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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十一章 最終決戦、魔王都市ベルハザル
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第二百五十六話

お待たせしました。


第二百五十六話です。

 魔王軍の兵士達に囲まれ、戦いを余儀なくされた僕とレオナさん。

 弩弓に囲まれ、光の杭での集中砲火を食らいかけながらも、なんとか包囲網を突破し闘技場のような場所から脱出することに成功できた。


「厳しい戦いだった……」

『うるせぇ化物』

「黙りなさい、この悪魔」

「どうしてそんな酷いことを言うのかな……?」


 口調すらも刺々しいフェルムと、同化を解き人の姿になったネアが冷たい目を向けてくる。

 包囲網を抜けた後、迷宮のように変わってしまった都市の中に迷い込んだ僕達は体を休めるために、物陰で身を隠していた。


『ボク達の悲鳴の声も聞かずに、攻城兵器に真正面から突っ込んだバカがなにか言っているぞ』

「生きた心地がしなかったわ……」


 光の杭自体は遅いし、籠手で防げたからそれほど脅威でもなかったけれど、集中して狙われると厄介だったから半分くらいは壊しておいたんだよね。

 多少の無茶はした自覚はあるけど、そのおかげで包囲網を抜けられたわけだし。

 ……よし、ここで機嫌を損ねられたら連携に不和が出そうだし、フォローしておくか。


「君達を信じていたから僕も前に跳び出せたんだ。これからも信頼しているよ」

「ハッ、それっぽい言葉で誤魔化そうとしても騙されな――」

『そ、そうなのか……うん……』

「フェルムゥ!? 騙されないでぇ!?」


 いつものごとくネアは誤魔化されなかったが、結構素直なフェルムは誤魔化されてしまった。

 なんだか罪悪感を感じながら、周囲へ目を向ける。

 雑談はしていても周囲への警戒は怠らない。

 いつでも拘束の呪術と治癒パンチを出せるようにしながら通路を警戒する。


「ウサト、もういいぞ」

「分かりました」


 さきほどから出していた壁のように作った黒い魔力を解除させる。

 その中から、魔王軍の兵士の服に着替えたレオナさんが出てくる。


「———すまない。着替えるのに手間取ってしまった」

「いえ、幸い敵は来ませんでしたので、大丈夫です」


 ここに飛ばされるまでは、ミアラークの軽装の鎧を纏っていた彼女だが、今は魔族の兵士が着ていた服に着替えてもらっている。


「どうだろうか?」

「大丈夫、似合ってます」

「い、いや、そうでなくてだな。うまく隠せているだろうか?」


 人間だとバレないために、フードを目深にかぶったレオナさんに頷く。

 レオナさんの背後には気絶している女性兵士がおり、彼女が着ていた服は今はレオナさんが着ているので、今は灰色の外套がかけられている。

 なるべくそちらに視線を向けないようにしながら、魔族の兵士姿に変身しているネアに話しかける。


「君に『一人、女の兵士を攫ってきなさい!』って言われた時は耳を疑ったけどこれは考えたね」

「でしょ? 私達が兵士に変装してしまえば、巡回している奴らを誤魔化すこともできるってわけよ」

「まあ、僕の風評はさらに悪化したと言ってもいいけど……」

『んなの今更だろ』

『グァー』


 悪魔扱いは自分で招いたものだとしても、さすがに人攫い扱いはへこむ。

 しかし、変装するという作戦はかなりの名案ではあるだろう。

 

