サッカー(悪)
あれから4年。
再びワールドカップ決勝の舞台に上がったのは、運命か因縁か——A国とB国だった。
ホイッスルが鳴った瞬間、スタジアムは歓声ではなく、野次と緊張に満ちた空気に包まれた。
A国は攻めていく。
しかしB国のディフェンスは固い。固いどころではない、まるで有刺鉄線だった。
この4年間で選手たちは変わった。マークした相手には絶対にボールを渡さない執念が、目つきやタックルに滲み出ている。
審判が目を離せばユニフォームを思い切り引っ張り、ファールギリギリの危険なタックルで応戦する。
B国はラグビーのようにボールを強引に奪う。
次の瞬間、一瞬だがA国のベンチからレーザーポインターでB国の選手の視界を乱す。
B国は抗議する。
「おい!審判!今妨害があったぞ!」
審判は気付いていなかった。
(許せないっ……!)
前半残り僅か。
B国の守りが抗議で乱れた隙にA国が突破。
キーパーと1対1になった瞬間、B国のディフェンスが後ろから芝生を抉るようなスライディングを入れる。
A国のフォワードは脚を押さえて倒れ、タンカーで運ばれる。
審判はB国選手にレッドカード。PKを宣告した。
A国はペナルティマークにボールを置いた……ように見せかけ、ポケットから白い粉を取り出し、本来の位置より明らかに近い場所に新しいマークを作った。
元のマークはスライディングを受け、倒れている時に薄くさせていた。
誰の目にも明らかなズルだったが、審判は笛を吹いた。
スキップしながらのノールックシュート。
ゴールが決まった瞬間、A国のフォワードはキーパーに向かって中指を立て、余裕の笑みを浮かべた。
A国 1 - 0 B国
前半終了。
後半。
B国の演技に磨きがかかる。
肩が触れただけで大袈裟に転倒し、ファールを誘う。
笛がなる。
フリーキックだ。
B国のキッカーは壁の選手の顔面目がけて強烈なボールを叩き込んだ。
倒れたA国選手に、キッカーは「つまずいた」とばかりに蹴りを入れる。
即座にレッドカード。
蹴られたA国のエースもタンカーで退場となった。
レッドカードで退場になった選手はよくやったと褒め称えられた。
「あのエースが消えたのはでかい。
大きく戦力を削った。」
退場者が出た直後、試合はさらに醜悪さを増した。
A国は1点リードを守るため、ディフェンス同士で延々とパス回しを始める。
時間稼ぎだ。
B国は苛立ちを隠せない。
すると監督が合図をする。
レーザーポインターだ。
B国もやり返したのだった。
更に顔に唾を吐き、怯んだ隙に相手をなぎ倒してボールを奪う。
ゴールが決まり、1-1。
そこからは地獄だった。
飛び交う差別用語、内政干渉、人格否定…
売り言葉に買い言葉、乱闘が起こる。
あっという間に退場者が続出。
最終的にA国7人、B国7人。
お互いあと一人退場すれば試合終了になるという異常事態の中、両チームは時間稼ぎに徹した。
キーパーはボールをなかなか蹴らず、ディフェンス同士で無意味なパスを回し続ける。
審判はイエローカードを出し続けながら、明らかに葛藤していた。
「これ以上続けるべきか……もう試合は崩壊しているのではないか」
たまに攻める姿勢を出すが、タッチライン際をドリブルし、奪いに来た相手にぶつけてスローインを得る。
地道にコーナーまで持っていきクロスをあげる。
醜い争いだ、しかし反則ではない。
結局、1-1のままホイッスルが鳴った。
握手などない。
選手たちは睨み合い、中指を立て、罵声を浴びせ合いながらピッチを後にした。
試合後、批判は瞬く間に殺到した。
SNSは「史上最悪の試合」「サッカーの恥」「暴力と不正のショー」との投稿で埋め尽くされた。
国際メディアも「ワールドカップ決勝がここまで醜悪になるなんて」と一斉に非難。
数日後、A国監督は記者会見で淡々と述べた。
「4年前は甘かった。悔いはない。これが全力だ。スポーツマンシップなどという綺麗事では、食っていけない。」
B国監督も同日、協会から事実上の辞任勧告を受け、会見でこう言った。
「国からの資金……それこそが、選手生命をかけてでも勝ち取らなければいけない理由だ。
負ければ、人権などない。」




