第二百八十八話
申し訳ありません。
殴りテイマーの方の更新をお休みして、こちらを更新いたします。
昨夜に引き続き三話目の更新です。
前話を見ていない方は、まずはそちらをー
連合国会談が行われる三日前。
僕は、以前戦いが行われた戦場から離れた場所に流れている川沿いに停泊している船の前にいた。
停泊している船は二隻あり、そこには既にロイド様とウェルシーさん、そしてカズキとフラナさんを含めた護衛の騎士達が乗り込んでいた。
「ウサト、気を付けてね」
「ああ、ナギさんに迷惑かけるんじゃないぞ?」
船を前にしたアマコに話しかける。
今回の会談にはナギさんも立ち合うため、彼女もミアラークに向かうことになっていたが、会談が終わり次第、ヒノモトに向かうということなので里帰りを考えていたアマコもついていくことになった。
「ウサトも、あまり変なことしないようにね」
「変なことってなに……?」
「カンナギ、言ってやって」
突然話を振られたナギさんは、あたふたとしながら僕を見る。
「うぇ!? え、えーっと……その……」
早速迷惑かけてるじゃないか。
無理に言おうとするナギさんに苦笑しながら、アマコの方を向く。
「まあ、あっちで合流するだろうからその時までね」
「うん。じゃ、そろそろ行く」
「ナギさん、アマコのことよろしくお願いします」
「ああ、任された」
荷物を背負ったアマコがナギさんと共に船へ乗り込んでいく。
少しすると、船に積まれた魔具がエンジン音を鳴らし、その大きな船体を前へ前へと進ませていく。
その船を見送っていると、先ほど合流したレオナさんが歩み寄ってくる。
「カズキ殿は先にミアラークに到着するだろう」
「ええ。僕達も合流場所まで移動しましょう」
僕と先輩、レオナさんはミアラークから派遣された騎士達と共に魔王を迎えることになっている。
ロイド様達の乗った船を見送った僕達は、あと一隻ある船をその場に残しあらかじめ予定していた魔王との合流場所へと移動する。
場所自体はそれほど遠くなく、リングル王国が急造で作り上げた橋のある場所にすぐに到着する。
「まだ魔王は来ていないようだ」
「そのようですね」
予定した合流時間よりも早く来てしまったので待つことになりそうだ。
僕達以外に、護衛としてついてきてくださったリングルとミアラークの騎士さん達の姿を確認しながら、魔王の到着を待っていると、レオナさんがこちらに歩み寄ってくる。
「……これからが大変だ」
「ええ……なにせ、相手は魔王ですもんね」
これから魔王を迎えるってのが、中々に大変すぎる。
苦笑する僕に先輩が、やけに自信満々な様子で話しかけてくる。
「心配ないさ。もしもの時は私と同化すればいいだけだからねっ!」
『お前、ウサトに出入り禁止だぞ』
「なんで!?」
僕の内から聞こえるフェルムの声に先輩が声を上げる。
なぜか道中の間に僕に同化しているフェルムとネアに、溜息をつきつつも二人の会話を見守ることにする。
「いやいや、むしろあれがウサト君の最終形態だよ!? 雷の速度で動いて空中移動もできる、最強無敵のウサト君雷速移動要塞モードなんだよ……!」
『最強無敵なら、そんなおいそれと出していいものじゃないなー』
『そうね。切り札は温存するものねー』
声を棒にさせてそう口にするネアとフェルム。
訳の分からない二人の相槌に、先輩は驚愕の面持ちを浮かべる。
「……ハッ!? たしかに最強系は出しすぎると、さらなる上位互換にとって代わられるか、大抵やられ役か、クソ雑魚呼ばわりされる可能性もある……!」
『なんか勝手に納得したぞこいつ……』
分かるような分からないような……。
テンションの高い先輩の言葉に微妙に共感する。
てか、前から思ってたけど、先輩って少年心に響くものが好きなんだな。
『……。おい、レオナ』
「うん、どうした?」
僕の内のフェルムがレオナさんに声をかける。
彼女がレオナさんを呼ぶのは珍しいなと思っていると、どこか低い声で続けて話しかけていた。
『ウサトの肩に手を置け』
「え? こ、こうか?」
「フェルム……?」
戸惑いながらもレオナさんが軽く僕の肩に手を置いたその瞬間、触れた肩から吸い込まれるようにレオナさんが僕と同化する。
突然の同化に、周囲は騒然となる。
『れ、レオナさんが消えた!?』
『ウサト殿がレオナさんを取り込んだのを見たわ!』
『治癒魔法ってそんなこともできるんですね……噂通りです』
一緒に行動するミアラークの騎士さんが唖然とした様子で呟いてる一方で、リングル王国の騎士さん達はと言うと―――、
『まあ、ウサト殿だし……』
『いつも通りと言えば、いつも通りですな』
『ハッハッハッ』
やけに達観した様子だった。
いくらなんでも慣れすぎでは……? 人一人取り込むことを驚かないなんて、そこまで日常的に変なことをした覚えがないんですけど。
……まあ、それより今の状態を確認しよう。
レオナさんを取り込んだ闇魔法は見た目にこれといった変化を出すことはなかったけれど、なぜか僕の左手にレオナさんの武具である槍が、杖の状態で僕の手に現れている。
「レオナさん、大丈夫ですか!」
『あ、ああ、なんともない。……ネアが我が家のようにくつろいでいることに驚いているのだが……』
ネアは僕の中を休憩所かなにかと勘違いしているんじゃないのかな……?
