第二百五十一話
お待たせしました。
第二百五十一話です。
今回は二日に分けて二話ほど更新いたします。
訓練を行った場所を出発し、魔王領の中央へと向かった僕達はできるだけ周囲を警戒しながら道なき道を進む。
魔王領には一応の人の通る道はあるのだが、魔族の兵士達が見張っている可能性があるので森の中を進むことになった。
「ウサト、アマコ、敵の反応はあるかな?」
先頭を進む僕の後ろからレオナさんが話しかけてくる。
僕はさらにブルリンの魔獣としての感覚を自身に反映・強化させ、周囲の気配と魔力の匂いを探る。
「今のところはないです」
『グァー』
『同じく、襲撃される予知は見なかったよ』
ブルリンと一緒に僕と同化しているアマコが続けて、予知の内容を知らせてくれる。
現在、僕はフェルム、ブルリン、アマコと同化しており、その状態のまま先頭を歩きながら周囲の索敵を行っていた。
「集団での移動は、時間もかかるし不安な要素もあるからね。こういう時、フェルムの同化は便利だ」
『ボクも案内するだけで、歩かなくてもいいからな』
『うん、私も歩かなくてもいいから楽』
『グァー』
「分かるわー、すっごい分かるわー」
ナギさんの言葉に同意するように、同化している魔族っ娘、子ぎつね、クマ―――、そして右肩に乗っているフクロウが鳴く。
こ、こいつら……! 人の身体をバスみたいな扱いしおって……!
「気になっていたんだけどさ、魔力を嗅ぎ分けるってどういう感覚なの?」
今にも僕と同化したりくっついている者どもを振り落としたい衝動に駆られていると、後ろから先輩が話しかけてくる。
彼女の質問に少し悩みながらも返答する。
「正直言うと、言葉では言い表せないです。ただ、そういう風に感覚としてとらえている感じです」
嗅覚で理解しているが、それ以上のことは言葉に表すことが難しいのだ。
「じゃあ、私の魔力の匂いとか分かる?」
「先輩の?……うーん、きなこ餅?」
「和風!?」
いや、あえて言うならそんな匂いってだけですからね?
というより、基本的に魔力の匂いはどこか甘ったるい感じがするのだ。魔物が魔力に敏感な体質を持つからなのか分からないが、不思議なものだ。
そういう意味では魔眼持ちのハルファさんのように、目で判別できるようなものとは違う。
「じゃあ、俺は?」
「カズキは……ケーキ?」
「俺の魔力の匂いって甘い感じなのかー」
お菓子を知らないのか、ナギさんは不思議そうに首を傾げているがカズキはやや面白そうな反応を返した。
しかし、先輩はこれに納得できないようで、先頭を歩く僕に近づいてきた。
「ウサト君。なんで私がきなこ餅なのかな……? もっと可愛いお菓子で例えてくれないかな? エクレアとかでもいいよ!?」
「煎餅」
「渋さが増した!?」
いや煎餅は冗談だけれども。
本当に漠然としているので、あまり聞かないで欲しいのが本音だ。
ブルリンの嗅覚は、人間のものとは根本的に違っている可能性すらあるし。
「とりあえず、ブルリンの鼻はすごいってことです」
『グルゥ!』
誇らしげなブルリンの声が内から聞こえてくる。
すると、気になったことがあるのか落ち込みながらも先輩が僕に話しかけてくる。
「ブルリンも同化できる対象に入れたようだけど、それって君の戦い方がその分だけ増えたってことだよね?」
「そう……ですね。大分、できることが増えた感じです」
今みたいにブルリンの嗅覚を僕に反映させて索敵ができるようになった。
何より、フェルムの同化の利点は同化した人の能力を組み合わせることができる事だ。
「フェルムと同化した状態の僕が基本とすると、それからアマコ、ネア、ブルリンの三通りの組み合わせで僕の戦い方が変化すると思ってください」
アマコとネアで予知と魔術。
アマコとブルリンで予知と魔獣の力。
ブルリンとネアで魔獣の力と魔術、ということになる。
「なるほど、力のブルリン、魔術のネア、そして予知のアマコってことだね」
「ええ、そんな感じです」
「そしてそこに“速さ”と“美しさ”の私が入ると」
ドヤッ、と僕を見る先輩。
急なボケに僕はやや引き攣った笑みを浮かべてしまう。
「え、ええ、そ、そうですね……」
「やめて!? そういう引き気味な反応はやめて!?」
ならなんで、そういう反応しづらいボケを飛ばしてくるんですか。
必死な先輩の様子に僕の内と肩にいるアマコ達がやれやれといった様子で声を発する。
『スズネは羨ましがっているけど、意外と大変だよ?』
『そうだぞ。何度、ボク達がこいつに振り回されているか』
「本当にいやになっちゃうわー。あー、できれば代わってあげたいわー」
ねー? と、普段の様子から想像もできない様子で声を合わせるアマコ、ネア、フェルム。
「……」
「先輩、真顔で僕を見るのはやめてください。普通に怖いです」
「ウサト君。今、初めてアマコ達に愛でる以外の感情が湧き上がったよ」
「普段、どんな目でアマコ達を見てるんすか、貴女は」
「愛」
「『『ひっ!?』』」
この人、今の段階で止めないととんでもないことやらかすんじゃないだろうか。
調子に乗っていた三人も短い悲鳴を上げているし。
「愛ゆえに憎み、愛ゆえに心奪われる。ならその末に行われる所業もセーフで済むかもしれない……!」
「なにかっこよく自己肯定してるんですか。十分アウトですよ、アウト」
言っている意味が全く分からないけど、とりあえず止めておく。
勇者が悪事に手を染めるとかガチで笑えないし。
