021「一般少年、勝負を受ける」
「お待たせいたしました。チーズケーキでございます」
店員がチーズケーキを藤田・宮川・軽森・美浜に配膳する。
俺達は藤田の提案で、藤田たちが行く予定だったカフェに場所を移した。
話の流れ的にまだ長引きそうだったのもあり、神無月もあのまま校門の前で話し込むのは憚られたのか、その提案を受け入れた。
カフェに入ると俺達はボックス席に案内され、特に示し合わせた訳でもないが、男子側と女子側にそれぞれ分かれて座った。男子側は席の奥から順に、軽森・俺・美浜。女子側は、宮川・藤田・神無月の順。
藤田はフォークを手にして「いただきま~す」と挨拶をしてから、チーズケーキにフォークを刺し込み一口分を掬って口に運ぶ。
それに倣うように他の三人もチーズケーキを食べ始める。
「木崎修斗が何者なのか、という話でしたわね」
頃合いを見て神無月が話の続きを始める。
「彼はただのバスケットボールプレイヤーではありません。中学三年の時と高校一年の時の二度、全国大会で優勝したチームに所属していました」
それを聞いた軽森が喉を詰まらせ咽る。
「マ、マジ……?」
咳を落ちつけた軽森は口を覆いながら声を漏らす。
「大マジですわ。本来であれば去年には三度目の優勝を果たしていたはずです」
当たり前のようにそう断言する神無月。
無責任によく言うよ……。
真面目な話。過去二回の優勝は周りに恵まれていた部分が大きい。
中三の頃は、俺だけじゃなくチームメンバー全員が"天才"と評されていた。事実、優勝後には俺を含めた全員に各地の強豪校からスカウトが来ていたし、結果として全員バラバラの学校へ進むことになる。
俺は面倒だからそういうのは全部蹴って自宅から通える高校を選んだ。そこもまあまあ強豪校だったのだが。
高一の時は、三年の先輩が特に実力者揃いで、当時の話題性もあり俺は一年生でスタメンに選ばれたが、そもそも出ない試合も結構あった。
当時二年だった先輩たちは、決して下手じゃないけど全国が狙えたかと言われると、正直なところ無理だったんじゃないかと思う。当時から二年の先輩たちよりは上手いという自負は多少なりともあったが、それを加味しても去年は無理だった可能性が高い。
そもそも五対五の十人で行われるスポーツで、一人が出せる影響力には当然限界がある。漫画アニメじゃあるまいし。
「でも修くんがアイドル学園に来た時期は秋頃よね~? あまり詳しくはないけど、大会の時期は終わってたんじゃないかしら~?」
藤田の指摘に神無月は苦虫を噛み潰したような顔をする。
藤田の指摘は至極真っ当だ。
「去年の五月頃にとある事件がありました」
ここまで来たら仕方ないとはいえ、過去の汚点を晒すことになるのは気分が悪い。
「彼と部内の後輩が暴力事件を起こしたのです」
再び咽る軽森。目を見開いて固まる宮川。「あら~」と零す藤田。
「正確には彼は仕掛けられた側なのですが、やり返してしまっては客観的に見て無罪とは言い難いでしょう。事件の渦中の二人は一ヶ月ほどの停学となりました」
「あれは見てる側も震えたぞ。本当に突然殴り合いが始まったからな」
当時を思い出して身震いする美浜。
「その後はどうなったんだ? そのままアイドル学園に来たわけじゃないだろ?」
軽森の問いに美浜が頷く。
「停学明け後は二人とも部活に出てきたぞ。最初は周りの方がピリついてたけど、二人は話さないどころか目も合わせないくらいだったから、結局何も起きなかったな」
「むしろ次に問題を起こしたのは他の部員たちですわ」
神無月が呆れ混じりにそう言い放つ。
「先の事件が起こったことが引き金となり、今度は他の部員たちの木崎修斗への不満が噴出したのです」
「なんで!?」
突然の急展開に思わず声をあげる軽森。
「当時、あの場に居た者の一人としてその疑問に答えるなら、嫉妬じゃないかと儂は思う」
「私もそう思います。類稀なる才能への嫉妬。もしかしたら、彼が居ることで自らの活躍の場が奪われていると感じたのかもしれませんわね」
