第二百五十五話
前日に続いて二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
今回はスズネ視点となります。
スクロールによって転移される際に、私に抱きついっ……しがみついたアマコは、このすぐ後に敵に囲まれ一斉に攻撃を受けることを予知した。
すぐさま雷獣モードを纏った私はアマコを振り落とさないようにぎゅっと抱きしめながら、全ての攻撃を避けながらその場を全力で離脱することにした。
壁を蹴り、時には走りながら闘技場の小さな出入り口から飛び出す。
魔王軍の兵士達は私の動きを目で追うことすらできない。
「私への対策に狭い通路ってことかな?」
しかし、スクロールで飛ばされた闘技場のような広い場所から、かけ離れた狭い通路には結構な頻度で兵士達が巡回しており、下手に強行しようものなら大量の兵士達がこの狭い通路に押し寄せてくるだろう。
折角の高速移動も、行動範囲を狭められてしまえば意味をなさない。
そして、極めつけが―――、
「スズネ、止まって。壁に罠が仕掛けられてる」
「特定の速さを持つ者に作用するスクロールってことか。やってくれるね」
壁に貼り付けられた羊皮紙に記された魔術。
アマコが言うにはこれに引っかかると、ネアの拘束に呪術に似た魔術が私にかかり、その上で周囲の兵士達に私の存在が知らされてしまうとのこと。
「スズネ」
「なんだい?」
「苦しい」
さきほど雷獣モードを解き、アマコを抱きかかえたままだ。
もう追い詰められて、緊迫した状況で私が取り乱さないのは、この腕の中に守るべき存在がいるからだ。
私はアマコの身体をさらに抱きしめながら、周囲を警戒する。
「まだ危険があるかもしれない……!」
「予知ではなにも見えないよ?」
「いいや、予知魔法も完全じゃないからね。でも心配いらない。この私がいる限り、君のことは守るよ」
「どちらかというと、スズネから私を守って欲しい」
そう言って、するりと私の腕から抜け出したアマコはすたすたと歩き始める。
「私についてきて」
「……アマコの、ぬくもり……」
「普通に引く」
残念そうにする私にアマコは顔を青ざめさせながら、狭い通路を進んで行く。
頭上を覆った黒色のドームと都市の変化からして、この場所は要塞化―――もしくは迷宮化したと考えるのが自然だろう。
「私達が都市内部に転移されたってことは、同じく転移したウサト君達もこの都市にいると考えてもいいね」
「まずは、ウサトとレオナさんを見つけよう。あ、スズネ、止まって」
頷いたアマコが立ち止まると、曲がり角の先から兵士達の会話が聞こえてくる。
『聞いたか? 外壁部隊のやつら、空を飛ぶ勇者の対応に追われてるんだってよ』
『以前の戦いでは、空なんて飛んじゃいなかったはずだけどなぁ』
「どうやら、カズキ君もこちらにいるようだね」
「空を飛ぶといったらカズキしかいないもんね」
薄暗い空に包まれたここからでは、空の様子は確認できないけどカズキ君の存在を確認できたのは良かった。
もう少し情報を集められないかな、と思いアマコと共に耳を澄ませていると、また新たに兵士が集まる。
なにやら錯乱した様子の兵士は、半泣きで味方の兵士に縋りつく。
『お、おい、どうしたんだよ』
『あ……あく……ごほっ!』
『落ち着いて、しっかりと息を吸うんだ』
『ぁ、悪魔が……出たんだ……!』
「あ、ウサトだね」
「それで納得する君も中々だと思う」
いや、消去法で彼になるのは分かるけども。
即答するのはそれはそれでウサト君が可哀そうな気がする。
『悪魔は、氷を操る勇者とともにどこかに消えてしまったんだ……! 今、全力で探しているが、もしかしたらこっちにも来ているかもしれないから、このことを皆に伝えてくれ……!』
『了解した。その悪魔の特徴を教えてくれ』
『禍々しい角に黒い翼を生やしている。見ればすぐに分かる』
それは果たして本当にウサト君なのかな?
