052「一般少年、会議する」
「第一回! いつメン対策会議~!」
アイドル学園にある自主レッスン用のスタジオで、俺たちが床に座っている中、一人立ち上がったままの軽森が妙にテンション高く宣言する。そんな宣言を聞いて藤田が拍手し、その隣で宮川が気まずそうにしている。
「という訳で、今後についての対策会議をしていくぞ!」
「所属グループも違う上にアイドルじゃない人まで集めて、今後の会議って何を話すのかしら~?」
場を仕切る軽森に対して、白々しく藤田が疑問を投げ掛ける。変なスイッチが入ったままの軽森は藤田を勢いよく指差す。
「よくぞ聞いてくれた! この会議は、今最も熱いアイドルである宮川香奈ちゃんの今後について相談しながら、香奈ちゃんにとって最も良い道を探す手伝いがしたいな~というものである」
「要するにとりあえず集めてみただけってことか」
何も中身の無い説明をした軽森に、俺は若干の呆れと諦めを抱きながら言った。俺に出鼻を挫かれた軽森は、少し落ち込んでその場に座り込む。
「それは否定しないけども。けど今回に関しては修斗も無関係どころか当事者側だろ? マジな話、お前にとっても今後どうなっていくのかは知っといた方がいいだろ」
「……まあな」
追いかけ回される事があってから、登下校は母さんの車で送り迎えしてもらう形で対策を講じてはいる。今のところはそれと登下校以外では外出をしないという力技で追求を逃れている。
九条の言っていたように、ほとぼりが冷めるまでこの方針でやっていくつもりだ。
母さんには余計な手間をかけさせることになって申し訳ないという気持ちはある。だが、当の母さんが事の経緯を伝えた際に大爆笑して、妹の未来にも笑い話として話していた。それが結構ムカついたから、笑われた分くらいは送迎してもらって取り返すという気持ちもある。
爆笑した母さんの「バスケで日本一になったときより有名になったんじゃない?」という言葉は今思い出してもかなり腹が立つ。
「じゃあ簡単に経緯と状況を整理しましょうか~」
藤田の言葉に俺と軽森は頷く。宮川も相変わらず気まずそうにしているが小さく頷く。
それを見た藤田は続けて口を開く。
「まず事の発端から行きましょうか~。香奈ちゃんと修くんのツーショット写真が撮られたものがSNSに投稿されてたのよね~」
「あれをツーショットというのかは怪しいが」
確かに近くに立ってはいたが、隣に並んで待っていた訳でもない。いくらか宮川と話はしていたが、結構真面目な話をしていた記憶があるから、遠目から見ても談笑しているようにも見えなかったはず。
実際写真を撮った人の投稿は、俺には一切言及せず宮川だけを撮ったつもりだった。
「学園祭の翌日に出掛けた時に撮られたものだったな。もうちょい撮られるタイミングが早ければ、写真に写ってたのが修斗じゃなくて俺と香奈ちゃんになってて、それならもうちょい騒ぎにならんかったかもしれないな」
「優くんがコンビニなんて行ってなければ、同じタイミングで撮られてても香奈ちゃん、修くん、優くんの三人になっててこんなことには絶対ならなかったわね~」
「腹減ってたんだって! しょうがないじゃんさぁ!」
ばつが悪そうにしながらもなんとか弁明しようとする軽森。
「でも写真が投稿された時は、まだ香奈ちゃんも学園祭で目に止まった人が居たくらいの感じだったみたいね~。その写真も人に見られることも少なかったのか話題になることもなかったわ~」
俺も宮川も撮られていたことなんて知らなかったし、投稿があったこともSNSなんてまず見ない俺には気付きようがない。恐らく宮川も気付いては居なかったんだろう。
「んで、次にアクションがあったのはその二日後か。学園祭の振り替え明けの登校日」
「鉢場とかいう奴が現れた日だな」
その男は放課後に突然教室に現れ、宮川を呼んで欲しいと軽森に話しかけてきた。軽森も面識がない様子だったからアイドルではないと思っていたが……。
「ハチバチを本名で呼ぶの修斗だけだぞ……」
