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54. 六畳一間の小さな部屋

(六畳一間の小さな部屋)


 日暮と共に店を撤収して帰ってきた。

 あまり売れなかった材料は冷蔵庫にしまった。

 玄関前のキッチンスペースから狭い6畳の部屋を眺めると、朝から敷きっぱなしの布団が足の踏み場もなく散らかっていた。

 朝、夕顔さんがまだベッドで寝ていたので、起こしてはいけないと、そのままにして静かに部屋を出たのだった。

「かかさん、お乳、お乳……、……」

 ベッドで寝ていた夕顔さんは、僕たちが帰ってきたことで、起き上がって裸でベッドに座っていた。

「お帰りなさい……」

 そこに夏子は、夕顔かかさんのお乳にすがりついた。

 昼顔さんは早速、散らかった布団の上で、更に服を脱ぎ散らかして、お風呂場に消えた。

 乱雑な部屋は、ベッドの横の床に昼顔さんが寝ていた布団があり、僕の布団は昼顔さんの足元にベッドを避けるように直角に横向きに引かれていた。

 こんな六畳一間の部屋で、美しい女の人が二人、裸で僕の傍にいる。疲れて帰ってきたからかもしれない。裸の女の人も見慣れてしまうと何も感じなくなってしまうのか……、それとも娘夏子が傍にいるせいなのか……

 僕もそろそろ人間を超えてきたような気がする。

「……、夏子の父親で、聖地蔵菩薩様だ……」

 一人、この状況を見て笑った。

 僕は、足元の朝まで寝ていた布団の上に服のまま寝転がった。

 実家のたこ焼き屋は、両親と僕を含めて、三人でまわしていた。でも、今は一人で、朝から晩まで店にいなければならない。三倍、疲れたような気がする。


「かかさん、私、昼顔かかさんと占いの店をやろうと思うのよ!たこ焼きはあまり売れないから……」

 おいおい夏子、たこ焼きだって、これから売れるようになるよ……、心の中で反論した。

「そう……、良かったわね……、じゃあ、私はお酒を売るお店をするわ……」

「でも、かかさん、昼間起きていられないじゃん?」

「お酒は、夜から飲むものよ……」

 夕顔さんが夏子を抱きながら、嬉しそうに言う。

 みんな、勝手なことばかり言ってくれる……

 でも、夜もお店を開いていたいと言うのは、僕もそう思っている。

 こういうことは、北条拓也に頼むことが一番だ。

 僕は寝ながらポケットのスマホを出して電話した。

「拓也、たくちゃん、拓也様……、……」

「なんだ……、頼み事か?」

「……、よくわかるね」

「もういい、早く言ってみろ!」

「夜も店を開きたいんだ。照明を頼みたいんだ……」

「夜もやるのか? それはいいなあー、夜なら俺も行ける……」

「それは、ありがたい……、それで探してくれる?」

「……、照明か……? そんなに広い範囲でなくていいんだろう……?」

「屋台の周りだけでいいよ……、でも、繁盛するような物にしてくれよ」

「……、どういう物だ! でも、それなら一揃いあるぜー! うちの倉庫に……」

「本当にか……、貸してくれるのか?」

「貸してやるよ!悪友の頼みだ……、お前も知っている物だ。昔、毎年キャンプに行っていただろう。その時の照明だ」

「……、あ、あれか! あの豆電球のいっぱい付いたコードの照明か?」

「クリスマスのイルミネーションみたいで綺麗だっただろう……」

「あれが、まだあるのか……?」

「そうだ、お前が東京に行ってから、キャンプも行かなくなったからな……」

「仁はどうしているんだ……?」

「中田仁か? あいつも松本に行ったっきり帰ってこないよ」

「気楽なやつだ……、……」

「お前と一緒だよ!」

「あ、ははは、タクちゃんは地元で頑張っているねえー」

「……、行くところがないだけだよ!」

「それよりも、キャンプ道具があるなら、あのテント型タープもあるのか?」

「……、倉庫に眠っているよ!」

「ついでに貸してくれないか? それとテーブルも……」

「タープテントも使うのか?」

「タープテントも使って業務拡大だ! 外から見て賑やかな方がいいだろう……」

「そうかもしれないが、準備と撤収に時間がかかるぞ……」

「……、手伝ってくれる……?」

「アホぬかせ……」


 翌日、お昼頃になって拓也が道具を一式軽トラックに乗せて空き地に持ってきてくれた。

「よーお、頑張っているなあー!」

「……、頑張ってないよ……、相変わらずお客が来ない……」

「なに言ってんだよ! まだ二日目だろう……」

 拓也は、ひょうきんに笑って冷やかす。

「……、拓也さん、私たち占いの店を出すのよ」

「そのためのタープテントかな? テーブルも持ってきたよ! でも、占いの道具はないよ……」

「……、そんな物は要らないわ……、昼顔かかさんは、何でも分かる観音菩薩様だから……」

「だれ!この美しい女性は……? 蒼の奥さんか?」

「そうよ!私のかかさんよ!」

「残念ながら、違うよ……」

 僕は、慌てて会話の中に入って否定した。

「でも、夏子にとっては母親どうぜんだけどねえ……」

「いったい全体どういう仲だ……」

 拓也が驚いて引き攣った顔を僕に向けた。

「そんなことより、テントの設営をしないと……、手伝ってくれる?」

「そんな事でごまかして、後できっちり話してもらうからな!」


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