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今日も厄介ごとに巻き込まれたぜ。1


深夜の時刻だった。


湾岸道路のアスファルト。


血とガソリンが混ざってまだら模様だ。


いつものようにジャンクパーツ漁りに出かけていたんだが、今日はタイミングがちょっとばかし悪かったか。


俺の目の前に映ったリムジンは、見事なまでにぶっ壊れている。


高級車もこうなると台無しだ。


大金払って買ったはずの車がスクラップになるんだからな。


その金でどれだけ俺が欲しかった素材やパーツが手に入るのか。


「ああ、勿体ねえ」


レッドアダーが言う。


「この車一台分の代金で欲しいパーツや素材が買えるんだがな」


衝撃のせいで潰れたエンジン。


むなしくゴロゴロ転がっていく黒っぽいタイヤ。


白い煙が立ち上るひしゃげたボンネット。


それと後ろ右側のドアが半開きになってる。


アスファルトには運転手と護衛ふたりの死体がへばりつくようにくたばっていた。


なんか人生の無常を感じる光景だな。


死体から流れる血が路面をゆっくりと濡らしている。


赤ってよりも黒っぽい血の色だ。


この血の色だと、結構な割合で死んじまう奴が多い。


こいつはは俺の経験則上の話だ。


むっとするガソリンと血の混ざった匂いが俺の鼻腔粘膜を刺激した。


錆びたような刺激臭と言えばいいのか。


そんな鼻の奥がムズムズしてくるような匂いだ。


運転手のほうは60代後半で、護衛のほうはどっちも30代半ばってとこか。


息はしていないし、心臓の鼓動も聞こえない。


何より頭を撃ち抜かれている。


やっぱりくたばっているで間違いないだろう。


適切な治療を行えば蘇生する可能性もあるかもしれないけどな。


この場に名医と高価な処置室と機材があれば、治療してやれたかもな。


生憎と今の俺には、そんな高価な道具は持ち合わせちゃいない。


あんたらも運が悪かったな。


通りかかったのが俺じゃなくて、ドクターKやブラックジャックだったら助かったかもしれないのに。


まあ、でもアンデッドとかゾンビとして復活する可能性もあるか。


「ひでえ有様だな、こりゃよ」


右手の中指に嵌めた深紅の蛇を象った指輪──レッドアダーが呟く。


おれもレッドアダーと同じ意見だった。


俺は両手をポケットに突っ込んだまま、ゆっくりとその惨状へ近づいた。


「パーツ目当てで来ただけだろ。面倒なことに巻き込まれる気はねえんだけどな・・・・・・」


「まあまあ、ついでだ、ついで。ほら、向こう見てみろよ」


視線を移す。


アスファルトの路上──血まみれの老人が倒れている。


脇腹に深い傷を負っている様子だ。


高級そうなシルクのシャツが血を吸って染まっている。


中々痛そうだな。


ご愁傷様ってとこだ。


だが、まだ息はある。


老人の額に浮き出た脂汗。


治療すればまだ間に合うはずだ。


そのまま放置すればその内にお陀仏だろうが。


倒れた老人の周りには四つのいびつな空白があった。


どこかデコボコしていて違和感がある。


光学迷彩スーツか。


あるいは透明になれる魔法のマントか。


どっちにしてもかなりの金を払わないと手に入らない。


だが輪郭が微かに歪んでいる。


それに体臭、四人分の汗や皮脂の臭気がする。


姿は見えにくいが、気配は隠せていない。


その気配が動かずに俺の様子を探っているようだった。


さっさと攻撃してくればいいのにな。


目撃者はとっとと始末する。


ターゲットも迅速に処理する。


手慣れた始末屋は大方そんな具合だ。


となると、意外とこいつら、汚れ仕事には慣れていないのかもしれないな。


両手を軽く上げ、俺は肩をすくませながらおどけるように一歩、ゆっくりと踏み出した。


念動力で四体の気配のする空間の熱をさっさと奪う。


その瞬間、半径五メートルほどの空間が凍った。


空気が絶対零度に限りなく近い冷気へと変わる。


冷気が四人の暗殺者を包み込んだ。


低温脆性って奴だ。