「私は魔族に姿を変えてるし、あとはウサトね」

「ああ、フェルム。頼む」

『前と同じ感じだな』


 フェルムの同化の力を用いて、肌と髪の色を変えてもらい、魔族と同じような角を生やす。

 それに加えて、団服を黒い魔力で覆い変形させることで、形だけ魔王軍の兵士の着ている服と同じものに変える。

 しかし、以前とは少し違って髪が少し長くなっているような気がする。


「あれ、髪が……」

『前みたいに顔でバレるかもしれないからな。目元だけでも隠しておけ』


 髪がフェルムと同じ銀髪に変わっているのは同じだけど、ちょっとだけ長くなっている。

 前……というと遺跡で会った女性兵士の時か。

 後になって知ったけれど、あの人は僕が第三軍団長を捕まえた時に居合わせた飛竜に乗っていた人だったらしいんだよな。

 まあ、そんな偶然が続くわけないけど、一応の用心は必要か。


「レオナさん一人だけがフードを被っていたら、怪しまれるところだけど……」

「見た目だけを魔族に変えた私とウサトが同行していれば、怪しまれない……よね?」


 ネアの吸血鬼としての力を活用するって手はあるけど、いくつかの手順をクリアしなくちゃいけないし、それをしている間に見つかってしまう可能性がある。

 下手に騒ぎを起こしたくないし、あくまでそれは奥の手として考えておこう。


「それじゃ、進みましょうか」

「ああ」


 僕とネアを先頭に、後ろをレオナさんがついてくるという形で、兵士が巡回する狭い通路を進み始める。

 上を見上げてみれば空が高く、僕達へと向けられた光の杭のようなものと、飛竜が飛び交っている。


「屋根を伝って行ければいいんだけど……」

「それは難しいだろう。ここまで手の込んだことをした魔王が、その対策をしないはずがないからな」

「ですよね……」


 多分、壁をよじ登って屋根に上ったところでなんらかの罠か、攻撃が発動するのだろう。

 どちらにせよ人目を避けていくには、上へ登らない方がいい。


「ん?」


 空を見上げていると、視界の端に黒い何かが映り込む。


「フンッ!」


 瞬時にそちらを振り向くと同時に、黒いなにかが見えた位置にノーモーションでの治癒飛拳を放つ。

 しかし、治癒飛拳は壁にぶつかって霧散する。


「隠れて進むって決めた矢先になにしてんのよ!?」

「今、カラスみたいのがいたような……」

『ボクには見えなかったぞ』


 ……いや、たしかに何かがいた。

 今は、この場から消えたようだけど空に注意した方がいいな。


「ッ」

『グア!』


 その時、ブルリンとの同化により強化された嗅覚が、こちらに近づいてくる魔族の魔力の匂いを捉える。

 次から次へと、問題が重なってくれるな……!

 しかも、かなり近い距離にいる。


「ウサト、レオナ、前から来るわよ」

「分かってる」

「ああ」


 拳から力を抜き、軽く深呼吸をする。

 今の僕は魔族。

 親しんだ仲間に接するように、普通に接するんだ。


「来るわよ」

「おう」


 魔力の匂いが強くなる。

 それに伴い、数人の兵士達の会話が近づいてくる。

 道を進み曲がり角で、鉢合わせになったその瞬間、兵士と先頭にいる僕とネアの視線が交差する。


「「「っ!?」」」


 僕達を見た三人の兵士が、驚きの表情を浮かべ握っていた剣を構える。

 バレたか?

 すぐさま迎撃しようと治癒飛拳を放とうとすると、兵士の一人が安堵の表情を浮かべ剣を下ろす。 


「ッ、び、びっくりさせるな……! なんだよ、仲間だったか……」

「そっちは無事なようね」


 何食わぬ顔でネアが兵士に話しかける。

 残り二人の兵士も剣を下ろしたところで、僕も向けていた拳を下ろす。

 顔を隠しているレオナさんは勿論、僕が話すとボロを出しかねないからここはネアに任せよう。


「とりあえず、情報を共有しましょうか」

「ああ、そっちは消えた勇者達を見つけたか?」


 ……さすがは数百年単位で一つの村を欺いてきた元村娘だな。

 自然に情報を聞き出そうとしている。

 兵士の一人に質問された彼女は、首を横に振りながら肩を竦める。


「もう駄目駄目。あんなのどう追いかけりゃいいのよって話よ」

「そっちもか……あんたは迎撃場所にいたのか? 俺達はその場にいなかったんだがそっちは大変だったらしいな?」

「ええ、思い出したくもないわね」


 顔を青ざめさせたネアが、たちくらんだように額を押さえた。

 さすがはネアだ……! 演技とは思えないほどの実感が籠っている……!!

 ネアの話に、もう一人の兵士がやや食い気味に質問してくる。


「そ、それでどうだったんだ? あっちには勇者と悪魔が出たって知らされたが……」

「本当の話よ。氷の勇者は近づく者全てを凍り付かせ、冷笑を浮かべながら砕くような残虐な女だったわ」

「……!?」


 隣で深くフードを被っているレオナさんが、激しく動揺する。

 僕の方を見て、すごい勢いで首を横に振っている彼女に、ちゃんと分かっているという意味を籠めて頷いておく。

 ネア、あえて大袈裟に表現して信憑性を出そうとしているんだな?

