第二百五十四話
お待たせしました。
第二百五十四話です。
今回は二日に分けて、二話ほど更新いたします。
ついにやってきてしまった勇者達一行。
そして、始まってしまった都市での戦い。
侍女の立場でなかったら実家に逃げ込んでいたことだろう。
「——概ね、計画通りか」
地下に埋まり、暗くなった城内に明かりをともす魔王様。
その傍らでお仕えしていた私は、ただひたすらに目の前で起こった非現実的な光景に唖然とすることしかできなかった。
「あ、あわわ……お城が地面に埋まってしまいました……」
「地転の呪術を用いて、大地と城……そして都市部の建物の構造を変え地下に納めただけだ。そこまで慌てることではない」
そんなこともなげに言ってみせるが、魔王様の常識で物事を語らないでほしい。
そもそもこんな大規模なことを簡単にやってのけてしまう時点で本当に非常識な存在である。
「さて、どう動くかな?」
玉座に腰かけた魔王様が、空間に魔術を展開させる。
すると、黒色の魔術の文様に何かが映し出される。
『ハァァ!!』
『オォォ!!』
なにやらとてつもない速さで何かがぶつかりあっている光景。
炎と突風が荒れ狂う中で誰かが動いているのが見えるけど、非戦闘員の私ではとてもじゃないが目で追える気がしない。
「魔王様、これは……?」
「魔物の目で見ている景色で空間で映し出す魔術だ。今は第一軍団長の現在の戦いを映し出している」
第一軍団長様は、魔王軍最強の剣士。
戦いこそはまっっったく目で追えてはいないけれど、その戦いで大規模な自然破壊が起きていることはよく分かる。
「カンナギは厄介な存在だからな。ここでネロを差し向け、押さえ込む必要があった」
「カンナギというと、あの遺跡にいた……?」
「ああ、勇者の相棒であり、初代時詠みの姫だ。今にまで血を残したのはカンナギの姉の方だろうがな」
遺跡で治癒魔法使い―――ウサトに怪しい計画を持ち掛けたり、危険な目に遭わせたりした獣人の女性。
いつのまにか彼らの仲間になっていたが、そこまで驚異的な存在だとは思わなかった。
「カンナギをネロが抑えるついでに、私が作り出したスクロールで勇者達を転移させてやったが……一人逃したようだな」
魔王様が手を横に動かすと、魔術に映し出された光景が切り替わる。
次に映し出されたのは、空を高速で飛びながら光の球を飛ばす勇者の姿だった。
「えぇ、すいすい空を飛んでますけど……しかも、こちら側の攻撃をすいすい避けてます……」
飛竜に乗らずに空を自由に飛行する勇者を、兵士さん達は必死に攻撃しているけどかすりもしていない。
明らかに飛竜よりも速く、小回りも利いている……。
……あれ、もしかして、城が沈む前に見えた光って勇者が放とうとした攻撃だったのか?
「はぁ、そんな今にも死にそうな顔をするな。これも想定内だ」
「そ、そうなのですか?」
あわあわとしていた私を見て呆れた様子の魔王様は、玉座の背もたれに体を預けた。
「空を飛ぶ程度なんら珍しくもない。そもそもがスクロールの役割が勇者達を分断させることが目的だったからな。空を飛ぼうが、地に潜ろうが些末なことだ」
そう呟いた魔王様は顎に手を当てながら空を飛ぶ勇者を注視する。
「魔力操作を得意としているようだな。魔力操作と消滅においては、先代よりも優れている可能性がある。……次だ」
もう一度手を動かし、別の光景へと切り替える。
次に映し出された光景は、多くの魔族の兵士達が集まる闘技場の中。
ただ兵士達が集まっているだけの光景かと思い首を傾げていると、不意に映し出された光景の中を金色に光る何かが横切った。
え、なに? なんの光?
