↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

56. 混迷する仲間たち

(混迷する仲間たち)


 話は尽きないようで、道の人通りも無くなってきた。そろそろ閉店にしよう……

 姉貴は酔ったのか、うつろな眼差しで、言葉もなく夕顔さんを見ていた。

「僕が、店を撤収するから、夕顔さんはお姉ちゃんを実家まで送てくれる?」

「……、そうね……、いいわ……」

 夏子は、いつの間にか昼顔さんに抱かれて眠っていた。

「昼顔さん、ひと足先に帰っていいから、夏子を寝かしてくれる……」

「いいともさ……、……」

 姉貴は、立ち上がりながら、少しふらついた……

「なんだか、朝まで飲んでいたい気分よ……」

「明日は、まだ学校があるだろう。また、お休みのときにでも来てよ。お金持って……」

 夕顔さんと姉貴は、また森の中に消えていった。

 昼顔さんも夏子を起こして、その後に続いて、一緒に歩いて消えていった。


「おいおい、森の中だなんて、どこに帰るんだ!」

 拓也が一部始終を見て、不思議がったが、酔っているのか、深くは追求しなかった。

「……、拓也はまだ帰れないぞ!お前、車だから酔いが覚めるまで、テントの撤収を手伝ってもらうよ」

 拓也は、昼顔さんたちがいなくなると、だらしなくテーブルの上に頭を乗せた。

「……、寝るな! 風邪ひくぞ……」

「なんだ……、あのお酒、今になって気持ちよくなってきた……」

「バカだなあー、酒らしくなくても、あれだけガバガバ飲めば酔うよ……」

 拓也は使い物にならないようなので、自分だけで撤収を始めた。

 あらかた車に荷物を放り込んだところで、ガーデンテーブルと椅子と照明だけは残して、拓也の前に座って、持参してきたポットの中のコーヒーをカップに注いだ。拓也の酔いが覚めないうちは帰れないなあ……

「俺もコーヒーくれえー、……」

 拓也がやっと起き上がって、眠たそうな顔を向けた。

「……、そいつはいい……、たくさんコーヒー飲んで酔いを覚ませ!」

「何時だ……、……」

「11時ごろじゃないか……?」

 拓也は、注いでやったコーヒーを渋い顔で一口飲んだ。

「……、昔……、行ったキャンプを思い出すな……」

 拓也が目を瞑ったまま黄昏ている。

「いつのキャンプだ……?」

「中学生の時だったかな……、あの時は楽しかったな……、仁もまだいたしな……」

「あいつが一人張り切っていたな……」

「……、小さい頃からアウトドアが好きなんだよ。そう言えば、拓也の工場の中でキャンプしたのが初めてだったな……」

「……、あの段ボールのテントか?」

「テントじゃないよ。段ボールの家だ!」

 拓也の工場には、車の修理部品が入っていた子供の背丈ほどある空の段ボールの箱が、山のように置かれているところがあった。

 それを勝手に持ち出して、切って開いて、積み上げて家を作った。

「あの時が、一番楽しかったよ……」

 幸せそうな顔をする拓也……

「まだ、昔話に花を咲かせて、癒される年じゃないぞ……」

「……、あー、それより、昼顔さんと夕顔さんとはどういう仲だ……?」

 酔っても、まだ忘れてはいないようで、説明に困った……

「……、夏子が言っていただろう……、観音菩薩様だ。誰も手が出せない。でも、敬えば幸せをもたらし、あだなせば、罰(バチ)が当たる……、厄介な人たちだ……」

「そうか……、あんな美しい人が……? 清楚で優しく、美しい……、眠たくなった夏子ちゃんを、ずうっと膝の上に寝かして抱えていたぞ……」

「……、そういう人だ……、でも、男三人を一瞬で木に変えてしまう力を持っている……、バチも大きいぞ!」

「バチが当たってもいいさ……、俺も、あの胸の中に抱かれたい!」

 そう言って拓也は、テーブルに顔を付けて、両手でテーブルを抱きしめた。

「……、抱かれたいか……、……」

 僕には、夕顔さんも昼顔さんにも抱かれたことがあるんだぞ……、それも裸で……

 全世界の男性が羨ましくなることを僕はしている。

 それに六畳一間の小さな部屋で、裸で、四人と暮らしている。男にとって夢のような話だが、その夢の先には、何もない……、ただの聖男(せいなん)様なんだぞ……

 そういえば、この世界に帰って来てから、夕顔さんのお乳を抱かれて飲んでいないなあ……、と思い出した。

 夜の暗闇の中、豆電球の連なる灯りに照らされて、ムラムラする気持ちがお腹の空腹と共に湧き上がってきた。

「……、幸せをもたらすという夕顔様、僕は……、幸せ者ですか……? それとも、地獄の入り口に立っているのでしょうか?」


 拓也を見るとテーブルを抱きしめたまま眠っているようだ……

「おい! 起きろ……、車で送っていくから帰ろう……」

「……、俺の車は……?」

「あんなボロ車、誰も持って行かないよ」


 拓也を乗せて四〇分、〇時を過ぎたとあって、道は空いていた。

 拓也を送ってから実家に寄ろうとも思ったが、それよりも早く夕顔さんに会いたかった。

 夜は夕顔さんの世界……

 例え、契りは結ばれなくても、拓也が言うように、あの柔らかい肌に抱かれたい。癒され眠りたい……


 六畳一間の部屋に帰ると、夕顔さんは、いなかった。

 ベッドには、昼顔さんと夏子が裸で寝ていた。

「……、そうか……、夕顔さんは、実家で姉貴と寝ているんだ……」

 燃える心は、夏子の寝顔と共に消えていった。

「……、そうだ、まだ寝てはいられない……」

 引越し荷物の段ボールからプリンターとラミネート機を出した。

 これで、店長時代、幾つものポップや案内広告を作った。

「これで、占い看板を作ろう……」

 パソコンを前にして、看板の文句を考えるが、拓也が言っていたように難しい。

「……、……、人生占い、健康占い、恋愛占い……」

 分からないから、一つ一つ作って、ぜんぶプリントしよう。

「サブタイトルは、あなたの悩み事、解決します……」

 そんなに簡単に解決できたら、悩まないか?

「あなたの悩み事の相談を受けます」

 これを付けて、プリントした。


 午前四時……、やっと眠れると思ったら、まだ仕込みがしていない……

「……、朝になってからやろう……、夜も営業する事で心身共に疲れてしまったか……?」

 そのまま、服を着たまま自分の布団になだれ込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。