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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第232話 町になるまでの道筋

 父の執務室を出たあと、俺はレナードと一緒に小さな執務室へ戻った。


 西の森を町にする。


 言葉にすれば簡単だ。


 でも、実際にやることは山ほどある。


 役場を置く。


 役人を置く。


 そして、俺がいなくても動く仕組みにする。


 父に出された宿題は、思った以上に重い。


「レナード」


「はい」


「ミアも呼んでくれる?」


 レナードが少し意外そうな顔をした。


「ミアを、ですか」


「うん。俺とレナードだけだと、帳面と役場の話に寄りすぎる気がする。西の森で実際に人が暮らすなら、生活の感覚も聞きたい」


「なるほど」


 レナードはすぐに頷いた。


「確かに、食事や寝泊まり、湯屋のことを考えるなら、若様と私だけでは見落とすこともあるでしょう」


「ミアに町づくりの意見を出してほしいわけじゃないよ。ただ、変だと思うことや、困りそうなことを言ってほしい」


「承知しました」


 レナードが部屋を出ていく。


 その間に、俺は木板を一枚引き寄せた。


 西の森を町にするまでの道筋。


 そう書こうとして、少し手が止まる。


 道筋。


 ロードマップ。


 前世では何度も作った。


 新規事業を立ち上げる時。


 人を採用する時。


 売上を立て直す時。


 まず現状を見て、次に段階を分ける。


 いきなり全部はできない。


 だから、何を先にやるかを決める。


 西の森も同じだ。


 町にしたいからといって、いきなり町の形だけを作っても意味がない。


 人が暮らすために必要な順番がある。


 しばらくして、レナードがミアを連れて戻ってきた。


 ミアは少し緊張した顔をしていた。


「リオン様、お呼びでしょうか」


「うん。急に呼んでごめん」


「いえ」


 ミアは俺とレナードの顔を見比べた。


「何か、私でお役に立てることがあるのでしょうか」


「西の森のことを考えたいんだ」


「西の森、ですか」


「うん。父上から、西の森を町として整えるなら、まず計画書を作れって言われた」


「町……ですか」


 ミアは目を丸くした。


「西の森を、町にするのですか」


「すぐに正式な町になるわけじゃないよ。でも、もう作業場だけではなくなってきている」


 俺は木板に書きかけた言葉を見せた。


 西の森を町にするまでの道筋。


 ミアはその文字をじっと見た。


「私には、難しいことは分かりません」


「それでいい」


「え?」


「町の仕組みとか役場のことは、俺とレナードで考える。

でも、そこで暮らす人が困りそうなことは、俺たちだけだと見落とすかもしれない。

だから、ミアには素直に思ったことを言ってほしい」


 ミアは少し不安そうに頷いた。


「分かりました。間違っていたら、すみません」


「間違っていてもいいよ。むしろ、気になることを言ってくれた方が助かる」


 そう言うと、ミアは少しだけ肩の力を抜いた。


 俺は木板を机の中央に置いた。


「まず、町にするまでの段階を分けたい」


「段階、でございますか」


 レナードが炭筆を構える。


「うん。最初から全部やろうとすると失敗する。だから、順番を決める」


 俺は木板に一つ目を書いた。


 第一段階。


 西の森役場を置く。


「最初は、役場だと思う」


「町の中心にする場所ですな」


「うん。大きな建物はいらない。最初は食事小屋の近くに小さな小屋を置く。

そこに帳面を置いて、役人を置く」


「役場では何を扱いますか」


「まずは、人の記録。新しく働きに来た人を登録する。

名前、出身、所属班、仕事、寝泊まり場所、賃金支払い日とかかな」


 レナードが別の帳面に書き写していく。


「困った時の窓口も役場でしょうか」


「うん。仕事の揉め事、寝床の問題、食事の不足、怪我、夜間の不安。

全部を役場が解決する必要はないけど、まず聞く場所が必要だと思う」


「なるほど」


 レナードが頷く。


 ミアは黙って聞いていたが、おずおずと口を開いた。


「あの……」


「うん」


「役場というのは、誰でも行ってよい場所なのですか」


「そのつもり」


「それなら、少し入りやすい場所の方がよいと思います」


「入りやすい場所?」


 ミアは少し考えながら言った。


「もし、偉い人がいる場所だと思われると、困っていても行きにくい人がいるかもしれません。

特に、出稼ぎで来た人や、短い間だけ働きに来た人は」


 俺とレナードは顔を見合わせた。


 なるほど。


 役場を作ると、俺たちはすぐに帳面や管理を考える。


 でも、使う側から見れば、そこへ行きやすいかどうかが大事だ。


「それ、大事だね」


「そうでしょうか」


