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私立アイドル学園 ~全国からアイドルが集まる学校に一般人として転入して、ひっそりと平穏に学生生活を過ごしたい話~  作者: 天野杓子


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024「一般少年、後始末をする」

 宮川を見送った後、俺と軽森は会場へ戻ることにした。

 何故なら会場でウェアに着替えてウォーミングアップしてたところで、そのまま宮川を探しに行ったから着替えも荷物も置きっぱなしだからだ。

 軽森が付いてくる理由はないのだが、まあ邪険にする理由も逆にない。


「見た目より大丈夫そうだったな、香奈ちゃん」


 歩きながらぽつりと独り言のようにこぼす軽森。


「……どうだかな。苦しんでても許容限界超えるまで見せないようにするタイプだし、今はまだ興奮状態で自覚できてないだけかもしれない」


 あの場の状況と宮川の状態を見れば、ロクなことは起きてないだろうなというのは想像にかたくないが、具体的にどれほどのことが起こったのかは分からない。

 それが宮川の心をどれほど傷つけたのかも。


「確かに。悪い、軽率だった」

「別にいい」


 実際、軽森が来た時には「思ったより平気そうだな」と思ってしまうくらい宮川はいつも通りに近い雰囲気に戻っていた。

 けど、俺があの場に着いた時の宮川の顔は今まで見たことのないくらい生気のない顔だった。加えて、手を貸しても立てないくらい足がガクガクだったこともある。

 そんな状態を平気そうだとはとても思えない。

 無意識的なのかわからないが、他人に弱っているところを見せないように取り繕うところがあるのだと思う。


「……あれ、前からされてたってことだよな」

「だろうな」


 確信があるわけではないものの、学園に転入してきた理由にあれがあるんだろう。

 宮川が標的になった理由は知らないし興味もない。純粋に天真爛漫なところが鼻についたのか、アイドルをやっていたからなのか。

 どちらにせよ、アイドルをやっているのが普通の環境であれば、アイドルであることが理由にはならないし、性格が気に入らなかろうが自分たちの活動に忙しくて他人をどうこうしてる暇はないだろう。まあ絶対居ないとは言い切れないが。


「なんか、やるせないよ俺。すっげぇ怒りたいのに、香奈ちゃんの気持ちをちゃんと理解してあげられなくて、香奈ちゃんのために正しく怒ってあげられる自信がない……」


 軽森は、自分の怒りが相手の気持ちを勝手に自分で解釈したものになってしまうのを恐れてるんだろう。

 俺はあの場に辿り着いて怒りを発散してしまった立場だから、それに関して糾弾されることはあれど、俺自身に糾弾する権利はない。


「軽森は偉いと思うよ」

「……そうかな」


 普段はおちゃらけた印象があるが、こういうところちゃんとしてるのは人気アイドルをやれてる理由なんだろう。

 しばらく歩いて会場に着いた俺は、荷物を回収して更衣室へ入る。

 汚れたスポーツウェアを雑に袋に詰め込んでかばんに投げ入れる。外を駆けずり回った挙句泥水で汚した、勢いそのまま飛び出したおかげで結構とんでもないことになったバスケットシューズも履き替える。

 バッシュはお釈迦しゃかになっちまったようなものだな。

 シューズの状態を軽く確認してため息をつく。その後にシューズもケースに仕舞い、着替えを終えた俺は更衣室を後にする。

 更衣室の外には軽森が目をつむって壁に寄りかかりながら待っていた。


「そういえば、藤田はどこ行ったんだ?」


 そう尋ねると、軽森は顔を上げる。

 宮川が行方不明で連絡も取れないと連絡してきたのは藤田だったから、ずっと姿を見ないのは変だ。


「そういえばだな。唯ちゃんとは手分けして探すことにして別れてから会ってないな。神無月さんから香奈ちゃんの居場所の連絡貰ったから唯ちゃんも同じように貰ってるはずだけど」


 それなのに現れなかったのは相当遠くに居たから間に合わなかったということなのか? だとしても、いい加減現場には着いてそうだし、そこに誰も居なかったら俺か軽森に連絡してきそうなものだが。


