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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第194話 三年最初の実戦演習

 ベルンハルト先生は、教室で長く話さなかった。


 出席の確認を終えると、すぐに教卓から顔を上げる。


「最初の授業は訓練場で行う」


 その一言で、三年生たちは慣れた様子で立ち上がった。


 ざわつきは少ない。


 誰かが慌てることもない。


 筆記用具をしまい、必要なものだけを持ち、順に教室を出ていく。


 俺たちもそれに続いた。


 一年Sクラスの時とは、こういうところから違う。


 指示を受けてから動くのではなく、次に何をするべきかを分かっている。


 そういう空気があった。


 ◇


 訓練場に着くと、そこにはいくつかの障害物が置かれていた。


 倒木を模した丸太。


 ぬかるみの代わりに敷かれた湿った土。


 視界を遮る布の仕切り。


 そして、負傷者役らしき人形。


 ただの実技訓練ではなさそうだった。


 ベルンハルト先生は、俺たち全員を前に集める。


「今年の三年Sクラスは二十四人だ。六人一組で四班に分ける」


 元からいる三年生が十八人。


 そこに、俺たち六人が加わった。


 人数としては、ちょうどいい。


「既存の三班は、これまで通りの班で動け。飛び級組は六人で一班とする」


 先生の視線が俺たちへ向く。


「個人だけではなく、班としての動きも見る」


 その言葉に、俺は少しだけ背筋を伸ばした。


 俺たちは森で何度か魔物討伐をしている。


 リオン、セレナ、ガイル、ナディアの四人で動いた経験もある。


 ベルンハルト先生は、訓練場を指した。


「今回の課題は、負傷者役の人形を守りながら、指定地点まで移動することだ」


 条件は単純に見えた。


 だが、先生の表情を見る限り、簡単な課題ではない。


「制限時間あり。負傷者役を破損させた場合は大幅減点。

敵役をすべて倒す必要はない。

評価するのは、突破時間、負傷者保護、消耗、判断、連携だ」


 先生は一拍置いて、低く言う。


「敵を倒すだけなら、二年まででいい」


 訓練場の空気が締まる。


「三年では、目的を果たせ」


 その言葉で、この演習の意味が分かった。


 これは勝ち負けだけの実技ではない。


 守るものがある。


 時間がある。


 何を捨て、何を優先するか。


 そこまで見られる訓練だ。


 ◇


 最初に演習を行ったのは、既存三年生の班だった。


 動きはかなり安定していた。


 前衛が無理に敵役へ突っ込まない。


 魔法役は敵を倒すより、通る道を作る。


 負傷者役の人形には常に一人が付き、周囲の危険を見ている。


 指示も短い。


「右を空けろ」


「人形を後ろへ」


「倒さなくていい。流せ」


 派手さはない。


 だが、迷いが少なかった。


 俺は思わず見入った。


 強烈な一撃で押し切るというより、班全体が課題の形に慣れている。


 これが二年間の積み重ねか。


 演習は制限時間内に終わった。


 負傷者役の人形も無事。


 ベルンハルト先生は短く言う。


「悪くない」


 それだけだった。


 だが、三年生たちは特に不満そうではない。


 先生の短い評価にも慣れているのだろう。


 ◇


 次に、ベルンハルト先生が俺たちを見た。


「飛び級組。君たちの番だ」


 三年生たちの視線が集まる。


 ヴィクトルが小声で言った。


「初日から見世物だね」


「今さらだろ」


 俺も小さく返す。


 俺たちは負傷者役の人形の前に集まった。


 すぐに役割を確認する。


「ガイルは前。セレナは進路の制御。ナディアは人形を見てくれ。ヴィクトルは地形と道具。エドガーは後方と時間を頼む」


「分かった」


「ええ」


「はい」


「了解」


 エドガーが静かに頷く。


「リオンは前を見るんだな」


「ああ。状況が変わったら、すぐ言ってくれ」


「分かった」


 開始の合図が響いた。


 ガイルが前に出る。


 敵役の人形が動き出す。


 森の魔物とは違う。


 だが、突っ込んでくる角度や圧のかけ方は、実戦にかなり近い。


 ガイルは怯まない。


 真正面から受けるのではなく、少し斜めに圧を逃がしながら押し返す。


 道を開けるための動きだ。


「右、狭くなるわ」


 セレナが風を走らせる。


 敵役を倒すためではない。


 進路を塞ぐ位置に流し、こちらが通る道を作る。


 ナディアは負傷者役の人形の横に付き、無理に前へ出ない。


 ただ、抜けてきそうな敵役の動きを見て、すぐに立ち位置を変えていた。


 森での経験が、少しずつ形になっている。


 ヴィクトルが倒木を見て言った。


「このまま回り込むより、丸太の横を使った方が早い。人形を少し持ち上げられる?」


「できる」


 ガイルが敵役を押さえたまま答える。


 エドガーが即座に続けた。


「時間はまだある。ただ、この先で妨害が増えるはずだ。

ここで無駄に消耗しない方がいい」


「なら、抜ける」


 俺は綻びの目で周囲を見る。


 《障害:倒木》

 《通過余地:左側下部》

 《敵役:反応遅延》

 《進路:確保可能》


「左下を通す。セレナ、視界を切ってくれ」


「任せて」


 セレナの風が砂を薄く舞わせた。


