第二百九十六話
第二百九十六話です。
昨日に引き続いて、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
一日経ったところでノルン様からの許可が出た。
当然、ミアラークの騎士さんによる監視付きではあるが、魔王達が外を出歩けるようになるための処置であるので受け入れなくてはならない。
『頼む……! 問題を起こさないでくれ……! 起こすにしても君達からは起こさないでくれ……!』
返答を伝えにきてくれたレオナさんには物凄く切実な忠告をもらってしまったわけだが、勿論しっかりと守るつもりである。
「先輩、装備は?」
「ちゃんと刀も持っているよ。何があっても十分に対処できる」
宿の前で魔王が来るのを待つ僕達。
あらかじめフェルムと同化し、肩のいつもの位置にフクロウ状態のネアが留まっている。
「護衛の任を果たさなくちゃな」
「そこまで肩肘張らなくても大丈夫だと思うぜ。魔王様を害せる奴らなんてそれこそお前ら以外にいねーだろうし」
「お前も護衛だろ……」
あっけらかんとしているコーガの頭に剣の鞘がゴンと叩かれる。
中々の衝撃だったのか痛みに頭を抱えるコーガに、鞘を振り下ろした人物、アーミラさんが呆れたため息をついた。
「全く、嘆かわしいぞ。少しは彼らを見習ったらどうだ?」
「い、いきなりなにすんだ!」
「戦う可能性が低いとしても魔王様を護衛することは重要なことだ。自覚が足りないんじゃないか?」
アーミラさんは真面目なようで安心した。
……まあ、僕以外の三人の実力を考えれば誰が来ても大抵はなんとかできそうではある。
それにデタラメな存在すぎる魔王もいるし。
そこまで考えていると、開け放たれた宿の扉から魔王と、彼に付き従うシエルさんがやってくる。
魔王の装いは、黒で統一された上下に、ファーのついたコートのようなものを肩で羽織るように着ている。
「なんかマフィアのボスみたいですね」
「うん、すんごい悪いオーラ出てる……」
声を潜めて先輩と会話する。
正直に言ってかなり目立つ。
それも悪目立ちしているし、なによりただそこにいるだけで無駄に威圧感を放っている。
「さあ、話にあった訓練場とやらに行ってみようか」
「いや、なんでですか……」
「ん? 人の目が多いからに決まっているだろう?」
やっぱり、この人は自由すぎる。
そんなことを思いながら僕は先を歩いていく魔王についていくのだった。
●
予想していた通り、道中はかなりの注目を集めることになった。
人間とは異なる角に褐色の肌。
それだけで人の目を引く見た目なのに、その上に魔王という常にラスボスオーラを放っている人がいるんだ。
むしろ、注目されない方がおかしいとすら思える。
『あれが噂の魔王……』
『恐ろしいな……この距離でも圧が伝わってくる』
『顔が怖い……』
当然、そんな声も聞こえてくる。
昨日から本格的に各国の代表人が集まりだしたので、二日前と比べると人気のなかった道には、人が多くみられるようになった。
通り過ぎる人ほぼ全てが、護衛の方だったり、どこかの国の代表の方だったりする。
『一緒にいるのはリングル王国の勇者と……誰だ?』
『あれですよ、あれ。救命団の治癒魔法使い。白い服を着ているでしょう?』
『噂の治癒魔法使いがあんな少年……?』
魔王達と一緒にいる僕達も多少なりとも見られているが気にすることでもない。
というより、慣れているので全然気にしないのである。
『戦場では魔物の背に乗り、魔族達をなぎ倒していたらしい』
『魔王軍の幹部を脅して気絶させたとか……』
『建物よりでかい蛇と戦ったって聞いたぞ!』
……。
「ふっ、根も葉もない噂を……どうしてそう事実のように言えるんでしょうね」
「全部事実だろお前」
「コーガ。僕はハンナさんは脅してない。彼女が僕を悪魔と勘違いしただけだ」
「どちらにしてもお前のせいじゃね……?」
主にネアとフェルムのせいだ。
こればっかりは絶対に譲れない。
そうこうしているうちに、訓練場の会場内へと足を踏み入れる。
「おー」
やや生き生きとした声を上げた先輩の声。
視界に広がったのは、訓練場内に多種多様の装備を纏った兵士や護衛の方たちが各々の訓練や模擬戦を行っている光景であった。
人気がいない時の訓練場とは、景色そのものが異なっているようにすら見えた。
「やはり、いないか」
「……どうしました? 魔王様」
「いや、気にするな」
とりあえず、訓練場に入りたい衝動を押さえながらシエルさんと会話をしている魔王へと話しかける。
魔王は存在感が本当に半端ないので、いつのまにか会場に座っている代表らしき人達の視線を集めている。
中には訝し気な様子で警戒している者もいる。
「魔王、これからどうするんです?」
「まずは、ここにいる者達の反応を見る。……ふむ、コーガ、ウサト。下で軽く戦ってみろ」
「命令が単純すぎませんか……?」
腕をぶんぶんと回し始めたコーガにげんなりしつつ魔王に説明を求めると、彼はにやりと笑みを浮かべる。
「ここにいる奴らにとって魔族は見慣れない存在だろうからな。まずはコーガを戦わせて、反応を確認する」
「なぜ僕も戦わなければならないんですか……」
「それは、私の気分だ」
本当にいい性格しているなこの人は……!
