第二百五十三話
早めにできましたので、一話だけ更新いたします。
第二百五十三話『悪魔の降り立つ日』
スクロールによる転移。
この時代では失われ、知る者がほぼいない技術を用いての奇襲にまんまと引っかかってしまった僕達は、光り輝く魔法陣に飲み込まれてしまった。
一瞬の光の後に感じたのは浮遊感。
浮遊感に構わず周囲に目を向けると、僕とレオナさんは広い闘技場のような場所の上方に投げ出されていた。
真下にはこちらへ目掛け、弓と魔法を構えるたくさんの魔王軍兵士達が―――、
『来たぞぉー!』
『放てぇぇ!』
一斉に放たれる矢と様々な属性が混ざった魔法攻撃。
無防備な空中で避けられない!!
「フェルム! ネア!」
『ああ!!』
「矢への耐性をかけるわ!!」
空中で投げ出された僕とレオナさんを囲うように団服から闇魔法の衣を伸ばし、殺到してきた矢と魔法を防ぐ。
すぐさま闇魔法を元に戻しながら、レオナさんへと安否を確かめる。
「ッ、レオナさん!!」
「私のことは気にしなくてもいい! 君は自分の身を守るんだ!!」
レオナさんが空中で氷の剣を作り、その上に足を乗せる。
そのまま作った氷の剣に飛び移りながら、槍を振るい矢と魔法を薙ぎ払っていく。
カズキの技と似ているけど―――レオナさんは空中での足場の心配はしなくていいようだな!!
「フェルム! 危ないからネアを取り込むぞ!!」
『分かった』
「取り込むって言い方怖すぎない!? え、あ、ちょ!!」
肩にいるネアとそのまま同化した僕は四肢での治癒加速拳を行い、飛んでくる攻撃を躱す。
そのまま闘技場の天井あたりに手首から伸ばした闇魔法のラインを繋げ、なんとか空中をスイングしながら移動する。
『な、なんだ、あの黒いの! 空中で移動してるぞ!?』
『ま、待て、あ、ああああ、あいつは治癒魔法使いだぁぁぁ!?』
『なんでここにいるのよぉぉぉ!?』
……なんで攻撃されているはずの僕が怖がられているのかは知らないけど、とりあえず地上に降りなくちゃな。
……よし。
「フェルム、ネア! 今こそ翼が必要だ!」
『え、でも滑空しかできないぞ』
「それでいい! 加速と方向転換は僕の方でやる!」
治癒加速拳を用いれば、滑空しながらでもいどうできる。
すると、僕と同化したネアが慌てふためきながら、声を上げてくる。
『フェルム、こういう時にアレをするのよ! ハンナの時に見せた悪魔ウサトよ! あいつらをビビらせてやりなさい!!』
『グァー!』
「え、あくま、なに!? ッ!」
こちらに迫る魔法を治癒魔法破裂掌で吹き飛ばす。
このまま長くは保たない!
「早く、翼を出してくれ!! このままだと敵のど真ん中に落ちるぞ!!」
『……どうなっても知らないぞ』
闇魔法の魔力が僕の背中で膨れ上がり、翼の形となって大きく広がる。
それに伴い、なぜか僕の頭に魔族の角が生える。
フクロウ状態のネアを反映させたからか、フェルムの角まで反映で、出て来てしまったのか?
「よし、まずは敵の数が少ないところに―――」
『『『……』』』
「ん?」
下から怒声と悲鳴を上げていた兵士達が、空にいる僕を見て絶句している。
なんだと思い、呆気に取られた僕の視界に大きくはためいている翼が目に入る。
———それは、ネアのように綺麗な黒い翼ではなかった。
「……え、なにこれ」
『『『悪魔だぁ―――!?』』』
瞬間、蜘蛛の子を散らすように魔族の兵士達が逃げていく。
そのまま空いた空間に着地した僕は、腰を抜かしている兵士達に頬を引き攣らせる。
『ふふん、効果抜群ね! これぞ悪魔、デビルウサトよ!』
「……」
なぜハンナさんが僕を見て気絶したのか。
なぜ魔王の遺跡で遭遇した兵士が気絶したのか。
ようやく謎が解けたぜ……!
