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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第242話 父上の代わりに

 ダンの件が落ち着いてから数日後。


 俺は、滞在帳の扱いについて父上へ報告するため、屋敷へ戻っていた。


 西の森では、エルムが説明用の札を作り始めている。


 マルクは出稼ぎ者たちに、滞在帳が何のためのものなのかを伝えて回っていた。


 リタも、食事小屋で不安そうな者がいれば役場へ知らせてくれている。


 少しずつ、前には進んでいる。


 だが、八月も半ばを過ぎている。


 夏休みは、もう残り少ない。


 俺が王立学院へ戻った後、西の森はどうなるのか。


 そのことが、頭の片隅から離れなくなっていた。


 父上の執務室へ向かう途中、扉の前で足が止まった。


 中から、母上とレナード、それに医師の声が聞こえたからだ。


「領主様は、まだ執務を続けられる状態ではありません」


 医師の声は低く、落ち着いていた。


 だが、その言葉は重かった。


「熱は落ち着いております。ですが、体力の戻りが遅い。

しばらくは、判断を要する場以外では休ませるべきです」


 母上の声が続く。


「どのくらい休ませればよいのですか」


「数日では足りません。月単位でお考えください」


 俺は息を止めた。


 月単位。


 その言葉だけが、胸の奥に沈んだ。


 父上は、少し休めば戻る。


 どこかで、そう思っていた。


 けれど、医師の言い方は違った。


 今の父上は、無理をすれば悪くなる。


 そう言っているのだ。


「リオン様」


 廊下の向こうから、使用人が俺に気づいた。


 その声で、部屋の中の会話が止まる。


 少しして、扉が開いた。


 出てきたレナードが、俺を見る。


「若様」


「……父上に報告がある」


「承知しました。今、お通しします」


 レナードは、俺が今の話を聞いたことに気づいていたと思う。


 だが、何も言わなかった。


 ◇


 執務室に入ると、父上は椅子に座っていた。


 机の上の書類は、以前よりずっと少ない。


 母上が、長く執務をさせないようにしているのだろう。


 父上の顔色はよくなかった。


 それでも俺を見ると、いつものように穏やかに笑った。


「西の森の報告か」


「はい」


「座りなさい」


 俺は父上の向かいに座った。


 母上も少し離れた椅子に座る。


 レナードは壁際に控えた。


 俺は、ダンの件を報告した。


 グレイヴ領から来た出稼ぎ者が、滞在帳に不安を覚えて隠れていたこと。


 滞在帳が、その人を探す役には立ったこと。


 けれど、帳面が何のために使われるのかを説明しなければ、かえって怖がらせること。


 そして、役場で決めた扱いも伝えた。


 父上は、途中で口を挟まなかった。


 ただ、静かに聞いていた。


 話し終えると、父上は小さく頷いた。


「よく気づいた」


 短い言葉だった。


 それだけで、少し胸が軽くなる。


 だが、父上はすぐに続けた。


「帳面は力を持つ。誰が見るのかを決めておかなければ、人を守るものが、人を縛るものになる」


「はい」


「西の森役場は、便利な場所にするだけでは足りない。

信じられる場所にしなければならない」


 父上の言葉は、いつも通りだった。


 領主として、必要なことを見ている。


 だが、言い終えた後、父上はわずかに息を整えた。


 その小さな間が、気になった。


 その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。


 《体力:大幅低下》

 《魔力循環:弱》

 《内臓負荷:高》

 《回復力:低下》

 《警告:長期静養必要》


 俺は、思わず息を呑んだ。


 父上は、回復しているわけではない。


 領主として必要な時だけ、無理に椅子へ座っているだけだ。


「リオン?」


 父上が俺を見る。


「……いえ」


 言いかけて、止まった。


 父上がこのまま動けなくなったら、ハル領はどうなるのですか。


 その言葉は、口にできなかった。


 病み上がりの父上本人に、そんなことを聞けるはずがない。


 代わりに、俺は別の言い方をした。


「西の森のことです。僕が学院へ戻った後のことを、考えていました」


 父上は、少しだけ目を細めた。


 俺の言いたいことを、どこまで察したのかは分からない。


 だが、父上は静かに言った。


「なら、レナードと話しなさい」


「レナードと?」


「ああ。お前が考えるべき時期に来ている」


 母上が父上の肩にそっと手を置いた。


「あなた、今日はここまでにしましょう」


 父上は少し苦笑した。


「分かっている」


 そして俺を見る。


「リオン。西の森を進めたいなら、お前がいない時の形を作れ」


「はい」


「それができなければ、町にはならない」


 それだけ言うと、父上は椅子から立とうとした。


 母上と使用人が支える。


 俺は立ち上がったが、何もできなかった。


