56. 混迷する仲間たち
(混迷する仲間たち)
話は尽きないようで、道の人通りも無くなってきた。そろそろ閉店にしよう……
姉貴は酔ったのか、うつろな眼差しで、言葉もなく夕顔さんを見ていた。
「僕が、店を撤収するから、夕顔さんはお姉ちゃんを実家まで送てくれる?」
「……、そうね……、いいわ……」
夏子は、いつの間にか昼顔さんに抱かれて眠っていた。
「昼顔さん、ひと足先に帰っていいから、夏子を寝かしてくれる……」
「いいともさ……、……」
姉貴は、立ち上がりながら、少しふらついた……
「なんだか、朝まで飲んでいたい気分よ……」
「明日は、まだ学校があるだろう。また、お休みのときにでも来てよ。お金持って……」
夕顔さんと姉貴は、また森の中に消えていった。
昼顔さんも夏子を起こして、その後に続いて、一緒に歩いて消えていった。
「おいおい、森の中だなんて、どこに帰るんだ!」
拓也が一部始終を見て、不思議がったが、酔っているのか、深くは追求しなかった。
「……、拓也はまだ帰れないぞ!お前、車だから酔いが覚めるまで、テントの撤収を手伝ってもらうよ」
拓也は、昼顔さんたちがいなくなると、だらしなくテーブルの上に頭を乗せた。
「……、寝るな! 風邪ひくぞ……」
「なんだ……、あのお酒、今になって気持ちよくなってきた……」
「バカだなあー、酒らしくなくても、あれだけガバガバ飲めば酔うよ……」
拓也は使い物にならないようなので、自分だけで撤収を始めた。
あらかた車に荷物を放り込んだところで、ガーデンテーブルと椅子と照明だけは残して、拓也の前に座って、持参してきたポットの中のコーヒーをカップに注いだ。拓也の酔いが覚めないうちは帰れないなあ……
「俺もコーヒーくれえー、……」
拓也がやっと起き上がって、眠たそうな顔を向けた。
「……、そいつはいい……、たくさんコーヒー飲んで酔いを覚ませ!」
「何時だ……、……」
「11時ごろじゃないか……?」
拓也は、注いでやったコーヒーを渋い顔で一口飲んだ。
「……、昔……、行ったキャンプを思い出すな……」
拓也が目を瞑ったまま黄昏ている。
「いつのキャンプだ……?」
「中学生の時だったかな……、あの時は楽しかったな……、仁もまだいたしな……」
「あいつが一人張り切っていたな……」
「……、小さい頃からアウトドアが好きなんだよ。そう言えば、拓也の工場の中でキャンプしたのが初めてだったな……」
「……、あの段ボールのテントか?」
「テントじゃないよ。段ボールの家だ!」
拓也の工場には、車の修理部品が入っていた子供の背丈ほどある空の段ボールの箱が、山のように置かれているところがあった。
それを勝手に持ち出して、切って開いて、積み上げて家を作った。
「あの時が、一番楽しかったよ……」
幸せそうな顔をする拓也……
「まだ、昔話に花を咲かせて、癒される年じゃないぞ……」
「……、あー、それより、昼顔さんと夕顔さんとはどういう仲だ……?」
酔っても、まだ忘れてはいないようで、説明に困った……
「……、夏子が言っていただろう……、観音菩薩様だ。誰も手が出せない。でも、敬えば幸せをもたらし、あだなせば、罰が当たる……、厄介な人たちだ……」
「そうか……、あんな美しい人が……? 清楚で優しく、美しい……、眠たくなった夏子ちゃんを、ずうっと膝の上に寝かして抱えていたぞ……」
「……、そういう人だ……、でも、男三人を一瞬で木に変えてしまう力を持っている……、バチも大きいぞ!」
「バチが当たってもいいさ……、俺も、あの胸の中に抱かれたい!」
そう言って拓也は、テーブルに顔を付けて、両手でテーブルを抱きしめた。
「……、抱かれたいか……、……」
僕には、夕顔さんも昼顔さんにも抱かれたことがあるんだぞ……、それも裸で……
全世界の男性が羨ましくなることを僕はしている。
それに六畳一間の小さな部屋で、裸で、四人と暮らしている。男にとって夢のような話だが、その夢の先には、何もない……、ただの聖男様なんだぞ……
そういえば、この世界に帰って来てから、夕顔さんのお乳を抱かれて飲んでいないなあ……、と思い出した。
夜の暗闇の中、豆電球の連なる灯りに照らされて、ムラムラする気持ちがお腹の空腹と共に湧き上がってきた。
「……、幸せをもたらすという夕顔様、僕は……、幸せ者ですか……? それとも、地獄の入り口に立っているのでしょうか?」
拓也を見るとテーブルを抱きしめたまま眠っているようだ……
「おい! 起きろ……、車で送っていくから帰ろう……」
「……、俺の車は……?」
「あんなボロ車、誰も持って行かないよ」
拓也を乗せて四〇分、〇時を過ぎたとあって、道は空いていた。
拓也を送ってから実家に寄ろうとも思ったが、それよりも早く夕顔さんに会いたかった。
夜は夕顔さんの世界……
例え、契りは結ばれなくても、拓也が言うように、あの柔らかい肌に抱かれたい。癒され眠りたい……
六畳一間の部屋に帰ると、夕顔さんは、いなかった。
ベッドには、昼顔さんと夏子が裸で寝ていた。
「……、そうか……、夕顔さんは、実家で姉貴と寝ているんだ……」
燃える心は、夏子の寝顔と共に消えていった。
「……、そうだ、まだ寝てはいられない……」
引越し荷物の段ボールからプリンターとラミネート機を出した。
これで、店長時代、幾つものポップや案内広告を作った。
「これで、占い看板を作ろう……」
パソコンを前にして、看板の文句を考えるが、拓也が言っていたように難しい。
「……、……、人生占い、健康占い、恋愛占い……」
分からないから、一つ一つ作って、ぜんぶプリントしよう。
「サブタイトルは、あなたの悩み事、解決します……」
そんなに簡単に解決できたら、悩まないか?
「あなたの悩み事の相談を受けます」
これを付けて、プリントした。
午前四時……、やっと眠れると思ったら、まだ仕込みがしていない……
「……、朝になってからやろう……、夜も営業する事で心身共に疲れてしまったか……?」
そのまま、服を着たまま自分の布団になだれ込んだ。




