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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十一章 最終決戦、魔王都市ベルハザル
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第二百五十二話

昨日に引き続き、二話目の更新となります。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。

 ネロ・アージェンスの襲撃。

 目の前で激突したナギさんと彼は大きく目を見開きながら、目の前の彼女とその後ろにいる僕達に視線を送る。


「勇者に、ローズの弟子か。魔王様の情報通りだな」

「どこを見ているのかな?」


 刀を押し込んだナギさんが、空いた左手をネロへと向ける。

 すると、彼女の左手に金色の魔術の文様が浮かび上がり、掌大の火球が放出される。


「———火炎の呪術」

「!」


 ネロの目と鼻の先で放たれた炎。

 それは爆発と見間違うほどの炎を炸裂させ、ネロの身体を呑み込んだ。


「ま、魔術って結構魔力食うんだね……び、びっくりしたぁ……」


 刀を構えながら後ろに下がってきたナギさん。

 もう一人のナギさんが使っていた魔術―――扱えるとは聞いていたけど、やっぱり本人にとってもびっくりすることなのか……。


「私達の存在がバレたなら、やることは一つだよ! このまま真正面から、敵をなぎ倒して魔王を倒しに行く!! 力技の強行突破だ!!」


 このままネロから逃げるのは難しいし、そもそも今退いたら次に都市に近づくのが難しくなる。

 それなら、このまま都市に強行して真っすぐ魔王の元まで向かっていくしかない。


「フェルム、ブルリン! 同化だ!!」

「ああ!」

「グルゥ!!」

「私は!?」

「君は肩!」


 すぐ近くにいたフェルムとブルリンと同化した状態でネアを肩に乗せる。

 次にアマコをこっちに引き寄せて、彼女の安全を確保しないと……!


「アマコ、君もこっちへ―――」

「ウサト! 炎の中からなにか飛んでくる!!」

「ッ!」


 先輩に守られているアマコの声に、すぐさまネロがいるであろう方向へと向く。

 それと同時に、強烈な風が吹き荒れ、炎を散らしながら現れたネロが、いつのまにか手に持っていた三枚の紙のようなものをこちらへ投げつけてきた。


「っ、スクロール!?」

「貴様の相手は、俺だ」

「くっ!」


 風を纏ったネロが振り下ろした剣を受け止めるナギさん。

 風の魔法により巧みに操られた三枚の紙は僕、先輩、カズキに向かって真っすぐに飛んでくる。

 カズキが魔法、先輩が刀で対処するのを見た僕も拳で迎え撃とうとする。


「ウサト、スズネ! それに触れちゃダメだ!!」

「っ!」


 ナギさんの警告を聞くも、僕の拳は眼前へと迫ったスクロールを殴りつける。

 その瞬間―――、スクロールを中心に円形の魔法陣が空中に浮かびあがり、僕とレオナさんを巻き込むように展開される。


「「なっ!?」」


 先輩の方を見れば、彼女とアマコが魔法陣に巻き込まれている。

 カズキは先に魔法でスクロールを消滅させたから発動していないようだが、こっちと先輩のものは既に発動し、止めることができない……!


「ふん!!」


 すぐさま魔法陣によって生じた壁のようなものを殴りつけるも、罅が入るだけで壊せない。

 ……っ! 壊した傍から修復されていく!


「ネア、これは!?」

「色々混ざっているけど、空間系の魔術よ! このまま別の場所に飛ばされるわ!!」


 スクロールは、魔法や魔術を紙に閉じ込めたもの……だったよな?

 今の時代に失われた技術って聞いたけれど、魔王ならそれを作れても不思議じゃない!


「先輩、アマコを頼みます!!」

「了解した! アマコ、私に掴まって!」

「うん!」


 このまま脱出できず強制的に転移されるのなら、次に僕がするべきことは転移された先の状況への備えだ。


「レオナさん、このままどこかに飛ばされます!」

「ああ、聞いていた! 転移した先では敵に囲まれている可能性が高いぞ!!」


 僕達を閉じ込める魔法陣の光が強くなる。

 初っ端から絶体絶命の危機に立たされているけど、他に手が無ければ腹を括るしかない!!