 父上の背中が、以前より少し小さく見えた。


 ◇


 執務室を出た後、俺はレナードと小さな執務室に入った。


 しばらく、何も言えなかった。


 さっき見えた文字が、まだ頭から離れない。


 《警告:長期静養必要》


 父上は、休まなければならない。


 でも、ハル領は止まらない。


 西の森も止まらない。


 ガザルの件も、司法院の件も、出稼ぎ者の不安も、全部まだ続いている。


「レナード」


「はい」


「もし父上が長く休むことになったら、ハル領はどうなるの?」


 ようやく、それだけ聞けた。


 レナードは驚かなかった。


 最初から、俺がそれを聞くと分かっていたようだった。


「領主様が長く静養される場合、奥方様が屋敷と領政を預かる形になるでしょう」


「母上が?」


「はい。領主の奥方が、領主不在時や病中に家政と領政を支えることは珍しいことではありません。

ただし、奥方様お一人ですべてを決めるわけではありません」


「レナードやノルが支える?」


「はい。帳面、財政、人員手配は私が支えます。

警備と現場の安全はノル殿が見ることになります」


 レナードは机の上に木板を置いた。


「問題は、西の森です」


「西の森……」


「今の西の森は、動きが早い。役場、滞在帳、宿札、夜間学校、出稼ぎ者の受け入れ。

すべてが同時に進んでいます」


「うん」


「だからこそ、役場で判断できること、屋敷へ上げること、領主判断にすることを分ける必要があります」


 俺は黙った。


 この夏、父上だけに任せられたとは思えない。


 西の森は、もう作業場ではなくなっている。


 ガザルの件もあった。


 夜間学校が始まり、役場ができ、滞在帳と宿札も動き出した。


 父上が全部を見ていたら、きっと身体が持たなかった。


 でも、俺ももうすぐ学院へ戻る。


「レナード」


「はい」


「父上だけにも任せられない。でも、僕が全部持つこともできない」


「その通りです」


 レナードは、はっきり言った。


「若様がこの夏、ハル領を支えたことは間違いありません。

ですが、若様がいなければ止まる形にしてしまえば、領主様に依存していたものが、若様に移るだけです」


 その言葉は、胸に刺さった。


 俺は、父上の代わりに自分が何とかしなければと思いかけていた。


 でも、それでは同じなのだ。


 父上が倒れれば止まる領地が、俺がいなければ止まる領地に変わるだけ。


 そんなものは、仕組みではない。


 レナードは木板に炭筆で書き始めた。


「若様が学院へ戻られる前に、決めるべきことがあります」


 一、西の森役場で判断してよいこと。

 二、レナードへ上げること。

 三、ノルへ上げる安全案件。

 四、母上へ共有すること。

 五、領主判断が必要なこと。

 六、リオンへ定期報告すること。


 六つの項目が並んだ。


 俺はそれを見つめる。


 町を完成させることは、夏休み中にはできない。


 父上をすぐに回復させることも、俺にはできない。


 でも、判断の流れを作ることはできる。


「父上の代わりに、僕が全部やるんじゃないんだね」


 俺が言うと、レナードは静かに頷いた。


「はい。領主様が休める形を作るのです」


 父上が休める形。


 その言葉で、ようやく腑に落ちた。


 父上の代わりに立つことではない。


 父上が無理をしなくても、領が止まらないようにすること。


 俺が学院へ戻っても、西の森が前へ進めること。


 そのために、誰が何を判断するのかを決める。


「分かった」


 俺は木板を引き寄せた。


「夏休みが終わるまでに、任せる範囲を決めよう」


「承知しました」


「父上が休めるように。母上が困らないように。レナードとノルが動けるように。

西の森役場が止まらないように」


「はい」


 レナードは静かに頭を下げた。


 俺はもう一度、父上の状態を思い出した。


 《体力:大幅低下》

 《回復力:低下》

 《警告:長期静養必要》


 父上はまだ領主として立っている。


 だが、長く無理を続けられる状態ではない。


 そして俺も、もうすぐ学院へ戻る。


 父上の代わりに、俺がすべてを背負う。


 最初は、そう考えかけた。


 けれど、それでは駄目なのだ。


 俺がこの夏に残すべきものは、父上の代わりになる自分ではない。


 父上が休める形。


 そして、俺が学院へ戻っても、西の森が前へ進める仕組みだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
父上の体調不良の原因をもう一度調べた方がよいのでは。急に悪くなってないですか。
そもそも、学校の概念がほとんどない世界で5年間も学業とか突っ込みどころ満載。ほぼ1年目で作者のやりたかったであろうことをやり尽くしてる感じがしますね。課外授業とか、要人の暗殺 が付き纏って授業どころじ…
2026/06/13 07:45 ポメラニアン
もう転移魔法で帰ってこい 若いんだから無理は前提で
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