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私立アイドル学園 ~全国からアイドルが集まる学校に一般人として転入して、ひっそりと平穏に学生生活を過ごしたい話~  作者: 天野杓子


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037「アイドル少女、問い詰める」

 数日後の金曜日の放課後。

 私と悠希ちゃん、理緒菜ちゃんは渋谷駅に来ていた。


「本当に来るのかしらね。木崎は」


 駅近くの雑踏ざっとうの中、理緒菜ちゃんが独り言のように呟く。

 未来ちゃんによれば、修斗さんとその女性は金曜日の放課後に渋谷で待ち合わせていると教えてもらった。そこで直接修斗さんに聞いてみれば、言い逃れもできないだろうと。

 でも、それ以上の情報は貰えず、女性の名前などは全く教えてもらえなかった。


「ここまで来てから言う? 疑ってるなら無理して来なくても良かったのに」


 駅前広場にあるベンチに座ってスマホを弄りながら悠希ちゃんが言い返す。


「別に木崎の妹を疑ってるんじゃないわよ。彼女が私たちを騙すような真似する理由も分からないし。まあ面白がってる節はありそうだけど。ただ、そういう話じゃなくて、なんか私たちに都合が良すぎない?」


 それは確かに思わなくもない。

 今まで修斗さんが平日の放課後に何か予定を入れていたようなことはほとんどない。いつも周りが帰る支度をしている中、教室でのんびりしてる印象がある。唯ちゃんに突然誘われたりした時も、嫌そうな顔はするけど誘いには乗ってくれている。

 そんな修斗さんが、私が女性と歩いているところを見かけた後、一週間も経たずにこんなタイミングよく放課後に出掛けるようなことがあるのだろうか。


「そこのところ、香奈ちゃんはどう思う?」

「……わかりません。もしかしたら、未来ちゃんとその女性もお知り合いなのかも」


 なんとなくの想像を口にする。


「なるほど。妹ちゃんと謎の女性が知り合いなら、木崎君と女性、両方の行動を誘導できるかもしれないね」

「本当は今日会う予定じゃなかったけど、木崎妹が二人をここで待ち合わせさせたってこと? 怪しすぎて木崎どころか女性の方も協力してくれなさそうじゃない」


 理緒菜ちゃんの疑問に、悠希ちゃんは少し考えてから口を開く。


「じゃあ、その女性も私たちが木崎君を問い詰めようとしてるのを面白がって協力してくれてるとか」

「もしそうなら香奈にとっては安心ね」


 理緒菜ちゃんの言葉に私は首を傾げる。


「だって、そんな性格の女、木崎が苦手そうじゃない。友達としてならまだしも、恋人にするとは思えないわね」

「そ、それの何処どこに私が安心する要素があるんですか!?」

「さあ? 何処にあるんでしょうね?」


 思わず声を荒げる私に、理緒菜ちゃんは微笑するだけだった。


「まああんなに深刻そうに悩んでたのに、話を聞いてみたら"男友達が女性と歩いていたのを見かけた"なのは流石に誤魔化しようがないかな」

「う、うぅ……」


 悠希ちゃんにも追撃され、小さくなってしまう私。

 すると、理緒菜ちゃんの顔が真剣なものに変わる。


「来たみたいよ」


 理緒菜ちゃんの言葉に私と悠希ちゃんは視線の先を辿る。駅構内への入口に立って待っていた女性と修斗さんが何か話している。

 話している女性は確かに土曜日見た人で間違いなかった。


「よし、行こーう!」


 悠希ちゃんが立ち上がり、心の準備も何もないままに修斗さんの方へと歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってください! まだ心の準備が――」

「向かいながらしなさい」


 あたふたする私に理緒菜ちゃんがそう言い放って、理緒菜ちゃんも修斗さんのもとへ向かっていった。

 私は数度大きく深呼吸をして二人の後を追いかけた。


「こんにちは、木崎君」


 悠希ちゃんは少しの躊躇ためらいもなく、修斗さんと女性に話しかける。

 私たちを見た修斗さんは目を瞑って今にもため息をつきそうな顔になる。


「お友達?」


 女性が修斗さんに問い掛ける。

 土曜日にも見かけてはいたけど、遠目からだったのもあってこうして近くで顔をしっかり見るのは初めて。遠目からでも分かるくらいの美人ではあったけど、近くで見るとより綺麗さが際立つ。