「そんなに同化したいなら、フェルムと仲良くなればいいじゃないですか」
「フッ、それができれば苦労しないさ」
「普通に話しかければ、フェルムだって応じてくれます」
僕のアドバイスに、頷いた先輩はややぎこちなく歩いている僕の隣へと移動してくる。
そのままゆっくりと深呼吸をして、僕と同化しているフェルムに話しかける。
「フェルム、私は君のことを仲間だと思っている」
『そうなのか』
「……。ねぇ、フェルム。君は、私のことどう思う?」
『とりあえずお前は人との距離の縮め方が下手だということは分かった』
「ぐはぁ!?」
というより、先輩はフェルムに話しかけているつもりなんだろうけど、僕に言っているように見えるのが気まずい。
「い、いいい、一回、お腹に風穴空けられて殺されかけたけれども、全然恨んでないよ!」
『お、お前……ボクも悪いと思ってるから蒸し返すなよ……』
満面の笑みだ……。
多分、図星を突かれてテンパってるなこの人。
これ以上はお互いにとって気まずいことになりかねないので、彼女を後ろへと下がらせる。
肩を落とした先輩に苦笑しつつ、僕は内にいるフェルムに話しかける。
「君は先輩のことを嫌っているわけじゃないんだろ?」
『……嫌いなわけじゃないぞ』
本当に嫌いなら声で分かるからな。
少なくとも面倒くさい、という感じはしたけれど嫌っているという感じではなかった。
『ああいう奴、ボクの周りにいなかったから、色々とやりづらいんだよ、コーガとは少し違うし』
『うん、普通いないよね』
「スズネが二人いたら、大変すぎるわね」
アマコとネアの評価が辛口すぎる……。
でも、フェルムとしては今まで自分の周りにはいないようなタイプの人だから、会話しづらいって感じか。
まあ、先輩もぐいぐいいきすぎた感があるからしょうがないとも思える。
『……そろそろ着くぞ』
「え?」
フェルムの声に我に返る。
気づけば、目の前の林の先に開けた空間があるのが見える。
緊張しながら歩を進め、光の方へと歩いていくと―――その先に見えたのは、背の低い家屋が立ち並ぶ都市。
都市の周りには分厚い石の壁がそびえたっており、壁の上には弩弓のようなものがいくつも置かれている。
全体的に暗い印象を抱かせる都市の中心には、つららのような刺々しい城が建っていた。
「まさか、ここが……」
『ああ、魔王、そして魔王軍の本拠地———魔王都市、ベルハザルだ』
僕達が林から出たのは、高い崖の手前。
上方から見下ろした都市は、僕が想像していた場所とは違っていた。
「ここに、魔王が……」
不思議と拳に力が入ってしまう。
これが、最後の戦い。
都市を見て緊張してしまっていると、僕の隣に近づいてきたナギさんが肩に手を置いてくる。
「皆、気を引き締めるんだよ。ここから先はどこで見られているか、分かったもんじゃないからね」
「……やっぱり、僕達の居場所はバレているんでしょうか?」
「それは分からない。少なくとも以前の奴なら、どこにいようとも関係がなかったよ」
事前に魔王の探知能力については聞いている。
全盛期ならどこに隠れようと意味がなかったらしいが、弱体化した今なら分からない。
「バレてるなら、それでいい。バレてないなら策を練る。私達にできることはそれしかない」
たしかに、それしかない。
もうここまで来れば、僕達がすることなんて分かり切っているんだ。
都市の全容をひとしきり確認した僕達は、一旦林の中に戻ってから話し合いを行うことにした。
『ウサト、とりあえず同化は解除するぞ』
「ああ、分かった」
フェルムが同化を解除すると僕の身体から、ブルリン、フェルム、アマコが出てくる。
全員が揃ったのを見たレオナさんは、木の枝で都市の図を簡単に書いてくれる。
「ここからなら魔王都市の全容も見えることだし、まずはどこから侵入するか―――」
その時、悪寒と言うべきなのだろうか。
首の後ろがざわつくような覚えのある殺気が、僕の身体を震わせる。
それと同時に、頭の耳を震わせたアマコとナギさんが、声を上げる。
「「来る!!」」
次の瞬間、都市のある方の林が一瞬にして輪切りにされていく。
僕は咄嗟にフェルムとネアを後ろに押しのけながら、右腕に展開させた籠手で―――風の斬撃を受け止める。
「……っ、この技は!」
「皆、無事かな!?」
「大丈夫です!」
僕と同じく風の刃を受け止めた先輩とカズキ。
ナギさんとレオナさんと、ブルリンも無事だ。
フェルムとネアは……思いっきり地面へ転んでいるけど、アマコも先輩に守られている。
「ナギさん!」
「ああ、どうやら気付かれたようだ! それに風の刃というと……!」
口角を引き挙げたナギさんが刀の柄に手をかけると同時に前へと飛び出す。
それと同時に木々を切り裂きながら、尋常じゃない速さでやってきた魔族の剣士、ネロ・アージェンスと激突する。
「……お前は、話に聞いていたカンナギか」
「はじめましてだね! ネロ・アージェンス……!」
両手で剣を握るネロに対して、ナギさんは片手で黒刀を押し込む。
息つく暇もなく、戦いの火ぶたが切られた。
魔王軍と僕達の最後の戦いは、最大の強敵の襲撃から始まることになってしまった。
本当に先輩は勝手に動いてくれて書きやすいです(?)
ブルリンの嗅覚についてですが、素養の高い人の魔力ほど甘い匂いがします。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




