俺はどうやら黒い虎になったようだ
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白道教についてはひとまず置いておく事にした。
ジヒョンの奴からはゆっくりと吸い上げるつもりだ。
高崎家も何か使い道があるだろうしな。
三木家からの付け届けもこれなら期待できそうだ。
悪党どもからゆっくりと生き血を搾り取ってやる。
始末は連中が裏切った時にでもすればいいだけだしな。
連中が泣こうが喚こうが俺の心は痛まない。
そういう意味では悪党ってのはありがたいな。
これが善人なら俺も躊躇するだろうしよ。
まあ、俺は別に正義の味方ってわけでもない。
そんな柄でもない。
俺は野良犬であってそれ以上でもそれ以下でもない。
薄暗い路地裏で何か食えそうなものがないか鼻を突っ込んで辺りを嗅ぎまわり、漁るだけだ。
ニュートーキョーの6番区、派手なネオンが路面に広がっていた。
巨大な多層タイプのネオン・アーチが通行人の横顔を照らしている。
ネオンのカラーは文字通り、様々だ。
赤かと思えばピンクに変化し、急に青くなる。
ランダムに色が変わるタイプのネオンだ。
俺はリナを連れて買い物に出ていた。
途中でリナが、オモチャの人形とブレスレットを欲しがったので買ってやる。
どっちも安物だった。
買い物を終えてから腹が減ってきたので屋台で串焼きを何本か買った。
スパイスの効かせたソースに漬け込んだ鳥のもも肉だ。
味は甘辛くて美味かった。
どうやらリナも気に入ったようだ。
それから注文したカットフルーツをデザート代わりに食った。
「カズヤ、このスイカ美味しいね」
スイカを頬張ったリナが俺に笑いかけた。
「うん、美味いな。このマンゴーも結構いけるぞ、リナ。食ってみろよ」
それから一時間ばかり時間を潰してから俺たちはネグラに戻った。
27
集めて来たジャンクパーツに三つ目髑髏を接続した。
ブレイン・マシン・インターフェースのジャンク部品を修理して繋ぎ合わせた代物だが、髑髏を有効的に活用できるだろう。
髑髏の頭は、BMIの電極のシートだらけになっちまったが。
俺は髑髏の眼窩に魔術回路を施したバイオアンプを差し込んだ。
髑髏の意識を増幅させるためだ。
俺は髑髏の意識と自らの意識を融合させていった。
意識を更に深く集中させる。
そして再び意識の海へとダイブした。
一瞬、視界が暗転すると俺は空中に浮いていた。
空間を覆う立体的で巨大な幾何学模様を眺める。
ああ、これは曼荼羅だったのか。
緻密に描かれた無数の演算回路が放射状に果てしなく広がっていく。
俺の身体に変化が生じ始める。
どうやら新しい能力を手に入れたようだな。
すると空間に裂け目が生じた。
俺は無意識にその空間の裂け目に飛び込んだ。
28
気が付くと俺は洞窟にいた。
身体も四足獣になっている。
俺は水の匂いを嗅ぎつけたので本能的に向かった。
そこにはコバルトブルーに輝く地底湖があった。
俺は岩肌の隙間から差し込む光に照らされた水面を覗いた。
そこには一匹の虎がいた。艶やかな黒い毛並みの虎だ。
俺の右手首に巻かれているブレスレットへと変化したレッドアダーが言う。
「お前、野良犬から野良猫になっちまったな、カズヤ」
「まあ、あまり気にするな、レッド。野良犬も野良猫も同じようなもんだろ」
「違いねえな。それよりもどうするよ」
レッドが俺に言う。
「そうだなあ、腹が減ったし、何か食えそうなもん探しに行こうぜ」
「んじゃあ、そうすっか」
俺は洞窟の出口へと向かい、外に出た。
外は密林だった。
深く重なった青葉に囲まれている。
冷たく硬い岩肌とは異なる、落ち葉と土の柔らかさを肉球に感じながら、俺は生い茂った雑草を掻き分けて進んだ。
そうやって食い物を探している内に向こうで悲鳴が聞こえた。
なんとなくだが、俺は悲鳴の聞こえた方向へと向かってみた。
29
血の匂いが辺りを包んでいた。
周りには引き裂かれた人間の死体が転がっている。
数は全部で十人ばかり、槍や鎧で武装している所を見ると、兵隊とかか。
太い木の幹に背を預け、怯える二人の身形の良い少年と少女、そして生きた獲物を前に興奮する体長7メートルほどの巨躯を誇るモンスター。
見た目は巨大な猿だか熊だかの混ぜ合わせだ。
爛々と光る充血した両眼を俺に向け、そいつが巨大な牙を剥きだして唸る。
何となくだが、こいつが俺に伝えたいことはわかる。
このふたりのガキは俺の獲物だ、邪魔するなって言いたいんだろうな。
獲物を横取りされてたまるかといわんばかりに、そいつが巨木のような毛深い腕を俺目掛けて振り下ろした。
だが、それよりも早く俺は鋭い爪を薙ぎ払い、モンスターの胴体を真っ二つにしてやった。
結構食いでがありそうな奴だな、こいつ。
ドスンという重苦しい音を響かせて、モンスターの上半身が地面に転がった。
断面から溢れ出した黒血と臓物の匂いを嗅いでから、俺は食事に取り掛かった。
モンスターの肉や心臓に牙を立て、呑み込む。
俺の食事を眺めていたふたりは、その場で逃げ出すこともなく、ただ唖然としていた。
構わずに俺はモンスターをガツガツと貪り食った。
骨にこびり付いた肉を舌でそぎ落とし、噛み砕いて骨髄まで味わう。
二人が何かをまくし立てていたが聞いたことのない言語だ。
「レッド、言語の解析をしてくれ」
「あいよ」
レッドアダーが解析を始める傍らで、俺は血まみれになった口元を舐めた。
それから残りの肉を咥えると、怯える二人の足元に置いた。