「うん。役場は人を呼びつける場所じゃなくて、困った時に行ける場所にしたい。

入り口に札を出そう」


「札、でございますか」


「うん。相談。登録。仮宿。食事。そういう絵印付きの札があってもいい」


 ミアは少し安心したように頷いた。


「それなら、分かりやすいと思います」


 俺は木板に書き足した。


 役場は入りやすい場所に置く。


 相談の札を出す。


 次に、二つ目を書く。


 第二段階。


 滞在者と寝床を把握する。


「役場を置いたら、次は滞在帳だ」


「西の森にいる者を把握する帳面ですな」


「うん。誰がどこで働いているかだけじゃなく、どこで寝ているかを確認する」


「仮宿の割り当てもここに入りますか」


「入る」


 俺は木板に、仮宿、寝床、出稼ぎ者、短期人足と書いた。


「最初は常雇いと短期の人足、出稼ぎ者の区別も曖昧になりやすい。

誰がいつまでいるのか、誰が今日だけなのか、誰がしばらく残るのか。

それを見ないと、食事も寝床も足りなくなる」


 レナードが頷く。


「仮宿札を作るのはいかがでしょうか」


「いいね」


「一番小屋、二番小屋、食事小屋裏、工房横など、寝泊まり場所を札で分けます。

役場の帳面と札を合わせれば、誰がどこにいるか分かります」


「それでいこう」


 俺は頷いた。


 するとミアが、また遠慮がちに手を上げた。


「あの、寝る場所のことなのですが」


「うん」


「男の人ばかりならよいのかもしれません。でも、女の人が働きに来るようになったら、寝る場所は分けた方がよいと思います」


 その言葉に、俺は手を止めた。


 レナードも少し真剣な顔になる。


「確かに、今後は必要になりますな」


「今は多くないのですが、食事小屋や湯屋の手伝いなら、女の人が増えることもあると思います。

そうなった時に、後から慌てて分けるより、最初から考えておいた方が……」


 ミアは自信なさそうに言葉を濁した。


 でも、これは大事だ。


 かなり大事だ。


「ミア、それも書こう」


「はい」


「仮宿は、最初から区画を分ける。今すぐ全部を作れなくても、将来分けられるように場所を取る」


 俺は木板に書いた。


 仮宿は男女で分けられる配置にする。


 ミアの言葉がなければ、俺は後回しにしていたかもしれない。


 前世の感覚があるとはいえ、この世界の現場では、つい作業効率を優先してしまう。


 だが、町は効率だけでは作れない。


 人が安心して眠れなければ、そこは町ではない。


「第三段階は、火、水、道、灯りだ」


 俺は木板に三つ目を書いた。


 第三段階。


 火・水・道・灯りを整える。


「町で怖いのは火事だと思う」


「確かに、木の小屋が増えれば危険です」


 レナードが頷いた。


「火を使っていい場所を決める。食事小屋、決められた火場、湯屋。

それ以外では勝手に火を使わない。夜は見回りが最後に火を確認する」


「ノル殿と相談が必要ですな」


「うん。あと水場も」


「飲み水、洗い物、湯屋、作業用の水。分けておかなければ混乱します」


「そう。汚れた水を捨てる場所も決めないといけない」


 ミアが少し驚いた顔をした。


「捨てる場所も、ですか」


「うん。人が増えると、汚れた水も増える。適当に捨てると、道がぬかるむし、水場も汚れる」


「あ……それは困ります」


 ミアは小さく頷いた。


「食事小屋の近くが汚れると、働く人も嫌だと思います」


「だよね」


 俺はさらに書き足した。


 水場。


 排水。


 荷車道と人の道。


 夜の灯り。


「荷車道と人の道も分けたい」


「今は同じ道を使っている場所が多いですな」


「作業場ならそれでよかった。でも町になるなら、子どもや女性、怪我人、夜間学校に来る人も通る。

荷車と人が同じ道でぶつかるのは危ない」


「道の幅や分岐も確認が必要です」


「それは現地で見よう」


 木板の上に、少しずつ町の形が浮かび始めていた。


 まだ建物はない。


 けれど、何を整えるべきかは見え始めている。


「第四段階は、生活機能を増やす」


 俺はそう言って、四つ目を書いた。


 第四段階。


 食事・湯屋・夜間学校・小商いをつなげる。


「小商い、でございますか」


 レナードが聞いた。


「うん。今はハル家が食事小屋や湯屋を用意している。

でも人が増えれば、薪を売る人、道具を直す人、簡単な食べ物を売る人、布や紐を売る人が出てくると思う」


「冒険者向けの補給もありそうですな」


「そう。薬草、油、縄、簡単な道具。そういうものが必要になる」


 前世の感覚で言えば、人が集まれば需要が生まれる。


 需要が生まれれば、商いが生まれる。


 それを放っておけば勝手な場所で売り買いが始まり、揉め事も増える。


 なら、最初から小さな区画を作っておいた方がいい。


「ただ、いきなり店をたくさん出す必要はない。最初は週に一度、小さな市でもいい」


「市を開くとなると、領主様の許可が必要ですな」


