相撲(善)
力士の皆さんごめんなさい
大相撲本場所最終日。
その日で最も番付の高い力士同士による「結びの一番」。
土俵に上がったのは、東の横綱・白鷹山と西の横綱・黒鉄山。
両者、互いに構え、行司の合図を待つ。
「ハッケヨーイ!……」
「白鷹山。なぜ『はっけよい』と言うか、知ってるか?」
「……っ?」
「『発気揚々』。気合を漲らせ、堂々と勝負せよ、という意味が込められている」
「ほ、ほう……そうでしたか」
行司の声が響く中、二人は静かに土俵の中央で向き合う。
「のこったのこった!!」
白鷹山の手が黒鉄山のまわしに掛かる。
しかし次の瞬間——
「行司の腰に差しておる刀……知ってるか?」
「……!?」
「万一、誤った行司があろうものなら、腹を切る覚悟の象徴だ。
それほどまでに、相撲は『正しさ』を重んじる道である」
「なん……だと?そんな覚悟が!?」
黒鉄山の目がわずかに揺れた。
「なるほど……では私からも。
土俵の俵は、昔は実際に米俵を敷いていた名残。
つまり、この土俵は『豊穣と感謝』の象徴でもあり……」
二人はまわしを強く掴んだまま、ほとんど動かない。
土俵上は完全な硬直状態。
観客席からざわめきが起き始める。
「塩は清めの塩……しかし、実はただの食塩だ。1日で数十キロも消費される、オマケに!清められていない……!」
「くっ……食べてもいいのか?!どっちなんだ!教えてくれ!」
黒鉄山が押し返そうとするが、白鷹山は微動だにしない。
「更に力士の真理、力士のほとんどは……猫好きだっ!!」
「何故それを……っ!!」
黒鉄山の膝が、わずかに落ちた。
行司が慌てて声を張り上げる。
「のこった!のこった!!」
しかし二人はまだ、互いの知識と礼儀を競う心理戦を続けている。
「あなたのその博識、実に素晴らしい……」
「いやいや、あなたの礼儀正しさこそ……」
土俵の上で二人は軽く頭を下げ合う。
結局、試合時間は5分を超え、10分を超え……
観客の半分は呆れ、半分は笑い始めていた。
行司がとうとう「待った」をかけ、両者を土俵下に下ろした。
結果は……引き分け。
結びの一番が、史上初めて「知識自慢の引き分け」で終わった。
その夜、二人は高級猫カフェで向かい合い、
互いの「善き相撲道」を称え合った。
「あなたのその心意気、実に美しい」
「あなたこそ、礼を尽くすお方だ」
二人は笑顔で猫を撫でながら、
「これこそが、真の相撲であろう」
と満足げに頷き合った。
一方、協会の会議室では大騒ぎになっていた。
「結びの一番があんな茶番でいいのか!」
「観客が帰り始めたぞ!」
「これでは相撲の伝統が……」
数日後、両横綱を育てた親方(監督に相当)は、協会から事実上の引責辞任を求められた。
「礼儀と知識を重んじすぎた……私の指導が至らなかった」
親方は深く頭を下げ、静かに部屋を後にした。
相撲道の「善」が、最も大切な「勝負」を、静かに殺した瞬間だった。
力士の皆さんごめんなさい




