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ひとまず進化したぜ

10




ポータルで中間地点まで移動し、あとはひたすら廃墟エリアを突っ切っていく。


中間地点に出没するクリーチャーは15レベル前後だ。



そんな具合で目的地に到着した。


俺の目の前には、赤レンガ造りのひび割れた壁と三角屋根が崩れかけた小さな洋館が建っている。





俺はこの館を<ダンウィッチ邸>と勝手に呼んでいた。


一見すればこのエリアのどこにでも見かけるただの廃屋だ。


崩れ落ちた鎧戸にれ放題の庭先、ただ一つ違うのは、この建物の周囲は異様な気配に包まれていることだ。



モンスターもこの辺りには出てこない。



俺は口をぽっかり空けて入ってこいと言わんばかりの玄関ドアに足を踏み入れた。



このダンウィッチ邸、実は見えるのに条件があるんだよな。



例えばレベル60に到達したとか、感知用ガジェットを装備してるとか、魔道に精通してるとか、

精神が並外れて強靭とか、秘薬を飲んだとか、高エネルギー体になったとか、高次元存在の力を借りるとかまあ、色々だ。



とにかく何か一芸秀でていれば見えるって理解しておきゃいい。



ブーツを踏むたびに軋み上げる板張りの廊下、カビと腐敗物の混ざった異臭が俺の鼻を突いた。


奥へ進むたびに瘴気が俺の肌に纏わりついてくる。




それと常に何かの気配を感じるってとこか。


わかりやすく言えばとにかく臭くて気持ち悪い場所ってことだ。



廊下の壁に掲げられた巨大な一つ目の画が、眼球をギョロギョロと動かしている。



並の覚醒者なら瘴気に充てられて精神が狂うだろうな。




「気持ち悪い絵だよな、これ」


レッドアダーが呟く。


「まあな。でも一部の物好きなコレクターなら買いそうだな」


「そいつは言えてるな」



俺達は目玉の画のことは放っておくことにした。



俺は廊下の突き当たったT字路の右に曲がった。


すると廊下がどんどん伸びていく。



だが、俺はとにかく進んだ。



時間の感覚が分からなくなるまでな。


「レッド、この廊下、どこまで伸びるんだろうな」


「廊下の気分次第ってとこだろうな」


「もうどれだけ進んでるのかわからねえぞ」


「多分、一日か一年かそんなもんじゃないのか、カズヤ」



それでようやく観音開きのドアが見えてきた。


躊躇わずに俺はドアを開けて部屋に入った。






俺の視界が歪む、平衡感覚が狂う。


それでようやく書斎に辿り着いた。




俺は棚に並んだ一番端の本を手に取って、下に動かした。


スイッチが入る。




すると本棚が横にスライドした。


台座に鎮座する黒い宝玉──ブラックコア──俺のお目当ての代物だ。



俺は宝玉を指でつまむと、そいつを口に放り込んでごくりと喉を鳴らして呑んだ。



途端に俺の身体に変異が生じていく。


進化の予兆だ。




38兆個の細胞が作り替えられていく。


暴走したミトコンドリアの生産するエネルギーにより、急上昇する体温。



くそっ、まずいっ、コアに意識を乗っ取られそうだぞっっッ。



こんなところでくたばってたまるかッッ!


