040「一般少年、雑談する」
桜庭がアイドル学園に現れた翌日から、学園内では桜庭の話題で持ち切りだった。
校門の前であれだけ目立つ形でファンサしていたこともあってか、そもそも目撃していた生徒が多く居たらしい。卒業後からこれまで桜庭が学園を訪れたことはなく――忙しいのだから当たり前という話ではある――、現れた時期からしても学園祭と何か関係があるんじゃないかという妙に勘の良い噂まで立ち始めていた。
数日もしない内に噂に尾ひれが付いて、"桜庭蒼空が特別参加。学園祭の三人以上ルールに則り、他メンバーには同じく卒業生の白鳥蓮が来るらしい"などという話にまで大きくなったため、学園側も看過出来ずに"学園祭のエンディングにゲストとしてライブをしてもらう。ゲストであるため、単独でのパフォーマンスとなる"と情報公開がなされた。
「ってな訳で、蒼空様のライブが学園祭の最後にあるんだよ」
情報解禁がなされたため、別に隠しておく理由もないだろうということで、軽森が桜庭と会った日のことを宮川と藤田に話す。
話すと言っても、桜庭もそこまで詳細に語ることもしなかったから、周知された情報と大差ない内容ではあるのだが。
「へぇ~。在籍中は出禁だった学園祭でライブが見れるのね~。と~っても貴重なことよね~? 修くん」
"白々しい"と形容する以上に適当な言葉が存在しないくらい白々しい口調で藤田が俺に投げ掛けてくる。
当時から気づいててもおかしくない筆頭人物だったのに問い詰めてこなかったから、まさか気づいてないのかと思ってたがやっぱり気づいてたらしい。
勘付いているで言えば、生粋のアイドルオタクである軽森も同様だが、全く気づいていなさそうなタイプでもあるし、気づいた上でなんだかんだ配慮できるタイプでもあるから判断はつきにくい。
「俺に貴重であるかの共感を求めるなよ」
あくまでしらばっくれながら藤谷返答する。藤田の隣では、緊張が思い切り顔に出ている宮川が気まずそうに押し黙っている。
返答の内容に関しては半分嘘で半分本当。
流石の俺でも学園祭に限らず桜庭蒼空のライブ自体を貴重ではないという逆張りはしないし、桜庭が学園祭が出禁だったことも去年の時点から知っていた。しかし、実際に出禁だったところは――去年は出ていたわけなので――見ていないし、"貴重"がどれだけ貴重であるかも正確には理解できないからだ。
「……な、何をやるのか気になりますよね!」
宮川が強引な話題転換を試みる。
「そうさなあ。結局単独でのステージなんだから、蒼空様の既存の曲をやる感じになると思うんだけど」
軽森が唸りながら頭を悩ませる。
「やっぱり"EphemeralWaltz"じゃないかしら~?」
藤田の追い打ちに宮川の顔が歪む。
俺より宮川にダメージがいってるからやめてやれ。
ちなみにEphemeralWaltzとは、去年俺たちが学園祭でやった曲。
「EphemeralWaltzか~。確かにいい曲ではあるけど、エンディングにやるならもっと盛り上がる曲がいいな~」
軽森は藤田や宮川の様子には気づかずに悩み続ける。
「何やるかは当日の楽しみにしとけばいいんじゃないか?」
ささやかながら話を終わらせる流れになるように助け舟を出す。
「そ、そうですね! 楽しみはとっておきましょう! そういえば、唯ちゃんや優さんは学園祭に誰と出るんですか!?」
必死にハンドルをぐるぐる回し続ける宮川。
「俺は、今年蓮さん居ないからBORDERLESSフルメンバーじゃ組めないし、相談したら『なんでもよくね?』ってなったから、九条久羅と白鳥奏と組むことになった。奏は蓮さんの弟で俺達の一個下の後輩」
白鳥に兄弟なんて居たんだな。
「私は例年通り|L'AILEで出るわ~。今の私たちがあるのは学園祭のおかげだし、最後までL'AILEでやり通すことにしたの~」
