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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第235話 司法院の中間報告

 西の森役場の候補者を整理したあと、俺はレナードと共に次の段取りを確認していた。


 エルム。


 マルク。


 リタ。


 ノル。


 名前を並べると、仮役場の形が少しずつ見えてくる。


 ただ、候補者を決めたからといって、すぐに動けるわけではない。


 本人たちに話をしなければならない。


 今の仕事との兼ね合いもある。


 食事小屋や工房、現場責任者にも話を通す必要がある。


 俺が木板を見ながら考えていると、執務室の扉が控えめに叩かれた。


「失礼いたします」


 屋敷の使用人が入ってくる。


「司法院の調査官殿が、領主様と若様にお話があるとのことです」


 俺は顔を上げた。


 司法院。


 その言葉で、空気が少し変わった。


 西の森役場の話を進めていたから、少し意識の端に追いやっていた。


 だが、西の森の事件はまだ終わっていない。


 ガザルと思われる男。


 黒い魔石片。


 魔物の死骸を動かした術式。


 それらは、今も司法院の調査官たちが調べている。


「父上の執務室?」


「はい。領主様はすでにお待ちです」


「分かった。すぐ行く」


 俺はレナードを見る。


「レナードも来て」


「承知しました」


 レナードはすぐに帳面を閉じた。


 西の森役場の人選は、いったん止める。


 今は、司法院の話を聞くべきだ。


 ◇


 父上の執務室へ入ると、すでに父上、ノル、司法院の調査官が席についていた。


 父上は椅子に座っていたが、机の上の書類は少ない。


 長く執務をするためではなく、この報告を聞くためだけに出てきたのだと分かった。


 顔色は、まだ万全とは言えない。


 それでも、領主として聞かなければならない話だと判断したのだろう。


 調査官の前には、何枚もの書類と、封をされた小箱が置かれている。


 おそらく、証拠品だ。


 父上は俺を見ると、静かに頷いた。


「来たか、リオン」


「うん」


「座りなさい」


 俺とレナードは席に着いた。


 ノルは壁際に立っている。


 普段通り無表情に近い顔だが、その目はいつもより鋭かった。


 司法院の調査官は、俺たちが座るのを待ってから口を開いた。


「本日は、拘束中の男と、西の森で確認された術式痕跡について、現時点での報告をいたします」


 父上が頷く。


「聞こう」


 調査官は書類を一枚めくった。


「まず、捕らえた男についてです。本人は名をはっきり名乗ろうとしておりません。

しかし、所持品、術式の癖、過去に確認されていた情報を照合すると、ガザル本人である可能性が高いと見ています」


 ガザル。


 その名を聞いた瞬間、胸の奥が重くなる。


 調査官は続ける。


「拘束時に回収した品の中には、黒い魔石片と同質と思われる欠片が含まれていました。

現在、封印して保管しています」


 調査官が小箱に手を置いた。


 箱には司法院の封がしてある。


「黒い魔石片は、やはり死骸を動かす術式と関係しているのか」


 父上が聞いた。


「その可能性が高いです。ただし、魔石片そのものが術式を動かしたのか、術式を維持する補助に使われたのかは、まだ断定できません。

王都で専門の術式官に確認させる必要があります」


「現場の痕跡は?」


「西の森で確認された魔力の残り方と、男の持っていた道具に付着していた魔力の癖は、かなり近いものです」


 調査官は言葉を選んでいた。


 断定しすぎない。


 だが、曖昧にもしていない。


「現時点では、ガザル本人または極めて近い術式使用者によるものと見てよいでしょう」


 ノルが低い声で聞いた。


「単独犯ですか」


 調査官はすぐには答えなかった。


 少し間を置いてから、静かに言う。


「単独犯として片づけるには、不自然な点があります」


 部屋の空気がさらに重くなった。


「魔物の死骸を集める手間。黒い魔石片の入手経路。術式を施す場所。

西の森へ放つタイミング。どれも、一人で短期間に整えるには負担が大きい」


「協力者がいると?」


 父上が聞いた。


「その可能性はあります。資金を出した者、死骸を集めた者、移動を手助けした者、情報を渡した者。

いずれかがいたと見る方が自然です」


 俺の頭に、グレイヴ侯爵の名が浮かんだ。


