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私立アイドル学園 ~全国からアイドルが集まる学校に一般人として転入して、ひっそりと平穏に学生生活を過ごしたい話~  作者: 天野杓子


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062「一般青年、再会する」

「暑……」


 とある公園の日除けすらない場所にあるベンチに座りながら、全身を焼かれるように日に照らされながら俺はぽつりと呟く。

 もう九月だというのに未だに残暑が厳しく、日本の四季なんてものは既になくなりつつあるというのも、あながち馬鹿にしたものではないなとぼんやり考えたりしていた。

 では何故俺はこんな場所にわざわざ座って居るのか。それは、数日前のことに遡《さかのぼ》る。

 仕事を終え帰宅して自宅で寛《くつろ》いでいると、突然スマホから通知音が鳴り響く。何かと思い見てみると、藤田からメッセージが届いており、今日の日付と時間、場所を指定して待っていろという旨《むね》の内容が送られてきていた。

 藤田から連絡など、アイドル学園を卒業してから全くなかったというのに、十年振りくらいに連絡してきたと思ったらこれだ。

 俺は勿論《もちろん》どういうことなのか問い返したが、返事が返ってくることはなかった。

 そんな訳で、俺は休日の昼間から辺鄙《へんぴ》な場所にある公園で待たされているということだ。

 休日の昼間とはいえ、都心から離れた場所の公園なこともあり、ほとんど人は居ない。年寄りが散歩しているのがちらほら見受けられるくらいで、後はたまに公園を通り道として通行人が通る程度。

 加えて、公園とは言っても、遊具がある訳でもなく、自然が広がっている中に丁寧に舗装《ほそう》された道があるくらいの場所で、人がそんなにいないのも当然と言えば当然と言えるような場所だった。


「修斗さん!」


 日に照らされすぎて怠《だる》くなり、ベンチの背もたれに寄り掛かりながら、背もたれに腕をかけてダラダラしていると、背後から名前を呼ばれる。


「よう、宮川。久し振りだな」


 俺は振り返って、声をかけてきた女性――宮川香奈を視界に捉えて返事を返す。

 宮川は満面の笑みを浮かべながら、飛び跳ねるような機敏な動きでベンチの正面へと回り込み、そのまま俺の隣に座った。


「本当にお久しぶりです。修斗さん」


 宮川は感慨深そうにしみじみとそう口にした。


「こんなところでどうしたんだ?」


 俺は白々しく宮川に問い掛ける。すると宮川は不服そうに眉間に皺《しわ》を寄せる。


「当然告白をもう一度やりなおしに来たんですよ! 言わなくてもわかってるじゃないですか!!」


 恥ずかしげもなくそう言ってのける宮川。


「とは言ってもな。俺は今日、藤田に呼ばれてここに来たんだが」

「そ、それは――……その、ちょっと、私が修斗さんの連絡先がわからなかったと言いますか……」


 宮川はしどろもどろになりながら、ごにょごにょと独り言のように言い訳をする。


「スマホに連絡先が入ってると、連絡したくなっちゃうじゃないですか! なので誘惑を断ち切るために消してしまってて……」


 なるほどな。だから、今日の呼び出しは藤田からだったってことか。


「あの……もう一度連絡先交換ってしてもらえますか……?」


 申し訳なさそうにしながら、俺の顔色を窺うように言う。


「別に構わないが、それは告白とやらの後の方がいいんじゃないか? 断られる可能性もあるだろ」

「修斗さん、今日はなんだか意地悪ですね!?」


 確かに平常心を保っていられていないのは言う通りだ。しかし、事実として十年近く待たされた訳で、それを平常心を保って迎えろというのは常人には無理な相談というものではないだろうか。

 宮川は、少しの逡巡《しゅんじゅん》の後、「そうですね」と呟き、意を決したように背筋を伸ばし、ひとつ咳払いをする。


「修斗さん」

「……なんだ?」


 真っ直ぐ見つめながら俺の名を呼ぶ宮川に、俺もしっかりと視線を合わせる。


「私、今でも修斗さんが好きです。だから、付き合ってくださいっ……!」


 宮川は祈るように頭を下げる。

 俺の答えは決まっている。十年前、あの提案をした時から俺の答えはとうに決まっていた。


「ああ、いいぞ。約束だったからな」


 俺がそう口にすると、宮川は顔を上げ、息つく暇もなく俺に抱きついてきた。

 公園は人が少ないとはいえ、いくらか集まる視線には幾許《いくばく》かの気まずさがある。

 とはいっても、宮川は全く離れる様子はなく、とんでもない力でしがみついていたため簡単には引き剥がせそうにもなかった。かくいう俺も無理に引き剥がそうとするほど野暮ではなかったし、しばらくは好きにさせておくことにした。

 数分そうしていると、満足したのか宮川が俺から離れる。


「修斗さん! 改めて、これからもよろしくお願いしますっ!」


 宮川はそう言って丁寧にお辞儀をする。


「ああ、よろしく」


 俺はそう返して、ベンチから立ち上がる。

 日光に照らされ続けて熱くなった体を冷ますように、服の襟を摘んでぱたぱたと体を仰《あお》ぐ。

 急に立ち上がった俺を不思議そうな顔で見つめる宮川に気付き、俺は口を開く。


「ここ日当たり良すぎて暑すぎんだよ。場所変えるぞ」


 宮川は合点がいったように手を打ち、ぴょんと飛び上がるように立ち上がった。


「あの、修斗さん」


 宮川が立ち上がったのを見て、歩きだそうと宮川に背を向けると同時に呼び止められる。

 何かと思い振り返ると、何やらもじもじとしている宮川。


「えと……その……」


 明らかに何か言いたげではあるものの、言い出せずに言い淀む。


「て、て……」

「て?」


 そう聞き返したタイミングで"手"のことだと思い至り、俺は右手を宮川に差し出した。


「え……?」


 目を丸くして驚く宮川。


「いや、"手"だろ? 違うのかよ」


 思い違いをしたかと思い、俺が差し出していた右手を引っ込めようとすると、宮川の左手が目にも止まらぬ早さで俺の右手を掴んだ。


「合ってますっ。合ってます……!」


 鼻息を荒くしながら宮川は力強く手を握る。

 あまりにも必死なその様子が面白くて、思わず小さく笑い声が漏れる。


「じゃあ、行くか。宮川」

「は、はいっ!」


 俺と宮川は手を握ったまま横並びで歩き出す。


「というか修斗さん。今後は"香奈"って呼んでください。近い内に私も"木崎"になるんですから」

「別に俺が"宮川"になるのでも構わないが」

「いいえ! 私が"木崎"になるので、"香奈"って呼んでください!」

「まあ、変わったら、な」

「今から練習しとくのは大事ですよ! ほら! 一度呼んでみてください!」

「……あー、腹減ったな」

「修斗さんっ!」

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