藤田は去年と同様らしい。結成経緯から考えても学園祭の象徴のようなグループだし、学園にとってもL'AILEとして出てくれるのはありがたい面もあるのだろう。
「香奈ちゃんは誰と出るの?」
「私は去年と同じく、U-rioのお二人に誘って貰えたので、悠希ちゃんと理緒菜ちゃんと出ます! あ、去年はいろいろあって実際に出たのは違ったんですけど……」
せっかく話題を反らしたのに戻っていくな。ちゃんとハンドル握って制御しろ。
「そうなのね~。じゃあ、その去年いろいろあって香奈ちゃんと出た修くんは今年は誰と出るのかしら~?」
「出ねぇよ」
若干食い気味に否定する。
「え~? せっかく珍しいアイドルじゃない生徒の学園祭参加で話題になってたのに~」
「え、そうなん? 俺はそんなの聞いたことないけど」
「ええ。女子アイドルの間では、前から制度として許可されてるのに勿体ないわよね~って話してたから、去年は密かに盛り上がってたのよ~?」
あまり知りたくなかった情報が初出しされていて頭が痛いんだが。
「実際ステージは様になってたもんなあ。当時は知らんかったけど、バスケで二回も全国優勝してるメンタルと運動神経があれば納得ではあったよな」
軽森は当時を振り返ってるのか感慨深そうに口にする。
バスケ関係あるか……? 運動神経というか体力があったのは、明確に役に立っていたという実感はあるが。
「何を言われようと出ないものは出ないからな」
元々出る気は微塵もなかったが、変に目立っているらしいことを知ったらより出ないことを固く誓う。
「去年は香奈ちゃんたちに不運があったからだしな。実際問題、アイドルじゃない一般生徒が出るのって難しいよ。お祭りとはいえ、アイドルにとってはこれ以上ない自分のアピールの舞台だから素人混ぜようなんて思わないし。じゃあ一般人が三人集まってやれるのかって言われたら、それできるならアイドル出来るじゃんって感じだし」
学園に所属する生徒であれば、制限する理由もないから現状の形になっているだけだということなのだろう。
「今年は大人しく観客側に居ることにするさ」
「よく言うよ。別に見ない癖にさあ」
「知り合いのところくらいは見るつもりはあるぞ」
まあ観客席では見てないかもしれないが。
「今年は週末開催だから、修斗もそうだけど一般の視聴者も見やすそうなのがいいよな~」
「そうなのか?」
去年は金曜日開催だった記憶があるが。
そう首を傾げていると、軽森が呆れたような顔をする。
「この間のホームルームでちぃちゃんが言ってましたよ。今年は土日の二日開催だって」
そういえば、あの時は考え事しててちゃんと聞いてなかったな。
「前から二日開催の要望はあったけど、実際にそうなったのは香奈ちゃんが倒れちゃったのが効いたのかもね~」
「あれ、ちょっと話題になっちまったもんなあ」
宮川は少し申し訳なさそうな顔で小さくなる。
大トリで注目度も高い時間帯のグループがあんなことになれば、そりゃ外野からあれこれ言われたりもするか。
「香奈ちゃんのせいで今年は中止になるんじゃないか~なんて言われたりもしてたけど、無事開催されることになったし二日開催になったしで、今となっては内心香奈ちゃんに感謝してる人も多いんじゃないかしら~」
「そう、ですかね……」
藤田のフォローがあっても、宮川はまだ複雑そうな顔をしていた。
「気にするな。もし何か言ってくる奴が居たら藤田に助けてもらえ」
「そこは修斗が助けてやれよ!」
「藤田の方が効果あるだろ、たぶん」
「それはまあ……確かに?」
「二人で効果を試してみてもいいわよ~?」
「やべっ。修斗、謝れ謝れ」
そんな下らないやり取りを見て、宮川は控えめに笑いを零した。