光学迷彩スーツが乾いた音ととともに砕け散った。


暗殺者達がその姿をさらす。


砕けてもパーツとしては使えるだろう。


暗殺者どもを始末してから拾えばいい。


本当なら丸ごとスーツを頂戴したかったが、それは贅沢という奴だ。


次に俺は半ば反射的に高温のプラズマを放った。


相手が動く前にとっととケリをつけるのが一番楽だ。


幸い、奴さん達は驚いて反応できずにいる。


意表を突かれてとっさに動ける奴もあんまり多くないだろうがな。


だが、俺からすれば安全かつ楽に狩れるからありがたいがね。


青白い光が一瞬にして暗殺者たちを呑み込む。


それで勝負はついた。


残ったのは四つの炭クズだ。


これで証拠は残らないだろう。


凍らせたままにしても面白いが、後々面倒になるのも厄介だ。


その点、ただの燃えカスなら処分するのに手間がかからない。


ゴミは軽くて小さいほうが捨てるには楽ってもんだ。


ああ、でも辞世の句とか遺言くらいは聞いてやったほうがよかったか。


せめて殺す前に。


まあ、でももう過ぎたことだ。


テレキネスと原子や分子の振動のコントロールを応用すれば、こういう芸当ができる。


凍らせたり、燃やしたりな。


「さっきの暗殺者たち、30レベル前後はあったな。レベルだけなら一流だったな。レベルだけだったがな、ひゃひゃっ」


レッドアダーがケラケラ笑うように言う。


「どうせ、養殖だろう。レベルだけ強引にあげて、あとは高い装備品貰っただけの」


「ちがいねえな。ありゃ、見せかけだけのアマチュアだぜ、カズヤ」


「だろうな」


「だろうよ」


「だが、殺そうって意志は感じられたな。連中からは。そうは思わねえか、レッド」


「じゃあ、中途半端な殺し屋ってとこだな。素人以上、プロ未満の」


「なんだかちくはぐな連中だったな」


「違和感あるよな、カズヤ」


「ああ、モロにな」


俺は老人を再び見下ろした。


「おい、爺さん、大丈夫か。さっきから血が出まくってるな、勿体ない」


老人が血だらけの顔を俺に向けた。


驚愕の眼差し。


そのまま何かを言いかけてから気を失った。


俺は老人を抱きかかえると、安全そうな場所に連れていき、応急処置をしてやることにした。


金を持ってそうだし、恩を売っておいても損はないだろう。


「おい、カズヤ、その死にぞこない助けてやんのか」


「まァな。謝礼を貰えるかもしれないだろ」


「へへ、確かにな」


鼻の奥がむず痒くなってきたせいで、俺はくしゃみをした。


「厄介ごとに巻き込まれるのも面倒だし、少しばかり仕込んでおこうぜ」


と、レッドが言う。


「そうするか」


俺は曖昧気味に返事をした。





あれから数日後、俺は行きつけの古びた喫茶店で少しばかりぬるくなったブラックコーヒーを啜っていた。


俺はブラックコーヒーに少量の塩を混ぜて飲むのが好きだ。


それだけと言えばそれだけの話だけどな。


ジュークボックスから流れるのは、クインシー・ジョーンズの<ソウルボサノヴァ>だ。


助けた礼は後日改めてすると言われたが、向こうからの動きはない。


まあ、人生なんてそんなもんだ。


「ケチなくたばりぞこないだったか、あのジジイ」


レッドアダーが俺をからかうように言う。


「まあ、いいさ。その内、ツキも回ってくるだろう」


「そうだな、ツキが回ってこなけりゃ、こっちから取り立てりゃいいぜ、カズヤ」


「だな」


「そうさ」


「ああ」


俺はコーヒーを飲み干してから立ち上がった。


俺は薄汚れた窓を見やった。


外、小ぶりの雨。


喫茶店のドアへ向かう。


喫茶店の前に止まったリムジン、中から黒服が出て来た。


ドアにつけられた古いベルが鳴る。


古い割にはよく鳴るベルだ。


それから俺は案内されるままにリムジンに乗った。



シンプルなキャラ紹介

カズヤ

15歳のエンジニアで超能力者。

レッドアダー

カズヤの相棒の喋る指輪。

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