僕はため息をしながら、自身の内にいるフェルムに話しかける。
「フェルム、同化を解いてくれ」
『いいのか?』
「ああ、軽く手合わせするだけだから僕一人だけでいい。……ネアも」
「はーい」
同化を解き、僕の身体から出てくるフェルムと、フクロウから黒髪赤目の少女の姿へ変身するネア。
そこでまたさらに自分がややこしいことをしてしまったことを自覚し、思わず額を押さえる。
「……しまった。人間扱いから遠のく」
「まあまあ、元気出してよ、ウサト君。私達はここで見てるからさ」
「……はい」
先輩に慰められた後、僕とコーガは階段を降りて訓練場へと向かう。
訓練場に入ると、一気に周囲の各国の騎士や兵士達の注目を帯びる。
「まるでパンダになった気分だよ……」
「周りの目は無視だ。魔王様の命令通り、やろうぜ」
軽い手合わせというなら籠手も展開させなくてもいいな。
そのまま白い線で区切られた長方形の空いているフィールドに移動した僕は団服の襟を正し、軽く握った拳を構える。
「最初はあくまで軽い手合わせだぞ。魔法なしでのな」
「分かってるって。……なんなら、左腕の魔法も解除してやるか?」
「言い訳にされるのも嫌だから、左腕はそのままでもいいよ」
今まで気にもしていなかったけど、コーガはカズキとの戦いで左腕を失っている。
しかし、すぐに闇魔法で左腕を作り出し、さらに厄介な使い方をするようになっているあたり、こいつは強い。
軽い準備体操をし、深呼吸をした後にコーガと相対する。
「ふん!」
「ッらァ!」
合図もなく僕とコーガ、両方から繰り出された拳。
奴の右拳を躱しながら、こちらも躱された拳を瞬時に戻しながら攻撃を繰り出していく。
「ハッ! やっぱ、お前とはこうでなくちゃな!!」
「お前の相手をしてると、疲れる!」
拳と蹴りを繰り出しながら、魔法もなにもない格闘を交わす。
コーガが繰り出した拳をクロスした両腕で受け止め、僕が叩きつけた蹴りをコーガが衝撃を逃がしながら横へ飛んで防ぐ。
本音を言うのなら拳での模擬戦をするのは、ローズ以外に初めてだった。
『おい……なんだよ、あれ』
『魔族って人間よりも腕力が強いって話じゃなかったの……?』
『えげつない打撃音が聞こえる……』
『あれが、リングル王国、治癒魔法使いか……』
ドッ、ゴッ、ガッ、という人体から出たとは思えない打撃音を上げながら僕達の手合わせは加速していく。
いつもぶん殴られて吹っ飛ばされては、ぶん殴られるの繰り返しではあったが、こういう互角の戦いは楽しいとすら思えた。
「だが、それでも手加減はしない! ふん!!」
「ぬぐぉ!?」
額で拳を受け止め、無防備な腹に拳を叩き込む。
攻撃を堪えたコーガは、その場で跳躍―――強烈な横蹴りを叩き込んでくる。
「くっ!」
芯まで響く衝撃……!
防御に構えている右腕に左手を添え、さらに彼の足を掴み、片手で大きく振り回す。
「オラァ!」
「おおおお!?」
片腕のみの力で投げ飛ばされたコーガは、空中で体勢を変えて地面に着地する。
「ふぅー、やっぱ魔法抜きじゃ勝負はつかねぇな」
「いや、治癒魔法使った方が勝負つかないだろ」
「お前は治癒魔法云々よりも、魔力使った応用技の方がやべーだろ」
散々な物言いだ。
だが、自覚している部分でもあるので下手に反応はしないでおく。
「じゃあ、次からは軽く魔法を使っていくか?」
「ああ」
段階的にやっていく感じだな。
治癒魔法を発動させ、疲労と怪我を一瞬にして回復させた僕はもう一度構える。
模擬戦再開だ、とコーガに声を投げかけようとした時、僕の後ろを見ていたコーガの表情が驚愕へと変わっていることに気付く。
「ウサト!」
「……!」
―――背後から何かが迫ってくる。
瞬時に魔力を腕に籠めながら振り返り迎撃しようとすると、それよりも先にコーガが掌から闇魔法の壁を作り出してくれる。
バチィ! と電撃のつんざくような音がぶつかり地面を跳ねる音が聞こえる。
なにかしらの攻撃を防ぎ、闇魔法の壁を消したコーガはニヤリと、笑いながら僕に人差し指を向けてくる。
「貸し一つな」
「僕一人でも防げた」
「だろーな。じゃ、俺の方が速かったってことで」
……というより、誰が僕達にこれを放った?
