獣人娘を拾ってきたよ。
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アリーナで戦った時よりも戦闘力やスキルが上昇してるのがわかる。
40レベル前後のモンスターを5体同時に相手にしたが、結構楽に倒せるな。
正直、アリーナ戦でウェイロンら三人を倒した時は結構全力だったんだぜ。
だけどよ、あの連中からすれば、俺が圧倒的な力でAランカー3人を叩き潰したように見えるだろうな。
ハッタリはたっぷりと効いたはずだ。
まあ、あれからもう一戦、試合があったら完全に泥仕合になってのは確実だがね。
笑いたけりゃ笑えばいいさ。
でもよ、今ならあれと同じ真似を連続で数回はできるぜ。
意識の海に潜ってあの回路に触れたおかげだな。
俺は原生林を歩きながらモンスターの肉を食った。
それにしてもこの肉、結構美味いな。
俺は肉を齧りながら茂みや倒木を飛び越えた。
そうしている内に低木の間から女がふらふらと出て来た。
素っ裸で憔悴しているようだな。
あと眼の焦点もどこか虚ろだ。
背格好から十代後半ってとこか。
端正で綺麗な顔立ちをしている。
黒髪黒眼の獣人系の娘だ。
正気を失っているのか。
何だか危なっかしいから俺は声を掛けた。
「おい、大丈夫か、あんた」
だが、娘は無反応だ。
こういう場合、大抵は厄介ごとがついてくるもんだ。
「この女、厄ネタの匂いがプンプンしてんな、カズヤ」
レッドアダーの言うとおりだ。
揉め事に巻き込まれたくなきゃ、放っておくのが一番良い。
それでも何となく首を突っ込んじまうのが、俺の性分なんだよな。
ああ、自分でもバカな奴だって思うよ。
俺は少女に近づいて再度呼び掛けてみた。
やっぱり返事はなかったけどな。
俺は娘に肩を貸してやると、洞窟に引き返した。
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身元が分かるようなもんは何一つ所持していない。
正気を失っているせいで、何も聞きだすことができない。
「カズヤ、荷物増やしてどうする気だよ」
「まあ、そういうな、レッド。それよりも気晴らしに何か一曲かけてくれよ」
「ああ、いいぜ」
洞窟内に響くのはボブ・ディランの<風に吹かれて>だ。
それから俺は娘の世話をしながら素材集めを続けた。
モンスター以外にも珍しい植物や鉱石を採取したりな。
それでかき集めた素材から強化用のエネルギーを抽出して取り込む。
娘のほうは俺の手製のベッドで過ごしている。
食事と下の世話をする以外は、俺は好きにさせておいてやった。
食い物はもっぱら野生の木の実とクリーチャーの肉だけどな。
ここら辺は食料になる植物やモンスターには困らない。
結構豊かな食生活を送れるんだぜ。
リンゴ酸カルシウムを含んだ植物も自生してるから塩の代用になるしな。
娘は相変わらず定まらない視線を洞窟の天井に向けて、ぼんやりしている。
俺はボブ・ディランを聴きながら葉っぱと植物繊維で作った娘のオムツをとりはずした。
使い捨て用のオムツだ。
溜まった排泄物をオムツごと燃やして処理する。
それからぬるま湯で娘の身体を洗ってやると新しいオムツを着用させてから、夕食の支度をはじめた。。
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二週間後、俺は溜まった材料を持ち帰ろうと洞窟を出ることにした。
側には獣人の娘──リナがいる。
あれからリナは少しだけ正気を取り戻した。
自分の名前を言えるようになったし、食事も自分でとれるようになった。
トイレだって掘った穴で用足しできるようになったし、これなら大丈夫か。
俺は陽射しを遮る巨大な常緑樹や広葉樹の合間をぬって原生林を出ると、さっさとニュートーキョーに舞い戻った。
俺は行きつけの喫茶店『パチェコ』で久しぶりのブラックコーヒーを味わった。
リナが手掴みでホットケーキを食い始めると、レッドアダーがナイフを使えよと言う。
だが、リナは食うので夢中でレッドアダーの言葉は耳に入っていない様子だ。
俺は黙ってコーヒーを飲んだ。
少しばかり酸味が強かったから、俺はもう一つまみ塩を入れてからスプーンでかきまわした。
一口飲むと酸味が取れてまろやかになっている。
美味いな。
すると何かを見計らったかのように喫茶店の前にリムジンが停車した。
おいおい、タイミングが少しばかり早いぞ。
リナはホットケーキを食い終わってないし、俺はコーヒーを8割も飲み残してる。
喫茶店のベルが鳴る。
ズカズカ入り込んでくる黒服、俺たちの席に立ち止まると翁がお呼びですと無機質な声色で告げる。
「おいおい、カズヤがコーヒー飲んでる最中に来いって嫌がらせかよ。コーヒー飲み終えるか、注文する前に言えよ」
レッドアダーが黒服に文句を言ってやる。
だが、黒服は微動だにせず無言のままだ。
レッドアダーがいくら毒づこうが、この黒服は何の反応も示さないだろうな。
そういう風に訓練されてるんだろう。
まともに相手にするだけ無駄だ。
「悪いがリナがホットケーキを食いおわるまで待っててくれ」
俺がそう言うと、黒服は黙ったまま頭を軽く下げて頷いた。
シロップでベタベタになったリナの口元を拭いてやる。
それからテーブルに千円札を何枚か置いてから、俺はリナを連れて黒光りする車体へと乗り込んだ。




