53. 小さなお店
(小さなお店)
秋も深まり、肌寒さを感じる今日この頃、森の手前の空き地にお店を出した。
キッチンカーといっても、車の中で調理できるほどの大きな車ではなく、軽トラックの荷台からテントを地面に下ろして、テントの中で調理する形の半分キッチンカーだ。設営する手間はかかるが、たこ焼きの場合はこれがいいと勧められた。フルキッチンカーに比べて値段も安い。
早速公園で店を開いたが、車道では、それなりに車は行き来するが、歩道では人通りが少ない。
ここは私有地で公園といっても雑木林の近くにベンチが点々として置いてあるだけだ。後は何もない。
公園といっても、森の中のただの空き地だ。
他のキッチンカーすら出ていない。
夏子と昼顔さんが手伝いについて来てくれたが、お客がいない。と言うよりも人がいない。
「……、暇な店だなあー」
店の前に置いたプラスチックのガーデンチェアーに座って昼顔さんが言う。
今は公園の前の歩道ですら人通りがなく、原宿、渋谷とは大違いだ。
それでも、11時ごろになると、お出かけの主婦と散歩の老人が道を歩く姿が見えた。
その中の一人の老人が店に立ち寄った。
「珍しいなあー、……、こんなところでたこ焼きか?一つもらおうか……」
「……、今日が初日なんです。勝手がわからないままやっています。広くて、こんないい場所はないと思ったのですが、お客が来なくて……」
「ここらは、古くからの住宅街だから、お店は馴染まないんだよ。もっと商店街のいい場所があるだろう」
「まだこの商売、よくわからなくて、場所代が安いところと探して、ここを教えてもらったんです」
「確かに何も無い空き地だからなあー」
「でも、いくつかのイベントも紹介してもらいましたから、土日はそちらに行きます」
「それは良かった。もともとここはお寺があってね、いつの間にか取り壊されて、商業施設ができる予定だったが、森が邪魔をして棚上げ状態だそうだ」
「……、ええ、そんなことを聞いています」
「このままにしてもらえれば、老人たちのよい憩いの場だけどね……」
老人は、昼顔さんの横に置いてあったガーデンチェアーに座った。
「……、美味しいかい?」と、昼顔さんが老人に尋ねた。
「あー、醤油味もさっぱりしていていいもんだな」
「あんた、病気だねえー、医者に行ったほうがいいなあ……」
「そんな事はない……、至って健康だよ」
「でも、食欲が無いんだろう……?」
「老人なんてこんなものだよ……」
その会話を聞いて、夏子がテントを飛び出して、老人の前の椅子に座った。
「お爺さん、昼顔かかさんが病気っていうなら、病気だよ。早く病院に行った方がいいよ。それで、またたこ焼き買いに来てよ!」
「お嬢ちゃん、この人、お医者さんかい?」
「……、お医者さんよりもっと確かな観音菩薩様よ」
「本当だ、確かに観音菩薩様だ!」
老人は笑顔で昼顔さんを見ながら言った。
「じゃあ、もう一つたこ焼きをもらおうか……、今度はソースで、お嬢ちゃん持ってきてくれるかい」
「お爺ちゃん、ありがとう! お茶も欲しいんじゃない?」
「あるのかね……?」
「あるわよ! でも、売り物じゃあないけどね。私たちが飲むお茶よ。よければあげるわ」
「それは、ありがたいもらうよ!」
お爺さんは、たこ焼き二つとお茶を飲んで、千年円札を置いて帰って行った。
「お釣りは要らないから……」
老人と入れ替わりに、サラリーマン風の紳士が昼顔さんの前にきた。
「ちょっと、さっき小耳に入ったんですけど、観音菩薩様とか?」
「……、あたしゃ、昼顔だよ。あんたも悩みがあるのかね」
「悩みといえば、悩みなんですが、いい物件が三件ありまして、そのうちの一件を買おうと思っているんですが、なかなか決められないのです。三件とも申し分のない物件なんです。一度占ってもらえませんか?」
「あんた、勘違いしているよ。ここはたこ焼き屋だ。占いは、よそでしてもらいな……」
「じゃあー、私もたこ焼き二つください!」
「じょうがないねえ……、夏子、持ってきておやり、お茶もつけてね!」
「……、わかった!」
「その鞄の中に入っているだろう……、見せてみな!」
夏子がたこ焼きを持って行くと、呆れた昼顔さんの声がした。
「馬鹿だなあー、これは、みんな詐欺だよ……」
「みんなって、三件ともですか? でも、これは別々の会社の物件ですが……?」
「あんた、狙われているんだよ。よっぽどの資産家だねえ……」
「何で、何で分かるんですか?」
「……、あんたがいったんだ。 占えってねえ……」
「でも、よくみないでいい加減なことを言われても……」
「信じる信じないは、あんたの勝手だが、この件、警察に届けると喜ぶよ! 大きな地面師グループだ」
紳士のお客も千円札を置いて帰って行った。
夏子は、嬉しそうに昼顔さんの横の椅子に座った。
「かかさん、占いをしようよ!ここは、たこ焼きより悩めるお客の方が多そうだよ」
「……、そんなことをしていていいのかね? 人の人生を狂わせそうだよ……」
「でも、占いだから、信じる信じないはお客の勝手だから……、いいんじゃあないの? 今みたいに世の中の役に立っているよ!」
「あの男が警察に行けばね……」
午後からは、物珍しさも手伝って、子供たち、学生、主婦など、午前中よりも多くのお客さんが来てくれた。
でも、10月は暮れるのが早く、照明設備のない屋台では、5時ごろから閉店準備を始めなければならない。金曜日までは、ここで頑張ろうと思っている。
「照明か……? もう少し遅くまで営業したいなあー、そうすれば、通勤帰りのお客さんが来てくれる。早速考慮しよう!」