彼女を取り込んだフェルムは、口をぱくぱくと閉口させている先輩に揚々と声をかけている。
『よーし、レオナは信頼できるから同化できるな』
「つまり、ウサト君に氷属性が追加されたってことか……」
『皮肉が通じない……マジで無敵かこいつ……!?』
どうやら、先輩をからかおうとしたようだが、逆効果だったようだ。
内も外も混乱したままでいると、ふと僕の左手に握られているレオナさんの武具にバチバチと雷のようなものが迸っていることに気付く。
「これは……」
「私の刀の時と同じ現象……。もしかしたら私の刀と同じように、レオナの武具もウサト君に適した形になるのかもしれないね」
点滅するように光を放っていた杖が光の球体へと変化すると、僕の両足を包み込む。
膝から下を光が覆い、なにかが形作られていく。
「えぇ……」
「おお、かっこいいじゃないか」
光が収まるころには、僕の足には青白い脚甲が装備されていた。
太陽の光を反射させながら輝くそれは、羽根のように軽く、それでいてとてつもない力を内包しているように思われた。
「どうして、こんな簡単に……」
『使い手である私と同化していることという理由もあるが、創造主であるファルガ様が君のことを認めていることも関係しているのだろう』
「本当に恐れ多いなぁ……」
期待されているとも言えるかもしれない。
脚甲で軽く地面を叩くと、白い冷気が溢れる。
「でもなんで脚甲なんだろう」
「あれじゃないかな? どんな場所でも走って辿り着くっていう救命団としての意志を反映させたから……とか?」
「なるほど……」
籠手が護るためのものなら、この脚甲はあらゆる場所を走破するためのものか。
やろうと思えば空中に氷を出して足場にできるのかな?
ちょっと試したい衝動に駆られるけど、今は任務中だしやめておこう。
『名付けるなら、アイスウサト……いえ、これはないわね。安直すぎるわ』
「ネア、地獄の番犬、ケロべロスウサト君はどうかな?」
『ちょっと仰々しくない? もっと頭悪そうな感じがいいと思うわ』
勝手に僕の形態名を増やさないで欲しいんですけど。
というより、悪魔どころか地獄の番犬になってるじゃん。
ネアと先輩の会話にため息をつきながら、フェルムにレオナさんとの同化を解除するように指示する。
「……フェルム、レオナさんとの同化を解いてあげて」
『ああ』
弾かれるようにレオナさんが僕の身体から飛び出す。
それに合わせて、僕の足の脚甲も消えて元に戻る。
「すみません、いきなり変なことに巻き込んでしまって」
『いきなり悪かった。レオナ』
「いいや、いい経験になった」
僕とフェルムの謝罪にレオナさんは、気にしてないような素振りを見せながら笑いかけてくれる。
「今後、私の力が必要な時は言ってくれ。いつでもこの力を貸そう」
「! ありがとうございます」
レオナさんの力を借りられるのなら心強い。
勿論、それは先輩も同じだ。
———その時、魔王領側にある橋の近くに白い渦のようなものが出現する。
以前見た、別々の場所と場所を繋ぐ転移型の魔術。
それを目にした僕達は、一様に気を引き締める。
「ふむ。……どうやら、待たせてしまったようだな」
「「「———ッ!」」」
ローブを纏った大柄な体躯を持つ魔族。
ただそこにいるだけで存在感を放つ魔王の出現に、護衛の騎士さん達の間に緊張が走る。
……まだ出発していないのに騎士さん達を不安にさせるわけにはいかないな。
なので、僕が率先してこの場に到着した魔王に近づくと―――何人か、彼に付き従っている魔族がいることに気付く。
「えーっと、魔王、様?」
「敬称は不要だ。貴様らにそう呼ばれるのは気持ちが悪い」
最初に先輩が声をかけるが魔王は僅かに表情を顰めさせた。
こちらも様付けするのは違和感しかないので助かるけど……さん、とかつけたほうがいいだろうか……?
