオン」


 母上の声を聞きながら、魔力を流す。


 術式が淡く光った。


 視界が揺れる。


 身体が一瞬、薄く引かれるような感覚がした。


 次の瞬間、俺は王立学院の寮の自室に立っていた。


 窓の外には、王都の夜が広がっている。


 夏休みは終わった。


 けれど、西の森のことが終わったわけではない。


 俺は小さく息を吐き、亜空間収納から荷物を取り出して机の横に置いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
いやー、学院長はこうなることを危惧したのでは? 全く約束事を聞いてない、45歳。 というか、自室に飛んだら、学院長の部屋にマークした意味がー こういうときこそ、早馬出して前もって知らせるということを…
転移魔法使用は事前申請、やむえない場合は事後でも可と学院長にかなり厳しく言われてませんでした? 見送りが母上のみだからと許可が出るとは思えないのですが。 次話以降で主人公が浅慮だと学院長に怒られる展開…
楽しく読ませて頂いています。 主人公が45歳社長をやっていたのなら、任せるのことは知っていて&身に染みて理解していて当然のように思います。細かい部分ですが、描写に一貫性を持たせたほうが良いと思います。
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