038「アイドル少女、正体を知る」
一度落ち着いた私たちは、修斗さんと美玖さんに会ったのは偶然ではなかったことを話した。
修斗さんたちの情報も合わせると、今回の流れの全容が見えてきた。
今日は本来、美玖さんが未来ちゃんとお買い物の予定だった。けど、急遽未来ちゃんが体調不良を口実に断ってしまい、代わりに荷物持ちとして修斗さんに向かうように頼む。
お買い物の予定自体は、私たちが未来ちゃんと話した月曜日時点で決まっていたため、事前に当日駅前で待ち伏せることを指示する。
こうすることで、当日急に連絡されて向かうことになった修斗さんよりも、私たちの方が先に待ち合わせ場所に着くことができた。
「そういうことかよ……」
陰謀によって引き合わされたことを知った修斗さんが舌打ちをする。
「土曜日に美玖さんと居たのは何処に行ってたの?」
悠希ちゃんが修斗さんに尋ねる。
「未来の――妹のライブ。急に行ってみたいとか言い出して連れ出されたんだよ」
「だって貴方家で暇そうにしてたんだもの。何回かアイドルのライブに行ってて、最近のシステムも知ってそうだったし」
美玖さんの言葉に「そんな変わらんだろ」と小さく愚痴を吐く修斗さん。
「なんにせよ、木崎に彼女ができたわけじゃなかったってことね」
「……彼女?」
一件落着とばかりに大きく息を吐き出す理緒菜ちゃん。それを見て訝しげな顔をする修斗さん。
「そりゃ見知らぬ美女と休日を過ごしてるのを見かけたら……ねぇ?」
「短絡的すぎだろ……」
呆れて項垂れる修斗さん。
「そうかな? 勘違いする人が居てもおかしくはないと思うけど」
「してませんよ!」
悠希ちゃんに即座に反論する。
みんなが私を見たまま固まる。周りは行き交う人々で騒がしいはずなのに、私たちの間は時が止まったように厭に静かになる。
「ごめん。別に香奈ちゃんのことを言ったつもりはなかったよ……?」
少し気まずそうに言う悠希ちゃん。
そこで漸く、自分が過敏に反応してしまったことに気づいた。そう認識した途端に、とても恥ずかしくなって顔が凄く熱くなる。
「してたの?」
美玖さんが追撃してくる。
「し、してません!!」
私はもう後に引けず、より強くより必死に否定した。
その後、修斗さんと美玖さんは当初の予定通りお買い物の時間が迫っているため、その場は解散することになった。
解散前に悠希ちゃんが美玖さんと連絡先を交換することを提案していた。それを快く受け入れた美玖さんは、ついでだからと私と理緒菜ちゃんとも連絡先を交換してくれた。
そうして二人を見送った後、恥ずかしさに耐えきれなくなった私は駅前広場の端っこで顔を覆って小さくなっていた。
「まあ、元気出しなさいよ」
丸くなっている私の背中を理緒菜ちゃんが優しく擦ってくれる。
「本当にごめんね。香奈ちゃんを揶揄するつもりはなかったんだけど」
「いえ、私が勝手に反応してしまっただけです……」
私自身の中で多少なりともそう思っていた節があったから、咄嗟に反応として表に出てしまったのだと思う。
「そういえば、悠希。なんで美玖さんと連絡先交換なんてしたの?」
二人と分かれる前に悠希ちゃんが突然言い出したことについて言及する理緒菜ちゃん。
「さっき見せたページに美玖さんの活動期間が書いてあったでしょ?」
織笠美玖について纏められたページのことだろうと思い当たる。
「確か三年くらいでしたよね」
「そう。平均よりちょっと短いの」
アイドルの平均活動期間は多くは五年程度。勿論十年とか続ける人もいれば、もっと早くに活動を終える人も居る。"アイドル"というジャンルで大きく括った時の平均は大体五年くらいになるだろうと言われている。
「それがどうしたのよ。短くはあるけど三年なら、なくはない程度じゃない」
「普通のアイドルならね」
悠希ちゃんはスマホを少し操作してから、その画面を私たちに見せる。
そこに表示されていたのは、楽曲の売り上げやライブの動員数。とても活動期間が三年のアイドルとは思えない数字が並んでいた。
「……流石に盛ってない?」
「盛ってたら何かしらの訂正があるんじゃないかと思う。この数字を完全に鵜呑みにはできないけど、二十年近く前のことのソースを探すのはそれはそれで大変そうではあるかな」
悠希ちゃんが見せてくれた画面の数字をしっかりと数える。
この数字が本当なら、三年の間にアイドルの頂点に経っていたんじゃないかと思う。時代が違うと言われればそれまでだけど、今このくらいの数字を出せる人が居るとしたら、きっと桜庭蒼空さんくらいじゃないだろうか。
「でも、どうして三年しか活動していないんでしょうか? これだけ人気があったなら、もっと活動できたはずです」
私は浮かんだ疑問を口にする。
もし、今人気絶頂の桜庭さんが突然アイドルをやめるとなったら、きっと日本中の大ニュースになる。美玖さんの時だってそうなったはず。
「それもここに書いてあるけど――美玖さんの引退については別のところの方がいいかな」
悠希ちゃんはそう言って見せてくれていた画面を引き戻して、いくらか操作した後に再び見せてくれる。
そこに表示されていたのは、インターネットの記事。
「人気アイドル所属の事務所、芋づる式に不祥事発覚」
私は表示されていた記事のタイトルをそのまま読み上げる。
「これが原因ってこと?」
「恐らくね。さっきの記事にもチラッと書かれてはいたけど、美玖さんが所属してた事務所でいろいろゴタついたみたい。この件で事務所は倒産まで追い込まれて、美玖さんを含めた所属アイドルは一斉に活動が止まったみたい」
活動したくてもできない状況になってしまったのなら、どれだけ人気のアイドルでも抗うことはできないのだろう。
私は悠希ちゃんに疑問を投げ掛ける。
「そのまま引退になってしまったんですか? どこか別のところに所属するとかできなかったんでしょうか?」
これほどのアイドルなら引く手数多だったはず。
悠希ちゃんは再度スマホを操作して情報を探す。
「うーん、それがよくわからないんだよね」
「どういうこと? 行方不明にでもなったの?」
行方不明と言われても実際に私たちの前にはさっきまで居たわけだけど。
「一時は行方がわからなくなってたみたい。実際は"海外旅行に行っていた"みたいだけど」
「帰ってきてからはどうしたのよ」
理緒菜ちゃんの問いの答えを探すように悠希ちゃんはスマホの画面を操作する。
「引退宣言をしたみたい。理由は"結婚したから"」
「はあ?」
とんでもない急展開に理緒菜ちゃんは驚愕の声を上げる。
「面白いでしょ? こんな楽しそうなエピソードをたくさん持ってそうな人を配信に呼ばないわけにはいかないよね」
「それが目的ってことね……」
掘り出し物を見つけたかのようにキラキラした目の悠希ちゃんを見て、理緒菜ちゃんは感心したような呆れたような表情で納得した。
その後、辺りが夕日に照らされていい時間になったことに気づいた私たちもそれぞれ解散することになった。
後日、U-rioのチャンネルで美玖さんがゲストの回行われ、"織笠美玖"の復活は世間をそこそこ賑わせた。




