結構居心地の良い屋敷だな
30
今、俺は騒がしい屋敷の庭先で女中から貰った肉を食っている。
あれから俺はレッドアダーを介して、ふたりとコミュニケーションを取った。
それでわかったのは、二人とも結構良い家柄の生まれだったってことだ。
まあ、結構良い服着てたしな。
金髪の少年がレックス、銀髪の少女のほうはエリス、ふたりは従弟同士で、家来を連れて森を通った所であのモンスターに襲撃されたらしい。
レックスは愛らしい顔立ちの少年だ。
年上とかマダムに受けそうだな。
母性本能をくすぐるタイプだ。
エリスはちょっとおっとりした雰囲気の少女だ。
優し気な顔をしている。
それで俺は、ふたりを屋敷まで送り届けてやることにした。
とにかく情報が欲しかったし、悪い奴らでもなさそうだったからな。
それで俺は、そのままふたりの住む屋敷になりゆきで居着いたわけだ。
「良い身分だな、カズヤ。毎日、庭先で寝転がっちゃ、食ってばっかじゃねえか。お前このまま飼い猫になる気かよ。まんまダメ男丸出しだぜ」
「でもよ、レッド、中々悪くねえぜ、ここも。結構居心地がいいしな」
「それじゃあ、ネズミでも捕ってこいよ。飼い猫らしくよ。あのブッチャーとかっていうモンスターを狩ったおかげで、この家の格式があがったんだろう。
それならまたモンスターを狩ってきて、少しはこの屋敷に貢献したらどうよ」
ブッチャーっていうのは、あの猿と熊のハーフみたいなモンスターのことだ。
強さ的には30レベルほどだったが、この周辺では山に君臨する主として恐れられ、賞金が掛かったモンスターだったらしい。
ところが俺がそのブッチャーを倒したことで、デール家は国から報奨金と少しばかりの領地を与えられた。
このデール家ってのは、地方の小領主だ。
先祖は傭兵出身だったらしい。
それが戦場で武勲を立て、郷士になった。
あれだな、セルバンテスの<ドン・キホーテ>の主人公アロンソ・キハーノがイダルゴって呼ばれる下級貴族の郷士だった。
それから先祖代々、コツコツ手柄を積み立てて、小さいながらも領地を与えられ、家臣を養えるようになった。
旗なし貴族、爵位のない貴族では結構裕福なんだとさ。
中々の努力家だな。
それで爵位のない貴族だったのが、今回の件で爵位を与えられて男爵になったらしい。
デール家からすれば思わぬ大当たり、ジャックポットを引き当てたわけだ。
だから爵位授与の準備で屋敷の使用人達は慌ただしく動いている。
屋敷がうるさいのはそのせいだな。
ここからわかるのは、俺のいる国は近代までの西洋的な身分制度に近いってことだ。
他の国の身分制度はどうなんだろうな。
日本の江戸時代にあった旗本や御家人、武士のような身分、あるいは明清時代の科挙制度、官吏登用試験みたいなのとかな。
中国の明清時代にいた郷紳とかも地方の有力者として存在してたよな。
郷紳はイギリスのジェントリ(地主階級)に似た階級だってあったが。
あるいは地球の歴史とは全く異なる身分制度もありそうだな。
まあ、いいや。
それよりも少しばかりネズミを捕って仕事をするとしよう。
丁度ゴロゴロしているのも飽きてきたとこだしな。
暇潰しにもなる。
31
街道に出没する盗賊や付近に出没するモンスターを狩り立てていく。
凍らせたり、燃やしたり、引き裂いたりはその時の俺の気分次第だ。
あとは瘴気を吐き散らして発狂させてみたり、生きたまま腐らせたりもしたな。
盗賊やモンスターで試している内にこの能力の使い方もわかってきた。
他は血肉を貪ることで驚異的な回復を発揮する能力を手に入れたことくらいか。
評判は上々、周りから感謝されるし、悪くない気分だ。
狩りは半日足らずだったけどな。
それで近隣の村や町の住民達から、大量の酒や食い物が供物として俺の居着いている屋敷に届けられるようになった。
二百円の合成肉のバーガー食ってた時とは大違いだ。
天然もののイノシシやシカに似た動物の肉、新鮮な川魚、果実酒、どれもニュートーキョーじゃ高級食材だな。
合成や養殖じゃないってだけで、ニュートーキョーじゃ目玉が飛び出る値段になる。
それにここはニュートーキョーと比べてのどかなもんだ。
ニュートーキョーのようなむかつく排気ガスの匂いも安っぽいチープなネオンの明滅も喧騒もギラつくような人々の欲望も感じられない。
少なくてもこの領地内では。
「レッド、気晴らしに何か曲を掛けてくれよ」
「了解」
するとレッドアダーがキャブ・キャロウェイの<ミニーザムーチャー>を流し始める。
「キャロウェイか、悪くないな」
キャブ・キャロウェイの陽気で軽快な歌声に耳を傾けながら、俺はしゃぶっていた骨をクッキーのようにボリボリと噛み砕いた。
「ついでにフライシャー兄弟のアニメを流せば、更に完璧になるぜ、カズヤ」
「流すとしたら、やっぱりベティ・ブープか、レッド」
「当たり前だろう。トーカートゥーンはやっぱりはずせないね」
1930年代のアメリカは、スウィングジャズとアニメが花開いた時代だ。
世界が一旦崩壊する前の旧文明の名残り、俺はこういう古臭いのは結構好きだ。
懐古趣味って奴だな。
それから数日ほどして、デール家では祝いの席が設けられた。
使用人たちが俺の黒い毛並みを丁寧にブラッシングしている。
そんな俺はというと、普段と何も変わらずに過ごしている。
屋敷内の広間にはいくつものテーブルが並び、菓子や料理が山盛りになっていた。
メイドたちがせっせと祝宴の用意をしているのを尻目に、俺は大きく欠伸をしながら背中を伸ばした。
「傍から見りゃ今のお前、虎ってよりバカでかい猫だぞ、カズヤ」
レッドアダーがいつもの口ぶりで俺を茶化す。
「同じ肉食獣であることには変わらんぜ、レッド」
「まあ、確かにな」




