52. 都会の風
(都会の風)
刑事が来た、その次の日……
「よおー、久しぶり……、いつ帰ってきたんだ?」
幼馴染で親友と呼べるかどうかは分からないが、北条拓也が午後店に来た。
昨日の夜、久しぶりに電話をして、帰って来たこととキッチンカーを探してもらうことを頼んだ。
「昨日話しただろう、もう一か月くらいいるよ。お前なあー、たまにはたこ焼き買いにこいよ!」
「買いに来ているさー、この前来た時は、お前、行方不明だとか、母親が言っていたぞ! 生きていたんだなあー」
「勝手に殺すなあー、それより、電話で話したキッチンカー、手配できるのか?」
拓也は、親の家業を継いで自動車整備会社を営んでいる。いわゆる、モータースだ。
「あー、知り合いに扱っている店があるから頼んでおいた。中古車でいいんだろう?」
「新車は辛い……、これからお金もいるからなあー」
「……、東京へ行くのか……?」
「なんの因果か、九年間過ごしたアパートが、まだ空室で貸してもらえることになったから、慣れた街の方がいいと思って、またそこで暮らすよ……」
「ここで、親父さんとたこ焼き屋をやればいいじゃないか?」
「三人でやるほど儲かってないよ……」
「嘘こけ! 行列のできるたこ焼き屋じゃないか」
「……、何もかも値上がって、物価高騰でギリギリだよ!」
「それは、うちも同じだ……、週末には、車来るから見に行くか?」
「おー、よろしく頼むよ……」
その時、夏子が店に出てきた。
「ととさん、誰……? 友達だね……、名前は北条拓也……」
「……、あ、あ、蒼の子か……?」
「そういうことだ……」
「……、いつ結婚したんだ……?」
「いろいろ、訳ありで……、……」
「……、そうだよなあー、もう高校生になるのか……?」
「そんなところだ……」
「……、えらいべっぴんさんで、たこ焼きよりも、娘をタレントにして、そのマネージャーで食っていけるぞ……」
「……、拓也さん、それほんと、あたし、テレビに出られるの?」
「……、いや、間違いないよ! 東京へ行ったら、すぐにスカウトに捕まるよ……」
「そんなことは考えてないし、俺が許さんよ!」
「……、そんな昭和の父親みたいなこと言って、今や何処の親も、娘を芸能界デビューさせたくて、躍起になっているのに……」
「俺は昭和の父親で結構だ!」
週末……、キッチンカーを決めた。
納車までは、一週間くらいかかるという。
それに営業許可書も同じくらいかかるので、ついでに出してもらった。
そこの店主は、さすがに色々知っていてイベント広場の情報ももらった。これですぐにでも店が出せる。
「でも、一週間は空いてしまった」
その間にやらなければならない事がある。
以前使っていた東京の引っ越し荷物は、そのままトランクルームに預けてあった。実家では、必要のないものばかりだ。
こんなに早く、また使うとは思っていなかったが、レンタル代もバカにならないから、ちょうど良かった。
丸ごと、宅配の単身引越しパクで東京のアパートへ送ってやった。明日は、アパートに行って荷物の受け取りと整理だ。
後は、気が重いが夏子の戸籍を届けて、東京へ出かけよう。
東京のイベント広場は、森に囲まれた公園だった。
公園といっても私有地で、いずれ商業施設ができると思うが、森が邪魔をしていて、なかなか買い手が付かないようだ。いわゆる、環境保護団体の圧力だろう。
東京は、日本の中心都市といっても意外と森が多い。神宮の森をはじめ、新宿御苑の森に皇居の森、文京区東大の森、至る所に森が目立つ。大都会といっても、その中で自然が潤っている。ただ歩いているだけなら、実家の街と変わらない気がする。
これだけ森が多いと昼顔さんと夕顔さんが出てきそうで怖い。
「……、なんだって……、怖い! よくいうよ、お乳を呑まないと眠れないくせに……」
「昼顔さん、夕顔さん……、どうして来たんですか?」
「お乳、お乳……、……」
夏子が昼顔さんに飛びついてブラウスのボタンを外そうとする。
「夏子、夏子、ここではダメだ!家に帰ってから……」
昼顔さんと夕顔さんは姉貴にもらった服を着ていた。裸で出てこなくて良かった。
「昼顔さん、夕顔さん……、まさか、一部屋しかないアパートに泊まっていこうとは思ってないですよね……」
「そうかい……、泊まっていって欲しいだろう……」
「でも、布団も夏子と二組しかないし……」
「……、二組あればいいだろう、抱き合って寝るのだから……、嬉しいだろう……」
「またそれをいう……」
仕方ないので、布団を一組買ってからアパートに帰った。
「なんだ、ここは……、汚い部屋だなあ……」
「これでも、お風呂とトイレ付きなんですよ」
「……、お風呂があるのか?」
「じゃあ、早速入れてもらおう!」
「……、私は、寝かしてもらうわ……」
夕顔さんは、その場で服を脱ぎ出した。
僕は、慌てて買ってきたばかりの圧縮されたビニール袋を破って、ベッドの上に布団を引いた。
「お乳、お乳……、……」
夏子も裸になって夕顔さんの布団の中に入っていった。
振り返ると昼顔さんが裸で立っていた。
「昼顔さん、まだお風呂のお湯を入れてないですよ」
「お前も相変わらず忙しいなあー、手伝ってやろう……」
「……、本当ですか?」
「お風呂くらい自分で沸かすよ。でも、ぬるいけどな……」
昼顔さんは、そのままお風呂場に入って行った。
これで、本当にこの小さな部屋で四人で暮らしていくのかと想像して、嬉しいやら、辛い思いやら複雑な思考で疲れ果ててしまって、その場に座り込んだ。
「……、まだ、晩ご飯の支度をしなければ……」
実家では母の恩恵で、何もしなくてもご飯が食べれた。ここでは、僕がしなければ、生きていけない」
「奥さん、探そうかな……?」
でも、この状態では、誰もきてくれないだろう。