「では魔王、僕達が船まで案内します」
「ああ。頼もう」
思っていたよりすんなりいけそうだな。
内心で安堵していると、魔王が声をかけてくる。
「それよりウサトよ。随分と面白いことをしたようだな」
「好きでしたんじゃないんですけどね……」
面白いこととは悪魔のことだろう。
魔王からすれば愉快だろうけど、僕達からしてみれば厄介なことこの上ない。
「フッ、甘いよ魔王。ウサト君は基本面白いことしかしないからね。覚悟しておいた方がいい」
「ほう、それは楽しみだ」
「貴方は同意しないでください」
貴方はどういう立ち位置にいるんだ。
ため息をつきながら魔王から視線を外し、今まで敢えて避けていた魔族に目を向ける。
そいつは僕の視線に気づくと、友人に再会したような気軽さで手を振ってくる。
「よっ!」
魔王の傍にいる魔族———コーガ・ディンガル。
憎たらしいほどに晴れ晴れとした笑みを向けてくる奴に僕は、今日一番のため息をつく。
「……はぁぁ」
「顔見るなりため息つくのは酷いと思うぞ」
予想通りというか、やっぱりコーガが来やがった。
コーガだが、もう一人の侍女姿の女性、シエルさんが呆れた視線を向ける。
「ざまーみろです」
「なんか俺だけに当たり強くない?」
シエルさんは護衛というより付き人って感じか。
シエルさんの当たりの強さに肩を落とすコーガを見ていると、白い渦からまた新たに誰かが出てくる。
「……む、なるほどお前達が監視役か」
赤みがかった髪に魔族特有の褐色の肌と角を持つ女性―――アーミラ・ベルグレッド。
戦いの最中に何度か遭遇した彼女は、以前見た鎧を着た姿とは異なる装いに身を包んでいる。
「あー、まあ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします。えーっと、アーミラさん」
「よろしくね」
「……」
彼女は僕と先輩の姿を見て、なんとも言えないような表情を浮かべる。
「複雑な気分だな。敵同士だったはずのお前達と、こうすることになるとは」
「それはこちらも同じだよ。私と貴方は命がけの戦いをした間柄でもあるしね」
「……たしかに、そうだな」
この前の戦争の話か。
僕はその場にいなかったけれど、相当すごい戦いをしていたから。
「魔王様に害意を示さない限り、敵対するつもりはない」
「ま、今は敵対関係にないんだし仲良くとまではいかないけれど、歩み寄っていこうじゃないか。……好きな食べ物とかある?」
「……おい、この勇者は普段はこんな感じなのか?」
「ははは……」
『相変わらず距離詰めるの下手くそだな』
先輩のコミュニケーション力に戸惑いを見せるアーミラさんだが、僕と同化しているフェルムの声に反応する。
「黒騎士もそこにいるのか?」
「ええ、僕と同化しています。フェルム、出てきたら?」
『面倒なんだけど……仕方ないか。ネア、同化解くぞ』
『はーい』
フェルムが同化を解き、彼女とフクロウ状態のネアが僕の身体から飛び出す。
闇魔法の状態から人型の姿に戻った彼女を目にしたアーミラさんは、なぜか驚きの表情を浮かべる。
「お、お前が黒騎士だったのか……? そんな、小さかったのか……?」
「誰が小さいだ!!」
猛烈に怒るフェルム。
そんな彼女の剣幕をものともせずにアーミラさんは深刻な様子で腕を組む。
「正直、大柄な姿を想像していた……。いや、しかし子供とは思いもしなかった。……悪かったな、あの時は怒鳴ってしまって、傷ついてなかったか……?」
「子供扱いするなぁ!!」
フェルムの素顔を知らなかったのか?