 ウサトとレオナさん、そして先輩とアマコが魔法陣によってどこかに転移してしまった。

 俺は運よく魔法でスクロールを消滅させたことで転移から逃れることができたけど、状況は絶望的だ。


「皆……!」


 転移されたウサト達を見ていることしかできなかった!

 こうなるなら、危険覚悟で光魔法で魔法陣を破壊しておくんだった!!

 ひたすらに自分の判断の甘さを悔いていると、俺のすぐ近くに凄まじい勢いで何かが吹き飛んできた。


「けほっ! やっぱりこの時代では、信じられないくらいの達人だね。ネロ・アージェンス」

「カンナギさん!?」

「君は転移を逃れたようだね」


 肩についた砂埃を払ったカンナギさんは、砂煙が立ち上る林から目を逸らさずに声をかけてくる。


「大丈夫、ウサト達は生きている」

「えっ?」


 妙に確信めいた言葉に呆気にとられた声が漏れる。

 カンナギが刀の切っ先を魔王がいるであろう都市へと向ける。


「多分、ウサト達はあの都市の中に転移されている」

「どうして、そんなこと……」

「あの魔王の性格上、そういうことをするやつだ。わざわざ敵を遠ざけるような回りくどいことはしない。……っ!」


 依然として砂煙が舞上がる林を強く睨みつけたカンナギさんは、黒刀に魔術で発生させた炎を纏わせ、砂煙へ向けて鋭い突きを放つ。


「一の型、子ノ火(ねのひ)突き!」


 先輩の速さと変わりない速度で繰り出された突き。

 それは、林の奥から飛び出してきた魔族、ネロの下から掬い上げるような斬撃で弾かれてしまう。

 刀を跳ね上げられ、胴体を晒したカンナギさんに、ネロの刃が迫る。


「ッッ、威寅ァ!!」

「むぅ!?」


 しかしカンナギさんは刀を跳ね上げられたまま、上半身の力と腕力のみで無理やり刀を地面に叩きつける。

 地面に叩きつけられた黒刀が地面を割り、衝撃波がネロへと襲い掛かる。


「これが噂に聞く獣人族に伝わる流派、カンナギ流か!! そしてそれを作り上げたカンナギ!! なるほど、伝説以上に怪物じみているな!」

「まったく! 今の時代でこんな恥ずかしい思いするなら、技名なんて考えるんじゃなかったよ!!」


 風の魔法で衝撃波をいなしたネロが再び攻撃を繰り出し、それに応戦するカンナギさん。

 剣士同士の戦いとは思えない常識を超えた光景に、ようやく我に返った俺はカンナギさんを援護すべく魔力弾を作り出す。


「カンナギさん! 援護します!!」

「いや、必要ない! 君は都市に向かってウサト達を助けるんだ!!」


 ネロの剣を捌きながら、こちらへ視線を送った彼女は強い意思の籠った瞳のまま声を上げる。


「魔王と戦うには君の力が必要だ! 行くんだ! カズキ!!」

「……っ分かりました!」


 もう迷っている場合じゃない!

