44. 閻魔法廷と地獄図
(閻魔法廷と地獄図)
僕は庄司、こんな事になるとは思ってもみなかった。
最初は僕も笑っていた。
「閻魔様に言い付けてやる……」、誰だったかわからない。ただ小さな女の子だった気がする。
でも、その夜に見た夢は、地獄の悪夢だった。
「それでは、開廷します。被告人は、被告席にいますね」
テレビでよく見るような法廷だった。
一段高いところに裁判官の様な人が一人座っていた。
「ちょっと待ってください。被告人とは俺のことですか?」
「貴方しかいないようですが……」
「俺は何も悪いことはしていない……、何の罪だと言うんだ!」
それも、やはりテレビで見た様な裁判官の黒い服をまとっていた。
「……、悪いこと、今まで散々悪い事はしてきたでしょう……、その罪で貴方はここにいるんですよ」
「ちょっと待ってくれ、弁護士を呼んでくれ……、俺は何も悪いことはしていない。証拠はあるのか?一体全体何の法廷だ。俺はまだ小学六年生だぞ!法廷に出される筋合いはない」
「罪を犯す事に年齢は関係ないですよ。五歳でも人を殺せば、地獄行きです」
「……、地獄行き……、笑わせないでくれよ!地獄行きとはなんなんだ! ここは何処だ!」
「貴方は、まだ分かりませんか?ここは閻魔法廷なんですよ」
「閻魔法廷……、そんなのは聞いたことがないよ。バカバカしい……、帰らしてもらう……」
閻魔法廷……、あの黒い服を着た男が閻魔様とでも言うのか? いかつい鬼瓦のような顔をして髭もじゃの大男というのがイメージだ。
でも、この男は普通の若いサラリーマンの裁判官に見える。
「お待ちなさい……、まだ審議が終わっていません」
「審議って何だ!俺は悪いことはしていない」
「では、被害者足立和子を知っていますね」
「それがどうした!」
「お金を取ったでしょう……」
「……、取っちゃいないよ! 証拠はあるのかよ?」
「証拠は貴方の体が覚えていますよ。全て貴方の行いは、生まれてから死ぬまで、体に刻みつけられていくんですよ。死ぬまで消えない傷として……」
「……、そんな空想が証拠になるのかよ!」
「もちろんです。ここに鏡があります。浄玻璃の鏡と言います。貴方の行いを映す鏡です。自分でその行いを見てみなさい」
一段高いと所に裁判官がいて、その前の一段下がった所に全身を映すような大きな鏡が置かれていた。
俺はそれを覗き込むと、足立和子から十万円の入った封筒を受け取り、オサムとミツルに三万円ずつ分けて、残りは俺がもらっていく様子が出ていた。
「体に刻み付けられた傷は正直なものです。嘘をついても、ごまかしても、消せるものではありません」
「……、だからどうしろと言うんだよ!」
「やったことは、認めますね……」
「……、俺は知らない。やってない。そんな鏡、フェイク動画だよ!」
「貴方たちが、お金を奪ったおかげで、足立和子は、食料を買えずに、もう少しで死ぬところだったんですよ……、判決を言い渡します。庄司被告人は地獄行きです。その舌を抜いて、即刻行きなさい。閉廷します」
「そんなことは聞けないよ!弁護士を呼んでくれよ!」
俺の横にいた廷吏の二人が暴れる俺を押さえつけ、引きずり法廷から無理やり出された。
出されたところは、明るい料理場のようなところだった。
「刑務官殿、今日の罪人は、とびっきり美味しそうですよ」
「若くて、柔らかそうだ……」
二人、三人の白衣を着た男たちに渡された。
「子豚よりも肉は着いていますよ」
「離してくれ!話せよ!誰か助けてくれー!」
「……、うるさいなー、早く舌を抜いてしまえ!」
俺はその場で床に押し倒され、もう一人の男が俺の口の中にやっとこを押し込め、舌を引っこ抜いた。
全部の歯を一度に抜いたような痛みが、全身を硬直させ、息のできない苦しさと、目の球が飛び出そうな激痛が続いた。