俺は必至で抗った。



奥歯を嚙み締め、俺は意識を集中させた。



拡散し、広がっていく俺の精神。




DNAの二重螺旋が書き換えられていくのがわかる。


生命エネルギーが満ち溢れてくる。



どれだけ時間が経ったんだ。


俺は目を見開いた。


再構築された俺の肉体と精神、成功だ。




これで俺は一段階上の存在になった。



最高の気分だ。



ダンウィッチ邸を調べ、情報を集めていたのは正解だった。


出来れば、このまま順調に進化していきたい所だな。





11




一段階進化したおれだが、やることは普段と何も変わらない。


ジャンクの山を漁ったり、ダンジョンや闇市で部品やパーツを集めたり、新しいガジェットを設計したり、そんなもんだ。




「カズヤ、財布が空になった。何か売ったほうがいいんじゃないのか」


「そうだな。何か金になりそうな物でも作るか」


「それだったらよ、今話題の一時的なステータスアップの薬とかどうだ。探索者どもがすぐに食いついてくるだろうぜ」



「悪くねえな。それじゃあ、材料集めにでも行くか」


早速俺が準備をしていると、志波家から連絡が入った。



「お、爺さんからまた依頼か。カズヤ、あっちについたら食いだめしようぜ。食費が浮くからな」


レッドアダーがいつものように茶化す。



倉庫の前で待つ。


手持無沙汰だ。


少しすると迎えの車が来たので俺たちは乗り込んだ。


向かった先はニュートーキョー1区、昔はチヨダと呼ばれていた区域だ。




巨大な門を通過し、薔薇に囲まれた広大な庭を有する西洋風の屋敷に到着する。


志波家の別宅だな。



通された豪勢な居間に置かれた椅子に座り、俺は出された紅茶を飲んだ。


ティーカップはマイセンだ。




それから何か食い物はないか隣にいるメイドに尋ねるとサンドイッチを持ってきてくれた。



俺はメイドに礼を言うと、早速サンドイッチを手掴みで食い始めた。




レッドアダーが レイ・チャールズの<旅立てジャック>を笑いながら流し始める。


なんだよ、俺をダメ男だって言いたいのか、この指輪。



俺は天然の高級ハムが挟んであるサンドイッチを呑み込みながら肩をすくませた。


全く、我が相棒ながらこいつの性格の悪さには呆れるぜ。



指先についたマスタードマヨネーズを舐めながら、俺はお前のひん曲がったその性格、もう少し何とかならねえのかとレッドアダーに愚痴ってやる。



だが、レッドアダーは口笛を吹いて更に小馬鹿にしてくるだけだ。



俺は最後の一切れを口に放り込んで素早く咀嚼して食道へ送り込んだ。


それからメイドにサンドイッチのお代わりを要求しながらレッドアダーに文句をつけてやる。



「へへへ、相棒、育ちの良さが滲み出てやがるな、相変わらずよ。あのメイドの顔見たかよっ、まるで野生の猿を眺めるような目つきだったぜっ」



俺は二皿目のサンドイッチに手を伸ばしながら言う。


「お行儀良くしてても腹は膨れねえよ」



「まあな」


レッドアダーが相槌を打った。



そうしていると居間のドアが開かれ、見知らぬ男が現れた。




年齢は二十歳前、レベルは33か。



服装はスウィンギングロンドン のモッズスーツだ。


なんだ、ビートルズでも気取ってんのか?




そいつが俺を見るなり、顔を顰めた。



「誰だ、居間に野良犬を引きこんだのは」


相変わらず上流階級ってのは一々癇に障る奴らが多いな。



「俺は海山の爺さんに呼ばれた客だよ、プレイボーイ気取りの兄さん」


再びサンドイッチを頬張りながら、俺は横目でそいつを見た。




「なっ、お前のような下賤の輩を志波家のご当主殿が客人扱いするかっ、ホラを吹くならもう少しマシなホラを吹けっっ」


一々芝居がかった口調だな、こいつ。


どこの大根役者だ。



「あんた役者か何かか?」


レッドアダーが男に尋ねた。




「ふんっ、僕は三木家の長男っ、三木スグルだっ、本来ならお前のような下流民は僕の視界に入ることすら許されないんだぞっ」


三木家か。


ニュートーキョーの門閥の一つだったな。


ただ、古参の志波家と違って、名門でも成り上がりや新興勢力に入る。


ようは家の格式は志波家より少し下がる家柄ってわけだ。



「キャンキャン吠えなさんな、成り上がりの坊ちゃんよ、それにしても三木家ってのは、こんなボンクラが跡取りなのかね」


レッドアダーがスグルを挑発する。




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