 そういうことなら僕達は何も言わないぞ。


「そして、あの治癒魔法使い。……まさしくあれは正真正銘の悪魔よ」

「そ、それも事実なのか!?」

「ええ。悍ましい翼、私達と同じ角……アレが正体を現した時、震えが止まらなかったわ。皆、意味不明な技で吹き飛ばされたり……目を合わせられただけで意識を失う奴もいた。まさしく、この世の終わりって感じの光景だったわ」


 ……大袈裟に表現してるよね?

 ねぇ、そうだよね?

 兵士の皆さん、顔が真っ青なんだけど。


「……ごめんなさい。これ以上は……」

「あ、ああ! 無理しなくてもいい!! 知りたいことは十分に分かったから!!」


 口元を手で押さえ無駄にしおらしく振舞ったネアに、一気に同情する兵士達。

 僕とレオナさんの見える角度からは、口の端を歪め、すっごい悪い顔をしているネアの表情が見える。


「……悪女だな」

『こいつ、怖いやつだな』


 レオナさんとフェルムが、やや引いたように小声で呟く。

 同感だけど、僕達のために情報を集めてくれているから……。


「次はこちらが話す番だな……」


 兵士が口にしたのは、僕達以外の勇者についての情報だった。

 カズキは都市の上方で、大量の弩弓と飛竜を相手にしての空中戦。

 先輩とアマコは僕達と同じように転移させられたが、交戦する前にその場を離脱し、現在は隠れているらしい。


「そう、そっちも大変なのね」

「うちの部隊長は人使いが荒くてなぁ」


 どうやら魔王軍の兵士達にも軍団長以外の上下関係があるようだ。

 疲れ切ったように肩を落とした兵士の一人は、にこにことした笑みを浮かべているネアを見て、続けて口を開く。


「いくら、ここの構造を把握できるっつっても無茶をさせすぎなんだよな」

「! ……そうよねぇ。やっぱり、部隊長は魔王様から信頼されているからかしらねぇ?」


 ん? なんだ?

 明らかに話の流れが変わった。

 ネアの呟きに、兵士の一人がからからと笑う。


「信頼とかじゃないだろ。地図をもらったのも上の地位にいたからだぞ?」

「そうそう、信頼っていうなら指揮を任されてるハンナ様とギレッド様のことを言うんだ」


 地図、と聞いたネアが僕に分かる程度に口の端を歪める。


「冗談に決まっているじゃない。私達も同じようなものだからね。ふふふ」

「ははは、お互い無駄に張り切っている上には苦労しているようだな」


 口元に手を当て楽しそうに笑ったネアが、さりげなく僕の隣に移動する。

 彼女は笑みを顔に張り付けたまま、こちらを向く。


「ウサト、地図を持ってるやつがいる。そいつを捕まえるわよ」


 ……怖っ。

 あまりにも自然に情報を引き出した上に全然怪しまれていないネアに素直に引いた。

 君、結構僕のこと言うけど、君も相当だと思う。

 顔に出さないように引いていると、何を思ったのか兵士達の視線が僕達へと向けられる。


「そういえばそいつら、大丈夫なのか?」


 兵士の視線が僕とレオナさんへと向けられる。

 僕はさっきから無言で俯いているし、レオナさんはフードを被ってなにも喋らない。

 なにも喋らないのは怪しすぎたか……!?

 しかし、ネアはこちらを一瞥すると痛々しいものを見るように目を背けた。


「二人は迎撃戦の最前線にいたの……だから、分かるでしょう?」

「……! すまない。失言だったな」

「辛い体験をしたのに、巡回をするだなんて……」

「俺達も頑張らないとな……!」


 敵以前にこの人たち、気の良い人達すぎない?

 元から感じていた罪悪感をさらに強めていると、ネアが話題を逸らそうと兵士に話しかけていた。


「貴方達は次はどこ方面へ向かうのかしら?」

「俺達は、ここら周辺の巡回だ。当分は持ち場から離れられないだろうな」

「そう。……これ以上は引き出せなさそうね」


 そう小さく呟いた彼女は笑みを顔に張り付けたまま、この場で彼らと別れるべく話を切り出そうとする。


「そろそろ役目に戻りましょうか。こんなところを見られたら大目玉を食らってしまうわ」

「それもそうだな。どこに勇者がいるかも分からねぇしな」

「お互い、頑張りましょうね」

「ああ、そっちもな」


 兵士達に手を振り、背中を見せた僕達は何食わぬ顔で通路を進んで行く。

 このまま地図を持っている部隊長とやらを探して、それを―――、


「ちょっと、待ってくれ」

「っ!」


 呼び止められた……!?

 もしかして、気づかれた?