 ハル領の発展を快く思っていない貴族。


 ガザルとの接触が疑われる相手。


 だが、今ここでその名を出すべきではない。


 証拠がない。


 俺の内心なら疑ってよい。


 だが、調書に残る場では慎重でなければならない。


 司法院の調査官も、それは分かっているようだった。


「現段階で、特定の貴族名を調書に記すことはできません」


 調査官ははっきりと言った。


「ただし、外部支援者の存在については、王都で正式に確認する必要があります」


 父上は静かに息を吐いた。


 その仕草は小さかったが、疲労がにじんでいた。


 それでも、目は調査官から離さない。


「王都へ送るのだな」


「はい。明後日の朝、身柄と証拠品を王都へ送る予定です」


「明後日か」


「本日と明日で、ハル領内で行うべき聞き取りと現場確認を終えます。

その上で、拘束中の男、黒い魔石片、術式に関する調書を王都司法院へ移します」


 俺はそこで口を開いた。


「ハル領で、まだ調べなければならないことは何ですか」


 調査官は俺を見た。


 子供に説明する口調ではなかった。


 対等とまでは言わないが、少なくとも、話を理解できる相手として見ている。


「事件現場がハル領にある以上、初動の確認はここで済ませる必要があります」


 調査官は指を折りながら説明した。


「襲撃が起きた地点。魔物の死骸が確認された場所。

黒い魔石片の発見状況。現場作業員や冒険者の証言。

見回りに当たっていた者の報告。男が拘束された場所。

その周辺で、不審な出入りがなかったか」


 次々に並ぶ項目を聞きながら、俺は改めて事件の重さを感じた。


 ただ魔物が現れた、という話ではない。


 誰かが準備し、運び、放った。


 そこには必ず、人の動きがある。


「正式な尋問や裁きは王都で行う。ですが、現場でしか分からないことは、王都へ送る前に残しておかなければなりません」


「証言もですか」


「はい。人の記憶は時間が経つほど曖昧になります。

特に西の森のように、人の出入りが多い場所では、早めに確認しておく必要があります」


 その言葉が、妙に引っかかった。


 人の出入りが多い場所。


 まさに、俺たちが今考えていたことだ。


 西の森には人が増えている。


 作業員。

 木こり。

 冒険者。

 出稼ぎ者。

 食事小屋や湯屋の手伝い。


 その全員の動きを、今のハル領は完全に記録できているわけではない。


 調査官は、責める口調ではなかった。


 だが、現実を淡々と示していた。


「聞き取りの中で、いくつか確認に時間がかかる点がありました」


「たとえば?」


 父上が聞く。


「事件当日とその前後に、誰が西の森の奥へ入ったのか。

見慣れない荷車や荷物を見た者はいないか。魔物の死骸が運び込まれるような不自然な動きがなかったか。

夜間の見回りで、普段と違う足跡や物音に気づいた者はいないか。

そうした確認の一部が、現場責任者や班長の記憶に頼っている状態です」


 レナードの表情がわずかに引き締まった。


 俺も同じことを感じていた。


 これは、西の森役場の話そのものだ。


全部、今回の事件とつながっている。


「もちろん、ハル領の対応が不十分だったと言いたいわけではありません」


 調査官はそう付け加えた。


「西の森は急速に人が増えています。作業場として始まった場所が、生活拠点に変わりつつある。その過程で記録が追いつかなくなるのは、不自然なことではありません」


 父上は黙って聞いていた。


 体調のことを考えれば、長く話すのは負担のはずだ。


 それでもこの場にいるのは、この問題がハル領の今後に関わると分かっているからだろう。


 俺は拳を軽く握る。


 不自然ではない。


 でも、このままでよいわけでもない。


 ノルが口を開いた。


「見回りでも同じです」


 皆の視線がノルへ向く。


「人が少ないうちは、顔を覚えれば足りました。ですが、出稼ぎや短期人足が増えれば、それでは限界があります。

不審者を見分けるには、まず普通に働いている者を把握しておく必要があります」


 ノルらしい言い方だった。


 安全のためには、誰がそこにいるのかを知る必要がある。


 ただし、それは人を疑うためだけのものにしてはいけない。


「帳面は、人を疑うためだけのものにはしたくありません」


 俺がそう言うと、ノルは静かに頷いた。


「承知しています」


「でも、誰がどこにいるか分からなければ、守ることも探すこともできない」


「その通りです」


 ノルが答える。