ちらりとアマコを見ると、彼女も微妙な表情をしている。
もしかして本物の悪魔って線も―――、
『奴は普段は治癒魔法使いの皮を被っているんだ。見た目に騙されるな……』
「ウサト君だった」
「ウサトだった」
二人で納得して顔を見合わせた後にその場を離れて移動する。
先ほどの情報をまとめるとして、カズキ君は空で戦闘の真っ最中。
ウサト君とレオナは、私達と同じように戦いの場を離脱して潜んでいる。
「まずはウサト君とレオナとの合流が最優先と言いたいところだけど、兵士達を避けながら彼らを探すのはかなり難しいんだよね」
「うん、予知魔法で巡回を避けても移動範囲が限られちゃうし」
まず前提として私達はできるだけ魔力を温存しながら魔王の元にたどり着かなければならない。
魔王が私達を引き離した理由は、それぞれに配置した兵士達との戦いで私達の力を消耗させるためだろう。
なら、この状況で私が選ぶ選択肢は一つだけだ。
「向かうべきは、魔王の元だ」
「ウサト達とは合流しないの?」
「私達が最終的に向かう場所は同じだ。なら、そこに向かえばウサト君達と合流できる可能性が高い」
「そういうことなら、分かった」
そのために魔王のいる場所を兵士から聞き出さなくちゃな。
それをアマコに伝えると、彼女はこくりと頷いた。
「なら、捕まえられそうな人を探そう」
そう言葉にするやいなや、またすたすたと無警戒に歩み始める。
いや、無警戒ではなく、彼女の見た予知で既に安全を確保しているのだろう。
その証拠に、近場を通る兵士達の位置を完全に把握してる。
「うーん……このくらいがちょうどいいね」
アマコが足元に転がっている石を拾う。
すると、近くで兵士達の足音が聞こえてくる。
「スズネ、私の指示通りに動いて」
「う、うん?」
「絶対に躊躇しないでね。……あ、今だ。止まって」
アマコの声に足を止めると、目の前を五人の魔王軍の兵士達が横切る。
一人でもこちらを向けばバレてしまうが―――、どういう偶然か誰一人としてこちらに視線を向けずにそのまま通路を横切って、反対側へと消えていく。
「じゃあ、進んで。ちょっと走った方がいいかも」
次にアマコに合わせて走る。
前を歩く彼女に合わせて走っていると、角を右へ曲がろうとするあたりで前方から現れようとする兵士の姿を確認する―――が、それと同時にアマコが先ほど拾った石を前方へと放り投げる。
『ん、なんだ? ……石?』
こちらへ視線を送ろうとした兵士の目が、足元に落ちた石へと向けられる。
その間に私達は、角を右へ曲がったことで見つからずに済んだ。
……予知魔法、本当にやばい魔法だってことを再確認させられる。
その後も相手の行動パターンを完全に把握したアマコにより、巡回する兵士達をすり抜けていく。
そして―――、
「見つけた」
そう呟き、立ち止まったアマコは少し先の路地を指さした。
「十秒したら、この先から一人だけ兵士がやってくる。今なら、捕まえてもバレない」
「オーケーだよ」
逆手に持った刀を鞘から引き抜き、タイミングを合わせて路地へと飛び掛かる。
アマコの予知通りに、一人の兵士が姿を現すのを確認した私は一瞬でその背後に回り、喉元に刃を突きつける。
「動くな」
「ひっ、ゆ、勇者……」
「大人しくしていれば、命までは取らない」
とりあえず腰に携えた剣と道具を地面へと捨てながら、その場に座らせる。
「アマコ、次の巡回までの時間は?」
「……ん、少しの間は大丈夫」
「それじゃあ、私が尋問を―――」
「ううん、私に任せて」
力なくしゃがみこんだ兵士にアマコは目線を合わせる。
アマコの見た目を見て、子供と判断したのかやや安堵した面持ちの兵士に構わず、彼女は遠慮なく質問を投げかける。
「魔王の居場所は?」
「え?」
「魔王が、どこにいるのか教えて」
「そ、それは言え―――」
「言えない? うん……うん……城の中にいるんだ。魔王の魔術で地下に城を沈めた? 魔王から事前に地図が渡されている……誰に? うん、うんうん」
頑として口を割りそうにない女性兵士を前に、不自然な独り言と相槌をするアマコ。
なにも口にしていないのに、どんどん隠しているはずの情報を口にするアマコに、兵士はがくがくと震えはじめる。
「スズネ、この人の部隊長が地下に沈んだ城の地図を持っているって」
「え、あ、なんで!? どうして……!?」
「私、予知魔法使いだから。貴女の怖がることを言葉にしただけ」
そうアマコが言い放ったところで、軽い電気ショックで兵士を気絶させる。
師匠を見て何度も思っていたけど、やっぱり予知魔法って怖い魔法だと思う。
戦闘にも使えるし、なによりこういう使い方もできるのは素直に凄い。
「例えるなら、重要な選択肢をやり直し続けている感じ、かな?」
「意味わからないこといってないで、早く部隊長を捕まえにいくよ」
「あ、はい。すみません」
思わず敬語になりながら、アマコについていく。
女性兵士は物陰に隠すように寝かせたので、当分は見つかることはないだろう。
「因みにさ、さっきの人が怖がることを言葉にしたってなにを言ったんだい?」
「あの人、戦場でウサトと会ったことがあるみたい」
「そ、そうなんだ……」
まあ、ウサト君は戦場の端から端まで走り回っているようだから、おかしな話でもない。
でも、どうしてここでウサト君を? と思っていると、きょろきょろと周りを索敵しているアマコは続きの言葉を発した。
「だから、喋らなかったら悪魔に差し出すって言ったら、泣きながら話してくれた」
「君、ウサト君に似てきたって言われない?」
「そう? うーん……ありがとう?」
「褒めてないよぉ?」
なんだいなんだい、その反応。
私だって似てるところくらいあるんだからね!
少しだけジェラシーを感じながら、すぐさま思考を切り替えた私は鞘に納めた刀を握りしめる。
「ウサト君、大丈夫だよね……」
ここにはいない彼には決して届かない声。
今いる場所は敵地のど真ん中、私達は同じ場所にこそいるが、その距離はどうしようもなく遠く感じてしまう。
ウサトを見て学んだアマコでした。
この話を書いて『NEXT』という映画を思い出しました。
今回の更新はこれで終わりとなります。