 拳に魔力を籠めながら後ろへ振り返ると、ネアと話していた兵士がそわそわした様子で―――首を傾げているネアへと話しかける。


「あ、あー、そうだ。この戦いが終わったら、その……」


 いや違うぞ!? これお誘いとかそっちの方だ!?

 ネア、どうするんだ? と隣のネアを見ると彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべ―――突然僕の腕に抱き着いてきた。


「ごめんなさい。この人、私の夫です♪」

『は?』

「なんだと?」


 フェルムとレオナさんの声。

 え、なに? この状況でキーラの前でした時と同じネタをするの?

 明らかに性質が悪いと思うんだけど。

 恐る恐る兵士さんを見ると、そわそわしながら動揺している。


「あ、そ、そっかぁ……」


 なんとも形容できない表情を浮かべた兵士さんにいたたまれない気持ちになる。

 最初に遭遇した時よりも小さくなった兵士さんの背中に、同僚らしき二人の手がのせられる。


『……』

『元気出せよ……』

『言っただろ。ここで出会いなんてないって……』


 い、いたたまれない! いたたまれないよ!?

 普通に攻撃されるより、深いダメージを受けた気がするよ!?

 兵士達の姿が消えたところで、ネアがやりきったような笑顔を浮かべる。


「フッ、なんとかなったわね」

「ふんっ!」

「ぐふぅ!?」


 迷いのない治癒デコピン。

 額を押さえたネアは涙目で僕を睨みつけてくる。


「な、何すんのよ!?」

「今のはさっきの兵士さんの分だ」

「敵でしょ!?」

「敵だけど、やっていいことと悪いことが……ある」

「え、えぇ……」


 先ほどの光景を思い出し、再びいたたまれない気持ちになる。

 ……さっきのことは一先ず忘れよう。

 とりあえずは、重要な情報は得たからまずはそれを生かしていこう。


「レオナさん、どうしますか?」

「……スズネならば、私達との合流よりも魔王の元へ向かうことを優先させるだろう。私達の向かう先は同じだからな」


 僕達の目的はあくまで魔王。

 そこに向かえば、普通に探すよりも合流できる可能性が高い、か。


「と、いうことは、僕達も魔王の元へ向かう道を探す方向性でいいんですね?」

「ああ、ネアのおかげで地図の存在も分かったことだし、まずはそれを持つものを探そう」


 最初の目標は地図を探す。

 その後に、地図を使って魔王までの道のりを進んで行く。

 問題はその地図を持っている人を探すことだけど……。


「部隊長って言われるほどだから、それなりに経験を積んで実力もある……」

「少なくとも軍団長は、純粋な実力で選ばれている節はあったわね」


 ネアの言葉に頷く。

 素養の高い魔力を持つ者は甘い匂いをしている。

 なら、その人を優先的に探せば、その地図とやらを持っているかもしれないな。

 地面に両手をついて、目を閉じる。


「ブルリン、フェルム、反映強化を強めてくれ」

『分かった』

『グァー』


 普段押さえているブルリンの感覚を総動員させる。

 付近にいる兵士達の情報が、嗅覚を通じて頭の中へ流れ込んでくる。

 アマコと先輩の魔力の匂いはしない。

 だけど、その中で一つだけ、一際甘い魔力の匂いを見つける。


「どう、ウサト?」

「すごく甘い匂いのする……魔力を持っている人がいる」

「近く?」

「それほど、遠い場所じゃないな」


 具体的には分からないけど、只者ではないだろう。

 もしかしたら、さっきの彼らが言っていた部隊長かもしれない。

 詳しい場所は分からないけど、いる方向はなんとなく分かる。


「とりあえず、捕まえてみよう」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 最悪、軍団長クラスの敵と遭遇するかもしれないから戦闘を予想した方がいいかもしれないな。

能力的にはアマコと並ぶくらいに凶悪なネア。

伊達に数百年単位で村娘をやっていたわけではないですね。


今回の更新は以上となります。

もしかしたら、次話は早めに更新できるかもしれないです。


※※※

私のもう一つの作品『殴りテイマーの異世界生活~後衛なのに前衛で戦う魔物使い~』が、MFブックス様にて書籍化することになりました。


発売日は11月25日を予定しております。


書籍化についての活動報告を書かせていただきましたので、詳しくはそちらをご覧になってみてください。

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「厳しい戦いだった……」 『うるせぇ化物』 「黙りなさい、この悪魔」 この言葉の応酬爆笑モノだあ
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