生贄の子供か(三人称視点)
24
部屋のドアが勝手に開け放たれ、人影が覗いた瞬間、ジヒョンは悲鳴を漏らした。
「よお、あんたが白道教の教祖さんか」
現れたのは、黒いレザージャケットを着た男だった。
精悍で彫りが深い顔立ちに長身痩躯でシャープな印象を受ける。
指には蛇を象った赤い指輪。
ドアが再び閉まった。
「お、お前はカズヤ・・・・・・」
白い法衣を震わせ、ジヒョンが後ずさった。
「まあ、そんなに怯えなさんな。あんたが大人しくしてくれりゃ、俺も手荒な真似はしないさ。多分な」
一歩ずつ近づいてくるカズヤ、ジヒョンは更に後ずさった。
(こいつは確か23区にいるはずだ・・・・・・)
「俺が指定した取引場所に行かずにここに来たのが不思議だって顔してるな、あんた」
カズヤがジヒョンの双眸を覗き込みながらにじり寄る。
「く、来るなっ」
慌ただしくジヒョンが、懐から三つ目の髑髏と黄色い札──符籍を取り出した。
「それで俺をどうする気だ?」
ジヒョンがカズヤを無視し、早口で呪文を唱える。
それは朝鮮半島のシャーマンである巫堂が使う呪術だ。
「我が恨を込めた呪術を食らえっっ!」
符が激しく燃え盛ると同時に室内には瘴気が溢れ出した。
ジヒョンが握りしめる三つ目の髑髏が呪詛と怨嗟の叫びをけたたましく発する。
髑髏の三つの眼窩からは黒い霧が絶え間なく噴き出し、部屋中を満たした。
「ふははっ、黒霧と瘴気に飲まれて腐り果てるが良いわっ」
哄笑するジヒョンを無言で見ていたカズヤは、プラズマの鞭を振るった。
髑髏を持ったジヒョンの右腕が宙を舞う。
カズヤはそのまま髑髏をキャッチした。
「悪くないな、この呪物。貰っておくぞ」
途端にジヒョンは襲い掛かる激痛に絶叫した。
「わ、わしの腕がァァッ」
残った左腕で炭化した傷口を押さえながら、ジヒョンは絨毯の上で転がりまわった。
肥えた身体をバウンドさせ、ジヒョンが大声でわめき散らす。
「他にも何か面白そうなもん持ってそうだな、お前」
カズヤが髑髏を無造作に弄びながら、ジヒョンを見下ろした。
のたうち回るジヒョンの胸元を踏みつける。
鈍い音がした。
ジヒョンの肋骨の軋む音だ。
「教祖さんよ、お前には色々と聞きたいことがある。素直に白状すりゃ、楽に殺してやるよ。どうだ、悪くない取引だろう?」
カズヤが踏みつける足にゆっくりと力を込めた。
肺の中の空気が強制的に押し出され、ジヒョンの口元から掠れた音が漏れる。
「がは・・・・・・・ッ」
(あ、悪魔、こやつは悪魔じゃ・・・・・・っ)
「まずは高崎家にいた俺と同じ顔の奴だ。直感で俺は高崎家の身内だとわかったが」
「し、知らんっ、高崎家にはお前と同じ顔の奴はおらんっ」
「次は左腕を切り落とすか」
「ほ、本当じゃっ、高崎家には隠し子がいたがお前とは似ても似つかぬっ」
「お前ら、そいつを生贄に捧げたのか?」
レッドアダーがジヒョンに問いかけた。
「ふん・・・・・・生贄の儀式くらい、他の教団でもやっておるじゃろうが・・・・・・」
「つまり、俺が見たのはその隠し子の残留思念か。偶然か、それとも見せられたのか」
カズヤが考え込みながらジヒョンの鼻先に髑髏を突きつけた。
髑髏の眼窩から溢れる黒い霧が、ジヒョンの顔の皮膚を青黒く腐敗させていく。
「や、やめてくれっ」
恐怖に低く悲鳴を漏らしたジヒョン──法衣の裾が濡れていた。
失禁したのだ。
「このまま生き腐りたくなけりゃ、洗いざらい吐けよ。ああ、嘘はつくんじゃねえぞ。そん時はお前を生きたまま、一寸刻み五分刻みにするからな」
「わ・・・・・・わかった、全て話す・・・・・・だからその呪物をどけてくれっ」
25
ジヒョンの話を要約すると、高崎家は血縁者を供物として捧げる代わりに金と地位を手に入れていたようだ。
生贄は直系血族の少年少女、年齢は13歳から16歳ほどが一番良いらしい。
そして高崎家は生贄用に私生児を作っていた。
その私生児を白道教が祭る鬼神に捧げることで利益を得る。
典型的な生贄信仰だ。
新羅時代の朝鮮半島では、聖徳大王神鐘を鋳造する際に少女を生きたまま溶けた銅に投げ込んで生贄にした。
宋の時代の中国では、湖南辺りで鬼神に人間の生きた肝を供物として奉じる殺人祭鬼が流行った。
そして魔術と科学が融合した現代では、これらの古代の儀式が復活を遂げた。
「現世利益を追い求めるのは良いが、死後の意識は恨みの渦に呑み込まれるな、こいつら」
「まあ、本人たちが納得してるなら構わないだろうさ」
レッドがジヒョンをせせら笑う。
「それじゃあ次は三木家との繋がり、それとあんたの所有してる資産とアーティファクトを差し出せ、ああ、安心しろよ。全部とは言わんさ」