「ネア、後でお話ししよう」
『ひぃ!? フェルムも共犯よ!』
「……へぇ」
『お、お前ぇぇ!?』
それはいいことを聞いた。
後の楽しみができたね。
顔に笑顔を張り付けたまま、自身の背に生えた蝙蝠のような翼を見る。
「翼と角は出したままでいい。それで戦意喪失してくれるのなら、無駄に戦わずに済む」
『翼に手をつけるぞ。その方が戦いやすいだろうしな』
『それなら、カロンが暴走した時のがいいわね』
「頼む」
背中の悪魔の翼が折りたたまれ、飛竜の翼と同じような手がついたものへと変わる。
両腕を広げ、身を低くした僕は逃げようとしない、兵士達を強く睨みつける。
……レオナさんは、別の場所に降りたようだ。
兵士達で姿は確認できないけれど、彼女の魔法特有の冷気は感じ取れるから、その方向へ突っ切っていけばいい。
「そこを、通してもらいます」
「っ、悪魔なんているはずがない! あんなものこけ脅しだ! 全員、奴に集中攻撃だ!!」
弾力付与を足に集中させ、跳躍。
空中で翼を広げ、滑空しながら兵士達へと突撃する。
「ふん!!」
「ぐえぇ!?」
先頭にいる四人の兵士達に連続で拘束の呪術の籠った拳を叩き込む。
白目をむいて崩れ落ちる兵士をどけた男が、突っ込んでくる。
「こ、このぉ!」
側方から突き出された槍———それを籠手の掌で受け止める。
そのまま刃の部分を掴み力任せに放り投げながら、その場を走り出す。
「なにあの動きぃ!?」
「囲めぇ! 数で押すんだ!」
しかしそれでも数は魔族達が上。
囲まれた状況のまま、一斉に槍が突き出される。
「フェルム、武器だけを斬れ」
『分かってるよ!』
翼の部分を鋭利な刃物へと変え、兵士達の持っている弓と槍の柄を一瞬にして両断する。
それに加えて、翼に付け足された手が兵士の身体を掴み、そのまま僕の後方へと投げ飛ばしてくれる。
「……いつもと違うけど、結構使えるな」
斬れるし滑空できるし、何より背中の腕と違って邪魔にならない。
あと、見た目的にもかっこいいのが高ポイントだ。
「さあ、このまま突っ走るぞ!」
『敵が多すぎるわよ!?』
「ブルリン! いくぞォ!!」
『グルァァァ!!』
僕の頭に魔族の角とは別の黒い獣耳が生え、両足、両腕が獣のそれへと変わる。
強化された腕力———それを大きく振り上げ、力のまま地面へと叩きつける。
「ぬんッ!」
「ま、また姿が変わったぞ!?」
砂煙が上がると同時に地面が罅割れ、眼前の兵士達が体勢を崩す。
それに合わせて、左手を添えた右腕を大きく引き絞る。
「ッ、衝撃に備えろぉ!」
指揮官らしき魔族が警告はするが遅い!
部隊まとめて衝撃波と治癒魔法で気絶させる!!
「最早、手遅れ! 食らえい!! 治癒爆裂波ァ!!」
「「「うわあああ!?」」」
衝撃波により、まとめて後方に吹っ飛んだ兵士達。
あくまで先頭にいた人達を吹き飛ばしただけだが、陣形をうまく崩せた後は―――、
「今だぁぁぁ! 撃てぇ!」
「むっ!?」
後方からの声と、複数の魔力の匂いが迫る。
それに振り向く前に僕の背中に炎と風の魔法が叩き込まれる。
軽い衝撃に驚きながらも、黒色のファーのついた団服で、魔法をはじき返す。
「ふぅぅぅ……!」
「き、効いてないぞ!?」
「なんで!? 当たったはずなのに!?」
クッションアーマーとブルリンの毛皮を反映させた団服の前では、生半可な攻撃は効かないぞ……!
後ろでさらに魔法を繰り出そうとしている兵士達から一旦視線を外した僕は、治癒爆裂弾を右手に作り出し、剣を片手に襲い掛かってきた一人の兵士にそれを軽く放り投げる。
「はいパス!」
「わっ、わわ!? え、な、なんだこれ!?」
「ごめんなさい!!」
反射的に受け取ってしまった兵士の胸当てを掴み取った僕は、魔法を放とうとする兵士の集団へと彼を放り投げる。
「お、おい、そんなもの捨てろ!」
「それどう見ても爆発するやつでしょ!? ……なんで治癒魔法が爆発するの!?」
「手がぁ……っ!」
「なんだよ!?」
「手がぁ、動かないんだよォ!?」
「は? どういうこと―――」
そんな声が聞こえた後に、僕の背後で治癒爆裂弾特有の爆発音が響く。
渡した爆裂弾には拘束の呪術が込められているので、一度受け取ったら手が動かなくなってしまうのだ。
とりあえず、後ろから近づいてくる集団は気絶させたな。
『今、とてつもなく酷い光景を見た気がする』
『一度触れたら、手が離せない爆弾とか血も涙もないの?』
「治癒魔法だ」
『いえ、そんな峰打ちだ、みたいに言ってもえぐいことには変わらないわよ?』
酷い言われようにグッと堪えつつ、前を向くもまだまだ兵士達はいる。
魔力には全然余裕があるけど、ここで無駄遣いをしている場合じゃない。
「フェルム、もっとだ!」
『ええ!?』
「怖がらせるなら、やりすぎなくらいが丁度いい!! ここで、彼らの戦意を確実に削ぐ!」
『吹っ切れたわね。でも賛成よ!』
くわっ、と目を見開いた姿が想像できるテンションでネアが叫ぶ。
『恐怖こそが集団をかき乱す最高の起爆剤になるわ! やるわよ、フェルム! ブルリン! 私の変身能力と、貴女の闇魔法、そしてブルリンの魔獣の力で、ウサトをこの世の理から外れた超生物に変えるわよ!』
『グルァ!!』
待って、そこまでやれとは言ってないよ?