明らかに僕達に向けて放たれたものだ。
こちらに近づいてきたコーガと合流していると、この場に一人の男が近づいてくることに気付く。
肩甲骨ほどまでの長さに伸ばした金髪。
軍服に似た黒っぽい服を着た男の手には、訓練用のものではない実戦用の槍が握られていた。
「テメェか、いきなりどういうつもりだ」
「いや、すまない。つい手元がくるってしまったんだ」
「はぁ?」
手元が狂ったのはいいけれど、ちっとも謝罪されているような気がしない。
「しかし、私の電撃を防ぐとは中々やるじゃないか。さすがは魔族、人間もどきだ」
初対面でいきなり失礼をかましてくる金髪の男に、コーガは怒るよりも困惑する。
なにやら、ふてぶてしい様子の男を見た彼は、声を潜めて僕に話しかけてくる。
「……おい、ウサト。なんだこいつ。喧嘩売ってきてんのか?」
「どうやら、彼は君を怒らせたいようだ」
「ここで面倒を起こすわけにもいかねぇから、無視だな無視」
そうするのが一番だな。
頷いた僕達はさっさとこの面倒そうな人から離れようとするが、それよりも早く男がコーガに自身の持っている槍の穂先を向ける。
「おい、お前。私と勝負をしないか?」
「……はぁ? なんで?」
「前々から、魔族というのがどれほどのものかを知りたかったんだ」
本気でなにを言っているんだこの人は。
ここで、こんなことをしても相手にとってもいいことなんて何もないだろ……!?
周りに人がたくさんいるのが分かっていないのか!?
「ふん、まともに勝負をするつもりもないのか。やはり、魔族というのは下等種族だな」
亜人差別か。
ここまで露骨なのは初めてだな。
この場にハヤテさん達がいなくてよかったと思う。
彼らに目の前の男のような人物を近づくようなことがなく。
「そもそも、貴方は誰ですか?」
「おや、この腕章を見ても私が誰かも分からない?」
「……ええ」
脳内の団長が、僕に今からこの男をぶん殴れと囁いてくる。
それを理性で押しとどめ、彼の名乗りを待つ。
「私はヴェリナス王国、騎士兵団中隊長のリグナス・ヘルムラインだ」
「では、ヘルムライン殿。自分はリングル王国から魔王の護衛兼監視として派遣されております、ウサト・ケンです」
「フン、リングル王国か」
ここは穏便に、穏便に済ませるんだ。
ここが路地裏だったのなら、治癒目潰しで視界を潰してから気絶させられるがここでは無理だ。
アルクさんの口調を意識しながら、なるべく相手の機嫌を損ねないように応対する。
「貴方の言動は少しばかり、礼を欠いている御自覚はありますか?」
「いいや? できもしない侵略を行った敗戦国の扱いなど、これでいいだろう? むしろなぜ、ついこの前まで戦っていたお前が、魔族を庇うんだ?」
「任務に私情は持ち込むつもりはありません。……貴方がここにいるということは、ヴェリナス王国の代表はここに?」
「ああ、そちらに」
リグナスの視線を向けた先には客席に座る護衛に囲まれた老人がいた。
こちらをジッと見つめている、不気味な印象を受ける人だ。
「それより、なぜお前がしゃしゃり出てくる。魔族がどうなろうとリングル王国側からすればどうでもいい話だろ」
「……魔族も今回の会談の参加国の一つです。敵視する謂れはあれど、表立って差別するのはいかがかと……」
「なんだ、お前? 魔族に味方しているのか?」
この人、言葉が通じてねぇのか……!?
それとも、耳に綿でもつまってんのか?
……。
いや、この会話にもちゃんと意味がある。
周りに聞いている人がいる以上、立場が悪いのは横暴なあちらの方だ。
「……自分達がいると、周りに迷惑がかかってしまうようです。ここらで僕達は戻ります」
「おい、私はそこの魔族に用があるんだ。勝手に帰るな」
リグナスの言葉を無視して僕達は上階へと向かう階段のある方へと向かう。
あんな勝手な要求に構ってられるか。
「ハハッ、そうか。お前ら魔族は私との戦いから逃げ出すつもりなのか!」
しかし、彼はよりにもよって大声を上げてそんな言葉を口にした。
足を止める僕達に、リグナスは続けて声を投げかける。
「噂に聞いていた話と違うようだ。魔族は人間よりも優れた力を持っていると聞いたが、どうやらそれすらもない、人間以下のただのサルだ!」
ああ、もう事態がさらに厄介なことになった。
リグナスはよりにもよって、周りを巻き込んだのだ。
めっちゃ頑張って穏便に済ませようとするウサトとコーガでした。
亜人差別が極まり、増長した騎士が今回登場したリグナスとなります。
長くなってしまったので、二つに分割して更新いたします。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