「なんか用事入ったのかも。ある程度落ちついたって一応メッセージ送っとくか」


 そう言って軽森はスマホを操作する。

 それを見て、拾ったスマホがあったのを思い出して取り出す。


「え、何それ。修斗のスマホそんな女子高生みたいな感じだったっけ」


 俺の取り出したスマホを見て軽森が不思議そうに言う。


「ちげーよ。主犯格が持ってたスマホ。ぶっ壊すつもりで投げたんだが、まあ壊せなかったな」


 液晶のガラスにヒビこそ入っていて、外装にも多少傷は付いていたがまだしっかり動きそうだった。


「なんで盗ったん? なんかあったのか?」

「たぶん宮川が撮られた。壊れてればあの場に放置してもよかったんだが、回収されて報復に使われてもうぜぇし、見知らぬ人間に拾われてもそれはそれで気分悪いし」


 今後報復が起こらない保証はないが、少なくとも後に繋がる可能性のあるようなことは残さず処理する。


「まあこれの処理は神無月にでも投げるかな」


 面倒事ではあるが、首を突っ込んだんだから最後まで付き合って貰おう。

 それからは今回のことは口に出さず他愛もない雑談をしながら歩く。


「修斗はこれからどうすんの? 香奈ちゃんの様子見に行く?」


 駅まで着くと改札前で軽森が問いかけてくる。


「いや、やめとくよ」


 体もボロボロだし体力も使い切ってるだろうしで、別に用もないのにこれ以上負荷を掛けに行く理由もない。


「それもそうか。香奈ちゃんも疲れてるしな」


 学園祭の時も桜庭と似たような会話したな。宮川自身は別に虚弱ではないと思うが何故かこういうことが多い。

 ……まさか俺のせいなのか?

 俺は軽森と別れ、スマホで神無月に連絡を取る。


『はい、神無月ですわ。どうしました? 木崎修斗』

「ちょっと相談ってか処理したいものがある。まだ病院か?」

『いいえ。丁度宮川さんを自宅へ送り届けたところですわ』

「ならどこ向かえばいい?」

『こちらは車ですし、そちらへ向かいますわ』


 神無月にそう言われ、駅に居ることを伝えて通話を切る。

 そのまましばらく駅の改札前で待っていると、神無月が現れる。


「お待たせいたしました。処理したいものがある、でしたわね」

「ああ」


 単刀直入に本題に入る。

 俺はポケットからスマホを取り出し、神無月へと渡す。


「これは……?」

「主犯格が持ってたスマホ。恐らく宮川の写真撮られてる」


 端的に情報だけ伝えると、神無月は察したように頷く。


「わかりました。該当データだけ消してお返しすればよろしいのですね?」

「それが丸いと思う」


 おおよそ理想通りの処理をしてくれそうで安堵する。


「全く……黙って壊して処分してしまえばいいでしょうに。変なところ几帳面ですわね」

「別に壊して処分する方が楽ならそれでもいいが」


 神無月は呆れたような顔をして首を横に振る。


「とにかくお預かりしましたわ。宮川さんに危害が行かないように処理いたします」

「頼む」


 神無月は渡したスマホを仕舞い、一礼してその場を去っていった。


「あ、そうでしたわ」


 数歩歩いた神無月が足を止めてこちらを振り返る。


「勝負は無効といたしました。約束は破棄いたしますわ」

「ああ?」


 予想もしてなかったことを言われ、目を細めて首を傾げる。

 あれだけ固執してたのにあっさり引いた……?


「そんな目で見なくとも何か企んでいるわけではありませんわ」


 俺の様子から心情を読み取った神無月が微笑みながら言った。


「ですが諦めてはいませんから。その体、精々鈍らせずにおくことですわ」


 そう捨て台詞染みた言葉を吐いて今度こそ神無月は去っていった。

 なんかよく分からんが都合良い感じに収まったらしい。

 上手い具合に収まりすぎた現状に一抹の不安を覚えつつ、俺は改札を通って帰路につくことにした。

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