42. 和子と学校の出来事
(和子と学校の出来事)
職員室は、いつもの慌ただしさがあった。
有馬先生の机がぽつんと空いていた。
「清子先生……、有馬先生は出勤ですか?」
私の隣の席の六年二組の清子先生に聞いた。
「有馬先生は、今日は欠勤ですよ。 もう、この忙しい時に、二クラスも見れないわよ……」
清子先生は二クラス分の出席簿を机の上に叩きつけた。
「じゃー、私が足立和子さんとお母さんと相談所の人の面談に出ても良いですか?」
「いいですよ。是非、お願いしたいわ!いつ来るんですか?」
「二時間目の体育の時間に合わせてもらうつもりです」
清子先生は、笑顔から少し困った顔で、私の顔に近づき、小声で話した。
「でも和子ちゃんは、ちょっと訳ありで、内緒の話ですが、クラスでいじめられていたみたいです」
「それで、保健室授業ですか?」
「和子ちゃんから、教室に行けないから、保健室に行きたいと直接言ってきたそうです」
私も清子先生の耳元まで顔を近づけ……
「有馬先生は、それを何の疑問も持たずに和子ちゃんを保健室にやったんですか?」
「……、有馬先生も、うすうすは気づいていたと思いますけどね……、あの三人組の男子ですから、でも今日は揃って欠席ですけどね……」
清子先生は私から離れて、授業の準備を始めながら話を続けた。
「揃って欠席というのも引っかかりますね。 連絡はあったんですか?」
「お母さんから……、それも揃って体調不良だそうです」
「口裏を合わせたような答え……、学校の外で警察沙汰にならなければいいですが……」
私も授業の準備をしながら話を続けた。
「有馬先生は、何で欠勤なんですか?」
「体調不良だそうです……」
「新手の感染症ですか?」
「季節の変わり目ですからね……」
「それにしても、和子ちゃん、クラスでいじめられ、家庭でネグレクトじゃ死にたくなりますね……」
「でも、和子ちゃんのお母さん、よく学校に来る気になりましたね……、昨日は連絡しても来なかったんでしょう」
「さー、何でしょうね……、朝、和子ちゃんの携帯電話に学校へ行くと連絡があったそうですよ」
「本当に来るんですか……?」
「来てもらわないと困りますけどね……」
二時間目の授業……、私は保健室にいた。
和子ちゃんのお母さんは、一時間目の授業から保健室にいたという。
「どうして、和子は保健室で授業を受けているんですか?」
お母さんから出た最初の質問だった。
「和子ちゃんから、教室に行けないから保健室で授業を受けたいと言われたんです……」
「和子はいじめられているんですか?」
「……、それは、分かりませんが……、本人の希望ですので……、不登校になりかねない事なので、とりあえず保健室で授業を受けてもらっています」
「ぜんぜん、知りませんでした。和子は何も言いませんでしたので……」
「……、話せる機会も無かったようですね……」
「すみません……、朝早くから、夜遅くまで、仕事をしていました……、でも、もう辞めます。普通の昼間の仕事を探します。和子と一緒にいられるようにします」
「……、よかったです。そうしてください……、それで、生活できますか?」
「……、大丈夫だと思います。貯えもありますから……」
「失礼ですけど、和子ちゃんには毎月いくら渡していたんですか?」
「……、十万円ですけど……」
「え、……、十万円ですか? 児童相談所の人はわずかなお金と言っていましたが……」
「いえいえ、児童手当と児童扶養手当がありますので、それに私が少し足して十万円はこの子のものですから……」
「本当に失礼な事なんですけど、いつからそんなに渡していたんですか?」
「六年生になって六月くらいだと思いますが……、私がスーパーの早出のパートを始めた時からですから……、早出の方が時給がいいので……」
「和子ちゃん、あとお金はいくら残っているの?」
その質問には、和子ちゃんは私の顔をじっと見つめて答えなかった。
それで、十分いじめの実態が分かった。
「……、じゃ、お母さん、これからは、大丈夫ですね。できるだけ一緒にいてください。そうすれば、生活費の十万円は渡さなくていいと思いますので……、子供らしいお小遣いをあげてください」
「もちろん、そうします……」
「じゃー、児童相談所の人には、私から説明しておきます。今日から、自宅の方に帰っても大丈夫ですね」
「はい、和子の帰る頃には自宅にいます。そう言うのは、今から夜のお店に行って事情を話して辞めさせてもらいます」
