053「アイドル少女、相談する」
アイドルも修斗さんも諦められずに悩む私に、唯ちゃんが提案してくれたのは"人に相談する"こと。一人で悩んでも答えが出せないのであれば、人から助言を貰うべきだと唯ちゃんは言っていた。
私の悩みはとても個人的で身勝手な話だから、人に相談するのは正直気が引けた。でも今回の件が起こる前から、修斗さんに言われて同じ悩みは抱いていたわけで、未だに答えが出せていない時点で自分だけで答えを出すのは無理があると理解もしていた。
そうして唯ちゃんに連れられてやってきたのは、|L'AILEのメンバーである京谷麻由ちゃんと西脇彩華ちゃんのもとだった。
「なるほどねー。そりゃ大変だ」
事の経緯を説明して、麻由ちゃんが顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。
「ってもうちらは皆アイドルであることを最優先にやってきたことない? 恋人とか好きな人とか考えたことある?」
「んー。ないね!」
彩華ちゃんの問い掛けに対し、麻由ちゃんがきっぱりと言い切る。
実際当然の話だと思う。アイドルとして活動している以上、アイドルを優先するに決まっている。ましてやL'AILEほどのアイドルであれば、尚更アイドルを選ばない理由なんてない。
私の方がおかしいのだ。
「唯は? BORDERLESSのリーダーに付き纏われてるけど、唯自身はあんまり恋人どうのみたいな話聞いたことないけど」
「私も考えたことはないわね~。アイドルが楽しいのもあるし、恋するほど良い人にも出会ったことないから~」
彩華ちゃんに話を振られて、即答する唯ちゃん。
「唯ちゃんこそ無いよねー。私らから見てもよっぽどL'AILEで居ることを大事に考えてそうだもん」
麻由ちゃんが唯ちゃんの答えに納得するように頷く。
「あと、何よりも"暇がない"のが一番かもしれないわね~」
「それね! ホントずっと忙しくてヤバいわ」
恋をしている暇がない。それはそうなのかもしれない。
私も本来ならばもっとアイドルとしてたくさん活動できる訳で。受験があるからと活動を中途半端にセーブしたせいで、アイドル活動に忙殺されるようなこともなく、恋をする余裕ができてしまっている。
これが去年だったら受験を理由にすることもなく、呼んでもらえるイベントとかには全部出て、もしその結果がしっかりと出るようなことになっていれば、こんな風に悩むこともなくアイドルを選んでいたのかもしれない。
「……あのっ! なら、今の私のようにアイドルと恋のどちらを取るかで悩んでいるのはどう思いますか……?」
今の私が客観的に見てどう見えているのか。
唯ちゃんや優さんは優しいから、私がこうして悩んでいるのを肯定してくれる。でもそれは私の友人だからだというのもあるはずで、ならば知り合いでありつつも関係性の深くない麻由ちゃんと彩華ちゃんからどう見えているのかは聞いてみたくなった。
「『私にはない感覚だなー』って感じ。でもまあ、アイドルが隠れて恋愛してて~みたいなのはそれなりに聞く話だし、特別珍しくもないんじゃない? 人である限り、人を好きになることはあるだろうし。悩むことを悪だとまでは思わないかな」
「ほぼ同じかな。うちは"ない感覚"とまでは言わないけど。でも隠れてコソコソやってるのに比べたら、どっちか選ぼうとしてるのはうち的には誠実で好印象!」
「そうだね。そのうちバレて炎上するリスク考えたら、今どっちにするのかを悩むのかは正しいかも」
L'AILEは三人共がL'AILEとしての活動に対して同じ方向を向いている。
これまでの会話と質問の回答から、私は明確にそれを感じ取った。まさにトップを走り続けるアイドルの鑑のような人たちで、改めて下らない悩みを相談してしまったなと思った。
「ありがとうございました。とても参考になりました……!」
私は深々と頭を下げてお辞儀をする。
「私らとしては参考になるようなことを言えたのか怪しいけど。力になれたところがあるなら良かった」
「大丈夫です! 本当に参考になりました!」
訝しげな表情でそう言う麻由さん。私は念を押すように二人にもう一度感謝を伝えた。
◇ ◇ ◇
「という訳なんよ」
麻由さんと彩華さんに会ってから数日後。
今度は優さんに連れられてBORDERLESSの皆さんのもとを訪れる。
とは言っても、卒業してしまった白鳥さんはいないけれど。
「居ますよね、そういう人。しかも、うちにも」
呆れ混じりに苦笑しながら九条晴人さんが言った。
「蓮殿のことでござるな」
晴人さんの含みのある言い回しに、九条久羅さんが補足する。
……"ござる"?
