57. 集まった老人たち
(集まった老人たち)
朝になって、夏子に起こされた。
「ととさん、服を着たまま寝てはダメよ! 私が脱がしてあげるわ……」
「……、ととさんはいいよ……、裸では寝ないんだよ……、それに、店の仕込みをしないと……、もう起きるよ……」
まだ寝足りないぼやけた意識の中で、夏子の声が遠くに聞こえる……
「仕込みは、かかさんがやっているよ……、ととさんは疲れているから寝かしておけってさ」
その言葉に驚いて眠気まなこで、そっとキッチンを覗くと、裸の昼顔さんが、タコを包丁で刻んでいた。
「ありがとうございます……、こうして見ていると僕の奥さんみたいですね……」
「そうかい……、よく寝ていたからね……、朝ご飯も作っておいたよ、嬉しいだろう!」
「はい、僕の奥さんになってもらえませんか?」
「……、それで、赤子をボロボロ作るのかい……?」
「はい、もちろん、夫婦ですから……」
「それは、いいね……、じゃあ、早速今夜から始めよう……」
「……、今夜って……、夜は昼顔さんは寝ているじゃあないですか?」
「いいさあ、寝ていても赤子はできるさ!」
「……、そういう事ですね……」
昼顔さんは、いつも嬉しいことを言ってくれるが、その結末は、お日様が西から昇るようなことばかりだ。分かってはいるもののワクワクしてしまう。
午前九時……、まだ寝足りないが部屋を出た。
夕顔さんは、まだ帰って来ていなかった。実家に住み着くつもりなのか……?
空き地は、寒々としていた。拓也の軽トラが一台そのままになっている。
店の設営をしているとタクシーから見たことのある老人が駆け寄ってきた。でも、僕ではなくタープテントを立てている昼顔さんのところに行った。
「やー、先日はありがとう……! 自分でも体の調子が、いつもと違うので気になっていたんだ。それで、あんたに言われて決心がついて病院に行った。やっぱり初期の癌だったようだ。昨日、急ぎで連絡があった。今から検査入院と多分手術になると思う。今日、会えて良かった。一言お礼が言いたかった……」
昼顔さんは、笑うこともなく澄まして言った。
「そいつは良かった……、あんた、良くなるよ。退院したら、また、たこ焼き食べにきておくれ……」
「私たち、占いの店をやるのよ!」
夏子が嬉しそうに老人に言った。
「……、本当かい! じゃあ占い料を払わなくてはいけないね……」
「そいつは要らないよ! また来ておくれ……、タクシーが待ってるだろう。早く行きな……」
老人は急いで戻っていった。
「……、かかさん、いい事したね……」
「あんな事、お安いご用だけど、老人にとっていいことなのか? ほっといて早く死んだほうが幸せかもしれないよ……、一人暮らしの寂しい老人だ。生きているほうが辛いときもあるから……」
「……、でも、かかさん、あんなに喜んでいたから、良かったのよ!」
人の幸せも、不幸も外から見ていてはわからない。幸せも不幸も隣り合わせに存在していて、どちらを選ぶかは、本人次第なのかもしれない。
僕は、昼顔さんと夕顔さんと夏子と、三人の美女に囲まれて幸せなのか? 今の自分を考えて、きっと幸せ側にいるだろうと無理やり納得させる。
店を開けると同時に六人くらいの老人たちがやってきた。
「川口の爺さんに言われてきたんだよ。たこ焼き六人前頼むよ……」
ガーデンテーブルに六人か? 椅子が足りない……
「……、ヨシさん!グラウンドゴルフに使った時の折りたたみの椅子があるだろう。持って来てくれ……」
「老人をこき使うなあ……、……」
「ヨシさん家が、一番近いからさ」
ヨシさんは、渋々戻っていった。
夏子は、自分の椅子を立っていた老人に差し出した。
「……、ありがとう、優しい子だね……」
「私に椅子はいらないわ。仕事しているから……」
そして、六人前のたこ焼きをテーブルに並べた。
老人は、僕に話しかけているのか、少し大きな声で周りの四人を巻き込んで喋っている。
「川口の爺さんとは幼馴染で、ここにいる連中もそうだが……、昔、ここの寺でよく遊んだもんだ。いつのまにか取り壊されて、いい広場になったから老人会でグランドゴルフなんかして活用していたんだが、どこかの開発業社が買い取ったとかで、俺たちは締め出されてしまった……、あれ以来どうなったか? 開発は進んでいないようだな……」
隣の老人も、それを受けて話し出した。
「……、あの森だよ……、原生林で東京大空襲にも、関東大震災の火災にも焼けずに残っている貴重な存在だそうだ……」
「でも、子供の頃は怖かったけどな……、意外と広くて迷子になったら出られそうになかったなあ……」
「誰だったか、夏にあの森に入って肝だめしをしようと言った奴がいただろう……?」
「お前だ……!」
「……、あ、俺かー、みんなが賛成しなくて良かったよ。一番ビビっていたのは、俺だからな……、大体、昼間でも怖くて入れないものを夜だなんて、とんでもないことだからな……」
「当たり前だ!」
老人たちは、懐かしい話に苦笑いする者、大笑いする者、和やか歓談が進む。そんな時、話が僕に向けられた。
「あんちゃん、よくここで店が出せたね……?」
「いきさつは、わかりませんが、空いている土地だから格安で自由に使っていいと言われましたけど……、太っ腹の地主さんじゃあないですか?」
「……、今、思い出したけど、確か裁判所中じゃなかったかな……?」
「そうそう、区と揉めているんじゃあなかったかな?」
「そうだそうだ、そんな事をテレビでもやっていた。もともと区が買い取って、商業施設かマンションを作る予定で売却したが、自然保護団体が森を伐採できないとか言い出して、環境保護団体も加わって抗議して、区議会でも揉めて、その話が報道関係に流れてしまって、土地を買った業者が企業イメージが悪くなったとか、話が違うとか言って、損害賠償を含めて、もう一度区に買い取るように裁判しているところだ」
「……、いつの話だ……、まだ揉めているのか?」
「そんな感じだなあ……」
「その話……、確か川口の爺さんが、この森を残して区の公園にしようと区議会に働きかけているそうだ」
「……、そんな話は聞いていないけど公園にしてもらえれば嬉しいねえ」
「……、それはないだろう! これだけの土地を遊ばせておくほど善人はいないよ! みんな欲の皮が突っ張っている奴ばかりだ……」
椅子を持ってきたヨシさんも話に加わり、賑やかな老人会の集まりになった。