「役場と見回りがつながれば、異変に気づくのも早くなります」


 司法院の調査官が俺を見る。


「若様は、西の森に役場を置くおつもりだと伺っています」


「はい。まだ計画段階ですが」


「それは、今回のような事件の後にも役立つでしょう」


「事件の後にも?」


「はい。何かが起きた時、調書を作るには事実が必要です。

誰がいたのか。誰が見たのか。誰がいなくなったのか。

普段の記録がなければ、すべて聞き取りから始めなければなりません」


 それは重い言葉だった。


 役場は、ただ便利にするための場所ではない。


 町を回すためだけでもない。


 何かが起きた時に、事実をたどる場所にもなる。


 調査官は小箱に視線を落とした。


「明日までに、最後の聞き取りを終えます。

黒い魔石片と術式道具は封印し、調書と共に王都へ送ります。

護送には司法院の者に加え、ハル領側からも数名の護衛をお願いしたい」


 父上がノルを見た。


「ノル」


「はっ」


「護送に出す者を選べ。司法院の指示に従い、王都まで無事に送り届けることを優先しろ」


「承知しました」


 父上はそこで一度、短く息を整えた。


 わずかな間だった。


 だが、俺にはその疲れが見えた。


 それでも、父上は俺へ視線を向ける。


「リオン」


「はい」


「お前は、この件に深く関わりすぎるな」


 父上の声は、静かだった。


 だが、その奥には父親としての心配も混じっていた。


「ガザルの背後に何があるかは、司法院が調べる。

お前は西の森を整えることを考えなさい」


「……はい」


 反論はしなかった。


 父上の言う通りだ。


 今の俺が、王都の正式尋問に口を出すべきではない。


 それに、父上にこれ以上余計な心配をかけたくもなかった。


 ただ、だからといって無関係になるわけでもない。


 西の森で起きた事件だ。


 西の森を整えることは、次の事件を防ぐことにもつながる。


 調査官は書類をまとめた。


「では、本日午後から、食事小屋、湯屋、現場責任者への追加確認を行います。

ノル殿には、見回り記録の確認をお願いしたい」


「分かりました」


 ノルが短く答える。


「若様にも、必要があれば確認をお願いするかもしれません」


「分かりました」


 調査官は一礼した。


「以上が、現時点での中間報告です」


 部屋に、しばらく沈黙が落ちた。


 ガザルと思われる男は王都へ送られる。


 黒い魔石片も、術式道具も、調書も。


 事件そのものは、ハル領の手を離れ、王都司法院の正式な扱いへ移ろうとしている。


 ◇


 父上の執務室を出たあと、俺はレナードと並んで廊下を歩いていた。


 ノルはすぐに護送の人選へ向かった。


 司法院の調査官も、午後の聞き取りの準備に入るらしい。


 父上はそのまま執務室に残ったが、長くは続けないだろう。


 きっと母上か屋敷の者が、頃合いを見て休ませるはずだ。


 俺はしばらく黙っていた。


 レナードも、こちらから話すまで何も言わなかった。


「レナード」


「はい」


「西の森役場の役割に、異変の記録も入れよう」


「異変の記録、でございますか」


「うん。怪我人、揉め事、不審者、見慣れない荷物、見回りからの報告。

全部を細かくやりすぎると回らないけど、何かあった時にたどれるようにはしたい」


 レナードは少し考えてから頷いた。


「必要ですな。今回のような事件が起きた時、普段の記録があるかどうかで、調査の早さが変わります」


「役場は、人を縛る場所にはしたくない」


「はい」


「でも、人を守るには、記録が必要だ」


 そう言うと、レナードは静かに頭を下げた。


「その考えで進めましょう」


 俺は窓の外を見た。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
何故ほぼ同じ会話が何度も繰り返されて 何故地の文にもほぼ同じ説明や述懐が何度も出てくるのでしょう 毎日複数回投稿ですが定時投稿にこだわりすぎてる気がします 1日分を1話にまとめて1回の投稿にした方が良…
時系列にしたい気持ちはわかるけど、1話内で事柄があっちからこっちになって、さらに1話で終わらない。 ひとを選んで(前話)、呼び出して、任せて西の森の町(仮)スタート! ってならないから、進んでない(…
文字数の割になかなか進みませんね。 私的に、ちょっと読み飛ばす系になっちゃって残念。
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