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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第2章 ハル領の発展

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第14話 北村だけじゃない

 北村へ戻る道で、テオの母親は何度も頭を下げた。


「本当に……本当に、ありがとうございました……」


 声は震えていた。

 隣を歩くテオは、まだうまく言葉が出ないようだったが、時々こちらを見ては、ぎこちなく頭を下げてくる。


「礼はいいよ」


 俺はそう言った。


「まだ一人、取り戻しただけだ」


 それを聞いて、村長が少しだけ苦い顔をした。


「……ええ。そうですな」


 北村の入口まで戻ると、村人たちが何人も待っていた。

 テオの姿を見た瞬間、空気が変わる。


「戻ってきた……!」

「本当に連れて行かれなかったのか」

「坊ちゃんが止めたのか?」


 ざわめきが広がる。

 昨日までの疑い混じりの空気とは違った。


 テオの母親は、息子の肩を抱いたまま泣いていた。

 その姿を見た村人たちは、ようやく実感したのだろう。


 領主家の坊ちゃんは、ただ話を聞きに来たわけじゃない。

 本当に、連れて行かれそうになった人間を止めて戻したのだと。


 村長が俺の前に立つ。


「坊ちゃん」


「うん」


「今日のことは、北村の皆が忘れません」


 短い言葉だった。

 でも十分だった。


 信用まではまだ遠い。

 だが、ようやく“話を聞く価値のある相手”にはなれたらしい。


 俺は村長に、懐へ入れた紙を軽く叩いて見せた。


「これは持って帰る。北村だけの話じゃなさそうだから」


 村長の顔が引き締まる。


「……やはり」


「うん。たぶん、もっといる」


 テオの母親が不安そうに聞いた。


「うちの人は……戻れますか」


 その問いは重かった。


 でも、目を逸らすわけにはいかない。


「すぐに、とは言えない」


 正直に答える。


「でも、今日みたいに止められるなら止める。名簿があるなら追える。だから、諦めないで」


 母親は唇を噛みしめ、それから深く頷いた。


 ◇


 屋敷へ戻ると、父と母はすぐに執務室へ来るよう言った。


 長机の上に、俺たちは町で拾った名簿と、北村の証文を広げる。

 ミアはもう慣れた手つきで、印の位置と名前を書き分けていく。


「これが、町の金貸しの店の前で拾った名簿です」


 ミアが言う。


 父ガルドがそれを手に取り、目を細めた。


「……北村だけではないな」


「うん」


 俺は名簿を指でなぞった。


「北村、南村、東の開拓地。少なくとも三つはある」


 母エマが息を呑む。


「こんなに……」


 名簿には若い男たちの名前が並んでいた。

 年齢も近い。十六、十七、二十。

 働き盛りばかりだ。


 そして端には、あの印。


 《複数村との連結》

 《人員移送名簿》

 《中継点》

 《送り先:東の石切り場》


 俺はその最後の一行を指した。


「送り先がある。東の石切り場」


 ノルが静かに口を開いた。


「石切り場なら、一度入れば簡単には戻れませんな」


 父の顔が険しくなる。


「……出稼ぎではないな」


「うん。もうほとんど人集めだ」


 借金を理由に縛って、村から若者を抜いて、まとめて送る。

 北村だけじゃない。

 これが複数の村で行われているなら、かなり根が深い。


 母が俺を見る。


「町の金貸しの店が全部やっているのかしら」


「たぶん違う」


 俺は首を振った。


「店は途中の一つだと思う。証文を握って、送り出す役。でも、その先で受け取る側がいる」


 父はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……リオン」


「うん」


「お前に任せる」


 執務室が静かになる。


 母も、ミアも、ノルも、父を見た。


「北村を含め、名簿にある村の借財と人の流れを調べろ。必要なら町の金貸しの店にも正式に立ち入る」


 そこで父は一度咳き込み、息を整えた。


「ノル。お前は引き続きリオンにつけ。ミア、お前もだ」


「はい」

「……承知いたしました」


 ノルとミアが同時に頭を下げる。


 父はさらに俺へ向き直った。


「ただし無茶はするな。相手はもう、ただの村の不正ではない」


「わかってる」


 わかっている。


 だからこそ、もう手を止められない。


 今日テオを取り戻した。

 でも名簿を見る限り、まだ何人も連れて行かれている。


 ここで止まったら、また誰かが荷馬車に乗せられるだけだ。


 母が名簿を見つめたまま呟く。


「北村だけじゃなかったのね……」


「うん」


 俺は紙を折りたたみながら答えた。


「だから次は、北村の外に行く」


 父が低く問う。


「どこへだ」


 俺は名簿の最後の行をもう一度見た。


 《送り先:東の石切り場》


「まずは、ここ」


 机の上に指を置く。


「東の石切り場だ」


 窓の外では、夕方の風が木々を鳴らしていた。

 北村の一人を取り戻した先に、もっと大きな敵の影が見え始めている。


 でも、もう迷わない。


 綻びが見えたなら、次はそこへ行くだけだ。

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