今日も厄介ごとに巻き込まれたぜ。2
3
運転席と後部座席を隔てるのは高性能防弾ガラスだ。
防音性能もばっちりで、どれだけ叫ぼうが暴れようが外に漏れる心配はない。
密会や拉致には便利そうないかにもって感じのリムジンだな。
対面タイプの座席は四つ、ベージュとアイボリーのダブルカラーのレザーシートだ。
それと備え付けられたシャンパンクーラーにグラスホルダーか。
いかにもセレブってな具合で、俺には無縁だ。
平たく言えば言えば落ち着かない。
座ってるだけで背中がムズムズむず痒くなる。
贅沢慣れしてない貧乏の悲しさよ。
外は相変わらず小雨模様って奴だ。
それから数十分ほどリムジンに揺られた。
リムジンが止まった。
場所はニュートーキョーの一等地だった。
巨大な門構えの屋敷に通される。
4
屋敷はモダンな造りだ。
三角屋根の下にあるのは池や灯籠が配置されている和風の庭園だ。
和洋折衷って奴か。
おれはそのまま寝室に案内された。
寝室にはひとりの護衛、それと爺さんだ。
俺が助けた爺さん──志波家当主──志波海山だったか──その爺さんがアール・ヌーヴォー風の彫刻の入った椅子に腰掛けている。
かなり高そうな奴だ。
新車が一台買えそうだな。
他には藤のテーブル、オーク材のキャビネット、それと天蓋付きのベッドが配置されている。
やっぱりどれも金が掛かってそうだ。
あと、思ったよりも海山の爺さんは元気そうだったからほっとした。
爺さんが死んじまったら礼金が貰えなくなるかもしれないからな。
俺は無言を貫いたまま、爺さんを見やった。
相手の出方を知りたかったからだ。
爺さんがどこか値踏みするような視線を俺に向けてくる。
まあ、しょうがない。
どこの馬の骨とも知れないような奴相手に向ける、金持ちの視線はどれも似たり寄ったりだ。
「お前の事は少し調べさせてもらったぞ。
無戸籍、家族不明、数ヶ月前にふらりと現れたジャンク拾い、肉体年齢は15歳、お前、一体何者だ。全く足取りが掴めんかった。突然現れたとしか言いようがない。
どこかの秘境から俗世にやってきた修行者の類か?」
海山の鋭い眼光が俺を射抜く。
そこいらの奴ならこれだけで背筋が縮こまるだろうが、俺は平然と受け流した。
肩をすくませながら口角を片方釣りあげて、俺は笑って見せる。
こういう手合いには、余裕ぶっておくのも必要だからな。
古だぬきが俺のハラを探ろうったってそうはいくもんかい。
「あんたの想像におまかせするよ、爺さん。それよりも謝礼をくれよ。
なんだったらあの高そうなシャンデリアでもいいぞ。偽造のレーザータレットを仕込んでるようだがね」
俺は天井にぶら下がったクリスタル製のシャンデリアを指さした。
「貴様っ、翁に対して無礼だぞっっ」
短髪サングラスの黒服が俺に怒鳴る。
「その護衛のオッサン、レベルは38ってとこだな」
レッドアダーが言う。
黒服の護衛の額に血管が浮き上がった。
おいおい、こいつ、いくらなんでも短気過ぎないか?
その内に頭の血管が切れて脳卒中でぶっ倒れるぞ。
「よせ、シマダ」と海山が護衛を制する。
「それでどうするんだ。爺さん、こんな話をいつまでもグダグダ続けるつもりかね?
俺はあんたの命を救った。その礼をあんたが俺に払う。難しく考えることはないだろうよ。
俺は何も水たまりの上パラソルを手に持った喋るジャガイモが踊るところを見たいっていってるわけじゃないんだぜ」
その時、寝室のドアが開いた。
一体誰だよ?
現れたのは少女だった。
いかにもお嬢様って感じの娘、見た目は美人だ。
意志は強そうだが性格きつそうな顔だけどな。
「おじい様ッっ、お身体は大丈夫なんですかっ」
背中まで伸びた桃色の髪を揺らしながら、娘が爺さんに駆け寄る。
「はは、イツカか。わしはほれ、この通り、元気じゃぞ」
目尻の下がっただらしない顔になる爺さん──おいおい、さっきまで俺と腹の探り合いをしてた癖に何呆けてんだ。
それから娘──イツカが俺のほうへと振り向いた。
「おじい様、この薄汚い恰好の少年は誰なんですか。新しい下男ですか?」
何だこの女、俺に喧嘩売ってんのか?
「お嬢ちゃん、俺は確かに残飯漁りをしたついでにレスリングをしてきた野良犬のような恰好だ。
その観察眼に敬意を払おうじゃねえか。
だがな、忘れちゃいけないのは、俺がいなけりゃ、今頃、そこの爺さんはアスファルトの上に転がってカラスに突かれてた。
つまりはそういうことだ。というわけだから命を助けた礼をくれ、爺さん」
芝居がかったような仕草で、海山に向かって俺は右掌を突き出してみせた。
イツカが顔を赤く染めた。
この女も短気な性格のようだな。
シンプルなキャラ紹介
志波海山
金持ちと権力を持った爺さん。
志波イツカ
その孫娘




