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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第197話 混合班

 三年Sクラスに入ってから、一週間ほどが過ぎた。


 授業の進み方にも、少しずつ慣れてきた。


 もちろん、余裕があるわけではない。


 三年の授業は速い。

 気を抜けばすぐに置いていかれる。


 それでも、春休みに詰め込んだことは無駄ではなかった。


 そんな日々の中で、既存の三年生たちとの距離も、少しずつ変わってきていた。


 挨拶を交わす相手は増えた。


 授業中に短く相談することもある。


 だが、完全に馴染んだわけではない。


 ライオネル・グランツの言葉は、まだ俺の中に残っていた。


 俺はまだ、君たちを三年Sクラスの仲間として完全に認めたわけではない。


 嫌な言葉だったわけではない。


 むしろ、正しい言葉だった。


 だからこそ、残っている。


 ◇


 その日の実戦演習で、俺たちは訓練場に集められた。


 訓練場には、前回とは違う配置が用意されていた。


 中央に白い旗。


 そこから少し離れた場所に、赤、青、黄の三つの標識。


 さらに、その間には土で作られた小型のゴーレムや障害物が置かれている。


 ゴーレムは、大きなものではない。


 人より少し小さいくらいの土の人形だ。


 ただの置物ではなく、ゆっくりと首を動かしたり、腕を構えたりしている。


 ベルンハルト先生の土魔法で作られた訓練用のゴーレムらしい。


 自分で複雑な判断をするわけではない。


 だが、進路を塞ぐ。

 標識を守る。

 横から妨害する。


 その程度の動きなら十分にできるようだった。


 元騎士団の教師というだけあって、ベルンハルト先生の土魔法は実戦向きだ。


 ベルンハルト先生は、俺たち全員を見回した。


「今日は、以前伝えた通り班を組み替える」


 その言葉で、空気が少し動いた。


「既存生徒と飛び級組を混ぜる。六人一組、四班だ」


 先生は淡々と班を読み上げていく。


 俺は第一班。


 同じ班には、ライオネル・グランツの名前があった。


 そのほか、ミラ・ハーウェイ、オルド・ベイカー、他の三年生が二人。


 第二班にはセレナとヴィクトル。


 第三班にはガイルとナディア。


 第四班にはエドガーとクラウスさん。


 俺はライオネルの方を見る。


 ライオネルも、こちらを見ていた。


 敵意はない。


 だが、まだ距離はある。


 言葉ではなく、行動で示す。


 その機会が来たのだと思った。


 ◇


 ベルンハルト先生が、訓練場の中央を指した。


「今回の課題は、訓練場内に置いた三つの標識を可能な限り回収し、制限時間内に中央地点へ戻ることだ」


 条件は分かりやすい。


 三つの標識を取る。


 そして、中央に戻る。


 ただし、すべてを取ることだけが正解ではない。


「三つすべてを回収できれば、当然評価は高い。

だが、無理に取りに行って時間切れになれば、大きく評価を落とす」


 ベルンハルト先生は、土のゴーレムたちを見た。


「敵役には、私の土魔法で作った訓練用ゴーレムを使う。

複雑な判断はしないが、進路を塞ぐ程度の動きはする」


 先生が指を軽く動かす。


 それに合わせて、近くの土ゴーレムが一歩前へ出た。


 重い足音が訓練場に響く。


「倒す必要はない。状況に応じてどうするか考えろ」


 先生の声が低くなる。


「三つを順番に全員で回れば、まず時間が足りん。

だが、分かれすぎれば各個に崩される。どこに人数を使い、どこを任せるか。班の判断を見る」


 俺は三つの標識を確認した。


 赤い標識は、中央から近い。


 ただし、その周囲には土ゴーレムが多い。


 青い標識は、障害物の奥にある。


 道が狭く、全員で進むには時間がかかりそうだ。


 黄色い標識は、一番遠い。


 ゴーレムは少なく見える。


 だが、位置が少し嫌だった。


 最後に取りに行くと、中央へ戻る道を塞がれやすい。


 そんな配置に見えた。


「評価は、回収数、帰還時間、消耗、連携、判断だ。

