閑話 逃亡
ギリギリ更新。
今回は閑話の方がいいかなと思い、閑話として出します。
今回はハンナ視点となります。
魔王様が立案した策。
それは勇者一行を三つの場所に分断させ、各個で攻撃を仕掛けるもの。
現行の魔王軍の八割以上の戦力を投入しての作戦。
しかし、あくまでそれは勇者達を倒すための作戦ではなく、その力を削り疲弊させることが目的だと語った。
『第三軍団長、第一軍団長補佐、貴様達は後方で指揮をとれ』
魔王様から直々に下された命令。
私の戦いでの失態をお耳にしていたのか、後方での指揮を命じてくださった魔王様の気遣いには感謝したいところだが―――正直な話、あの恐怖の存在がいる場所からは一刻も早く逃げ出したい。
もう氷の勇者と治癒魔法使いを迎え撃った場所から、一番耳にしたくなかった情報がこちらにまで回ってきているのだ。
悪魔が現れた、だとか。
悪魔が魔獣を召喚した、だとか。
その時点でもうこの場にはいたくなくなった。
「はぁぁ……」
私は大きなため息をつきながら、支部に備え付けている通信用の魔具を取り出す。
情報の伝達に特化したこの場所には五人の部下達がおり、それぞれが各部隊の情報を伝達と掌握を行っている。
私はその中の―――先日、補佐に任命させたノノの魔具へと通信を繋げる。
「ノノ、そちらはどうで―――」
『ハンナ様ァァァ!! あ、あれ! あの勇者やべーっす! ショーンより速いです! っ、いいえ、ショーン! 貴方の力はまだこれから!! ショーン! 風になれ!! ショォォン!! そうだ、ショォォン!!』
「うっっるさ……」
戦闘中のせいかハイテンションのノノに、私は顔を顰めてしまう。
……あの子はなんだかんだで生き残りそう。
無駄にうるさい飛竜コンビの音声を切りながら、改めて状況を確認させる。
「動きはありましたか?」
「いえ、見失った勇者はどこにも見つからず、未だに捜索中です。空にいる勇者は全力で対応に当たらせてはいますが……結果的に足止めにしかなっておりません」
「……これは厳しいですね」
良い状況だ。
この混沌とした状況は私にとって間違いなくプラスに働いてくれている。
なにより光の勇者が空で暴れてくれているのがイイ。
空からなら、何かの間違いでこちらに光魔法がとんできても不思議じゃない。
「今から指示する場所を捜索してください」
大きな長テーブルの上に置かれた地図に部下達を集める。
指示するのは、これから捜索する場所。
それらを部隊長に伝え、部隊長からその部下へと伝え、捜索範囲を広めていく。
「私達にとって最も恐れる事態は、勇者達が合流を果たそうとしている事でしょう」
魔王様が勇者達を分断させた理由は、一般の兵士達では束になった勇者に及ばないことを分かっていたからだろう。
加えて―――、
「もう一つ、危惧すべき事態は“地図”の存在が勇者達に知られてしまうことにあります」
今、勇者の動きが表面的に抑えられているのは地形的にこちらの方が有利だからだ。
その有利が崩れてしまえば、勇者達はほぼ無傷で魔王様の元へと向かっていってしまう。そうなってしまえば、我々の失態どころの話ではない。
「まずは各部隊長達に護衛を。次にブラフの情報を部下達に握らせること。……もし、勇者達が地図の存在を知り、奪おうとしたとしても偽物の情報を掴まされるだけですからね」
後方の指揮はしっかりとする。
そういうことに手抜きする性分でもないし、少しでも活躍しておかないと普通に怪しまれてしまうから。
部下達が納得したところで、テーブルの地図を指さす。
「そして、勇者達が合流する可能性を考えて、巡回する兵士達の位置を少し変えましょう。各区画の部隊長に指示を送る準備を」
「「「はい!」」」
真面目に考察し、勇者達の行動を予測しながら指示を出していく。
その中で部下達に気付かれない程度に―――巡回範囲に“穴”を作っていく。
「……あとは、私がいなくても大丈夫そうですね」
部下達が後ろを振り向き、作業に戻ろうとしたところで幻影魔法の魔力弾を放つ。
見せる幻影は単純。
外の異変を察知し、見に行った私が、流れ弾のように飛んできた光魔法の直撃を受けるというもの。
あくまで私が死ぬ明確な場面は見せないけど、それをほのめかすような演出を見せておく。
「やるべきことはやりました。あとは、ギレットさんに任せましょう」
隠しておいたカバンを肩にかけ、私の手持ちのものと分かる剣とものを地面にばらまき、事前に用意しておいた血を地面へと落として自身の死を偽装する。