「MNI88、数々のアイドル楽曲を生み出してきた天才作曲家がまさか学生で、しかもアイドル学園に居たなんて驚きね~」
ハチバチの正体については藤田も知らなかったよう。活動名であるMNI88と作った曲以外の情報についてはほぼ不明で謎の多い人物だったらしい。
「そんなハチバチが急に香奈ちゃんに楽曲提供の申し出をしたんだよな。あれはビビったなぁ」
「勿論、香奈ちゃんは即承諾したのよね~?」
「そりゃね。ハチバチからの申し出を断れれるようなアイドルなんて居ても蒼空様くらいじゃない? 蒼空様も普通に受けそうではあるけど」
鉢場が現れた時は全然知らなかったが、後から調べてみればハチバチに提供された楽曲はほとんど売れていて、ハチバチに曲を作ってもらうことを目標にしているアイドルも少なくないのだとか。
なんか「それでいいのか?」と問いかけたくなるような話だが、宮川に楽曲提供した結果を目の当たりにしているのだから馬鹿に出来ないのも事実ではある。
「それからしばらくして提供された曲が公開されてから、宮川の知名度はかなり上がったな」
「そうね~。私みたいに学園祭が直接のきっかけになったんじゃないけど、これも一種の学園祭ドリームよね~」
学園祭二日目のあの日は、新曲を披露したL'AILEとゲストの桜庭に話題のほとんどを持ってかれた部分があり、宮川のパフォーマンスがいまいち話題になりきらなかった理由の一部な気がしている。
しかし、今回の騒動になった写真が撮られたのも、鉢場が宮川のもとを訪れたのも、学園祭での宮川がファンを増やした結果であるのは紛うことない事実。
そういう意味では、宮川にとって良いことでしなかなかったものが、タイミングが悪かったというだけでこうなってしまうのは残酷な話だ。
「香奈ちゃんが話題になって、そこからお仕事したりメディアに出たりして、香奈ちゃんはどんどん人気になっていったよなぁ」
「そして、例のSNSの投稿が引っ張り出されちゃったのよね~……」
簡単な経緯のおさらいが終わり、数秒の沈黙がスタジオに流れる。
「さて、香奈ちゃん」
「は、はいっ」
藤田の呼び掛けに、まるで大人に怒られている子供のようにびくりと体を震わせる宮川。
「これから香奈ちゃんには大きく二つの道があるわ~。一つは、このままアイドルを続けながら修くんとの関係を断つ。一つは、アイドルを辞めて修くんとの関係を続けていくか」
「え、唯ちゃ――」
「優くん、少し静かにしてて~?」
藤田の問い掛けに対して横から口を挟もうとした軽森が、藤田によって制止させられる。
「わ、私は――」
宮川はゆっくりと口を開く。
「選べません……。アイドルも続けていきたいです。けれど、修斗さんのことも……す、好き……なんです……!」
どちらかだと言われているのにどちらも諦められないという宮川。
その姿はまるで駄々をこねる子供のよう。
「そう。じゃあ、このどちらでもない道を探すしかないわね~」
藤田は驚くでもなく、怒るでもなく、さも宮川がそう言うと予めわかっていたかのように言い放った。
「ちょっ……ちょちょいちょい!」
納得いかないといった様子で割り込んだのは軽森。
「えっ、香奈ちゃん、修斗のこと好きなの……? 俺も修斗のことは好きだけど、そういう"ライク"じゃなくて"ラブ"ってこと……?」
軽森の言葉に宮川は顔を赤くしながら小さく頷く。それを見て軽森は「ほえ~……」と素っ頓狂な声を出しながら脱力する。
「ま、マジか~……。ってか修斗と唯ちゃんはなんで平然としてんの!? 今、香奈ちゃん結構凄いこと言ったよな!?」
「俺は宮川から直接告白されてるからな」
「私はそうじゃないかな~って思ってただけよ~」
それぞれの回答を聞いて軽森は愕然とする。
「知らなかったの。俺だけ?」
「優くんは乙女心に疎すぎるわね~」
小馬鹿にするようにくすくすと笑いながら揶揄する藤田。
「いーや! 当事者じゃなかったら修斗も気付いてなかったね!! これは絶対!!」
……まあ、それは否定しない。