「うん。だから第四段階。今すぐじゃない」


 ミアは少し首を傾げた。


「市ができると、便利になるのですか」


「便利になると思う。働いている人が、必要なものをその場で買えるから」


「それなら、針や布もあると助かる人がいるかもしれません」


「針と布?」


「服が破れたり、寝る時の布が足りなかったりすることもあると思います。

作業場だと、そういう小さいことは我慢してしまう人が多いかもしれません」


 レナードが感心したように頷いた。


「なるほど。生活に必要な小物ですな」


「そうか。道具や食料だけじゃないんだね」


 俺は木板に書き足した。


 針、布、紐、油。


 ミアは恥ずかしそうに目を伏せた。


「小さなことですみません」


「いや、小さくないよ」


 俺は首を振った。


「町って、そういう小さなものが足りないと暮らしにくくなるんだと思う」


 俺とレナードなら、道や帳面や役場を先に考える。


 もちろん、それは必要だ。


 でも、そこで暮らす人は、毎日服を着て、食事をして、眠る。


 服が破れた時に直せない。


 灯りの油が足りない。


 紐が切れて荷物を結べない。


 そういう小さな不便が積み重なると、人はその場所に居づらくなる。


 町を作るとは、そういう不便を一つずつ減らすことでもあるのだろう。


「第五段階は、正式な町として認める」


 俺は最後の段階を書いた。


 第五段階。


 正式な町として認める。


「ここは父上の判断になる」


「町の境界、町長と役人の役割、町の規則、税の扱い、市の扱い。

正式に町とするなら決めることは多いです」


 レナードが言った。


「うん。でも、それは今すぐじゃない。まずは役場を置いて、滞在帳を作って、暮らしの管理を始める。

その次に火、水、道、灯り。その後に生活機能を広げる。正式な町にするのは最後でいい」


 ミアは木板を見つめていた。


 そこには、五つの段階が並んでいる。


 第一段階 西の森役場を置く。


 第二段階 滞在者と寝床を把握する。


 第三段階 火・水・道・灯りを整える。


 第四段階 食事・湯屋・夜間学校・小商いをつなげる。


 第五段階 正式な町として認める。


「こんなに、たくさんあるのですね」


 ミアがぽつりと言った。


「うん。多い」


 俺は苦笑した。


「でも、全部を一度にやるわけじゃない。順番にやる」


「町というのは、建物が増えればできるものだと思っていました」


「俺も、前ならそう思っていたかもしれない」


 俺は木板の文字を見た。


「でも、たぶん違う。町は建物じゃない。人の流れだと思う」


「人の流れ、ですか」


「朝起きて、働きに行く。食事をする。怪我をしたら助けを求める。

湯に入る。夜間学校で学ぶ。寝床に戻る。困った時には役場へ行く。

そういう一日の流れが止まらないようにする。それが町を作るってことだと思う」


 レナードが静かに頷いた。


「ならば、この計画書の中心は、建物ではなく人の動きですな」


「うん。どこに何を建てるかは大事だけど、それ以上に、人が迷わず動けることが大事だと思う」


 俺は木板の一番上に、大きく書いた。


 西の森町化計画。


 その下に、小さく書き足す。


 人が働き、食べ、学び、眠れる場所にする。


 ようやく、父に出す計画書の骨が見えた気がした。


「レナード」


「はい」


「この五段階で計画書を作ろう。父上に見せるものだから、もっときちんとした形にする必要はあるけど」


「承知しました。私の方で、項目ごとに必要な人員と帳面を整理いたします」


「ミア」


「はい」


「今日出してくれた話、すごく助かった」


 ミアは驚いた顔をした。


「私、何か役に立てましたか」


「うん。役場に入りやすい場所が必要なこと。女の人が増えた時の寝床のこと。

針や布みたいな小さなもののこと。俺とレナードだけだと、後回しにしていたと思う」


「そんな……私は、ただ思ったことを言っただけです」


「それが大事なんだと思う」


 ミアは少し照れたように俯いた。


「それなら、よかったです」


 俺は改めて木板を見る。


 第一段階は、役場。


 すべてはそこから始まる。


 西の森を町にするには、まだ遠い。


 だが、道筋は見えた。


 西の森役場。


 それが、町になるまでの最初の一歩だった。



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― 新着の感想 ―
便所は?。 そこら中にする訳いかんと思う。
・・・ガザル(※名前うろ覚え)どこいったんだ。 まだ、いなかったっけ? もう、移動した?
仕事、宿、市場、3つそろったら爆発的に発展していきそうですね。 でも、温泉目当てにすでに人の出入りは多いみたいだし、 宿設置の時点で問題山積みにされそう(笑)
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