 一瞬だけ敵役の動きが鈍る。


 その間に、ナディアとヴィクトルが負傷者役の人形を支え、俺たちは倒木の横を抜けた。


 三年生たちの方から、小さなどよめきが聞こえる。


「速いな」


「初回であれだけ動くのか」


「森に出ているって話、本当らしいな」


 中盤に入ったところで、妨害が増えた。


 左から敵役。


 同時に、右の布の陰から別の敵役が出る。


 俺は一瞬、左を見た。


 ガイルが前に出る。


 セレナが合わせる。


 その瞬間、右側への反応が遅れた。


「右!」


 エドガーの声が飛ぶ。


 ナディアがすぐに人形の位置を下げる。


 ヴィクトルが布の留め具を引き、敵役の進路へ布を落とした。


 何とか止まった。


 負傷者役は無事だ。


 だが、流れが一拍詰まった。


 俺は歯を食いしばる。


 今のは遅い。


 俺が見て、判断して、それから周囲が動く。


 森ではそれで間に合った。


 だが、この演習では同時に複数の問題が起きる。


 全部を俺が見てから動かすのでは、わずかに遅れる。


「立て直す」


 エドガーが短く言った。


「ああ」


 俺たちはすぐに隊形を戻した。


 その後は大きく崩れなかった。


 制限時間内に指定地点へ到達。


 負傷者役の人形も無事。


 初回としては、悪くない結果だった。


 ◇


 演習を終えると、ベルンハルト先生が言った。


「初回としては十分だ」


 それを聞いて、三年生たちの視線が少し変わった。


 見世物を見る目ではない。


 評価する目に変わった。


 先生は続ける。


「魔物相手の経験はあるな。足場の悪さにも、想定外の動きにも反応できている」


 俺は少しだけ息を吐いた。


 森で積んだ経験は、無駄ではなかった。


 だが、ベルンハルト先生はそこで止まらなかった。


「ただし、班としてはまだ粗い」


 空気が締まる。


「判断の中心がハルに寄りすぎている」


 胸の奥を突かれた気がした。


「ハルが見て、ハルが判断し、周囲が動く。悪くはない。

だが、同時に複数の問題が起きた時、一拍遅れる」


 さっきの場面が頭に浮かぶ。


 その通りだった。


「最高学年への飛び級を狙うなら、個人能力だけでは足りんぞ」


 先生の視線が、俺たち六人を順に見た。


「六人それぞれが判断できる班になれ」


 重い言葉だった。


 だが、納得できた。


 ◇


 最後に、クラウス班が演習に入った。


 空気が変わった。


 クラウスは大きな声で指示を飛ばさない。


 短く確認するだけだ。


「前衛は右を止める。支援は人形。魔法は進路だけ作れ」


 それだけで班が動く。


 敵役が出る前から、すでに位置が決まっている。


 前衛が止める。


 魔法役が必要最低限の魔法で道を開く。


 支援役は一度も負傷者役から目を離さない。


 別の一人が、次に来る妨害へ先に動いている。


 敵を全部倒そうとしない。


 通るために必要な分だけ処理する。


 派手ではない。


 だが、迷いがない。


 俺たちより速い。


 しかも、消耗が少ない。


 ガイルも黙って見ていた。


 セレナの表情も真剣になる。


 エドガーは、クラウス班の動く順番を目で追っていた。


 演習は、俺たちより短い時間で終わった。


 負傷者役の人形も無傷。


 最後まで、危ない場面がほとんどない。


 ベルンハルト先生が言う。


「よし」


 それだけだった。


 だが、その一言で十分だった。


 クラウス班は、明らかに一段上だった。


 ◇


 授業後、クラウスがこちらへ歩いてきた。


「初回であれだけ動けるなら、十分だと思う」


 嫌味ではなかった。


 俺は素直に頭を下げる。


「ありがとうございます。でも、クラウス先輩たちとは差がありました」


 クラウスは少しだけ頷いた。


「二年間、同じ班でやっているからな」


 それから、俺たち六人を見た。


「ただ、五年へ飛ぶつもりなら、今のままでは足りない」


 俺は顔を上げる。


「分かるんですか」


「三年へ六人で飛び級してきた時点で、次を見ているのは分かる」


 クラウスは淡々と言った。


「三年Sクラスで上位に立てないなら、最高学年では通用しない」


 重い言葉だった。


 でも、不快ではなかった。


 むしろ、はっきりした。


 目の前に、越えるべき基準がある。


 ◇


 三年Sクラス最初の実戦演習。


 俺たちは、通用した。


 だが、上には上がいた。


 冒険者として森で積んだ経験は、無駄ではなかった。


 それでも、五年へ飛ぶにはまだ足りない。


 俺は訓練場の土を見下ろし、静かに息を吐いた。


 ここからだ。


 三年Sクラスで、俺たちはもう一度強くならなければならない。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
授業内容と実際の、作品に出てきている現在の領主たちの能力の差があまりにあり過ぎて、そこが気になりますね。ここまでのことをやっておいて、この国の有り様はなんだか違和感に感じます。この先、この違和感も明か…
>敵役の人形が動き出す。 そんな高度な動きのできるゴーレムみたいなのがいるの? それだけ動けるなら警備を全部任せられそう
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