 近くで見ると年齡は少し私たちより上に感じる。大学生くらい……もしかしたらもっと上かもしれない。少なくとも成人はしていそうな雰囲気を纏っている。


「一応そうなる」

「一応って何よ」


 修斗さんの返答に理緒菜ちゃんがすかさず異議を唱える。


「宮川はともかく、あんたら二人はちょっと話したことある程度だろ」


 修斗さんの反論に悠希ちゃんは「それはそう」と呟く。ほぼ同時に女性の方が口を開く。


「宮川さん?」


 私と悠希ちゃん・理緒菜ちゃんに視線を移しながら、まるで「どれが宮川さん?」と言わんばかりの様子。


「ポニーテール」


 修斗さんが私のことを示すように外見の特徴を伝える。それを聞いた女性とばっちり目が合うと、私の方へずかずかと歩いてくる。


「貴女が宮川さんなのね!」


 私の目の前で止まった女性が私の手を取って言う。


「は、はい。私が宮川ですけど……」


 若干勢いに圧されながらなんとか返事を返す。何故私のことを知っているのか分からず頭上に疑問符が浮かぶ。

 直前の様子を見ると私の外見は知らなかったみたいだから、名前だけ知っていたということだろうか。

 私の手を離した女性は、次は私の周りをぐるぐると回りながら舐め回すように見る。


「で、この女性は?」


 理緒菜ちゃんが修斗さんに尋ねる。


「……母親だよ」


 私たちの顔が驚愕に変わる。


「は、母親!?」


 信じられないと言わんばかりの理緒菜ちゃん。

 言葉が咄嗟とっさに出なかっただけで、思っていることは私も同じだ。悠希ちゃんもそうだと思う。

 そんな私たちを見て女性が修斗さんの隣へと戻って私たちの方を向く。


「修斗の母、木崎きざき美玖みくです。息子がお世話になっております」


 にっこりと笑って修斗さんのお母さん――美玖さんは言った。修斗さんは遂に堪えきれなくなったのか大きなため息をついていた。


「ちょ、ちょい待ちなさいよ。明らかに二十代の見た目なんだけど!?」


 理緒菜ちゃんが納得できないといった様子で修斗さんを問い詰める。


「それは俺も知らん。本人に聞いてくれ」


 そう投げやりに言われ、私たちは美玖さんに視線を移す。


「え? えーと、なんか結婚してからあんまり変わらなくなっちゃったのよね。幸せだからかしら? なーんて」


 そう言って笑う美玖さん。

 どこからどう見ても三十代にすら見えない。修斗さんの年齡を考えれば四十代でもおかしくはないのだけれど、それはもっとあり得ない。


「変わらないせいで今でもたまに声かけられちゃうんだから、変わらなさすぎるのも考えものだけどね」


 苦笑する美玖さん。


「……どういうことですか? 声をかけられる?」


 思わず疑問が口をついてしまう。


「昔アイドルだったらしい」

「えぇっ!?」


 もう驚き疲れたくらいなのに更に驚かされる。


「数年だけだけどね。自分で言うのもなんだけど、織笠おりかさ美玖って言えば、結構有名だったんじゃないかしら」


 織笠美玖、という名前を聞いてもいまいちピンとは来なかった。


「まっ、流石に今の子には通じないみたいね」


 私たちの様子から知られていないということを悟った美玖さんはけたけたと笑う。


「――ッ! 本当みたいだね……」


 スマホを操作していた悠希ちゃんが絶句したように声を漏らす。私と理緒菜ちゃんは、悠希ちゃんのスマホの画面を覗き込む。

 画面には、"織笠美玖"の情報について纏められたページが表示されていた。生年月日と出身地。アイドルとして活動していた期間。来歴などが記されていた。

 そして、そのページに添付されていた恐らくアイドル現役の頃の美玖さんの写真。今とほとんど変わらない顔だった。

 正確に言えば、写真は十代の頃のもので今よりももっと若々しくはある。けど、そのページの情報が本当ならば、今の美玖さんはこの写真から二十年近く経っていることになる。

 そんな事実に私も理緒菜ちゃんも言葉を失ってしまっていた。


「……ねえ。私、化物みたいに思われてそうじゃない?」

「"思われてそう"じゃなく、"思われてる"だろうな」

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