取れないものを追って全体を崩すのも失点だ」


 ベルンハルト先生はそう言って、俺たちを見た。


「始める前に、班ごとに作戦を立てろ」


 ◇


 第一班は、訓練場の端に集まった。


 ライオネルが地図を見ながら、すぐに口を開く。


「まず赤い標識を取る。ゴーレムは多いが、ここを押さえれば中央へ戻る道が安定する」


 堅実な判断だった。


 近い標識を取り、中央周辺の安全を確保する。


 悪くない。


 だが、俺は黄色い標識の位置が気になっていた。


「ライオネルさん」


「何だ」


「遠い標識を最後にすると、戻る道を塞がれるかもしれません」


 ライオネルがこちらを見る。


「根拠は?」


 短い問いだった。


 疑っているというより、判断材料を求めている声だ。


 俺は地図を指した。


「ゴーレムの配置が、最後の帰還路を狭めるように見えます。

特にこの右側です。先に一人か二人を回して確認した方がいいと思います」


 綻びの目とは言えない。


 だが、地形と配置だけでも説明はできる。


 ライオネルは少しだけ地図を見た。


 すぐには頷かない。


 だが、否定もしなかった。


「分かった。赤い標識は俺たちが取る。リオンは黄色い標識を確認してくれ」


「分かりました」


「ミラ、リオンにつけ。オルドは中央寄りで待機。残りは俺と赤だ」


 指示が短い。


 迷いも少ない。


 ミラは細身の女子生徒で、魔法支援が得意らしい。


 オルドは大柄で、守りを任されることが多いようだった。


「行けるか、リオン」


 ライオネルが聞いた。


「はい」


「なら、任せる」


 その一言で、少しだけ背筋が伸びた。


 まだ認められたわけではない。


 だが、役割は預けられた。


 ◇


 開始の合図が響いた。


 ライオネルが赤い標識へ向かう。


 土ゴーレムたちが、進路を塞ぐように動き出した。


 数は多い。


 だが、ライオネルは慌てなかった。


「右を止めろ」


 短く言い、正面のゴーレムを受ける。


 力任せに倒し切るのではない。


 進むために必要な分だけ押し退ける。


「標識だけ取る。崩し切るな。戻る道を残せ」


 その声に、班員たちが迷わず動いた。


 俺はそれを横目で見ながら、ミラと一緒に黄色い標識へ向かう。


 口だけではない。


 ライオネルの動きは安定していた。


 二年間、ここで積み上げてきた人の動きだ。


 ◇


 黄色い標識は、やはり見た目ほど簡単ではなかった。


 近くまで行くと、綻びの目が反応する。


 《標識:黄》

 《妨害発生:遅延型》

 《帰還路:封鎖危険》

 《先制確認推奨》


 やっぱりか。


 標識自体は取りやすい。


 だが、取った後に戻る道を塞ぐ仕掛けになっている。


「ミラさん、このまま標識だけ取ると、戻る時に塞がれます」


「どうするの?」


「先に右側を崩します。あそこにゴーレムが伏せられている可能性があります」


 ミラは一瞬だけこちらを見る。


 だが、すぐに頷いた。


「分かったわ」


 俺が右側へ走る。


 ミラが風で土壁の表面を削り、支えを崩す。


 俺は剣でひびの入った部分を叩き割った。


 土壁が崩れた瞬間、奥に伏せられていた小型の土ゴーレムが、横から進路を塞ぐように動き出した。

 もし標識を取ってすぐ戻ろうとしていたら、横から塞がれていただろう。


「本当にいた……」


 ミラが小さく呟く。


「先に処理します」


 俺はゴーレムの動きを見て、足元へ踏み込む。


 壊し切る必要はない。


 帰還路を塞がせなければいい。


 ミラの魔法がゴーレムの足元へ走り、動きを鈍らせる。


 その隙に、俺は黄色い標識を回収した。


「戻ります」


「ええ」


 ミラの声は、さっきより少しだけ迷いが少なくなっていた。


 ◇


 赤い標識は、すでにライオネルたちが回収していた。


 俺たちは中央寄りで合流する。


 残るは青い標識。


 障害物の奥にあり、道が狭い。


 時間はぎりぎりだった。


「青も取る」


 ライオネルが言った。


「回収数を落としたくない」


 分かる。


 評価に回収数が含まれる以上、三つ目を捨てるのは惜しい。