「よし……行きましょうか」
これで部下も誰も私の死を疑わないだろう。
地図は全て暗記しているので問題はない。
あとは巡回ルートの隙をつくように移動していけば、外に出ることができるはず。
都市の外部では魔王様が作り出したドーム状の結界があるが、消えるまで用意しておいた隠れ家に潜伏していればいい。
あとは、私が勇者に殺されたという記憶だけが残り、晴れて自由の身。
まさしく、完璧すぎる計画だ。
「あとは勇者と鉢合わせしないように、ですね」
だがその可能性は低いだろう。
この広大な都市の中で、一人で進む私と勇者が偶然鉢合わせする可能性は、ほぼ0に等しいだろうから。
見つかったとしても、あの治癒魔法使い以外は対処できるだろう。
「……」
逃げ出すことに罪悪感がないわけではない。
少しだけ、ここで戦う兵士達に申し訳ないと思っているが、それでも私は何よりも自分の身が大事だ。
「魔族に未来があるとは……思えないから」
土地はやせ細り、死んでいく土地に住むしか道のない魔族達は、今は魔王様のおかげで生きながらえているようなものだ。
先の戦いで敗北してしまい、今は勇者一行が魔王様を害するためにやってきている。
この戦いがどのような形で終わったとしても、魔王軍に―――魔族に先はない。
「それでも、私は騙す側にいたい……もう騙されるのは嫌……」
この滅びゆく土地で優しさなんて意味がない。
そんなものをみせた瞬間には、差し出したパンも、これから生きていくために必要なものも全て奪われてしまうだろう。
土地も貧しくなるにつれて、私を含めた魔族達の心もどんどん貧しくなってくる。
「……あの悪魔は、そういう私達を滅ぼすための使いなのかもしれませんね」
そう言葉にして自嘲するように笑う。
「何言ってるんでしょう、私」
あれが本物の悪魔ではないにしても、私はウサトという治癒魔法使いが怖い。
あの善人そうな顔の癖して、行動がちぐはぐな奴が恐ろしい。
なにより怖いのは、その口から出てくる言葉に嘘が一切感じられなかったことだ。
「……次の角を左、でしたね」
しばらく狭い通路を真っすぐ歩いたあと、たしかな記憶のままに通路を左に曲がろうと―――したその時、曲がり角から何者かが飛び込んでくる。
……ッ、巡回してる兵士か!
だけど兵士と偶然鉢合わせする事態も想定していた私は、すぐさま両手に魔力を籠めて現れた何者かに幻影魔法を叩き込む。
少しでも触れれば、一瞬にして幻の世界へ誘う無敵の魔法。
それを向けられた何者かは幻にかかった―――、
「むんっ!」
「はえ!?」
———はずが気合のようなものをいれると、無敵のはずの幻影魔法を無理やり弾き飛ばした。
弾き飛ばした?
エ? ハジキトバシタ?
「ぬぅん!」
「ひぅ!?」
次に迫るのは、私に迫る真っ黒い拳。
それは私に当たる寸前に止まり、尋常じゃない風圧が叩きつけられる。
拳を止めた男は、へたりと地面にしりもちをついた私を見下ろした。
「だ、第三軍団長の……!? なんでこんなところに!?」
銀髪の髪の隙間から見える、見つめた者を射抜くような瞳。
私の目と鼻の先で止まった黒く染まった拳。
見た目は違うが、目の前の人物が誰か分かってしまう。
「あ、あああぁ……」
なんでよりにもよって、一番低い可能性が当たるの?
おかしいでしょ。
だってここには、たくさんの兵士達が巡回してるのに。
なんでピンポイントで私と遭遇するの……?
「まさか、この甘い魔力は……貴女の……!?」
甘い魔力ってなんだ。
魂のことですか?
私の魂は甘いのですか?
もう意味が分からない。
なにも、わかりたくない。
もういやだ。
「な……」
「な?」
首を傾げる治癒魔法使い。
髪も長く、角が生え、見た目は魔族だがその声と顔立ちからして……いや、そもそも幻影魔法を気合で吹き飛ばす意味不明な存在は一人しか知らない。
瞳から涙をこぼす私に、なにやらあたふたとしている治癒魔法使い。
「なんでもはなしますから、ゆるしてぇ」
「えぇ……」
この世界はあまりにも理不尽すぎる。
特に私に対して。
情けなく半泣きになりながら、抗うのをやめた。
そして私は―――悪魔に魂を売った。
常識外れの魔力探知で、ハンナのいる場所にまっすぐ向かってきたウサト。
出会い頭に泣きながら降伏されて、一番困惑しているのが彼。
ノノは前線にいたので、逆に助かりました。
現在、ハイテンションと友情パワーで色々な意味でカズキを困らせてます。
今回の更新は以上となります。