 光魔法で楕円形のボードを作り、それに飛び乗る。

 消滅する力をなくした光魔法———その特性を生かし、空を飛ぶ術を得た俺はそのまま空高く上昇していく。

 下を見れば、森の中でカンナギさんとネロが戦っている。

 次々と木々を斬り倒し、砂煙を巻き上げ、空にいるこちらにまで聞こえるほどの金属音を響かせながら、彼女の戦いは激烈化していく。


「頼みます、カンナギさん!」


 この場をカンナギさんに任せて、ボードを操りながら都市へと向かう。

 魔王領の生暖かい風を身体で感じながら、都市の全容が見える場所にまで移動する。


「……なんだ?」


 都市の至る場所に設置されている特殊な形状をした弩弓。

 外敵を撃退するために用意したはずのそれは、どういうわけか外側ではなく、内側にその砲身の先が向けられていた。


「一体、どこを狙おうとしているんだ……?」


 弩弓の不自然な向きに怪訝に思っていると、遠く離れた城―――魔王城の上階のテラスのような場所にローブを羽織った長身の魔族が立っているのが見える。

 大きな角、白い色の長髪―――そして、この距離でさえも圧力を感じ取れるほどの存在感。


「魔王……!」


 俺達が戦うべき相手。

 奴は空を飛んでいるこちらを見て、不敵な笑みを浮かべながら右手を掲げなんらかの魔術を発動させる。

 させるか! と思い、光魔法を放とうとしたその時———都市全体を包み込む巨大な魔法陣が地上に現れた。


「っ、今度はなんだ!?」


 俺達に対する攻撃!? いや、これは明らかに都市全体を範囲にしている魔術だ!

 混乱する俺を他所に、魔王はまるで持ち上げるように魔法陣を空へと掲げると―――都市の上方から真っ黒い半透明の影のようなものが、ドーム状に降りてくるのが見える。

 それはとてつもない速さで、都市の周囲を覆おうとしている。


「まずっ!」


 完全に隔離される前に、ボードを操りドームの中にギリギリ入り込む。

 しかし、安堵するのも束の間、すぐさま魔王のいた場所を確認すると―――先ほどまで天高くそびえ立っていた城が底なし沼に沈んでいくように地上へ消えていくのが見える。


「はぁ!?」


 城が完全に地上に飲み込まれたところで、都市内部の構造も変わっていく。

 古びた建物は次々と黒い箱状の壁に包まれ、まるで迷宮のように変形する。


「これが、魔王の魔術……!」


 変化が終わった頃には、俺達が先ほどまで都市・・と認識していた場所の面影はなく、そこには襲撃者である俺達を迎え撃つ要塞が出来上がっていた。

 想像を超えた現象を目の当たりにし、暫し呆然としていると地上からこちらへ向かって何かが飛んできていることに気付く。


「っと」


 飛んできたのは魔力で構成された光の杭。

 それを光魔法のボードを操り回避してみせるが、それは俺を追いかけるように追尾してくる。

 魔力弾を放ち、相殺させると地上―――弩弓の設置されていた場所にたくさんの魔族の兵士達が、気迫に満ちた声を上げる。


『勇者を狙え!』

『飛竜を出せ!』

『魔王様をお守りするのだ!』


 連続して放たれる追尾式の光の杭。

 あんなものをまともに直撃すれば重傷どころではないけれど、ようやくアレが内側へ向けられていた理由が分かった。


「なるほど、こいつで内側にいるウサト達を狙おうってわけか!」


 都市を覆ったドームは俺達を逃さないための檻!

 そして、スクロールで所定の位置に転移させたウサト達を、砦に設置した追尾式の弩弓で攻撃しようとしたってことか!!

 なら、俺のやるべきことは決まった!


「行くぞ!」


 後ろ足でボードを押し込み、方向転換。

 ドーム内の限られた空間を飛び回り、次々と打ち出されていく光の杭を引き付ける。


「ぐっ……!」


 強烈な風圧と重力に苦悶の声を零しながら、左腕の籠手に複数の魔力弾を作り出す。

 魔力弾の準備が整ったところで急停止と反転を同時に行い、背後から迫る光の杭を視界に収め―――、


「落ちろォ!」


 ———大きく左腕を振るい、作り出した魔力弾を一斉に放つ。

 それらは光の杭、一つ一つにぶつかり誘爆していく。


「ウサト達にそれは向けさせない! 空を飛べる俺が、全部ぶっ壊してやる!!」


 そう啖呵を切り、地上の要塞を見る。

 こちらへ向けられる弩弓の砲塔と、要塞から飛び上がる飛竜を駆る魔王軍兵士の姿が見える。

 あの要塞の中では、皆が戦っているはずだ。


「なら、俺は俺のやるべきことをする!」


 周囲に魔力弾を浮遊させながら、光魔法のボードを操った俺はこちらへ迫る光の杭と飛竜の大群へと突撃していくのだった。

スクロール設定は勿体ないと思い、このタイミングで出してみました。

初出は第百六十一話くらいですね。


今回の更新は以上となります。


次回、治癒魔法の間違った使い方、第二百五十三話『悪魔の降り立つ日』

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