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嫌な記憶を見ちまったよ

14



改造した倉庫内で、おれはレッドアダーのアップデート作業に取り掛かっていた。


かき集めたジャンクパーツやクリーチャーから抽出したエクトプラズムエッセンスをこの口の悪い指輪に注入していく。





レッドアダーの全体が赤く輝いていく。


エッセンスが馴染んでいる証拠だ。



海山の爺さんから前金をふんだくってやった甲斐があったな、こりゃ。




あれから爺さんと修験者兄弟──ドレッドヘアのほうが兄のゼンキで角刈りが弟のドウキだったか──と少しばかりやり取りした。



といっても、だらだらくっちゃべってたのは、もっぱら俺と爺さんだったがな。



おれも爺さんも口から先に生まれたような手合いだ。



それとは逆に巌のような顔つきの兄弟はほぼ無言だった。





全く喋らないわけでもないし、相槌くらいは打ってたけどな。


それでも会話のほとんどは俺と爺さんのやりとりで占めてたな。






さてと、敵さんの情報を整理しておくか。


まずはウェイロン、こいつがリーダーだな。


拳法と道教の法術を使ってくるのか。



長袍チャンパオなんざ着てブルース・リーでも気取ってやがんのか。


以前、場末の映画館で見た作品の登場人物を思い出したぞ。



タイトルは<霊幻道士>だったぜ。


武術と道術を使ってキョンシーっていうアンデッドを退治する話だ。






お次はブレードジャック、ナイフ使いだな。


細身のチビ助だが、ナイフ術の達人だ。


刃には猛毒が仕込んである。






最後はガラン、治癒と能力強化のスキルを持ってる。


本人の戦闘力はこのチームじゃ一番弱いな。





一見すると幅広い戦術に対抗できる典型的にバランスの良いチームだな。



こういう場合は、ヒーラーを真っ先に潰すのがセオリーだが、いかにもって感じで怪しすぎる。


相手だって奥の手の一つや二つは隠し持ってるはずだ。




爺さんの情報だって全てを調べ上げてるわけじゃないだろうからな。




全員でガランを真っ先に狙った瞬間、無数の指向性エネルギー弾が四方からばらまかれるとか、

それくらいは用意してあるだろう。



まあ、実際のところはどうかわからねえ。


正直、出たとこ勝負だ。





「それだったらよ、カズヤ、いっそブラックコアの力で相手が何かする前に終わらせちまおうぜ。相手が何か細工を仕掛ける前に潰せばいいさ」




「シンプルイズベストだな。レッド。確かにそっちのほうが面倒ごとはなさそうだ」


「ついでに爺さんにも話を持ち掛けてみようや。一人でこいつら三人倒したらボーナスよこせって」




15



ニュートーキョーの地下アリーナ。


結論から言えば勝負は一瞬で終わった。


あっけない幕切れだ。



でも蓋を開ければこんなもんさ。



見せ場なんざどうでもいい。


こっちはとっととケリをつけたいだけだったしな。





海山の爺さんをはじめ、証人として集まっていた名家の連中どもが驚愕の表情を浮かべている。



おれがやったことはごく単純、スタートを同時に三人組の脳幹にプラズマを通しただけだ。


相手が隠し玉を持ってるならそいつを披露される前にとっとと倒す。


どれだけのスキルや装備を所持していようが、使わなけりゃ意味はないわな。




勿論、この作業には素早さと精密が動きが求められるから、そこはアップグレードしたレッドアダーの力も借りてるがな。


それとブラックコアを取り込んだおかげってのもある。


取り込む前ならもう少し手こずっていただろうからな。



貴賓席の椅子に腰掛けて見物していた脂ぎった二重顎の親父が口をパクパクさせてやがる。


酸欠状態の金魚の真似でもしてんのか、このおっさん。




このニュートーキョーを支配する権力者達が、眼を見開いて野良犬の俺を指さしながら大興奮する姿は中々滑稽なもんだ。




何が起こったのか頭が追い付いてないんだろうな。




まあ、そりゃそうだろう。


どこの馬の骨ともわからないような無名の野良犬が、Aランカー三人をたった一人で潰して見せたんだからな。




修験者の兄弟も錫杖を握ったまま、呆然と立ち尽くしているだけだ。



アリーナで徐々に怒号が飛び交い始める。



あいつは一体なんだとか、何が起きたんだとか、そんなありきたりなセリフだ。




おれは海山の爺さんを見やった。


戦慄の眼差し、にやけた口元、この古狸が何を考えてやがんだ。




思わぬ掘り出し物を見つけたって顔つきだな、おい。




それも人間を見るような眼じゃねえな。


最新兵器を目の当たりした死の商人の眼つきをしてやがる。



どよめく他の観客たちも同じような表情を浮かべている。


中にはおれに下卑た視線を浴びせてくる奴もいた。



レッドアダーが冷めた口調でせせら笑った。




「あいつら、お前に気があるみてえだな、カズヤ。お前を囲い込んで用心棒兼種馬扱いしようって魂胆がみえみえだ」



歓喜、好奇、野心、欲望、それらの感情が入り混じった粘つくような視線が俺に浴びせられる。



俺は背を向けると、レッドアダーと共に黙ってコンクリート製の出口に向かった。



背後では、相変わらずざわめきが続いている。





俺はとっととアリーナから立ち去ると、自らの巣穴へと舞い戻った。



正直な話、少しばかりくたびれちまってるんだ。




16




俺は無人のダンジョンエリアで何か面白そうな素材を探したり、ブラックコアの使い方を調べながら過ごしていた。



徐々にだが、ブラックコアもおれに馴染んできてるのがわかる。




あのアリーナ戦以降、俺とレッドアダーはほとんど誰とも会わずにいた。


海山の爺さんと他の名家連中とじらしてやりたかったのと、俺の進化の材料を探すためだ。



洞窟の壁にもたれ、おれは精神と意識の海にダイブした。




辺りは完全な闇だ。俺は意識を集中させた。



すると闇の中に幾何学模様が浮かび上がる。



更に精神統一していくと青い光の線が無数の幾何学模様を描いていった。



まるで途方もなく巨大な回路図だな。




おれは無意識に空間に浮かぶ幾何学模様の線に触れた。



途端に膨大な量のデータが流れ込んでくる。




俺はすぐに指を放した。



頭が酷くクラクラするが悪い気分じゃないな。




これで新しい進化の糸口が掴めたしな。





ただ、余計な記憶もついてきやがった。


俺と同じ顔した奴が家族に虐げられている記憶だ。



どういうことだ、記憶が捏造されてるのか。



それとも俺の失われた記憶か、あるいは他者のものか。



俺が目覚めたのは約一年前、場所は廃棄されたどっかの施設だ。



レッドアダーと出会ったのもその廃墟になった無人の施設内だ。



俺達はそこで過ごした。





施設内に残された廃材を修理してみたり、クリーチャーを狩って食ったり、見つけた資料を読んでみたり、そんな具合だ。



特に俺が興味を持ったのは、進化及びアイテムの開発だった。




それで俺達はとりあえず外に出てみることにした。


施設内にとどまっていても、これ以上は何も起こらなそうだったからな。





だから俺たちは、進化の糸口を探すために、このニュートーキョーにやってきたんだ。



「おいおい、大丈夫かよ、カズヤ」



「ああ、心配するな、レッド。それじゃあ、腕試しにモンスターでも狩って素材でも集めるか」



「いいねえ」


俺は頭を振るとこめかみを指で押さえた。



それにしても胸糞悪い記憶だったぜ。






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