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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第195話 六人それぞれの判断

 三年Sクラス最初の実戦演習が終わった後、訓練場の空気は少し変わっていた。


 教室に入った時の視線とは違う。


 ただの年下を見る目ではない。


 俺たちが動けることは、少なくとも伝わったのだと思う。


「あの飛び級組、初回であれだけやるのか」


「クラウス班とは差があるけど、普通に速かったな」


「冒険者として森に出てるって話、本当だったんだな」


 そんな声が、少し離れた場所から聞こえてくる。


 完全に認められたわけではない。


 だが、ただ珍しいものを見るような目ではなくなっていた。


 それだけでも、最初の一歩としては悪くない。


 ただ、俺の中には、ベルンハルト先生の言葉が残っていた。


 判断の中心が、俺に寄りすぎている。


 六人それぞれが判断できる班になれ。


 重い言葉だった。


 ◇


 昼休み。


 俺たちは食堂の一角に集まっていた。


 いつもの六人。


 ただ、さっきの演習の後だからか、全員が少し考え込んでいる。


 最初に口を開いたのはヴィクトルだった。


「いやー、褒められたのか刺されたのか分からない授業だったな」


「両方だろ」


 俺が言うと、ヴィクトルは肩をすくめた。


「だよな。初回としては十分。でも班としては粗い。なんか喜びづらい評価だよ」


「でも、正しい評価だと思うわ」


 セレナが静かに言った。


「通用はした。でも、クラウス先輩たちには届いていない」


「速かったな」


 ガイルが短く言う。


 いつもより少し声が低い。


 クラウス班の動きは、ガイルにもかなり響いたのだろう。


「速いだけではありませんでした」


 ナディアが続ける。


「誰かが迷う前に、もう別の誰かが動いていました。指示が少ないのに、全体が止まらなかった」


 エドガーが頷く。


「ベルンハルト先生の指摘が、ほとんど答えだと思う」


 俺は水を一口飲んでから、口を開いた。


「俺が見てから動く形に寄りすぎてた」


 全員の視線がこちらに向く。


「森では、それで回ってた。俺が判断する。皆が動く。

それで間に合う場面が多かった」


「実際、それで助かったことも多いわ」


 セレナが言った。


「あなたの判断が速いから、私たちもつい待ってしまうのよ」


 責めている口調ではなかった。


 だからこそ、余計に納得できた。


 俺の判断が遅いわけではない。


 むしろ、それが強みだった。


 でも、その強みに班全体が寄りすぎていた。


「今日みたいに同時に左右から来られると、俺が片方を見た瞬間、もう片方が遅れる」


「なら、判断を分けるべきだ」


 エドガーがすぐに言った。


「リオンが全部を見る必要はない。

むしろ、全部を見ようとすると遅れる」


「だな」


 俺は頷いた。


 言われてみれば、当たり前のことだった。


 だが、実際に演習で詰まるまで、自分では分かったつもりで分かっていなかった。


「俺は前と異常察知に集中した方がいいかもしれない」


「なら、後方と時間は僕が見る」


 エドガーが言う。


「目的までの残り時間、負傷者役の位置、後ろから来る妨害。

そのあたりは僕が管理する」


「助かる」


「その方が、リオンも前を見やすいだろう」


 エドガーは淡々としている。


 だが、こういう時の判断は本当に速い。


 セレナは少し考えてから言った。


「私は敵を倒すより、味方が動ける場所を作る方に意識を置くわ」


「進路制御か」


「ええ。今までもやっていたけれど、もっとはっきり役割として意識する。前に出る人、守る人、運ぶ人が動きやすい場所を作る」


 セレナは騎士団長との実技試験の後から、魔法の使い方を少し変え始めていた。


 相手を止めるだけではない。


 自分たちの位置を変えるために使う。


 今回の演習では、その考え方がかなり合っている。


 ガイルは腕を組んだまま短く言った。


「俺は道を作る」


 それだけだった。


 ガイルが前に出てくれるから、俺たちは進める。


 ただし、これからは突っ込むだけではない。


 ナディアは丁寧に言った。


「私は保護対象と後方を見ます。崩れそうなところがあれば、先に動きます」


「ナディアがそこを見てくれるとかなり助かる」


 俺が言うと、ナディアは少しだけ表情を緩めた。


「まだ森でも演習でも慣れていないことは多いですが、周囲を見ることならできると思います」


「十分だと思うわ」


 セレナが言った。


 最後に、ヴィクトルが自分を指差す。


「じゃあ俺は?」


「地形と道具」


 俺が言うと、ヴィクトルは少し嫌そうな顔をした。


「やっぱりそうなるよな」


「今日、倒木の横を使う判断はかなり良かった」


「あれはたまたま見えただけだよ」


「たまたま見えるのが強いんだろ」


 ヴィクトルは少しだけ黙った後、苦笑した。


「じゃあ、俺は面倒な隙間仕事担当ってことか」


「かなり重要だぞ」


「分かってるよ」


 その言い方に、少しだけ空気が軽くなった。


 ただの反省会ではない。


 少しずつ、次に何を変えるべきかが見えてきていた。


 ◇


 その時、近くに影が落ちた。


 顔を上げると、クラウス先輩が立っていた。



「邪魔なら後にする」


 クラウス先輩は淡々と言った。


 俺はすぐに首を振る。


「いえ、大丈夫です」


「反省会か」


「はい。さっきの演習について話していました」


 ヴィクトルが軽く手を上げる。


「痛いところを刺されたので」


 クラウス先輩の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「ベルンハルト先生は、痛いところしか刺さない」