「こちらは見失ったな」
「……え?」
「一瞬だけ捕捉できたようだが……さすがは雷の勇者と呼ばれることはある。囲まれると同時に即離脱とはな。こちらにもう一人の予知魔法使いがついたか?」
魔術の中の兵士さん達は、攻撃するはずの勇者が確認できず困惑した様子を見せている。
「だが、これも想定内だ。通路の幅を狭め、兵を配置させた上で罠を起動させれば雷の勇者の高速移動は封じることができるだろう」
「相手には、予知魔法使いがいるので罠は無意味では……?」
先ほども魔王様自身がそう仰っていたし。
「カンナギならまだしも、幼い予知魔法使いが雷の速度で動く者の思考速度についていけるはずもない」
「た、たしかに……」
というより、高速移動している勇者の方もおかしいことしている。
今この都市で戦っている人間達は、みんな怪物だらけだ。
人間って怖いなぁ。
勇者じゃない人間のはずの治癒魔法使いがああだったんだから、他の人間もあんな感じなのかな……。
そう考え、恐々としていると魔王様が次の光景へと切り替える。
次に映しだされたのは、先ほどの闘技場のような場所で冷気を纏う槍を持つ人間の女性であった。
「ミアラークの勇者か」
遺跡の中でも見覚えのある金髪の女性。
勇者一行の中でも一番の年長者らしい彼女は、周囲に氷でできた剣を浮かび上がらせ、縦横無尽に動かしながら襲い掛かってくる兵士さん達を蹴散らしていく。
「神龍ファルガの武具の担い手。他の二人の勇者と比べれば才では劣るが、技量と実戦経験は優れている。……他と組まれると厄介だろうな」
「綺麗、ですね。あ! その……戦い方が!」
槍を構えたミアラークの勇者は次々と襲い掛かってくる魔族の兵士達をいなし、対処しながら強烈な冷気を飛ばし、その動きを封じる。
第一軍団長様とカンナギとの戦いとは違い、動き自体に速さはない。
ただ的確にその場その場での最適な動きをしているように見えた。
『む?』
不意にミアラークの勇者が地面に槍の先を突き刺し、大きな氷の壁を作り出す。
その次の瞬間には、光り輝く杭のようなものが氷の壁へと激突し、その表面を砕いた。
「ほう、判断力も中々どうして。魔導兵器を軽々と防ぐか……応用の利く良い魔法だ」
光の杭が飛んできた方向を見れば、闘技場の上方で弩弓型の魔具に魔力を籠めている兵士達の姿があった。
いくつも並んだ弩弓を向けられた勇者は、ひるむことなく投擲するように槍を構える。
そのまま弩弓に向かって槍を投げつけようとした―――その瞬間、勇者の周囲に転がっている大きな氷塊を、真っ黒なロープのようなものが掴み取り、そのまま画面の外へと消えていく。
「うん?」
今、なにか端の方にあった氷の塊が黒いなにかに引っ張られていったような……。
魔王様もそれに気づいたのか、訝し気に首を傾げている。
だが、その次に画面の外側から聞こえてくる声で―――誰がなにをしようとしているのかを察することができた。
『そっちが弩弓ならこっちは人間投石器だ!! 遠くから一方的に攻撃できると思ったら大間違いだぞォ!! ふゥん!!』
『『うわぁぁ!?』』
「「……」」
頭で理解を拒む声と共に、なにかが激突し壊れる音が響く。
なんか映し出されている光景の外で、なにかとてつもないことが起きている。
魔術に映っているミアラークの勇者も、ある一方向を見て引き攣った顔を浮かべている。
「……ふむ」
一つ頷いた魔王様は手を翻し魔術に映し出された光景を別のものへと切り替える。
次に映し出されたのは―――、
『———ウオオォォォ!!』
手と翼を広げ、人間とは思えない叫び声をあげているナニカの光景へと切り替えられ―――即座に、先ほどのミアラークの勇者の光景へと巻き戻される。
思わず魔王様を見れば、普段見せない困惑した様子を見せている。
「どうやら、誤った光景を映し出してしまったようだな」
「いえ……多分、間違っていないと思われます」
「……そうか」
元の光景へと切り替わると、そこには弩弓から放たれる複数の光の杭を前にして、大きく右腕を振りかぶっている治癒魔法使い、ウサトの姿がそこにあった。
『その程度の攻撃!! むぅん!!』
真正面から光の杭を殴りつけ粉々……粉々? にさせた彼は大砲のような形状に変わった黒い右腕を弩弓へと向ける。
『治癒八尺弾!!』
高速で撃ちだされる緑色の魔力弾。
それは、弩弓の一つに直撃すると強烈な衝撃波と治癒魔法の光をまき散らしながら、弩弓とその周りにいる兵士達を吹き飛ばした。
……治癒とは?