「あー、香奈ちゃん。久羅はこういう奴だから、あんま気にしないで」
「え、あ、は、はいっ!」
聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑っていると、私の表情を見て察したのか優さんが諭す。
すんなり受け入れるのは難しかったけど、今はそれについて言及しているような時でもないためぐっと堪えた。
「俺たちもファンも慣れちゃってるところありますけど、あの人おかしいッスよね。なんで好意をあんなにフルオープンしてて微塵も炎上する気配ないんスか?」
朱堂侑さんが疑問を浮かべたような表情で言葉を零す。
「百億パーセント実らないことが誰の目にも明らかだからじゃねぇかな。唯ちゃんへの好意を口にするのも一種のネタっぽくなってる」
「確かに『またやってる』としか思わないですからね」
優さんの分析に対して、晴人さんが納得したように頷く。
「"相手もアイドルだから"というのもありそうでござるな。蓮殿も一般人の女性に対してであったら、流石にあれは許されてないと思うでござる」
相手が同じアイドルで、しかもBORDERLESSと同じくらい知名度のある唯ちゃんであるからこそ、白鳥さんが唯さんへの好意を包み隠さず公言していられる。あまつさえグループのライブに招待したりもしていて、それが他のメンバーにもファンにも許されている。
「そうだなぁ。香奈ちゃんに蓮のパターンを当てはめるのは無理そうだな」
腕を組んで口を尖らせる優さん。
「アイドルとしての立場からは、活動に専念して関係を断つべきだとしか言えませんね」
晴人さんも麻由ちゃんや彩華ちゃんと同じような回答。
それに対して落ち込むようなことはない。なぜなら、修斗さんを諦めきれない私がおかしいのだから。
「宮川殿は特に注目度の高い人物でござるからな。拙者としてもこのチャンスを棒に振ってしまうのは勿体ないと感じざるを得ないでござる」
久羅さんも晴人さんと同様にアイドルを選ぶべきだと主張する。
「俺は逆ッス。そんなチャンスなのに悩めるってことは、相当その人のことが好きってことッスよ。"常識で考えたら"で選択したら後悔するかもしれないッス」
「なるほど。それは一理あるな」
侑さんの言葉を聞いて、優さんが感心したように相づちを打つ。
「一理しかないでしょ。アイドル辞めて付き合ってみて続かなかったら、それこそ後悔しますよ」
更に晴人さんがすぐさま反論する。
「でも一理を追うのもロマンがあるでござるよなあ」
「兄貴は話をややこしくしたいだけなら黙ってて」
先ほどから一転して侑さんの意見にも理解を示した久羅さんに、晴人さんが多少苛立った様子を見せる。
「喧嘩はやめてねー。ここで兄弟喧嘩されると香奈ちゃん凄く気まずいから」
次に久羅さんが放つ言葉によっては晴人さんの怒りが爆発するんじゃないかという雰囲気の中、優さんが先んじて釘を刺す。
数秒の静寂が流れて、ヒートアップしそうになった雰囲気が徐々におさまっていく。
「えーと……うちのグループではこんな感じみたい。悩みの解決に助力できそうかな……?」
若干気まずそうにしながら優さんが私に尋ねる。
「はいっ、とても参考になりました。皆さん、ありがとうございます!」
私はそう言って丁寧にお辞儀をした。
侑さんだけは違ったけど、他の人たちは麻由ちゃんや彩華ちゃんと同様にアイドルを選ぶべきだと考えているようだった。