理解しがたいといった反応を見せる軽森。
「結局、彼はバスケットボールを退部し、そのまま界隈から姿を消したのです」
そう話を結ぶ神無月。
衝撃的な話だったのか軽森も藤田も口を閉ざしたまま沈黙が流れる。
「あの、聞いてもいいですか?」
口を開いたのは黙々とケーキを食べ進めて完食した後の宮川だった。
「何でしょうか?」
「修斗さんは何故アイドル学園に転入してきたんでしょうか? いくら嫌な目に遭ったからといって、修斗さんはそれだけで転入を決意するような人じゃないと思います」
神無月は口を噤んでしまう。
「しかも、"アイドル学園に"です。アイドルの妹さんが居たので学園への転入条件は満たしていましたが、修斗さんが逃げ先として選ぶには疑問があるような……なんて、思って……るんです、けど」
宮川は話している間に自信がなくなったのか最後の方はぼそぼそと呟くような声量で話す。
この疑問に対しての答えを持っているのは、俺とこの間話をした美浜だけだろう。
「バスケ部辞めたまでは良かったんだけどな。その後も面倒でな。美浜みたいな少数派が戻ってこいってうるさかったんだよ」
「当然の行動だ」
胸を張って誇らしげにする美浜には取り合わずに話を続ける。
「他にもクラスメイトに"バスケが上手いのに辞めた人"みたいな目で見られたりな。そういうのが全部面倒くさくなったから、俺のことを知らない上に興味も持たない人間が大多数であろうアイドル学園に転入することにしたんだよ」
俺の言葉に三人は、大小差はあれど納得したような様子を見せる。
「なるほどね~。確かに私たちの誰も修くんのことを知らなかった訳だもの。目論見通りよね~」
実際は一人だけ知ってる奴が居たから目論見は外れて、しかもそいつにいろいろ巻き込まれたせいで俺に興味を持つ人間がちょいちょい現れてしまったんだが。
「とにかく、これで分かって頂けたでしょう。木崎修斗を放置しておくことの損失を」
ようやく神無月の本来の目的の話へと戻ってくる。
「もう一度問います。木崎修斗、神無月グループのチームに入って頂けませんか?」
「断る」
即答。
少なくとも今は何度来られてもイエスと答えることはない。
「これ以上食い下がるのはみっともないですわね。では、こうしましょう。木崎修斗、私の望みを賭けて勝負いたしませんか?」
不敵に笑って神無月は告げる。
「勝負?」
「ええ。貴方と私の用意するプレイヤーでバスケットボールの勝負です。貴方が勝てば私は大人しく引き下がります」
面倒くさいことになってきた。
すると美浜が口を開く。
「それは変じゃないか? バスケが上手いから誘いたいのに、バスケで負かして加入させるのか?」
神無月は「しまった」と言わんばかりに手を口に当てて仰け反る。
いいぞ、美浜。そのまま論破してしまえ。
「い、いいのです! 私が用意するプレイヤーも超一流。例え彼が負けたとしても、それが弱いことの証明にはなりません」
理論が力技すぎる。
ただ、これ以上付きまとわれるのも面倒だし、向こうは負ければ引き下がると明言もした。なら、勝負受けて勝敗はどっちにしても終わらせた方がいいか。
「わかった。勝負を受けてやる」
「そうこなくては。では日程とルールの制定を致しましょう」
俺と神無月、そこに美浜を加えて勝負のルールを制定する。
勝負の日時は二週間後の土曜日。開始は十五時。
ルールは、一対一の十本勝負。攻守は交互に交代。シュートを外してもディフェンス側がボールを確保するかボールがラインを割るかまでを一プレイとする。十本終了時点でゴール数が同数の場合は、サドンデス方式で差が付くまで繰り返す。
「以上でよろしいですわね?」
「ああ、問題ない」
こうして神無月グループのチームへの加入を賭けた勝負が決まった。
しばらくは真面目にバスケやんないとだな……。
美浜が神無月に漏らしたせいで結果こうなったってことだろうし、責任取ってリハビリに付き合わせることにしよう。