「うー、うー、うー、……、……」
それから、もう声が出ない……
「早く、裸にしろ!服が燃えたら味が落ちる」
俺は押さえつけられ、裸にされ、調理台に寝かされた。
そして、無理やり口を開かせ、鉄の棒を押し込められ、喉を通って内臓を突き抜けていくのが分かった。
最後に鉄の棒は、お尻の穴から突き出た。
俺は、ゴキブリのように手足をバタバタさせて鉄の棒が体の中を通っていく痛みに耐えた。
二人の男は、鉄の棒が通った俺をかついで、調理場から、薄暗い高級レストラン風のホールに出た。
周りのテーブルには、上品な紳士淑女が、グラスを傾けて談話している様子が見えた。
俺をかついでいた二人は、ホールの中央に石組みで作られた。オープン暖炉の支柱に鉄の棒が刺さった俺をかけた。
「あ、あ、あ、あー、熱いー!」
声にならないうめきをあげた。
体が焼けていく……、……
俺をかついできた男は、鉄の棒を回して俺をこんがり焼いている。
「あ、あ、熱い!熱い……、熱い……」
俺は火の中で回りながら、焼けていく体を感じながら、考えた……
「なぜだ……、なぜ死なないんだ!とっくに死んで楽になっているはずなのに……、死ねない……」
俺の心が分かるように男が喋った。
「ハ、ハ、ハ、ハー、バカだなー、お前はもう死んでいるんだ。これ以上死ねないだろう。それが地獄さー、永遠に苦しむのさー」
「あー、あー、あー、痛いー!やめてくれー!」
俺の焼けた足を誰かがもぎって持って行く……
「お尻の肉が美味しいわね……」
「僕は、やっぱり腹身がいいね!」
誰かが俺の腹を裂いて、持って行く……
誰かが俺の首にナイフ刺した……
「う、う、う、うー!う、うー、……」
俺の首が切られて、テーブルのお皿の上に乗っている。俺の前に女が笑顔でいる……
「脳みそは、生が美味しいのよ……」
頭蓋骨が破られ、俺の脳みそを食べている感じがする……、……
ふと気づくと、俺の部屋の、俺の布団の中だった。
「……、夢か?……、やな夢だった……」
でも、夢を思い出しながら、目をつぶると、そこは、見慣れた法廷の被告席だった。
「それでは、開廷します。被告人、……」
「……、すみません、ここは閻魔法廷ですか?」
「その通りです。貴方は、罪を犯しましたね」
「すみません。許してください。反省しています。もう絶対に悪いことはしません。誓います……」
「……、なかなか良い心がけですね……、でも、それに気づくのが遅かったですね……」
「……、情状酌量をお願いします。まだ、僕は子供です。未成年です。許してください……」
「……、残念ながら、閻魔法廷には、天国と地獄しか存在しません」
「じゃあ、どうしろというんだ!弁護士を呼んでくれ……」
「判決を言い渡します。庄司被告人は地獄行き……」
「いやだ、いやだ、助けてくれー!」
俺はまた調理場に連れて行かれた……
「お、また美味しそうな罪人だ!」
「や、や、やめてくれー!」
俺は舌を抜かれて、裸にされ、口から無理やり鉄の棒を押し込まれ、尻の穴から突き抜けて、串刺しにされ、レストランのオープン暖炉で焼かれた。
最後に頭だけになった俺はお皿の上に乗せられ脳みそを喰われる。
そして目が覚めた。
「……、悪夢だ……、同じ夢を二回も見た……」
もう、心も体もバラバラだ……、生きているのか?死んでいるのか?苦しみは終わらないのか……?
「それでは、開廷します。庄司被告人……」
「もう、もう、もういやだ、いやだ……」
「どうしました。庄司被告人……」
「許してください……、何でもします……、悪いことはしません!許してください……、……、地獄はいやだー!」
「判決を言い渡します。庄司被告人は地獄行き……」
「助けてー!助けてー!誰かー、……」
何度も繰り返す地獄の中で……、朝を迎えた。




