47. 罪と罰と
(罪と罰と)
朝早く、携帯電話が鳴った……
私は、まだ夕顔さんとベッドの中だった。
「清子先生……、どうしたんですか?」
「大変なことになったわ!ショウジとオサムが病院を抜け出して、警察に自首したとかで、児童相談所から連絡があったのよ……」
「ショウジとオサム、入院していたの?」
「昨日の深夜……、親が迎えに行って、また病院に戻ったみたいだけど……、今日の朝、児童相談所の相談員の人が病院に事情を聞きに行くって、学校にも連絡があったのよ」
「……、それで、私は何をすればいいの?」
「とりあえずは、何もないけど、病院には校長が行くって言っていたから……」
「有馬先生は、どうしたのよ……?」
「校長の話だと入院しているみたいよ」
「何、それ、皆んな入院って、インフルエンザ?」
「……、知らないわよ! とりあえず報告……、多分、学校にも相談員の人が来るから、対応をお願いね!」
「え、え、何で私が……?」
「相談所の人と仲いいでしょう……」
「……、もう、分かったわ。じゃあ、学校でね……」
私は携帯電話を置くと、寝返りをして、背中を向けていた夕顔さんを抱きしめた。
普通は小学生が自首するなんて聞いたことがない。
よっぽど辛かったんだろうと想像した。
確か、なっちゃんが閻魔様に言い付けたと言っていた。その結果がこれなのか?
「……、夕顔さん、閻魔様って知っている。知り合いなの?」
私は、夕顔さんの背中に訊いた。
夕顔さんは、寝返りをして、私を胸元に引き寄せ、足を絡ませてきた。
「……、閻魔様は、どこかに居るものではないわ……、人の心の中にいる良心のことよ……、自分自身の良心に逆らっていれば、地獄に落ちるし、従っていれば極楽浄土、貴方たちがいう天国ね……」
「ジョウジもオサムも、自分の良心に従って自首したのね……」
「……、そう言うことね」
でも、ショウジとオサムはどうなるのだろう?
警察に自首しても、小学生など相手にしてくれない。児童相談所が入って注意されるくらいだ。
でも、親御さんは大変だ……、それに私も……
朝、着替えて居間に下りると蒼ちゃんが、リュックを出していた。
「……、もう、行っちゃうの……?」
「そう……、和子ちゃんも帰ったしね……、早く帰らないと、夏子が中学生になってしまうから……、あまり人の目にさらしたくないと思って……」
「……、電話でもあればいいのに……」
「それは無理だ……、許されるなら、また来るよ」
「……、そうね……、待っているわ……」
気の思い朝食を食べて学校へ出かけた。
職員室に入ると、すでに清子先生は出勤していた。
「……、早いわね……、それで、どうなったの?」
「大事見たいよ……、病院ではなく、学校で話し合うことになったみたい……、お母さんたちは、もう校長室に来ているわ」
「早いわね……、でも、子供たちは、まだ入院しているんでしょう……?」
「……、子供たちは転校するみたいよ」
「三人とも……、……、でも、恐喝、いじめはどうなったの?」
「自首したくらいだから、捜査することもなく、足立和子ちゃんのお母さんも、多額の現金を渡したことを反省していたわ……、それで取ったお金を返して、事件にしないそうよ。示談ってことね。今、相談員が来るのを待っているみたい」
「じゃあ、私が出る幕もなく、一件落着、円満解決ね……」
「……、そんな感じね……」
それで良かったのか、どうかは知らないが、足立和子ちゃんは教室に戻り、代わりに三人の席が空いていた。それに、有馬先生は今だに出勤してこない。
慌ただし一週間も終わり、月曜日からは、体育の専科教員の立花先生が六年一組を受け持ってくれるという。それに音楽の専科教員の林田先生が副担任を務めてくれる。
二学期は、クラスマッチや学習発表会、それに遠足と行事が多くて忙しい。慣れないためか二人担任にしたようだ。
週末……、土曜日、日曜日と家にいた……
一人のベッドが寂しい……
家の中も広く感じて、秋の深まりも手伝って、やっぱり寂しい……
南向きの蛸壺のような狭い庭に、いつの間にか夕顔の花が咲くようになった。
夕顔さんがいたせいなのか……?
彼女は本当に花の精なのかも知れない。それとも、もののけか?
でも、父が言うには、この花は夜顔だよと教えてくれた。夕顔は夜には萎んでしまうが、夜顔は朝まで咲いていると言う。そして夜明けと共に萎んでいく……
父も母も、庭の夜顔の花に四人を思い浮かべていたに違いない。気の抜けたような寂しさは、私と同じ気持ちなんだ……
月曜日……、放課後……、萌ちゃんと和子ちゃんが職員室の私のところに来た。
「なっちゃんはどうしているの?」
「……、あ、ごめん……、言ってなかったわね……、先週、家に遊びに来た翌日に、地元に帰って行ったわ……、もともとここの土地の子ではないから……」
「え、えー、……、なっちゃん、なんにも言ってくれなかった……」
「そうなのね……、きっと別れが辛くなると思ったのよ……」
「連絡先教えて……、電話するから……、また遊びに来るんでしょう……」
「それが、山奥で携帯も繋がらないようなところなのよ……」
「それって、日本なの……?」
「日本も色々あるのよ……」
「……、じゃあ、手紙書く……」
「そうね……、手紙ならいいかもね。書いたら先生が送ってあげるわ」
入れ替わるように立花先生と林田先生が帰ってきた。
二人は、クラス担任を引き継ぐことと、クラスの状況を聞くために有馬先生の病院に見舞いに行ってきたところだった。
「……、有馬先生は、どうだったの? 話は聞けたの?」
「……、いえ、……、あれは酷い……、近づけないので、廊下から覗いて帰ってきました……、心的外傷後ストレス障害だそうです。病室の隅にうずくまって、体がブルブル震えて、人を寄せ付けないそうです」
隣にいた清子先生も訊いた。
「復帰はできそうなの……?」
「……、どうでしょうか? 長くかかりそうですよ……」
「そう言えば、校長室の話し合いの時、ミツル君のお母さんが、病状をPTSDって言っていたわ……」
「……、いったい六年一組に何があったんでしょう?」
「でも、いじめも恐喝事件も解決したんで、これからはいいクラス見なるわよ!」
清子先生の希望的観測だった。
二人の先生は、そのまま校長室に報告に行った。
私は、大変なことになったと思った。
なっちゃんの言った通り、有馬先生もミツル君んも、それにショウジもオサムも本当に地獄に落ちて苦しんだんだ。そうでなければ、PTSD心的外傷後ストレス障害にはなりえない。
これは全て、なっちゃんがしたこと、閻魔様って誰なんだろう……
夕顔さんは、自分自身の良心だと言った。
でもPTSDだなんて、もう良心を超えている症状よ。
何とかしなければ、二人の人生が終わってしまう。
なっちゃんに会わなければ、それで閻魔様に許してもらわなければ……
週末まで学校に出て、土曜日の朝早く用意していたリュックを背負って、登山靴を履いて、あの公園の森の中に入って行った。山登りは小さい時から家族に連れられて行っていたから蒼ちゃん同様に得意だ。
なっちゃんは、この公園の森が異世界に繋がっていると言っていた。
どうか、なっちゃんに会わせてください……