 だが、俺には中央への帰還時間がかなり厳しく見えていた。


「ライオネルさん、青を全員で取りに行くと戻りが遅れます」


「だが、完全に捨てれば得点が落ちる」


「はい。なので、取るのではなく、妨害を減らす形にしませんか」


 ライオネルの眉が少し動く。


「妨害を減らす?」


「青い標識そのものは捨てます。

ただ、その周囲のゴーレムを二人で止めれば、中央への帰還路が広がります。

全部を取るより、中央帰還を優先した方が評価は安定すると思います」


 ライオネルは一瞬考えた。


 その間、班の空気が止まりかける。


 だが、すぐに決断した。


「分かった。その案で行く」


 短い声だった。


「オルド、ミラ。青側の妨害を抑えろ。取りに行かなくていい。中央への道を開けろ」


「分かった」


「了解」


「リオンは黄色側の戻りを見る。俺は正面を開ける」


「はい」


 判断が合った。


 そこからの動きは速かった。


 ライオネルが正面を押さえる。


 オルドとミラが青い標識側のゴーレムを止める。


 俺は黄色側から回り込むゴーレムを見て、先に声を出した。


「右後ろ、来ます!」


 班員がすぐに反応する。


 さっきより、俺の声への反応が早い。


 中央地点までの道が開く。


 俺たちは二つの標識を持って、制限時間内に中央へ戻った。


 青い標識は取れなかった。


 だが、班は崩れなかった。


 消耗も少ない。


 全部を取りに行って失敗するより、ずっと良い結果だったはずだ。


 ◇


 演習が終わると、ベルンハルト先生がこちらを見た。


「悪くない」


 いつもの短い評価だった。


 だが、今回は少しだけ続いた。


「グランツは安定していた。ハルの判断も効いた」


 ライオネルが軽く頷く。


 俺も姿勢を正した。


「青い標識を捨てた判断も悪くない。全部を取りに行くことだけが正解ではない」


 その言葉に、少しだけ安心する。


 ただ、先生はそこで終わらなかった。


「だが、判断がぶつかった時に一瞬止まった」


 痛いところを見逃さない。


「次は、誰が最終判断を下すかを先に決めておけ」


「はい」


 俺とライオネルは、ほぼ同時に返事をした。


 ◇


 演習後、ライオネルが俺の方を見た。


「黄色い標識を先に見る判断は当たっていた」


「ライオネルさんが赤い標識を押さえてくれたから、黄色に回れました」


 俺がそう言うと、ライオネルは少し黙った。


 褒め返されたと思ったのかもしれない。


 だが、事実だ。


 赤い標識周辺を安定させてくれたから、俺は遠い標識へ回れた。


「先日の演習での動きが偶然ではないことは分かった」


 ライオネルは静かに言った。


「ありがとうございます」


「まだ完全に認めたわけじゃない」


「はい」


「だが、同じ班で動く意味はあった」


 その一言だけで十分だった。


 ライオネルは、それ以上何も言わずに歩いていった。


 まだ距離はある。


 でも、視線が少しだけ変わっていた。


 ◇


 他の班も、順に演習を終えて戻ってきた。


 セレナとヴィクトルの班は、障害物周りでかなり良い動きをしたらしい。


 ガイルとナディアの班は、正面突破と支援の相性が良かったと聞いた。


 エドガーはクラウスと同じ班で、目的管理の考え方をかなり学んだようだった。


 飛び級組が、少しずつ既存三年生たちの中に混ざり始めている。


 まだ完全ではない。


 でも、前には進んでいる。


 認められた、とはまだ言えない。


 だが、昨日とは違う。


 三年Sクラスの仲間になる。


 それは、成績表の上ではなく、こういう一つ一つの判断の中で積み上げていくものなのだと思った。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
認めたくない、という主張のために若干足を引っ張りつつある先輩ズ 同じヒヨコの分際で聞き手に回っとる場合かよ
転移魔法は使わないんだ。 そちらのほうの話を先にするなり、方向性を確認したほうが話もすっきりするのでは?
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