51. 刑事と朝子
(刑事と朝子)
その日の夜……
夕方のニュースで大学生三人が繁華街の歩道の隅で立ったまま意識がなく、また外傷もなく、そのまま救急車で病院に運ばれたと報道された。
この事を通報した通行人の証言では、まるで立ったまま眠っているようだったという。
揺すって、叩いて起こそうとしたが、反応がなかったので、不審に思い警察に連絡したという。
このニュースを見て、すぐに昼顔さんの仕業だと思った。
運の悪いことに、大学生の三人も若気の至か、軽い気持ちで昼顔さんにでも声を掛けようとしたのだろう。
でも、こちらにしても、いい迷惑で、昼顔さんにも夕顔さんにも、まだこの家にいて欲しかったが、警察が来る前に山に帰ってもらった。
案の定、次の日の夕方に刑事が店に来た。
「お姉さんは、いますか?」
もう既に全てを調べ尽くしている口調で、この刑事は、朝子のことをお姉さんと呼んだ。
僕は、姉貴を呼んだ。
「防犯カメラからの写真ですが、皆さんとすれ違い間際で彼らが道を開ける感じで、歩道の隅に寄ったところで動かなくなったんですよ。何か事情をご存知ですか?」
姉貴は、笑顔でにこやかに刑事と接した。
「……、さあー、よく覚えていませんが、すれ違った人は何人もいましたし、ここは繁華街ですので……、でも、写真を見ると私たちですね。ちょうど子供達を家に送り届ける途中だと思います」
「何か変わったことはありませんでしたか?」
「……、いつもと変わりない商店街でした……」
「皆さんとすれ違った直後というより、その前から歩道の隅に寄って道を開けてから動かなくなっているんですよ……?」
「私たちが何かをしたとでも言いたいんですか?」
姉貴は大きく笑って見せた。
「……、私たちが魔法を掛けたとか……」
更に、大きく笑って見せた。
刑事は言葉を失った。
「もう一人の女の人はどういう人ですか?」
「彼女は私の友人で、たまに遊びにきます。彼女も子供たちを送ってから、山に帰りました。山の上のお寺の巫女さんなんです。巫女さんというと可笑しいですが、寺娘ですね。古い古いお寺なので、神仏融合時代から続いているお寺だそうです……、彼女が呪いを掛けたとでも思っていますか?」
「いえ、そんなことは思っていませんが、この事件の一番近くにいた人なので、お話を聞きたいと思っています」
「これは、事件ですか……? 事件というより事故……? いえ、単なる病気じゃあないですか?」
「……、三人揃ってですか?」
「そうねえー、じゃあ事故でしょう……、何か雷のような、目に見えないプラズマのようなものが走ったのではないですか? 運悪く三人に当たったんですよ!」
刑事はそれには答えず……
「……、でも、お姉さんの周りで、今回のような不審な事が起こっていますよね。同じ学年担任の有馬先生、まだ入院してるといいます」
「よくご存知ですね。それも私がやったと思っていますね……」
「……、そうは言っていません。ただ、不審なことが続くので……」
「刑事さん、世の中には不思議なことがたくさんあるんですよ。一緒にいた彼女の住所は分かりませんが、場所はよく知っています。写真もありますから、探していってきてください」
姉貴はスマホから写真を出した。刑事はそれをスマホで撮った。
「……、場所は何処ですか?」
「それは、弟の方がよく知っています」
姉貴は僕に振った。
「……、山の上の峠道ですよ。行くんですか?」
「管轄外ですので分かりませんが、住所だけは教えてください」
「さっき、お姉ちゃんが言ったように、住所は分かりません。古い古いお寺なので、登記制度以前の建物なので住所がないと思います。平安時代からのお寺だそうです。税金もかからないので、役人も相手にしてこなかったと思います。
上下水道も電気もガスも電話も、今だにありません。そんなところです……」
「本当に山の上なんですね……」
「千国揚尾根を風吹岳に向かって行けば見えてくると思います。尾根筋の一本道なので迷わないと思いますが、山は高く深いので、遭難の危険はあります。気をつけて行ってきてください」
刑事はそれだけ聞くと、ようやく帰ろうとしていた。
「刑事さん、それで、その大学生は良くなったんですか?」
「……、多分、まだ三人とも意識がなく寝ている状態だと思います。何処にも異常がなく、ただ寝ているだけと医師は言っていました」
「……、早く目を覚ますといいですね……」
姉貴は最後に神妙な言い方で刑事を見送った。