今まで一言も喋らなかった和子ちゃんが口を開いた。
「お母さん、今日一日だけ朝子先生の家に泊まってはダメ……?」
「……、そんな、毎日ご迷惑よ……」
「なっちゃんと約束したの……、萌ちゃんを連れて来るって……」
「……、うちの方は、かまいませんが、お母さんさえ良ければ……」
「……、本当にいいですか? それなら、今日一日お店に出られます。 それで辞められます……」
「そうですね……、では、今日だけお預かりします。そのことも児童相談所の人に伝えておきます」
「お願いします……」
お母さんは、綺麗な人だった。
やはり、夜のお店に自信を持って出られるくらいの人だ。
入れ替わりに、校長と児童相談員の人が入ってきた。
「すみません、遅れてしまって……」
「……、忙しそうですね……」
「何処も人手不足で、こんな苦情相談のような仕事はやりたくないですから……、それに家庭内暴力、虐待、増えているんです」
「……、お察しします……、学校でも、不登校児童が過去最多とか言われています。問題山積ですね」
そして、今までのお母さんとの話を伝えた。
「それで、仕事を変えて、これからは和子ちゃんと一緒にいるそうです」
「じゃー、解決ですね! それより、彼女は何で保健室授業なんですか?」
痛いところを見られてしまった。
本人もいる前で話せることではない。
こちらの方が、複雑でより厄介だ……
「後は、校長室でお話ししましょう……」
校長室では、和子ちゃんの保健室授業とお金の問題が話題になった。
「昨日言っていた。わずかなお金しか渡していなかったと言うのは、誰から聞いたんですか?」
「……、有馬先生ですよ。今日はどうしたんですか?」
「今日は、体調不良で欠勤です……、でも今日、お母さんから聞いたんですが、毎月の十万円を渡していたそうです」
「そんなに……、でも、どうして有馬先生はわずかなお金と言ったんでしょう?」
「有馬先生は、知っていたんではないでしょうか?
和子ちゃんに聞いても、何も答えてはくれませんでした」
「……、どう言うことですか?」
「そう言うことです。 でも、お金に名前がついているわけでもありませんし、本人が言わない限り断定できません」
「……、難しい問題ですね」
「でも、もう、和子ちゃんには大金が渡されないので、大丈夫と思いますが、他の方法でいじめがエスカレートすることが心配です」
「そうですね……、注意深く見ていてください」
「そのつもりです……」
「それと、もうこれは警察の少年課の問題ですから、もし和子ちゃんが、被害を申し出たり、相手の名前を言った時には、隠さず少年課に相談してください……」
「……、もちろん、心得ています」
午後、放課後……、和子ちゃんと萌ちゃんが、職員室の私のところに来た。
「先生、帰ろう……」
「先生、私も先生の家に行ってもいいの……?」
あ、そうだった……、今日は早く帰れない。放課後、校長室で清子先生含めて密談をする予定だった。
「夏子ちゃんが、遊びにおいでよって言っていたから、いいと思うけど、萌ちゃんは、お泊まりはなしよ。明日も学校だから、帰りは先生が送って行くから……、それでいい?」
「えー、私もお泊まりしたい……」
「だって、明日の教科書持ってないでしょう。着替えもないし、お泊まりは、また今度ね……」
私は、萌ちゃんの家に電話をして、夕食のいらないことと、帰りは私が送って行くことを告げた。
その手で、ついでに家にいる蒼ちゃんに電話をした。
「蒼ちゃん、家に昼顔さんとなっちゃん、いる……」
「二人ともここにいるよ……」
「え、お店にいるの……? 裸で……」
「違うよ! 暇だから、お店を手伝いたいって言って、お客さんにたこ焼き出してもらっている……、昨日昼顔さんが着ていたお姉ちゃんの服、借りたよ……」
「服、着ているのね……、なっちゃんも服着ている?」
「……、着ているよ!裸族じゃないんだから……」
「それならよかった。お母さんに言って、和子ちゃんと萌ちゃんを学校まで迎えに来るように言ってくれる。後、昼顔さんとなっちゃんも連れてきていいって言ってよ」
「……、なんか、凄い集団だね……、そんなに大勢で迎えに行かなくてもいいんじゃないの……」
「違うわよ! 和子ちゃんを迎えに行くって言えば、なっちゃんも昼顔さんもついて来るから、裸で来ては困るから先手を打ったのよ」
「あ、そう……、伝えるよ」
「二人とも職員室で待っているから、早く来てよ!」
「はい、はい、……」