やばい、村娘時代の悪いネアが出てきちゃってない!?
僕が止める暇もないまま、身体に同化した闇魔法が大きく形を変えていく。
背中に生えている一対の翼は二対に増え、頭の角は存在感を増すように一回り大きく変貌する。
そして、最後に獣人ともブルリンとも異なる竜のような尻尾が腰から伸びる。
「———いや、ここまでしろとは言ってないよ……?」
自分の変貌した姿に一周回って正気に戻った僕が思わずそう呟いてしまうが、それを目の当たりにした魔族の兵士達は、恐怖に顔を歪ませながら先頭にいる者から逃げ出していく。
「に、逃げろぉぉ!」
「あ、悪魔だっ、噂は本当だった……」
とりあえず結果オーライ……なのか?
後々、悪魔として噂が語り継がれそうな気がしなくもないけど。
思わずため息を吐いてしまっていると、すぐ近くでなにか金属のようなものを落とした音が聞こえる。
即座に反応した僕は、拳と背中の二対の翼を向ける。
「ご、ごごご、ごめんなさい! 魂はとらないでぇ……」
そこにいたのは、一人逃げ遅れた魔族の女性兵士であった。
先ほどまで持っていたであろう剣を地面に落とした彼女は、僕を見た恐怖のあまり泣き出してしまっている。
「……」
「……はえ?」
僕は反射的に繰り出しかけた拳を引いて、そのままレオナさんの元へと向かう。
僕の姿を見ても逃げず、攻撃してこようとする兵士達をいなしながら、ようやくレオナさんの元へたどり着く。
レオナさんの周囲には地面に倒れ伏した兵士達がおり、彼女自身も強い冷気を纏っていた。
「むっ! 何者だ!!」
「へ?」
駆け寄った僕の姿に気付いたレオナさんは、険しい表情のまま僕にその槍の矛先を向けてきたではないか。
予想外の彼女の行動に呆気にとられながら、フェルムに変身を解いてもらうようにお願いする。
「れ、レオナさん。僕です」
「ウサト!? す、すまない。新手の魔獣かと思ったんだ……」
「すみません……」
安堵したように胸を撫でおろしたレオナさんは、遠巻きにこちらを伺っている魔王軍の兵士達を目にしながら、僕に話しかけてくる。
「ともかく、まずはこの状況を打開しよう。依然として囲まれたままだからな」
「ええ。……多分、ここは都市の内部ってところですかね?」
「恐らくな。スズネとアマコも同じ状況にいるとしたら……早く合流しなければな」
まだ僕達がたくさんの兵士達に囲まれているという状況は変わらない。
まずは、この包囲を脱出して先輩とアマコと合流して―――魔王の元に向かおう。
そう考え、早速レオナさんと共に行動に出ようとしたその瞬間―――、
『ッ、ウサト! 空が!!』
「なんだ!?」
昼間のはずなのに、突然空が薄暗くなる。
すぐさま見上げると、都市の上方に黒色のドーム状の結界のようなものが展開されている。
そのすぐ後に、地響きのような音が響いてくる。
「……次から次へと、一体なんなんだ!?」
状況の移り変わりが速すぎる。
魔王は、一体何を考えているんだ……!
《デビルウサト》
背中の翼で斬ったり掴んだりできる。
魔力の暴発と併用した短時間の飛行も可能。
一般魔族兵士&第三軍団長へのトラウマ特攻持ち。
ウサトの何がずるいって、キメラとかデビルとか繋げても無駄に語呂がいいところ。
いつかシャークウサトとかやりたい(!?)
本日の更新は以上となります。