 その言い方に、三年Sクラスの二年間が少し見えた気がした。


 クラウス先輩は空いている席の横に立ったまま、俺たちを見た。


「ハルに判断が寄るのは、悪いことではない」


 意外な言葉だった。


「そうなんですか?」


「ああ。判断の中心がある班は崩れにくい。

誰を見るべきかがはっきりしているからな」


 クラウス先輩はそこで、少しだけ間を置いた。


「問題は、中心が一つしかないことだ」


 その言葉は、さっき俺たちが話していたことと重なった。


「前を見る者。後ろを見る者。目的を見る者。最低でも三つの目が必要になる」


「三つの目……」


 俺は思わず呟いた。


 前を見る目。


 後ろを見る目。


 目的を見る目。


 それは、綻びの目とは別の話だった。


 班としての目だ。


「クラウス先輩たちも、最初からあんなふうに動けたんですか?」


 俺が聞くと、クラウス先輩はすぐに首を振った。


「まさか。二年かかった」


 短い答えだった。


 だが、それだけで十分だった。


 クラウス班の動きは、最初から完成していたわけではない。


 二年間、何度も崩れて、直して、積み上げてきたものなのだ。


「俺も最初は、自分で全部見ようとして遅れた」


 クラウス先輩は続けた。


「前に強い者ほど、そうなりやすい。自分が見れば何とかなると思ってしまう」


 その言葉は、妙に刺さった。


 俺は綻びの目がある。


 だから、見える。

 見えるから、判断できる。

 判断できるから、周囲を動かそうとする。


 でも、それだけでは届かない相手がいる。


「ただ、君たちは伸びるのが早そうだ」


 セレナが少しだけ目を細めた。


「そう見えますか?」


「初回であれだけ動ける班は多くない。

特に、魔物相手の経験があるのは大きい」


 クラウス先輩は俺たちを順に見る。


「だが、経験があるからこそ、今の形に寄っている。

そこを変えられるかどうかだ」


 静かな声だった。


 厳しいが、嫌味ではない。


 壁の向こう側から、こちらを見ている人間の言葉だった。


 ガイルが言う。


「次は遅れない」


 クラウス先輩はガイルを見る。


「君の前への圧はかなり強い。だからこそ、周りがどこを通るかを意識すると、もっと厄介になる」


 ガイルは少しだけ黙り、頷いた。


「分かった」


 ナディアも静かに言った。


「私も、後ろを見るだけでなく、先に動けるようにします」


「それができる支援役は強い」


 クラウス先輩はそう言った。


 ナディアは少しだけ驚いたように見えたが、すぐに丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます」


 ヴィクトルが苦笑する。


「俺の面倒な隙間仕事は?」


「一番面倒だな」


 クラウス先輩は即答した。


 ヴィクトルが顔をしかめる。


「ですよね」


「だが、そういう役がいない班は詰まる」


 その言葉に、ヴィクトルは少しだけ目を上げた。


「……なら、やるしかないか」


 エドガーが静かに言った。


「クラウス先輩の班では、目的を見る役は誰が担っているのですか」


「俺と、もう一人だ。前を見る者だけでは目的を見失う。目的を見る者だけでは前が崩れる。だから二つに分けている」


「参考になります」


 エドガーは短く頭を下げた。


 クラウス先輩は頷き、最後に俺へ視線を戻した。


「次の演習では、俺たちの班と同じ条件で比べられるといいな」


 挑発ではない。


 ただ、基準を示している。


 俺はまっすぐ答えた。


「その時は、今日より良い動きをします」


「期待している」


 クラウス先輩はそれだけ言って、席へ戻っていった。


 ◇


 少しの間、誰も話さなかった。


 最初に息を吐いたのはヴィクトルだった。


「いい先輩なんだろうけど、言ってることが重いな」


「でも、かなり参考になったわ」


 セレナが言う。


「前を見る目、後ろを見る目、目的を見る目」


 エドガーが静かに繰り返す。


「使える考え方だ」


 俺も頷いた。


 今まで、俺は見えるものを追ってきた。


 綻びが見える。


 だから、俺が判断する。


 それは間違いではなかった。


 でも、五年へ飛ぶつもりなら、それだけでは足りない。


 俺だけが見る班ではなく、六人それぞれが判断する班へ。


「次の演習までに、少し動き方を変えよう」


 俺が言うと、全員が頷いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
今回も面白かった。 >「二年間、同じ班でやっているからな」(202話) >「まさか。二年かかった」(本話) 一年の時から6人班行動の指導みっちり受けてたっぽいけど、リオン達6人班での実習って(描写内で…
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