俺と同じ顔の奴を探ってみたぞ
20
防音ガラスに遮られ、静寂に包まれた車内で、俺とリナは揺られていた。
まるで檻の中にいる気分だ。
窓の外を見やると、空を覆う3Dホログラムの巨大広告が浮かんでいる。
今回は武家屋敷か。
しかし、志波家はいくつ屋敷を所有してるんだろうな。
車から降りると、俺は厳めしい門構えの屋敷に通された。
鴬張りの廊下、左側には豊かな緑で彩られた庭園が見える。
おれはリナを屋敷の使用人たちに預けると、爺さんの待つ客間へ案内された。
壁には掛け軸、床の間に生け花、新しい畳の匂い、そんなところだ。
床の間に置かれた座布団に胡坐をかくと、俺は頬杖を突きながら海山の爺さんを正面から見据えた。
「よく来たのう」
「よく来たも何も爺さん、あんたが呼んだんだろう」
「相変わらず口が減らんな」
「口が減ったらおまんまが食えねえぜ、爺さん」
ニンマリと相好を崩す海山、なんかロクでもない事考えてそうだな、この爺さんは。
「カズヤ、お前、わしの養子に入って身内になれ」
爺さんがそう告げた途端、レッドアダーが笑いだした。
「何だよ、爺さん、カズヤをあんたのとこの種馬にでもするつもりかよっ」
「うむ、一族を守るには強い血が必要じゃからのう」
悪びれもせずに答える爺さん。
「糠三合あれば養子に行くなって言葉もあるぜ、爺さん」
爺さんが茶を啜りながら落ち着き計らったように答えた。
「それなら安心せい。高い銭払って買った名刀のように大事にするわい」
「馬といい、刀といい、俺を人間扱いする気はねえな、爺さん。どうせ他家の連中に俺を見せびらかす気だろう。
もう少しじらせば、俺の値がもっと吊り上がりそうだな」
「相変わらず食えない野良犬じゃな、お前は」
「そりゃこっちのセリフだ、この古狸が」
「わしにそんな口を利くのはお前くらいじゃろうの」
「先生と呼ばれるほどのバカじゃなし。逆に聞くがあんた、自分で自分を偉いと思ってんのか、爺さんよ」
俺は畳の上に寝転がると、頬杖をついたまま横になった。
畳から立ち昇る干し草の香りが俺の鼻腔を撫でる。
「ふてぶてしい奴じゃのう」
「ついでに図太いぞ、俺は」
「ああ言えばこう言う」
「お互い、口から先に生まれて来たんだろうな、爺さん」
と、俺は爺さんに言いつつ、使用人の運んできた茶に口をつける。
それにしても美味いな、これ。
「カズヤ、お前にとっても養子の話はメリットが多いはずじゃぞ」
「ほう、どんな?」
「お前の身分は志波家のお墨付きが与えられる。これがどういう意味か分かるか」
「俺は無戸籍でも別に困らんぞ、爺さん」
「それに金だって好きなだけ与えてやるわい」
「それなら今の食客で充分だろ」
「素材、材料、資源、パーツはどうじゃ。全面的なバックアップは?」
俺は興味なさげに耳の穴に小指を突っ込んだ。
この爺さん、放っておけきゃ勝手に俺の値段を吊りあげていきそうだな。
面白そうだし、もう少し見物すっかな。
耳の穴から小指を引っこ抜くと、おれはその爪の先をフッと吹いた。
「もっとこう、俺の心に響くような口説く文句はないのか、爺さん。野暮だねえ、お前さんも」
「なんじゃ、死んだ女房のような事言いおって」
海山の爺さんが毒気を抜かれたような呆れるような表情を浮かべて俺に言い返してくる。
普段は部下相手に偉そうにしてても、一皮剝けばこんなもんだ。
「その死んじまったあんたの女房のほうが、よっぽど口説き上手だったんじゃないのか?」
「うむむ、そういわれると何とも返答に困るわい」
爺さんが白くなった顎髭を撫でつけながら思案げにつぶやく。
俺は片方の口角をあげ、床の間に飾られた一輪挿しの花を眺めた。
なんだい、この爺さん、中々可愛いところもあるじゃねえか。
「あいつもお前みたいに飄々としながら芯は強い女じゃったな・・・・・・あれからもう二十年か・・・・・」
爺さんがどこか寂しげな遠い目をした。
「爺さん、あんたの女房、良い女だったか?」
俺が爺さんの鼻先に小指を突き出して見せる。
「おう、良い女じゃったぞ。まるで弁天様のようじゃった」
爺さんがまんざらでもないという表情を浮かべて見せた。
「じゃあ、ペッピンさんだな」
「おう、ベッピンじゃった」
「あんたら二人とも話が脱線してるぞ。こりゃ、茶飲み話か?」
レッドアダーが俺と爺さんに突っ込む。
「まあ、いいじゃねえか、レッド、爺さんの馴れ初め話を聞くってのも中々乙なもんだ」
「そうじゃ、一々話の腰を折るな、この口うるさい指輪め」
「ふん、それじゃあ、好きにしろよ、おふたりさんよ。でもよ、何が悲しくてそこのジジイの惚気話聞かなきゃならんのよ」
気色ばんだレッドアダーがそっぽを向いてしまう。
ああ、こいつ、ヘソ曲げちまったぜ。
しょうがねえ奴だな。
俺はレッドアダーを宥めながら爺さんと話を続けた。
21
あれから爺さんと色々話し込み、とりあえずお試し期間ということで俺は志波家の籍に身を置いた。
リナの世話をして貰えるからその間に俺たちは行動した。
リナの家族や、俺と同じ顔の奴のこととかな。
で、後者の件だが結構あっさり見つかった。
記憶の中にある家族連中の顔や服装とかの特徴から調べたら、簡単に割り出せたんだよな。
それで色々と面白いことも分かった。
まず、この一家──高崎家だが、ある宗教系団体との繋がりがあった。
で、その宗教団体は三木家とも関わっていた。
宗教団体名は白道教、こいつはかつての東学の流れを汲むと自称してる一派だ。
ちなみに19世紀の東アジアで発生した東学は、儒教や仏教に道教の東洋思想を掲げた当時の宗教結社の一つでもあるな。
でもまあ、秘密結社とかカルトとかはこの世界じゃ、別に珍しいものでもないけどな。
三木スグルが所持していた数珠タイプのアーティファクトや死霊術もこの白道教由来のものだろう。
旧文明時代と違って、今の宗教結社は信者に明確な実利をもたらす。
かつての霊力、気、ルン、プラーナと呼ばれていたスピリチュアルやオカルト関連のエネルギーは、
今では一つの生命エネルギーとして理解されてるしな。
そして俺はというと、高崎家や白道教について、わざと派手に嗅ぎまわってやった。
探られたくない腹を探られるんだから、連中だって嫌でも動き出すだろうな。
そして連中にわざと拉致された俺は、拘束されて地下室に転がされている。
「隅にある監視カメラ、ハッキングしたぜ」
レッドアダーが俺に告げる。
薄暗い地下室の冷たいコンクリートから上体を起こすと、俺は魔術刻印の施された手錠の鎖を引き千切った。
そのまま天井に張り付く。
まるで蜘蛛だな。
それから20分ほど経過して、コンクリートの壁が横にスライドした。
フードを被ったふたりの人影、俺は素早く出入口を通り抜けると、連中の背後に立った。
二人の頸椎に俺が素早く手刀を打ち込む。
その衝撃にふたりとも地面に崩れ落ちた。
さてと、こいつらから色々と聞き出すとするか。