たしか、彼女の話だと最初の戦争の時の上司はアーミラさんだったって聞いたんだけど。
疑問に思っていると、こちらに近づいてきていたコーガが小声で話しかけてくる。
「こいつ、魔王軍時代でもいっつも闇魔法を被ってたからな。俺以外、ほとんど顔も知られてなかったんだよ」
「あ、だから黒騎士って呼ばれていたのか」
「そういうことだ」
なるほどなぁ。
捕虜として捕まえた後も闇魔法の鎧を解かなかったわけだし、もしかしたらそういう意味でも闇魔法に依存していたのかもしれないんだな。
しかし、護衛は二人だけなんだな。
シエルさんは護衛というより付き人に見えるから、護衛としてはカウントされないはずだ。
僕は転移用の魔術を消し去った魔王に、護衛の人数について尋ねる。
「魔王、護衛はコーガとアーミラさんだけでですか?」
「十分だろう? もっと連れてくることもできるが、それでは貴様達が怖がってしまうからな」
それは……いや、確かにその通りだ。
ここで多くの部下を引き連れでもしたら、僕達以外の人々は委縮してしまうだろう。
実力的にはコーガとアーミラだけでも十分とも言えるけれども。
「では、出発するがいい」
「了解です。先輩、行きましょう」
僕と先輩が前を歩き、橋を渡ってレオナさんと騎士さん達のいる対岸へと向かう。
堂々と立っているレオナさんとは対照的に不安な様子の騎士さん達を目にしながら、対岸へと渡りきる。
———しかしその瞬間、魔王のいる背後から、ジャララ! という鎖のようなものが擦れる音が鳴り響く。
何事かと思い振り返ると、橋から地面へと足を踏み出した魔王の身体を、たくさんの鎖のようなものが貫いているではないか。
「「魔王様!?」」
「……はぁ、やはりこうなったか」
魔王から伸びる半透明の七本の鎖。
それらは四方へと伸びており、魔王領から出ようとする魔王の身体を繋ぎとめているように見える。
痛みはないのか、軽いため息をついた魔王は、自身の肉体から伸びる鎖の先を目で追っていく。
「魔王領に三つか。……この時点まで私に悟らせないとは……全く、性格が悪すぎる」
四方に伸びた鎖のうち三本が魔王領へと向かっているのを見て額を押さえる魔王。
痛くはないのだろうか……?
「ま、魔王……?」
「魔王様……? それ、痛くないんですか?」
「む、心配ない。……大体の方角は把握できたな」
いや、心配するなっていわれても……!?
魔王に何が起こっているか分からないが、ただごとじゃないのは分かる。
僕達もコーガ達もどうしていいか分からず動けずにいると、不意に魔王が自身に繋がれている鎖を素手で掴み―――無造作に引きちぎった。
ガチャン、と耳障りな音を響かせる鎖に、傍らにいたシエルさんが顔を青ざめさせながら駆け寄る。
「魔王様!? だ、大丈夫なんですか!? それ、ちぎっていいものなんですか!?」
「痛い」
「いや、無表情でそんなこと言われてもぉ……!」
普通に痛いんだ……。
でも魔王本人は無表情なので、全然痛そうに見えない。
「こうでもしなければ、私は魔王領を出られんからな」
そのまま七本全ての鎖を引きちぎると、魔力のようなものでできたソレは空間に溶けるように消え失せてしまった。
それを最後まで見送った魔王は、ほっと一息つくと何食わぬ顔でこちらへ振り返る。
「おい、さっさと案内しろ」
「すみません、一回ど突いてもいいですか……?」
「お、落ち着けウサト! 気持ちは分かるが相手は魔王様だぞ!」
コーガに羽交い絞めにされながら、僕は魔王をど突きたい衝動を抑える。
まずは何が起こったか説明するべきですよね……!?
後々、ロイド様達に報告するのは僕達なんですからね……!
色々と先行きが不安になってしまう出だしから、魔王を監視する任が始まってしまった。
ここからうまくやっていけるかな……。
さらっと強化。
魔王城での戦いの時、レオナがアーミラを足止めしたあたりでフェルムの同化ラインに達していました。
・氷の脚甲
“どんな場所にいようと、怪我人の元に辿り着く”というウサトの意志を反映させた武具。
両足を覆う脚甲は、あらゆる場所を凍らせ道へと変える。
籠手と同様に攻撃性能は低い。
今回の更新は以上となります。




