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私立アイドル学園 ~全国からアイドルが集まる学校に一般人として転入して、ひっそりと平穏に学生生活を過ごしたい話~  作者: 天野杓子


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035「一般少年、新年度を迎える」

 四月になり新年度が始まった。

 アイドル学園にはクラス替えがなく、宮川・軽森・藤田とは変わらず同じクラスのまま。

 新年度とはいえ、特に代わり映えのない日々が続いていた。平和に過ごしていたい俺としては望むところだ。ただ、クラス替えによって起こる変化よりも、変わらずこの面子めんつと居る方が何かに巻き込まれることが多い可能性もないとは言えないが。

 BORDERLESSとL'AILEレルの合同ライブの後から起こったことといえば、まずは例の下らない喧嘩の結果。

 ライブの良かったステージのアンケートを装った勝負だったが、端的に結果を述べるのならばBORDERLESSが僅差で多かったらしい。差といっても十数票程度の差でしかなく、総票数から考えればほとんど誤差なのようなものだったと聞いた。

 京谷はもちろん不服そうにしていたそうだが、新年度になって三年生だった白鳥が学園を卒業すると、そもそも藤田と会う機会自体がめっきり減ったのだという。つまり勝負の内容は最初からあまり関係なかったという話。

 一番得したのは目論見通りライブを敢行できた藤田だという結末。出来レースすぎる。

 三年生といえば、白鳥しらとりれんもそうだが、桜庭さくらば蒼空そらも学園から昨年度で卒業している。どちらもあり得ない忙しさのはずなのだが、受験勉強の時間を捻出して大学進学を選んだそう。進学後も活動と大学の両立は難しいと思うのだが、トップ中のトップを張ってるような連中は何を考えてるのかまるで理解できない。

 新年度に入る前の出来事としてはそんなものだったと思う。

 新年度に入ってからは、前述の通りクラス替えもなくそれほど環境も変わっていない。教室が三年生棟に移動になったくらいか。

 唯一直近で明確に変わったことがあるとするならば――


「おはようございます! 修斗さん、優さん」

「香奈ちゃん、おはよー!」

「おはよう」


 宮川が再び登校するようになったことだろう。

 登校してきて俺と軽森に元気よく挨拶をした宮川は自分の席へと向かう。

 クラス替えこそなかったが、クラス棟が変わった際についでと言わんばかりに席順が出席番号順に整理され、教室の最後列で宮川と隣だった席は離れることとなった。


「香奈ちゃんと隣の席じゃなくなったのは残念だなあ? 修斗」


 俺の前の席に座っている軽森が意地悪く笑う。

 五十音順に整理しなおされたことで、"カ"の軽森かるもりの後ろが"キ"の木崎きざきとなったため、前から半分定位置だった俺の前の席が本当に軽森の席になってしまった。


「前の席がお前になったことの方が余程残念だよ」


 ため息をつきながら言い返す。

 これから授業の合間やら昼休みやらに、すぐ振り向いてきて騒がしいだろうことを想像するとそこそこの憂いがあった。

 現実として今こうしてうるさい訳ではあるし。


「つれない事言うなよ。前とほとんど変わらないと言えば変わらないだろ?」

「こいつ……!」


 前から隙あらば前の席に座ってきていたので正しくはあるのだが。それを軽森自身に言われるのはしゃくだ。


「二人とも朝から元気ね~」


 相変わらずのおっとりとした喋り方で声をかけてくる藤田。


「唯ちゃんおはよう!」

「は~い、おはよう~」

「おはよう」


 俺たちはそれぞれ挨拶を交わす。


「……香奈ちゃん来てるのね~」


 小さめの声でそう呟く藤田。


「うん。きっかけがあったりすると分かんないけど、現状は全然元気そうよ」

「そう。よかったわ~」


 軽森の返答に安心したように笑うと、藤田は宮川のもとへと歩いて行った。


「よかったな。宮川が元気になって」


 藤田と笑顔で会話する宮川を、軽森と眺めながら俺はそう口にした。すると、軽森は驚いたように目を見開く。


「は、えっ……? それ俺がお前に言う台詞じゃない?」


 豆鉄砲でも食らったようにきょとんとする軽森。


「は? お前は宮川を元気づけるためにここ最近はアイドル活動に力入れてたんだろ。それがあのライブでちゃんと実ったんだから、俺がお前に"良かったな"と言うのは正しいだろ」


 ぽかんとしていた顔がフッと笑う。


「意外だわー。修斗がそんなこと言ってくれるなんて」


 悪意なく言ってそうなのが腹立つな。


「お前の中の俺はどういうイメージなんだよ」

「人でなし。香奈ちゃん以外には」


 殴っても良いのか?

 そんなくだらないことを話している間に授業が始まり、新学期が始まった。

 とは言っても、いつも通りの日常ではある。アイドル学園特有の行事もないし、学園に桜庭がいないから面倒事を持ってくるようなトラブルメーカーも居ない。

 気を抜けば全国からアイドルが集まった学校であることなど忘れてしまうほど、平穏な日々を送っていた。

 軽森や藤田は変わらず適度に忙しいらしく、仕事やライブ自体は控えめだが夏頃にあるツアーライブに向けて準備期間なのだとか。

 宮川もアイドル活動に復帰したみたいで、時折ライブに出たりしている。宮川を元気づける目的を達して、また暇さえあればアイドルのおっかけをする日々を再会した軽森によれば、復帰してからの宮川は以前よりも少し人気が出たらしい。宮川自身の雰囲気が変わったことを俺たちだけでなく、観客も感じ取ったからこそ少し人を惹き付けられるようになったのだろう。

 俺はといえば、至って普通の高校生を満喫しており、受験のための勉強を行いながら日々を過ごしていた。

 この時期はBORDERLESSやL'AILEのようにツアーライブが企画されていたり、そうでなくともライブが控えているアイドルも多いらしく、アイドル学園主催で行われるイベントもなかった。

 二ヶ月ほど経って、軽森も藤田もツアーライブで忙しくなり、学校を欠席するようになる。宮川の体調も良好なようでライブ出演を積み重ねていくことで、彼女自身も少しずつ忙しさを増していった。

 気づけば、新年度が始まって三ヶ月が過ぎ、夏休みを目前に控えていた。

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