『次ぃ!! ネア、フェルム! 行くぞ!!』
そのまま翼を大きく広げて跳躍する。
両腕から魔力を噴出? させながら翼を用いて滑空させた彼は、光の杭を打ちだそうとしている弩弓の砲身の中に右腕を突っ込んだ。
『治癒飛拳!!』
彼がそう叫んだ瞬間、弩弓の砲身は内側から破裂するようにへしゃげてしまう。
……治癒とは?
砲身から拳を引き抜いたウサト。
そんな彼の背後から、恐怖に顔を歪ませながら兵士さんが襲い掛かるのが見えた。
『うおおお!! 魔族のためにぃぃ!!』
炎系の魔法を両手から放出しながらウサトへと突っ込もうとする兵士さん。
その攻撃に目を細めた彼は、背中の翼を動かし手も使わずに兵士の両腕を掴み、そのまま持ち上げる。
『ヒィッ』
『命を、粗末にするな』
底冷えするような静かな声でそう語り掛けたウサト。
短い時間だけど、ウサトと共に行動した私は少しだけ彼の人となりを理解している。
魔族であるキーラちゃんと敵であるはずの私を守ってくれたし、きっと根は悪い人じゃないのだろう。
あれも多分、捨て身の突撃を行った兵士への忠告なのだろうけど―――、
『———きゅぅ』
『……』
悪魔と思い込んでいる人達にはきっと別の意味に聞こえてしまっていることだろう。
白目をむいて気絶してしまった兵士を微妙な顔で見たウサトは、兵士を地面に下ろしたあとに怖気づいている兵士達へと目を向ける。
すると、おもむろに右腕を掲げ―――、
『ブルリィィン! こぉぉい!!』
雄叫びと同時に地面を殴りつけると、拳からどろりとした影のようなものが広がり、そこから青色の熊の魔獣―――ブルーグリズリーが飛び出してくる。
『グルァァァ!!』
『いくぞぉぉ!!』
そのまま翼を大きく広げたウサトと共に魔族達へと飛び掛かっていく。
『ぶ、ブルーグリズリーだぁぁ!』
『あ、悪魔は魔獣を従えているのか!?』
『眷属だ! 悪魔の眷属だ!』
先の戦いで修羅場をくぐってきた兵士さん達が恐怖の声を上げている。
うわぁ、地獄絵図だなぁ……。
遺跡であった時は普通の人間の少年だと思っていたのに。
「ふむ、悪魔が紛れ込んでいるようだ。見るのは久しぶりだな」
「いえ、違いますから。……え、本当にいるんですか?」
「冗談だ」
どちらが冗談なのかものすごく気になるのですが。
悪魔は実在するのですか?
それとも、悪魔が紛れ込んでいると信じたのが冗談なのですか?
「面白い人間だな」
「今の姿を見るに、人間かどうかすら怪しいと思うのですが……」
今の姿だって背中から翼とか生えてるし、控えめにいっても人間とは思えない。
「コーガとお前の報告にあった闇魔法使いとの同化。感情によって能力が変質する闇魔法使いが、人間との同化に至る感情を願うことは、これまでになかったことだ」
「封印される……以前にもですか?」
「フッ、人間と魔族が最も憎み合っていた時代だ。あの時代を知る者からすれば、他種族と共に戦うあの治癒魔法使いは酷く異質なものに見えるだろうな」
今でさえ、人間と魔族は争っている。
それに闇魔法使いは同族の私達からも怖がられているし、コーガさんのような能天気な方に成長する方が珍しい。
「奴と似ているようで異なる治癒魔法使い、か。ますます興味深い存在だ」
魔術に映し出されたウサトを見た魔王様はうっすらと口元に笑みを浮かべる。
勇者との戦いはまだ始まったばかり。
ここまでは魔王様の想定通りに事が進んでいるようだけど、これからどうなるかは私にはまったく予想できない。
今回はウサトの台詞のみでしたが副音声ではしっかりとフェルムとネアが絶叫したりドン引きしたりしてます。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
※『治癒魔法の間違った使い方』書籍版第11巻についての活動報告を書かせていただきました。
第11巻は今月、10月25日発売を予定しております。
第十一巻はweb版とは展開が大きく異なった内容となっております。
興味のある方は、活動報告をご覧になってみてください。




